「プロジェクト・アイギパーン」は通信衛星「ゴート（山羊）」と弾道ミサイル搭載原子力潜水艦隊「スクール・オブ・フィッシュ（魚群）」が一対となって成される平和事業である。「山羊」と「魚群」は極めて特殊な方法で絶えず互いの情報を送受信しており、どちらかに外的欠損が生じた場合にもプロジェクトは完遂される運びとなっている。加えて「魚群」は全艦無人であり、操舵は全てプログラム制御になっている。通常原子力潜水艦というものは十年以上の潜行が可能だが、乗組員という有機パーツが数ヶ月単位の定期的補給及びメンテナンスを必要とする為、事実上長期ミッションの遂行は不可能。ゆえに端からそれらを廃する事でミッションの継続性を飛躍的に向上させたのである。これも「プロジェクト・アイギバーン」の内容がたった一つのシンプルな目的に帰結するが故に可能な事だ。
それは「『山羊』が地上において戦争に該当する行為を観測した場合、『魚群』に搭載された核ミサイルが全世界へ一斉に発射される」というもの。
この情報が世界中に拡散された直後、計画は本格的に始動する。国と国。人種と人種。皆が手と手を取り合う事になるだろう。平和は信じ合う心から生まれる。だから安易な終末が訪れる事は永久にありえない。仮にそうなったとしても、もう争いは起こるまい。