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『ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース』 第 29 話「『アヌビス神』 その 2」

屈強な男客二人と屈強な店主のいる床屋……『エクスペンタブルズ』だろうか。いや、『ジョジョ』である。「アヌビス神」編後半戦である。

前回イギーに追い出されるようにして、警察へと「チャカの剣」を持って行こうとしていたポルナレフは床屋へ寄り道して再び襲われました。チャンチャン。ところでポルナレフが寄り道せずに警察に剣を持って行ったらどうなっていたのだろうか。恐らく警官が乗っ取られて再戦となっていただろうが、しかし考えてみると、周りの人には警官が刀でポルナレフに襲いかかっているところしか視認できないはずだ。となると周囲の警官から蜂の巣にされて勝負は一瞬で決していたかもしれない。まあ銃弾くらい防ぎそうなスタンドではあるけども。

さて「アヌビス神」対「戦車」第二幕。ポルナレフは早々に奥の手を出した。話が早いッ。追い詰められてからようやく真の力を発揮する奴らとは訳が違う。だが奥の手は防がれてしまった。「アヌビス神」に同じ手は二度通じないのである。「や……やばい。承太郎助けてくれ」 話が早いッ! 無理だと悟れば助けて貰う。下らん意地はロクな結果に繋がらないのだ。 J・ガイルの旦那との戦いで学習したのだろう。

バトンを受け取った承太郎はワンパンで決める。さすが承太郎先輩、仕事が早い。……だがその顔にはいつになく焦りが滲んでいる。ンドゥールとの一騎打ちの時もここまでは焦っていなかったというのに。承太郎自身「浅い」と口にするだけあって、カーンもすぐに立ち上がる。更に「スター・プラチナ」のスピードも学習してしまった。一度観た攻撃は二度通じない相手に、言い換えればパンチしか芸のない「スター・プラチナ」でどう対抗するのか。しかしそこは承太郎。「白刃取り」にて「アヌビス神」をへし折り、また勝負は一瞬で着いたのだった。さすがは精密動作性「A」。本体の冷静さ・胆力もまた「A」だろう。しかしまだ終わらない。これからにござるとばかりに、何と今度はポルナレフが乗っ取られてしまった。「剣を使うスタンド」使いが、「剣のスタンド」を持った。嫌な予感しかしないッ!

この不死性である。「アヌビス神」の能力は、所有者を操り剣の達人にしてしまうこと。そして「達人」には高い学習性が付与される。しかしこのスタンドの真の恐ろしさは、本体さえすげ替えれば際限なく立ち上がり続ける点だろう。しかも倒した方は消耗を免れず、相手は弱点を克服して強化される。

『荒木飛呂彦の超偏愛! 映画の掟』で荒木先生はこう述べている。『サスペンスとしてよくできている作品では、ストーリーがエスカレートしていく(P73・要約)』。荒木先生が目指すサスペンスの製法が、「アヌビス神」戦には詰め込まれている。能力の特性と危険度を読者に何度も念押しする事で、我々は「ポルナレフが乗っ取られるという事態のヤバさ」を一発で理解するのだ。そしてここに来てアニメ版はもう一歩踏み込んでくれた。学習能力を持つ相手に、見られた事がない「スター・フィンガー」で対処する承太郎。だが肩の装甲を破壊された「アヌビス神」は、甲冑解除によるスピード・アップに気づいてしまう。これは原作既読者にとって嬉しいエスカレートの仕方ではないか。

もともと「アヌビス神」は本体として使用している者の安全性を考慮しない。防御甲冑など不要なのである。原作を超えるピンチに、我らがジョジョはどう立ち向かうのか。だが哀しいかな、残念ながら相手が悪かった。というか戦法が悪かったのか。せっかくのスピードを手にしたのだから、全身をズタズタに切り裂いてしまった方が有効だったのではないだろうか。わざわざ一点に攻撃を集中してしまった結果、的を絞られた「アヌビス神」は粉々に粉砕されてしまったのでした。

しかしまだ終わらない。「アヌビス神」は何度でも蘇る。惜しむらくは、もう荒木先生は事態をギャグで収集すると決めてしまったことだ。ナイルの水底に沈められた「アヌビス神」は孤独に泣く。もう強敵としての威厳などない。宝物庫に長いこと封じられていた経験が、彼にトラウマを植え付けたのだろうか。大丈夫。考えるのを止めてしまえば楽になれるさ。

さて、夕日に感動するイギーのかわいさと、ポルナレフの疫病神っぷりに頷く承太郎達は置き、 C パートに謎の美女の姿が。この脚がグンバツの女は一体……!?

余談。乗っ取られたポルナレフに斬りかかられた警官がいたが、彼を救うために承太郎はキックを繰り出した。原作にも同じ描写がある。この部分が、ゲーム化された際に承太郎の弱攻撃「膝蹴り」として採用されているのだと思われるが、アニメ版では足を伸ばして蹴っている。原作を読み返しても膝蹴りに見えないこともないが、しかし効果線の付け方から察するに、やはり足を伸ばして蹴っているように見える。いわゆる「速すぎて蹴り足が見えない」という、ボクサーのジャブもビックリな蹴りという訳だ。ゲームで「膝蹴り」として引用されたのは、その方が承太郎らしいという理由からなのだろうか。世界は謎だらけ。

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