ACID BAKERY

ABout | Blotter | Text | Illust

『ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース』 第 47 話「DIOの世界 その 3」

「世界」とは恐ろしいスタンドだ。これまでの旅は、承太郎と「スター・プラチナ」の性能によって成り立っていたと言っても過言ではない。それほどまでに襲い来る刺客は強力だったし、しかし我らが主人公はそれ以上に強く頼もしかった。敵は度々口にする。「『スター・プラチナ』マジこええ」と。凄まじいパワーとスピードと精密な動作、加えて本体の頭脳。数々の異能の持ち主達が、単純にパラメーターの高いシンプルなスタンドを何よりも恐れたのだ。

「世界」の何が恐ろしいか。それは「世界」が「スター・プラチナ」と同系のスタンドである点である。パワーとスピードは互角かそれ以上、何気なく見過ごされているが、射程は倍以上! しかも本体が不死なので、まともな方法じゃ倒せない! なにこれッ! 「時を止められる」能力を抜きにしても反則だ。つまるところ「世界」の恐ろしさとは、我々がこれまで承太郎に抱いていた信頼感がそのまま驚異となって跳ね返ってくるところにある。言わばこれまで切り開いてきた長い旅の道程に、復讐されているかのような錯覚すら覚えよう。……こいつに勝つ? 「できるわけがないッ!」

しかし泣き言は言っていられない。 DIO の能力を解明するという無理難題を花京院は命を懸けて成し遂げた。ジョセフはその遺志を受け継ぎ、全身全霊で孫へと伝えた。これで勝てないなどとなぜ言えるッ! 承太郎は「世界」の能力を知りながらも接近し、土壇場の機転によって DIO を欺き、ついにはダメージを与えることに成功したのである。恐らく唯一勝っている精密動作性も大きく影響しているだろう。そして何ということだ。承太郎は「世界」と同じ、静止した時の中を動く能力に目覚めていたのだ!

この展開に関してはよく「都合が良い」などという言葉を耳にするが、そんなことは無いッ! 荒木先生の創意は存じ上げないが、「世界」とは「スター・プラチナ」あってのデザインだと断定する。途中まで DIO のスタンドがイバラ状であったこともあり、現在の形は初期から構想していたものではないだろう。ではどんな意思があの造型を導いたのか。決まっている。「最強の敵」とは、「最強の主人公である承太郎、そのスタンドの上位互換」でしかありえないからだッ! 花京院や承太郎が洞察したように、両者は「同じタイプ」のスタンドだ。見た目のマッシヴさもさることながら、攻撃の仕方、ラッシュ対決など、二体のスタンドは絶えず比較されてきた。「スター・プラチナ」ができることは、「世界」にも可能という訳だ。ならばだ。逆もまた然りだろう。「世界」と「スター・プラチナ」は「同じタイプ」のスタンドであり、それ故に「スター・プラチナ」も「世界」と「同じこと」ができる。……と、アニメ版ではその印象を強調するような描写が入っていた。断じてご都合主義などではない。花京院とジョセフの遺志によって今、承太郎のスタンドは初めてその本領を発揮する……荒木先生が描きたかったのは、そういう哀しい運命だったのである。

数々の犠牲によって、ようやく主人公は宿敵と同じ土俵に立つことを許された。だが勝つにはまだ足りない。未だに戦力差は圧倒的だ。しかし問題など無い。これまでの道中、そんな戦いばかりだった。『ジョジョ』における「戦い」とは、いつだって窮地から始まるものなのだ。

スポンサーリンク