ACID BAKERY

ABout | Blotter | Text | Illust

ジャンケン対決終了後インタビュー : サザエさん

フグ田サザエさん氏は一般の専業主婦の身でありながら、もはや日本の「顔」とも言える女性だ。今や日本国民で彼女の顔を知らない人間はおらず、場合によっては東証株価指数さえ左右してしまう程の影響力を持つ。彼女は自らを「専業主婦」と名乗っているものの、数々の CM 出演や、自身の広告的価値を利用した観光地紹介など、活躍の幅はあまりに広い。そんな数々の顔を持つサザエさん氏だが、やはり彼女を象徴するのは 20 年以上にも渡りジャンカツ(※1)を続けてきた超一流ジャンケニストとしての一面だろう。しかしそんな「生けるレジェンド」が、この度キュアピースという新人ジャンケニストと戦い、敗れた。結果に対しては様々な意見が寄せられているものの、決着がついた今どのような心境なのか。インタビューを続ける中で、我々は彼女について実は何も知らなかったのだという事に気づかされる。

※1 ジャンカツ : ジャンケン活動のこと。

好きでやっていること

――この度はどうもお疲れ様でした

サザエさん氏(以下「SS」) どうもありがとう。と言っても私は来週からも変わりなくジャンケンを続けるのだけれど。

――本当に大変なお仕事ですよね

SS いいえ。好きでやっていることだもの。ライフワークのつもりだし、一生を捧げようと思ってるわ。泣き言なんて言ったら父(※2)に叱られてしまうわよ(笑)。

――辛いと思った事はないですか?

SS 無いわね。……本当よ? むしろ主婦業の方こそ投げ出してしまいたいって良く思う……あ、ここカットしてちょうだい(笑)。

(一同大爆笑)

※2 父 : 磯野波平氏。 54 歳平社員。

「出し尽くす」という事の奥深さ

――惜しくも優勝を逃してしまった訳ですが、失礼ながらご心境は……。

SS なかなか答えづらい質問よね。ああ、嫌みで言っているんじゃなくてね? 何を言っても負け惜しみに取られそうって意味で。そうね、「悔しい」(笑)。だって 1 勝差だものね。あとたった 1 回でも勝てていたら……せめて 10 勝はしたかった……あそこで違う手を出していたら……なんて思わないかと言えば嘘だけど、ジャンケニストにとって IF は最大のタブーよ。それに悔いを残さないなんて不可能だもの。主婦業にも言える事なのかもしれないけれど、ジャンケンは得にそうよね。長年ジャンケニストをやっているけど、「最善の一手」を出せた事は数える程しかないわ。それほど「全力を尽くす」という事は難しいのよ。

――力を出し切れなかった、という事でしょうか。

SS 勘違いしないで欲しいのは、決してどちらかの有利不利を訴えている訳ではないという事よ。グー、チョキ、パーっていうたった 3 種類の組み合わせに思えるかもしれないけど、結果に至るまでの思考や戦術、直感までを含めれば、いつだって可能性と選択肢は無限。キャリアを重ねれば重ねる程、「出し尽くす」という事の奥深さを知るわ。要するに「そんなに底は浅くないわよ」って事ね。ジャンケンも、もちろん私も。でもやっぱり悔しいだけじゃなくて、本当に清々しい気持ちなの。比重としてはこっちが圧倒的に上……やっぱり負け惜しみに聞こえる?(笑)

――対決自体はどのようなモチベーションで挑んでいたんでしょう

SS 毎回とても新鮮な気持ちでトライできたわ。私はベテランとか経験豊富なんて持ち上げられているけど、いつもは不特定多数の相手に手を出しているだけ。実は決まった相手と続けてジャンケンをする機会はそうそうないの。だから今回の対決をするにあたって、 1 回 1 回を無駄にするものかと決めていたわ。気分の上では新人ね(笑)。

「公正にして公平である事」こそジャンケンの所以

――対戦相手のキュアピース氏に対する印象などをお願いします

SS もう「キュート」のひと言よ! 一生懸命で意欲的で……。気弱な性格と聞いていたし、確かに最初はやっぱり萎縮してしまっていたみたいだけど、胸の内には稲妻のように強烈な意志を秘めていると一目で分かったわ。ジャンケニストとしてはまさしく「原石」よね。対決当初はただジャンケンをしているだけだったけど、回数を重ねる内にプリキュアとしての自分を乗せるテクニックを身につけていったのよ。実戦が人を成長させるというのは確かにその通りかもしれないけど、言うほど簡単じゃないわ。対戦相手としてこんな事を言うのはおかしいんでしょうけど、荒削りの石が研ぎ澄まされていく感覚は堪らなかったわ。

――キュアピース氏の成長をサザエさん氏が促していたとの見方があるようですが……やはりハンデは意識していた?

SS 申し訳ないけれどその質問には答えられないわ。だってそうじゃない? 今更「ハンデのつもりだった」なんてみっともないし、彼女に対してこの上なく失礼だもの。終わった勝負についてあれこれ言い訳するなんてフェアじゃないでしょ。ジャンケンがジャンケンたる最大の所以は、「公正にして公平である事」よ。私たちは本気で戦い、そして結果が出た。そこに不名誉な曰くが入り込む余地は決してありえない。

――失礼致しました。しかし本業との兼ね合いでキュアピース氏よりも多くジャンケンをしなくてはならず、体力的にも精神的にも不利な状況にあった事は否めないのでは……。

SS そうね。環境に差があった点は認めるわ。だけどそれはお互い様じゃない? 彼女は彼女でノルマがあったみたいだし、それに世界を救う為に戦う傍らで私との勝負に挑んでいた……。とても立派よ。なかなか出来る事じゃないわ。それもまだ中学生だっていうじゃない! 私の弟(※3)はまだ小学生だけど、もう何年かでああなるなんて想像できないわよ! 一生子供のままなんじゃないのって思うわ!

――(笑)。では対決を振り返ってみて一番印象深かった出来事をお聞かせ下さい。

SS 悩ましいわね。色々あるけど……やっぱり 33 回戦で先に 10 勝された時かしらね。実は私、あそこで逆転しちゃうつもりだったのよ。何だかんだで戦績で彼女を上回った事、一度も無いものね。対戦相手の成長を願ってはいたけど、まさかそこから 1 勝も出来なくなるなんて……事実上あれが決勝戦みたいなものだったし、やっぱり私にとっては 33 回戦が一番熱くなれた瞬間だったわ。

――あれ以降全然ジャンケンをさせて貰えませんでしたね。

SS あれは参っちゃったわね(笑)。やっぱり若い子は……私もまだ若いつもりだけど(笑)、発想が柔軟なのね。ジャンケンをしない事もジャンケンの内……真似は出来ないと思うけど、良い勉強になったわ。こういう事があるからジャンケンは止められないのよ。

――最後になりましたが、何かひと言お願いします。

SS また機会があればお会いしましょうね。ジャン、ケン、ポン(チョキ)! うふふふふふふ。

※3 弟 : 磯野カツオくん。小学五年生。坊主。