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『遊戯王 THE DARK SIDE OF DIMENSIONS』

クッソ面白かったです。なんでかというと、やはり製作サイドが「『遊戯王』がなぜ面白いのか」を熟知しているからなんだと思います。「ここぞのタイミングですごいカードを引いた!」「そんなコンボがあるなんて!」「ピンチ!」「逆転!」…… TCG 作品の肝とはつまるところそこにありますが、『遊戯王』には先駆けとしての輝き、そして何よりキャラクターという最大の武器がある。そして劇場版で爆誕した「次元召喚」です。これは高レベルモンスターを呼び出す手順を省略し、しかもその攻撃力を最大まで引き出す描写によりデュエリストとしての格を表現出来てしまう画期的なアイディアです。それだけだと脚本上の都合でしかないのですが、あの「モンスターではない! 神だ!」によって、それらの都合が作劇上の必然にまで高められたのを感じました。ああいった問答無用の説得力こそ、『遊戯王』の魅力の一つなのですね。ただそれだけに、最終的な決着については少し不満が残りますね。アテムが来訪するのは良い。けどその上で、やはりあのコンビに実力で逆転を遂げて欲しかった。そういえばここぞとばかりに杏子が可愛くなってましたね。え? くじゃくまい……?

とにもかくにも海馬社長ですよ。初志を貫徹するキャラクターというのは、それだけで魅力的ですね。言うまでもないでしょうが、映画の主役は間違いなく社長です。あれだけ一途にライバルに焦がれ、それでも目の前に現れてはくれない。じゃあどうするか。「会いに行く」。熱すぎる。見せられた側としては、どうしてもエールを送ってしまう。打ちのめされる主人公へ一度でも「頑張れ」と願ってしまったのなら、それは最高の「物語」と言っていいでしょう。

あと地味に良かったのは、遊戯の将来の夢が「新しいゲームを作る」ことだった点ですね。本筋以外の部分を仄めかすことで、世界観に厚みが出る。世の中『M & W』だけじゃねーんだよ! 今ではすっかり TCG コンテンツと化してしまった『遊戯王』ではありますが、元々は「ゲーム」という概念、それ自体へのリスペクトから始まった作品だったはずです。面白く生きるための手段は一つではないという、ゲームが持つ本質的な魅力。高橋先生が一番表現したいものは、そこなのではないでしょうか。

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