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『THE FIRST SLAM DUNK』を断固観てきました

……面白かった。

「だって『スラムダンク』だし山王戦だし、なんで面白くならないって思ったの?」と真顔で言われた感じ。いやそりゃそうなんですが、だったら事前の良く分からないプロモーションは一体……自信の裏返しなのか自信が無かったのか、わからん。わかりませんが、まあ気にしても仕方ないので「やっぱ『スラダン』すげーわ」という気持ちだけ持って帰ることにしましょう。(持って帰るで思い出しましたが入場者特典で貰ったビジュアルカードの仕掛けも中々よかった。キュート)

さて軽くネタバレをしていきますが、言った通り山王戦です。これは公開前の 15 秒 CM で予測はついていたものの、複数の試合を寄せて集めての「湘北の軌跡」といった内容も想定していた為、 OP で山王メンバーが現れた時はテンション上がりましたね。これは山王戦一本だなと。

そしてなんと主役は桜木花道ではなく宮城リョータ、少なくとも彼の視点で物語は進みます。知らない過去話のはずなのに知ってる気がするのはなぜ、と思ったのは、昔ジャンプに読み切りとして掲載されていた短編『ピアス』から引っ張ってきてたみたいですね。そりゃこれだけ掘り下げちゃったら「神奈川 No.1 ガード」とか言わせてる場合じゃありませんわな、というラストシーンでした。

と言ったこととあんま関係ないんですが、一番好きなシーンは沢北が試合後に泣いてしまうシーン。追加された描写として、神社にお参りした沢北が「成長したい。その為の経験をください」……と願ったことを、振り返って泣くんですね。挑戦を糧とし成長を続けてきたストイックな男の、しかし裏を返せばそれ故の傲慢。経験を欲しはしたが、まさか敗北を与えられるとは思っていなかった。無敵無敗の沢北に去来する、なんであんなことを願ってしまったんだろうという年相応、人間大の後悔。短いけれど良いシーンだ。このくだりだけでも観る価値があると思いますよ。

映像面。フル CG に関しては序盤こそ若干の違和感を覚えていたんですが、すぐに慣れました。ただ観客の描き方に関しては、「観客が湧き立つシーン」でこそ きちんと描写されるのに、それ以外は「動かない背景」として魂が抜かれているので、少しでもそちらに意識が向こうものなら気になって没入が削がれてしまう、という難点はあったかな。もっとも常に観客を命あるモブとして描写していたらそれはそれで浮いてしまっていたんでしょうけど(単純に割に合わないのだろうし)。

あと一つはっきりと苦笑いしてしまったのは、意外や意外、あの名シーン「諦めたらそこで試合終了ですよ…?」。この台詞ってこのくだりのみで完結するものではなく、ここまでの『スラムダンク』の「文脈」が強く作用した台詞だったんだなと改めて理解しました。なんか久しぶりの映像化、ということでいきなりこのシーンだけ見せられると「さあお待たせしました! こちらがあの名言でございます!」といった上滑りした印象を受けてしまった。まあ、無きゃいけない台詞だとも思うので、あの瞬間波に乗れなかった人間の被害妄想と思ってください。

そしてこいつは難点ではないんですが、本作はリョーチンが主軸ということもあってか、或いは前述した通り「文脈」が強く作用する台詞、具体的には「大好きです」や「左手は添えるだけ」といった重要な台詞がカットされている。これは桜木花道から「主人公感」を切除しようとしているのかな、とも思ったんですが、この桜木花道という男はやはりとんでもない男で、山王戦を一本の映画に仕立てた上で改めて見るとリバウンド王の活躍が原作にも増してエゲっつないことになってました。どうやったって主人公だわ、こんなやつ。

そんなわけで『THE FIRST SLAM DUNK』。手を加えられたところ、時と共に変化した部分は色々あっても、それでも『SLAM DUNK』は何も褪せていなかったことがよく分かる一本でございました。今すぐ劇場へ急げ。

ああ、最後に一つ。そのですね、一度出来上がったものを崩すことを要求したくなかった事情や、年齢的なもの、そしてやはり新しいものを作るのだからそれに適したものを新しく探すというような意図があったであろうことは踏まえた上で、やっぱり TV アニメ版の声優で観たかった、という気持ちくらいは書いておきたい。これは全然要望と呼べるものではなく、誰の目にも留まらなくていいから自分がそう思っていたことをどこかに書いておきたい、という程度のものです。好きだったなあ、という、それだけの。

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