ACID BAKERY

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北の国から - 契 - (2)

では前回の続きをやっていきます。この記事は『Demons's Souls』『DARK SOUL』『Bloodborne』は繋がっているんじゃないかという内容の記事です。 PS5 も未だ買えてねえしダラダラやっていきます。行きましょう。行かせてくれ、頼む。

塔のラトリア

やつらはマンイーター

『Demon's Souls』最強のボスと言えば幾つか候補が絞られると思いますが、恐らくその一角であろう「人喰い」の名を持つこのデーモン。しかし喰らわれていたのはどちらなのでしょうか。

終わり無き苦悩の針
大きく湾曲した、逆棘を持つ巨大な針
デーモン「マンイーター」のソウルから生じた武器
対象を刺し、肌肉に引っかけ、僅かずつソウルを削りとる
あるいは、マンイーターにおける 宿主と蛇の関係を象徴しているのだろうか

マンイーターは戦闘中、尾の蛇に自らを噛みつかせてパワーアップします。しかしテキストを読む限り、どうやら蛇から力を得ているわけではなさそうです。マンイーターなるデーモンが「宿主」と「蛇」で成り立つならば、この蛇こそが宿主から力を得る、まさに「人喰い」の本体だったのでしょう。ただこの蛇は切断することが可能であり、そこで戦闘が終了しないのが不可解ではあるのですが、それだけ見た目よりも深くまで根を張っているということなのかもしれません。

さて「人に寄生する蛇」と言えば、『Bloodborne』にも登場します。

ヘッド・スネーク・カモン
おいでよ 禁域の森

蛇たち

長過ぎる記事なのであまり引用したくないのですが、こちらで禁域の森に潜む上位者についての仮説を述べました。読まなくていいのですが、以下のテキストはたぶん大事。

マダラスの笛
禁域の森の住人、マダラスの双子の笛
言葉すら介さず、毒蛇と共に育った双子が 人ならぬ友誼を交わした絆であろう
腑分けされた獣を餌とし、毒蛇は途方も無く育った
また死した後も、悪夢の内から双子の笛に応えるという

上位者というものの仕組みを単純化した場合、それがおおよそ「軟体」と「寄生虫」から成り立つと仮定して、獣化者の肉を喰らい、そこに宿る寄生虫を取り入れた蛇とは、即ち上位者と言えるのではないか、そして森を彷徨う蛇頭や蛇玉たちは、この森に潜む蛇の上位者が生み落とした眷属のようなものだったのではないか……という仮説を立てました。

で、お察しの通り蛇は軟体動物ではないんですが、その一見して柔らかにうねる肉体は、それ故に蛇を上位者かそこに近しい域まで高めてみせたのではないだろうか……などと、かつては誤魔化したわけです。まあ出来る範囲で何とかしようとした結果なんですが、「全て繋がっている」のだとして、『Bloodborne』の外側からも素材を持ってきて良いのであれば、こういうことも言えます。

貪欲な銀の蛇の指輪
竜のなりそこない、蛇を象った銀の指輪。
敵を倒した時吸収するソウルを増やす。
蛇は、己よりも大きな獲物を丸のみにするきわめて貪欲な生物としても知られている。
嵌められた枷をよしとしないのならときに貪欲も必要だろう。

「この世界」の蛇とは、元より他の生物と比べて特筆されるほどに貪欲なソウル喰らいでした。その本質は火が消え、時代を経たところで変わらないのでしょう。そして「虫」が澱んだソウルより生じたおぞましき生物であるなら、それ故に蛇は虫(ソウル)を取り込むことで途方も無い成長を遂げたんです。ソウルを喰らった分だけ大きく強くなる。蛇は元来より「貪欲」なる適性を有していました。

ところでこいつには類似のケースが存在します。蟹さんです。

ベイグラント
大蟹

蟹たち

元々人間性を運ぶ「精霊」だったこの蟹ですが、時間を経て画像の左から右へと成長していったのだと推測しています。仮に「人間性が何かを切欠におぞましく変態する」のだとすれば、その変態が体の内部で起こった場合、宿主自身がその影響から逃れられるはずがない。この蟹、「人間性の精霊」の変態の理由とは、まさしくそういうことなのではいか。以上が『DARK SOULS 3』の巨大蟹の正体だと考えます。だとするなら工程こそ異なれど、宿した「澱み」によって変質を遂げたという意味で、蟹と蛇は似た存在だと言えるわけです。

ちょっと詰めすぎた

人間性 : Before After

では結局の森の大蛇とは上位者なのか、なんて話になるわけですが、眷属に分類される上位者が持つ特徴の一つとして、「自らのコピーをばら撒く」というものがありました。これがヒントになるでしょうか。

星界からの使者
ロマ
エーブリエタース
見辛い

眷属上位者たちと大蛇

星界からの使者たち
ロマの子ら
星の子
蛇玉

眷属の子らと蛇の子ら

その規則性に従うなら、自分に似た蛇玉をばら撒いていたと思われる点からも、悪夢に潜む大蛇とは上位者(眷属)だった……と読むこともできるでしょうが、残念ながら蛇玉たちには眷属特効が入らないんです。一部の上位者に似た特徴がありながら、それらが共通して持つ眷属反応が出ない。何なんだお前は。ならばもう単純に森の蛇たちとは「上位者に近い何か」と定義するしかないんじゃないでしょうか。深海の時代に湧き出す怪異、その一種でしかないのだと。色々考えた挙句結論が出ないという、いつものやつでした。

しかしながら「人に寄生する」という点で、禁域の森の蛇たちはラトリアのマンイーターを意識してデザインされた存在だったと見て良いと思います。そのオマージュはフロム・ソフトウェアの「いつものやつ」かもしれませんが、他に意図があるなら何なのかを考えてみるのが楽しい。デーモンか、血の医療かの違いこそあっても、蛇という奴は最後には似た性質へと収束する、そんな話なのかもしれません。デーモンと上位者の間にはそれほど違いは無いのでしょうか。

それとも、もしかするなら、逆の発想もアリでしょうか。『Bloodborne』に登場する怪異の総てが上位者に由来すると考えることが固定観念に過ぎないのだとすれば。禁域の森に蔓延る、獣でも眷属でもない蛇たち。あれらは、獣喰らいによって偶発的に生まれた人喰いのデーモン、「マンイーター」だったのだと。

ラトリアの肉玉、メンシスの脳みそ (1)

以下 2 枚の正視に耐えない画像を存分に御覧ください。

ラトリアの肉だま
メンシスの脳みそ

ラトリアの肉玉とメンシスの脳みそ

塔のラトリア上層で吊るされていた肉塊と、メンシスの悪夢の腐った脳みそです。仕掛けによって落下していく様を見て『Demon's Souls』プレイヤー、或いは逆順で遊んだ『Bloodborne』プレイヤーはニヤリとしたのではないでしょうか。ただのファンサービスなのでしょう。されど、あえて比較を行えば面白いことも浮かんできます。

ラトリアの肉玉ですが、そもそもこれが何だったのかと言うと、一応答えはありました。

マンイーターの要石
かつて象牙の塔には、籠牢が鎖で吊られ 人を融かし合わせた肉の玉が作られていた
現ラトリアの主、もはや人でない老人は自らの手でデーモンを作っていたのだろう

ラトリアの商人、元貴婦人曰く『囚人たちは毎日ソウルを搾り取られる』『上に行けば救われると聞かされている』らしいので、聞かされた通り「上に行った」囚人たちは肉玉の素材にされていたみたいです。思い返してみると塔下層には囚人団子なる、囚人を固めて作った団子が転がっていましたが、あれは上層の肉玉のプロトタイプのようなものだったのでしょうか。また上層にはガーゴイルなども出現しますが、やつらが「名も無き戦士のソウル」をドロップすることから、元は人間であることが推測できます。

ガーゴイル

ガーゴイル

メンシスの悪夢は、狩人の悪夢の実験棟を模したものと以前書いたと思いますが、塔のラトリアもある意味で翁にとっての壮大な実験場でした。人間のやることってのは変わりませんね。

一方でメンシスの脳みそですが、よく見ると使者の集合体であることにお気づきでしょうか。

メンシスの脳みそ
使者

使者の集合

使者とはなにか。色々な見方はあると思いますが、個人的には「死者」だと考えています。使者たちが死んだ狩人の装備を取り扱い、また遺品などを被りさえするのは、使者が死に通じる事を示しているのではないかと。そしてこのように脳みそが使者(死者)のツギハギであることを考えると、思ったよりラトリアの肉玉と成り立ちが近い。如何でしょう。片側を深堀してみることで、もう片方への見方が少し変わったんじゃないでしょうか。ただセルフオマージュと一言で済ませるのは勿体ないかもしれません。

ラトリアの肉玉、メンシスの脳みそ (2)

同じお題でもう一段いきましょう。仕掛けを解いた後、潰れたトマトのような末路を遂げたラトリアの肉玉ですが、なんと内側からあるものたちが這い出してきます。数あるラトリア名物の中でも指折りの愛らしさを持つ、人面ムカデです。

人面ムカデ
人面ムカデ

人面ムカデ

可愛らしいですね。いいえ。ここで問題にしたいのは、こいつらが強化素材である水銀石をドロップすること。水銀派生は武器に「毒」効果を付与するものですが、水銀を宿す人面ムカデ自身は毒攻撃を行わない(はず)。ではどんな理由があってムカデは水銀を落とすのでしょうか。これに関してもヒントがあります。

水銀石の欠片
ラトリアでは、この石を僅かずつ囚人に与えていたようだ

人の顔したムカデたちは、ある意味で囚人たちの成れの果てだったと考えるのが一番シンプルでしょうか。しかし肉の玉自体が人を練って作ってあるのなら、内側に巣食うムカデは囚人そのものというより、肉玉を苗床として芽吹いた「人に似た生命」であると捉えるべきかもしれません。人で作られた畑で育ったから、それは人に似たわけです。ここは議論が分かれるところでしょうが、そうなるとこのムカデ、「おぞみ」の概念に似てきます。

主教のローブ
深みの封印者であったはずの彼らは やがて皆、おぞみに飲まれた

もちろん『DARK SOULS 3』で「おぞみ」についての詳しい説明はされておりませんので解釈の一つではあるのですが、おぞみとは「深みに湧いたおぞましいものの総称」と考えています。その発生源は澱んだ人間性であり、故に人の本質を反映します。

ソウルの大澱
それはとても、人に似ている
深みの加護
深みは本来、静謐にして神聖であり 故におぞましいものたちの寝床となる
説教者の白面
深淵の沼に湧く白面の虫

ソウル(火)を求める人の本質は、だからこそ多くの場合「虫」を形作り、時に人に似た外形を取ることがあるようです。そして暗く重い人間のソウルが濃く溜まった場所を「深み」と見るなら、聖杯ダンジョンのような物理的に「深い」場所には当然として、輪の都の沼や人の血で描かれた絵画世界にも人に似た虫が湧いてしまう理屈です。人間性が溜まった場所はそれだけで「深い」。ならば人を混ぜ固めた肉の玉に人に似たムカデが湧いても何ら不思議は無いはずです。無いと言ってください。

人に濃く由来する場所、「深い」場所には虫が湧く。そんなルールがあったとして、宮崎社長の中には最初から存在していたのか、シリーズを重ねていく過程のどこかで統一したかは分かりませんが、ともかく「人面の虫」はどれも「深い」場所に現れます。搭のラトリア。高みにあって、なお深い場所でした。

血舐め
白面の虫
蠅人
人面ムカデ

人の顔した虫さんたち

ところで余談になりますが、虫と言えば忘れてはいけないものがあります。

生きているヒモ
メンシスが悪夢で得た巨大な脳みそは 確かに内に瞳を抱き、だが完全な出来損ないであった
その瞳は邪眼の類であり、脳自体は腐りきっていた。
しかし、それでもやはり上位者であり、遺物を残す。
特に生きたものは、真に貴重である
生きているヒモ
ゴースの寄生虫

生きているヒモとついでにゴースのやつ

「生きているヒモ」とは線虫に似た寄生虫ではないかと考えています。ゴースがそうであったように、寄生虫とは多くの上位者が持つ特徴の一つではないかと。セルフオマージュだというのなら、それはここにも掛かっていたのかもしれません。囚人を固めた肉玉と、使者を固めた脳みそ。両者奇しくも、虫の苗床でした。

脳喰らい

ラトリアといえば忘れちゃいけないタコ看守。正式には「蛸獄吏」と言うようですが、『Bloodborne』の「脳喰らい」を目撃した際に連想した方も少なくないのではないでしょうか。改めてマジマジと見比べるととメチャクチャ似ているわけでもないのですが(というか蛸獄吏って思った以上に蛸だな)、「拘束魔法」や「拘束した相手へと足早に駆け寄り管で突き刺す」といった共通点があるので、ある程度は意識されているんじゃないかと考えています。『Demon's Souls』に啓蒙のステータスはありませんが、もしも蛸獄吏と脳喰らいに何らかの関連性があったなら、実は目に見えないステータスを吸われていたのかもしれません。

蛸獄吏
脳喰らい
蛸獄吏
脳喰らい

蛸獄吏と脳喰らい

ちなみに英名はそれぞれ「Mind Flayer(精神を鞭打つ者)」と「Brainsucker(脳を喰らう者)」なので、名前の面では結構意識されている気もしますが、どうでしょうね。

さて「脳喰らい」についてですが、その正体について少し考えてみたことがあります。

関連記事 : うごめけ! オドン前編 / 後編

読まなくていいです。簡潔に言ってしまえば、脳喰らいとは上位者オドンの眷属であると。では安直に「両作品は世界観を共有している」と信じるなら、そして「蛸獄吏」と「脳喰らい」が同じ存在であるなら、塔のラトリアにもオドンが潜んでいたことになるのでしょうか。まあちょっとそれはなあという感じ。オドンの正体が「墓所カビ」という説を採用するとして、せめてラトリアにカビの一本でも生えていればまだ推せた説ではあります。

ただ強いて申し上げるのなら、例えば蛇にして人に寄生するマンイーターと禁域の森の蛇たち、そして人造デーモン「肉の玉」と腐った上位者「メンシスの脳みそ」は、異なる存在であってもその構造が似通っていました。蛸獄吏と脳喰らいも同じことで、何らかの条件のもとに似た怪異となったのかもしれません。

蛸獄吏。なんだか知らんが蛸でした。

ラトリアに鳴り響くあの鐘の音。『Bloodborne』で耳にした時はギクリとしたものです。ある種のラトリア名物であった鐘ですが、そもそも蛸獄吏たちは何の為に鳴らしていたのでしょうか。怖がらせる為でしょうか。大成功なんじゃないでしょうか。

しかし蛸獄吏が魔法を扱う際に構えたり、けたたましく振り回していた辺り、素直に魔法の触媒としての機能を備えていたと考えるべきかもしれません。この「触媒としての鐘」といえば、想起されるのはソウルシリーズの聖鈴でしょう。『DARK SOULS 2』から登場したこの触媒は、タリスマンに代わるものでした。

守護の聖鈴
聖鈴は奇跡の力を導く憑代である
しかし、かつては異なるものが その役目を担っていたという

『2』ではタリスマン自体が撤廃される形で聖鈴が導入されているので、テキストにある「かつては異なるものが」とはタリスマンを指しているのでしょう。理由は不明です。ただ『2』の舞台であるドラングレイグは丸ごと異世界のようなものだったという解釈があるらしく、もしかするとこの聖鈴はその説を支持するものだったかもしれませんね。聖鈴とは異世界(ドラングレイグ)から「次元を跨いで」祈りを届かせる為のものだったのだと。そう、音色は「次元を跨ぐもの」でした。

狩人呼びの鐘
その音色は次元を跨ぎ、最初の狩人はこれを特別な符牒とした
別世界の狩人たちが、しかし断絶を越えて協力するために

『Bloodborne』の話だろうと思いきや、鐘の音が持つ特性は『DARK SOULS』初代においても目覚ましの鐘がオンライン上のプレイヤーにも聞こえるという形で表現されてきました。『Bloodborne』のマルチの仕様は恐らくこの描写がベースになっているのだと推測していますが、だとすれば期待してもよさそうではありませんか。『Demon's Souls』においても、鐘の音はやはり次元を跨いでいたのではないかと。

召喚ボスの始祖

はじまりの召喚ボス、黄衣の翁

ラトリアを登りきった先、黄衣の翁は一体の黒ファントムを召喚しました。それは黄衣の力で行われたものだったのでしょう。しかしひょっとするなら。ラトリア各所で鳴らされていた獄吏の鐘は、次元を跨ぎ恐ろしい黒ファントムを召喚至らしめる為に必要な儀式のようなものだったと考えてみても面白いかもしれません。各地に現れては厄介な敵を召喚していく、鐘を鳴らす女たちのように。

鐘を鳴らす女
蛸獄吏

鐘の意味とは。

黄たれ

というわけで次は黄衣の頭冠について。「ソウルシリーズ」のくくりでは皆勤賞のこの装備ですが、ちょいと見比べてみましょう。

黄衣の頭冠(デモンズソウル)
黄衣の頭冠(ダークソウル)
黄衣の頭冠(ダークソウル 2)
黄衣の頭冠(ダークソウル 3)

きごろもフーズ

壮観。うんこターバンだのボラギノールだの散々な言われ方をされてきたこのシリーズですが、『DARK SOULS 3』では意外な事実が明らかになりました。

黄衣の頭冠
古い黄金の魔術の国、ウーラシール
その神聖な生物を模したという頭冠
黄衣は、失われた魔術の探求者の装束であり 大きすぎる頭冠はその象徴である
奇態が導きたるのなら、なにを恥じることがあろうか
きのこ人
エリザベス
黄衣の頭冠)

神聖な生物を模したという

少なくとも『3』の頭冠は、どうもエリザベスを始めとする「きのこ人」たちを模したものらしいです。形状の異なる過去作の黄衣との関連は不明ですが、注目したいのは『3』の頭冠がきのこ人たちの、引いてはウーラシールに関与したものである可能性についてです。

踏まえもう一つ注目してみましょう。輪の都には教会の槍と呼ばれる守人たちがいました。これに関しては『Demon's Souls』ユーザーであれば笑みが零れるのを隠せなかったのではないでしょうか。

黄衣の翁
ハーフライト

黄衣の翁とハーフライト

召喚という形もさることながら、奇しくも「黄色のソウル」まで同じ。輪の都に残る太陽の力の恩恵なのでしょう。或いはウーラシール出身であろうハーフライトの影響も多少はあるのだろうかという気もします。とにかく細かなファンサービスがうれしいではありませんか。

しかしそれがセルフオマージュに留まらないというのであれば、想像を膨らませてみるのもいいでしょう。古い獣の復活によって各地に現れたデーモンたち。黄衣もまたその連なりであることは確かなのでしょうが、その正体そのものはいまいち不明瞭なままです。

『Demon's Souls』のデーモンは、逸話や畏怖を元に具象化したものか、人がソウルの力で人を超えたパターンに大別されます。不潔な巨像などはどちらでもなさそうな気もしますが、黄衣はどうでしょうか。もしかするなら、その黄色い衣それ自体は獣に由来するものではなかった、などと考えてみても面白いかもしれません。かつて神聖であったものが、何らかの強い力と悠久の時によっておぞましいものに変質していくというのはよく聞く話です。

如何でしょうか。ラトリアの主たる老人を支配した黄衣、その起源には、古い古い黄金の国と、きのこの存在があったのだと。

▽△

余談というかちょっとした小ネタを聞いてってくださいよ。『Bloodborne』の愛すべき三角コーン「金のアルデオ」について。

金のアルデオ
かつて殉教者ローゲリウスが率いた処刑隊の、奇妙な兜
輝きと熱望の名を持つ金色三角のそれは、処刑隊の象徴であり 穢れに対する不退転の覚悟、黄金の意思を見せつけるものである
金のアルデオ
金のアルデオ

金のアルデオとそれに似た意匠

実はトゥメル遺跡に三角頭の意匠が存在することから、アルデオとはローゲリウス共々トゥメル由来なのではないかと踏んでいるわけですが、ついでにこんなのもどうでしょう、想像の中で更に遡ってみるなら、金のアルデオとはラトリアの黄衣を原型とするというのは。

黄衣の頭冠(デモンズソウル)
金のアルデオ

▽△

まあ形が三角形と逆三角形だから面白いかなと思う程度の発想なんですが、もしラトリアの頭冠がウーラシール由来だという前述をここで活かすなら、アルデオのテキストにある「黄金の意思」とは、即ちウーラシールの「黄金」に掛かっているのではないか、などと考えてしまうんですね。

教会の槍、ハーフライト。彼は女神の眠りの守り人でした。対し黄衣の翁は、ラトリアの女王を害し、その玉座を奪い取りました。トゥメルに存在したであろう三角野郎たちがどのような役割にあったかは不明であるものの、それでもトゥメルという地には女王が君臨していました。その遍歴は「黄金」と「女性」という二点で結べないこともない。探求者の証であったという黄衣は、いつしか穢され、形を変え、失われ、しかしその輝きは尚も残り続けたのでしょうか。

水銀の秘密

話が前後しますが、ラトリアの囚人が与えられていて、それ故に人面ムカデが持っていた水銀。これについてちょっと考えてみましょう。水銀。後続作品にも登場しています。

致死の水銀
竜の隠密の魔術でもっとも危険なもの
信頼できる者にしか明かされない魔術
HP を蝕み続ける水銀を発生させるが それは術者自身にも影響を及ぼす
その死体は静かな銀の霧の中にあり だが表情は叫びに捻じ曲がっているという
凄絶な光景は、彼らの名を恐怖とした

この魔術は諸事情により名称が「致死の白霧」に変更されており、文中で「水銀」と表記されている部分は「霧」に置き換えられています。新旧のテキストのどこにも「毒」などとは記載されていませんが、効果を見る限り水銀の有毒性によって対象を蝕むものと考えて構わないでしょう。遡って『Demon's Souls』の水銀もまたその毒性によって対象を蝕むものだったと思います。で、大事なのはここから。『Bloodborne』の水銀でございます。そう、ご存知「水銀弾」ですね。

水銀弾
通常の弾丸では、獣に対する効果は期待できないため 触媒となる水銀に狩人の血を混ぜ、これを弾丸としたもの
オドンの蠢き
「蠢き」とは、血の温もりに密かな滲みを見出す様であり 狩人の昏い一面、内臓攻撃により、水銀弾を回復する
人であるなしに関わらず、滲む血は上質の触媒であり

「オドンの蠢き」のテキストは血について詠んだものであるにも関わらず、実際の効能は水銀弾を増やすものでした。水銀弾に含まれた狩人の血が感応した結果でしょうか。違うと思っています。それは特定の「人でなし」たちにとって水銀が血液の役割を果たしているからだと思っています。

灰血
灰の液体?から使者

吹き出る

斬りつけたことで吹き出る灰色の体液、そして同色の液体から湧き出す使者たち。特に前者のように灰血を吹き出す者たちの殆どが水銀弾をドロップするのは、赤い血を流す者たちから輸血液がドロップするのと同じ理屈でしょう。水銀が血液のように触媒となるなら、恐らく現実世界で活動するために上質な触媒を必要とするような、存在自体が半ば秘儀と言える怪異たちの体内には、水銀が血液のように循環しているのだと思います。そしてこの手の特徴を持つ敵は雷属性が弱点であることが多い。水銀が電流を通すからではないでしょうか。

付け加えるなら『DARK SOULS 3』のボス「妖王オスロエス」は致死の水銀(白霧)を放ってきます。そして彼もまた雷に弱い。オスロエスの意志で地面から滲み出てくる水銀の霧は、実のところ彼自身の内から湧き出していたのでしょうか。

搭のラトリアの囚人たちは、水銀を服用させられていました。そして彼らから作られた肉の玉から湧き出る人面ムカデは水銀をドロップする。体内に水銀の血を流すものから水銀を得られるというルールは、『Demon's Souls』の時代から存在していたのではないか、という話でした。

水銀の秘密(2)

水銀についてはもう一つ語りたいことがあります。囚人が固まって出来た「囚人団子」という敵についてなのですが、『DARK SOULS 3』の「籠蜘蛛」なる敵はこのセルフオマージュだったなあと思っています。

囚人団子
籠蜘蛛

囚人団子と籠蜘蛛

まあ並べたかっただけで全然重要じゃないです。

本題は囚人団子が魔法を放ってくる点です。なぜでしょうね。ラトリアには魔法を使ってくる囚人などいなかったはず。もっとも偶像を復活させていた囚人や肉の玉を吊り下げていた囚人たちなど、高名な魔術師でもあったらしいかつての女王、その一族が根こそぎラトリアには収監されているようですから、囚人の多くには術師も含まれていたのかもしれません。その類がこの団子の中に混ぜ込まれていたのでしょうか。別の方向で考えてみるなら、囚人たちは団子状になったことで魔法が仕えるようになったのではないか、なんてのはどうでしょう。

思い出して欲しいのが、ラトリアでは囚人たちに対し少しずつ水銀を服用させていたということ。水銀とは触媒でした。その水銀が体内に微量ずつ蓄積した囚人たちが一所に捏ね合わされることで、それは大きな触媒となり、彼らを秘儀の使い手足らしめたという想像は如何でしょうか。それが可能であるなら、更に発展させた先にデーモンを作り出すことも可能ではないか。黄衣の老人はそんな事を考えたのかもしれません。

しかし考えるほどに、人を融かし合わせて作ったという肉の玉とは、果たしてデーモンであったのでしょうか。上位者の眷属が、現実で活動するために体内の水銀を触媒としていたなんてことも言いましたが、その仮説が正しいとして、或いは人面ムカデもまた同様の存在であったとするなら、そんなものを生み出す肉の玉とは、或いはデーモンなどではなく……。

ラトリアを捧げよ

さてお付き合い頂いてきましたが、この項でラトリア編は仕舞と致します。最後に奇跡と魔術の成り立ちの話でもしましょうか。

元来、聖職者と魔術師がそうであるように、奇跡と魔術もまた相反するものとして描かれてきました。それはソウルシリーズ全作に共通する理念と考えていいでしょう。しかしその実、その二つは同じものだったわけです。

獣のタリスマン
古い獣の似姿となる、古木のお守り
奇跡、魔法の両方を使用できる
神の象徴は、古い獣の似姿にすぎなかった

魔術と奇跡。互いに相反すると信じていたものの根っこが、しかし同じ場所に通じていた。二つの力は獣という根源を異なる角度から見たものに過ぎなかった。それぞれの絶対性を信じた者の滑稽さをあざ笑う、そんなオチが『Demon's Souls』には用意されていたわけですが、『DARK SOULS』にも似たような仕掛けがあったのだと考えています。

まあこの辺は過去ネタにした覚えがあるのでさらっと流しますが、「月」とは信仰から魔力を生み出す仕組みであったと考えています。暗月の光の剣が「魔力を付与する奇跡」だったことなどからの発想でした。そうした上で、あらゆる魔術の祖は白竜シースでした。では白竜の代名詞が「月光」であるのはなぜかと言えば、かつて世界の原初、白竜シースとは聖職の類であり、即ち「信仰を知る者」だったのではないか、そして「信仰を魔力とする」仕組みを介し編み出したものこそが魔術であったならば、つまるところ奇跡と魔術は元々同じ一つの体に存在していたのだろう、といった仮説です。古い獣のギミックは、元を辿れば白い竜のそれが元祖であったのだと。

月光の長衣
その月の力から、娘として育てられた彼の衣装は 極めて薄い魔力の衣であり、

さて。暗月の神グウィンドリンが月の力を宿していたが故に娘として育てられたということから推察するに「月」とは女性特有の力なのでしょう。ラトリアを治めていたのは女王でした。もしかするとラトリアとは元より女王信仰の根付いた国であり、黄衣の老人が後に誂えた偶像がわざわざ女王の似姿であったのは、元から存在していた女王信仰を流用するためでもあったのでしょう。優れた魔術師であったという女王の能力を支えたものは、彼女に向けられた信仰と、或いは女王に備わっていた月の力であったのかもしれません。

また『DARK SOULS』シリーズにおいて鐘とは奇跡の触媒でした。しかし蛸獄吏のそれは魔法の触媒として機能しています。それはあの鐘が特別だったのか、獄吏の力によるものなのか、それともあの土地がそうさせたのか。マンイーターとの闘いの場に、「月のショートソード」が落ちていたのはなぜか。「ワープ」や「貫通するソウルの光」など、グウィンドリンと偶像にそれぞれ似た能力が持たされていたのはなぜか。これらの要因は、総てあの地に「月」が根付いている暗示なのではないか、などと考えてみると、非常に楽しい。ラトリアとは、魔法が強く根付いたエリアであるように見せかけて、実は強力な信仰の土地であったのだと。

塔のラトリア、ラトリア(礼拝)の塔でした。

終わりに

終わんねえでやんの。このシリーズですが、次回・次々回と残るエリアを一つずつ書くか、次回でまとめてしまうか、色々と未定でございます。気長にお待ちください。では。

続きます

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