ACID BAKERY

ABout | Blotter | Text | Illust

『ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン』第 26 話「自由人の狂騒曲(ボヘミアン・ラブソディー)その 2」

アナスイがアナスイから逃げる場面から始まる今週の『ジョジョ』ッ! 正直「ボヘミアン・ラプソディー」の話はしっかり理解するより、夢の中にでもいる感覚で眺めておくのが正解だと思います。

「ボヘミアン・ラプソディー」ッ! 別名は「月光条例」……ではないです。覚えておくべきなのは一点、「世界中の創作物からキャラクターを具現化させる能力」だということ。具現化したキャラクターは接触した人間を自らが属する物語に巻き込み、その筋書に従わせる。不幸で悲惨なものなら絶対にその通りになる。能力の被害者の肉体と精神が分離するくだりが何ともややこしいですが、「キャラクター」が本などの「媒体」から分離したように、実在の人物も「肉体(媒体)」と中身が分離させられたと考えると飲み込みやすいでしょうか。そしてお互いの「中身(精神)」は終いには入れ替わり、その結末をも交換することになるのだと。

とんでもなく強力で迷惑な能力だッ。本体であるウンガロは、一応プッチ神父に追手を近づけさせないという使命を言い渡されてはいるでしょうが、たぶんそんなこと二の次でしょう。世界よ滅茶苦茶になれ! きっと彼が望むのは、ただのそれだけ。果たしてそれは実現したと言えますが……しかしこの能力の結末はあっさりと訪れました。「プット・バック・マン」、恐らく世界で最も新しく生まれたヒーローは、ウェザー・リポートが「ゴッホ」に製作させた新しい物語でした。「全ての『ファンタジー・ヒーロー』を元に戻す」そのヒーローは現実のものとなり、瞬間、「ボヘミアン・ラプソディー」は無力化されたのでした。終わり。

この話、事態の深刻さに反して結末が呆気ない事も含めて好きなエピソードなんですが、ウェザーの機転が無くとも「プット・バック・マン」的なものは多分誰かが思いついていたと思うんですよね。そうではなくとも「ファンタジーを無効化する能力」を持つ創作キャラクターなんて山ほどいるので、「プット・バック・マン」が「ボヘミアン・ラプソディー」を封じることができるなら、何もせずともやがて同じ結末になっていたと思います。この「先の無さ」、まさしく「ボヘミアン・ラプソディー」ではないですか。

しみじみ感じ入ってしまうのは、ウンガロ自身が世界を「希望」の無い暗黒に叩き落とす為にこの能力を発現させていた横で、同じ飛行機に乗り合わせた少女は物語を「希望が沢山つまったもの」と評していたこと。物語の力で世界を滅茶苦茶にしてやろうと決めたウンガロは、しかし物語の結末が時に希望に満ちたものであることを勘定に入れてなかったんですね。希望など知らない男が、世界を生贄に自分だけはそれを手にしようとして叩きのめされる。全ては結末通りに。ウンガロという一人の男の物語でした。

スポンサーリンク