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『ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風』第 03 話「塀の中のギャングに会え」

「自分の腕をひきちぎったほどのおまえの気高き『覚悟』と……黄金のような『夢』に花京院の『魂』を賭けよう」

とりあえずいい人らしいブチャラティには認められた。ということでパッショーネなる組織で伸し上がる決意を口にしたはいいものの、まずは一員とならなくては話にもならない。そうしてブチャラティの紹介でジョルノはポルポなる男と面会することになった。彼は獄中にいながら大抵のものは手に入れる事が可能で、いつでも出られるがあえて出ないのだという。ミスター・アンチェインとどっちがアンチェインだろうか。あっちはデブに見えるほどの筋肉質だが、こっちは本当にただのデブだ。

ポルポから言い渡されたのはライターの火を 24 時間維持しろというもの。単純で簡単そうに見えるが、集中力や真剣さが欠如した人間には難しいだろうし、そんな者は信頼に値しない。そして真摯に取り組もうとも、不運な人間はとことん不運だ。だからこれは運という資質以上に、不慮のアクシデントに対してどれだけ想定できたかを図る、何気に良い試験であるように思える。声優もいい仕事をしているし、アニメ版のポルポが原作以上の大人物に見えてきた。

そして唯で済むはずも無く。ジョルノに襲い掛かる数々の不運(ハード・ラック)。話の通っていない看守、風、康一くん。あのパンはうまいからな。全てを乗り越えた上で、しかし横から浴びせられたバケツの水が、あっさりとジョルノの火と夢をかき消してしまった。面白いのが、康一君の来訪もおじいさんのうっかりも、巡り巡ってジョルノの自業自得ということ。もちろん康一君への窃盗はともかく、あの状態で清掃員のおじいさんの頼みを断ったのは仕方がないことだし、おじいさんが水をぶちまけたのもわざとではない。ジョルノは悪くないし、想定することも無理だ。しかし遡ってもっと周囲の人間や状況へもっと気を配ることは出来ただろうし、そう考えると何ともやるせない。このままジョルノの夢は潰えてしまうのだろうか。

しかし何と、おじいさんはとんでもないことに気づく。ライターは「再点火」が可能なのだ。そんな馬鹿なとジョルノ。それが出来るなら「火を消してはいけない試験」にどれほどの意味があるというのか。高い洞察力を持つポルポの事だから、オイルの微妙な残量から途中どれだけ火を止めたかを見抜くのだろうか。不穏な気配の後、現れたスタンドが口から出した「矢」でおじいさんの魂を刺し貫いた。スタンドは「再点火」を見逃さない。次はジョルノの番だ。でもジョルノ「再点火」してないよ。

余談

ポルポが自分の指を喰ったように見えて喰ってなかった描写は、ご存知の通り特に伏線とかではない。どうも聞いた話では「ポルポ」がイタリア語で「蛸」を意味し、蛸が自分の足を食べるからというのと、彼のスタンドの元ネタ「ブラック・サバス」のメンバー、トニー・アイオミが 17 歳の頃に指を切断したからという説がある。真相は知らないが、ジョルノほどの男がその巨体をベッドと見紛うてしまった事と言い、あのシーンはジョルノの未熟さや緊張、相対する組織の不気味さを表現するものだったと認識しておけば良いかもしれない。

余談 2

つのだじろう先生の『恐怖新聞』にこんなシーンがある。劇中、百物語が行われ、最後のロウソクの火が消えたところで怪我人が出るという予言を、新聞を通して主人公の鬼形礼は知ることになる。そして百物語の場へはせ参じた彼は、とにもかくにもロウソクの火をギリギリまで保とうと、とりあえず自分の部屋へと持ち帰る事に決めるのだ。

誰もふざけてないよ。

恐怖新聞(秋田文庫) 2 巻 「百物語」より

「おもしろい」の具現化。

荒木先生はインタビューなどでつのだじろう先生に関して触れている。年代的にも様々な影響を受けたことだろうし、個人的にジョルノのライター試験は『恐怖新聞』のこの一連のシーンから着想を得たのかなと思っているが、画像を貼ったらどうでも良くなってしまった。読もう、『恐怖新聞』。我々は面白い漫画を読む為に生きている。

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