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『ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン』第 35 話「C-MOON - 2」

「ダイバー・ダウン」の「なんでもあり」に対して「でも脱獄以降の敵が強すぎて勝てない」でバランスを取る、そんなのありなのか! 能力の応用が利きすぎる故に敵に勝たせてもらえない、アナスイは既にそのようなフェーズに移行してしまった気がする。一体アナスイが何をした。それほどまでの罪を犯したというのだろうか。犯してた……殺人鬼だったわ、こいつ。そんな健気な男が愛する女の為に戦う今週の『ジョジョ』ッ!

とまあ好き勝手言いましたが、アナスイが勝てないのは、そんな作劇上の都合ばかりではないでしょう。この神父が強すぎる。運命そのものを味方につけたかのような、確信に満ち満ちた威風、決して絶対無敵の能力に見えないのに、そう思わせる超然さこそが今のプッチの強さを支えている気がします。しかしそんなプッチに唯一汗をかかせるのが、「ジョースター」でした。

心臓を裏返してやったはずのジョリーンが生きている。一体どのようなトリックかと思えば、その秘密はメビウスの輪にありました。総てを裏返す能力に対して、裏も表も無い体構造で対抗する……このトンチ、めちゃめちゃ好きですね。糸ならではというのが非常にベネ。この工夫が「C-MOON」に抗することにのみ特化しているというのが更にベネなんですよ。一連の流れで追う側と追われる側が逆転し、さながらプッチが主役の視点であるように描かれているのも楽しい。いやー今週は特に楽しい。

げに恐ろしきはやはりジョースター。その力は土壇場でこそ真価を発揮する。そう言いたいところではあるのですが、今のプッチ神父の恐ろしさとは重力などではなく、この「ジョースター」の強さへ抗うための力、そう呼べるものかもしれない。

プッチ、歩く。グルグルと天地関係なく。世界は今プッチを中心とし、この男が歩く場所が即ち大地です。この壁歩きは第一部ジョースター邸でのディオを思い出させますね。そして待ちに徹するプッチのもとにそれは降ってきました。拳銃。なんという身も蓋もない暴力でしょうか。放たれる凶弾。父を害したその弾雨に、娘もまた晒されてしまい……しかし次の瞬間、ジョリーンの姿はかき消え、プッチの目の前には見覚えのない銛が突き立てられていました。血の気の引いたようなプッチの顔面に、無双の一撃が叩き込まれます。「スター・プラチナ」、空条承太郎の復活でした。

詰みです。重力を如何に操ろうとも、時を止める能力の前では無力であり、そして多くの敵がプッチを取り囲んでいる。逃げ場はありません。無いのですが、しかし進むべき位置があり、窮地に押し込められたプッチはそれを理解しました。「ジョースター」を克服する、それこそが今のプッチの特質であるなら、眼前に立つのが承太郎であろうとも。

誰が知ろう、承太郎が決め手に選んだ銃撃。それはかつて自身を打ち倒したものであると共に、 100 年以上前、ディオをも貫き、しかし殺しきれなかったもの。ジョースターにとっての凶弾は、しかし敵にとっては「超越」の合図になるのだと。

浮くプッチ。スペースシャトル神父。かくして予告していた新月を待つことなく、必要なものは彼を充たしていき――天国への階段は拓かれていきます。

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