ACID BAKERY

ABout | Blotter | Text | Illust

『ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風』第 39 話「眠れる奴隷」

最終話であります。エピローグという名の前日譚であり、プロローグ的でありながら『ジョジョ』、特に第五部を貫くテーマを凝縮させた一篇に仕上がったお話。

ジョルノ加入前のブチャラティチームが引き受けた、ある依頼から事は始まる。よくある自殺、よくある怨恨。そんな運びの裏には、しかし大きな運命に纏わる力が働いており、そしてブチャラティもまた無関係ではなかったのだ。スコリッピという男のスタンド能力「ローリング・ストーン(ズ)」。これは至高の彫刻家が、自分は自らの意志ではなく既に定まった運命を石の中から露にしているだけなのだと語るように、これから死亡する者の運命を石に浮き上がらせる力である。ミスタが目撃したそれにはブチャラティの姿が投影されていた。異常なものを感知し男に能力を取り消させようとするが、これにスコリッピの意志は関与しない。石は「運命の形」なのだ。ブチャラティはこれから何らかの理由で死ぬ。「ローリング・ストーン(ズ)」は確定した未来の具現であり、強いて言えばその未来をちょっぴり早める。触れた本人を安らかに死なせる、ある意味で「救い」の能力なのだ。スコリッピの言葉をうっすらと理解するミスタは、しかし運命に抗おうとする。最後まで諦めようとしない彼の決死の行動は、果たして実を結んだ。「ローリング・ストーン(ズ)」は高所より落下し砕け散った。全て帳消しとなったのだ……と見せかけて、その後スコリッピは目撃する。石に浮き出たブチャラティと、ナランチャ、アバッキオの姿を。

ひー! ホラー映画のようなバッドエンド! ではない。断じてない。ミスタは確かに運命を変えたのだ。だが変わらずブチャラティは死に、それどころか本来であれば死ぬはずではなかったかもしれない者達まで「ローリング・ストーン(ズ)」に彫刻されてしまった。……これは、この時の行動が第五部全体に影響を与えたとかそういう話ではない。この出来事はきっと「象徴」なのだ。どのような苦難を見舞われようと、彼らは変わらずこのように行動するという「ただの一例」に過ぎない。人間は運命の奴隷だが、もっとハッピーな事が訪れるようにと足掻く、その強い精神こそがより良い未来を手繰り寄せるのだと、これは『ジョジョ』という物語そのものを示す宣言なのだと思う。何が正解かなど分からないが、足掻く事で何かが変わるかもしれない。その程度のちっぽけな可能性くらいは信じてもいいかもしれない。そしてもし途中で力尽きようとも、誰かが意志を継いでくれるかもしれない、そのくらいの事を期待しても構わないくらいには、世界に自分の居場所は用意されているのではないか。その歓びを指して、「人間賛歌」と呼ぶのだ。

スタッフの皆々様、遅ればせながら第五部アニメ化お疲れ様でした。今後も期待しております。

スポンサーリンク