おはようございます。今回は初代『DARK SOULS』のお話をば。
……おい、一体いつまでこのゲームのことを考え続けてるんだ。10年以上前のゲームだぞ。
「Always(永久に)」
ありがとうスネイプ先生。ではやっていきましょう。
去年、有難いことに当サイトの記事を御読み頂いている方からご相談がありました。要約すると「不死街下層の遺体が持っている人間性の双子について」です。あれはなに、といった疑問ですね。もちろん正解を知っているわけでもないのでぼんやりとした考えを提示するくらいが限度ではあったのですが、考えを整理しているうちにちょっとしたことに気づいたので、今回はその面白さを共有しようかなと思った次第でございます。
- 人間性の双子
- 稀に死体に見られる小さな黒い精
- 珍しい双子のもの
人間性とは、人の本質、人らしさの象徴です。
人間性は人の本質。それが双子として在るというのは何を意味するのか。心が二つある? 二重人格?
そもそもそのような疑問が寄せられたのは、当サイトが過去に少しだけ「双子」について掘り下げてしまったから、というのはあると思います。単に生卵を割ってみたら黄身が二つだった、程度の現象かもしれないのに、「だとしたらアレはどういうことなの?」という余地を生み出してしまった。責任を取らなきゃいけない。よござんす。
とはいえ、以前やった人間性の双子についてのアレコレについては、他所様のお考えをお借りしています。ちょっとだけ没データのお話をしますが、『DARK SOULS』における上級騎士は当初ラスボスとして据えられていたことが推察できるそうです(こちらのサイトを参照)。
主人公が火を継ぐなら、立ちはだかる闇の王として、逆に主人公が闇の王たらんとするなら、それを阻む薪の王として、上級騎士オスカーは常に主人公の「対」になるように配置されていたことが、没セリフからは伺えるのだそうな。
転じて人間性の双子とは、当初は物語の結末を暗示するフレーバーであり、切っても切れない因縁を匂わせるアイテムだった……という見方が出来るわけです。あくまで没データからの想像ですよ。
で、結局は没を食らってしまったこのフレーバーについては、じゃあ忘れていいのかというと、必ずしもそんなことはないようで、「主人公の対となる上級騎士」は『DARK SOULS 3』において、常に主人公と逆の性別となるアンリという NPC に受け継がれたようです。また「人間性の双子」がある種の因縁や魂の結び付きを暗示していたという見方は、同じく『3』の「双王子」とそのソウルに活かされているように思えます。「双王子のソウル」が名称とビジュアル共に「人間性の双子」を想起させるものであるのも、そう考えると趣があるんじゃないでしょうか。
人間性の「双子」 / 「双王子」のソウル
なので(しつこいようですが)あくまで没データから類推するなら、という仮定の上でですが、「人間性の双子」はそれを宿す者の運命や因縁を匂わせるアイテムだった、という見方が自然なのかなと思っていました。あくまでも薄っすらとしたフレーバー以上のものではなく、「下層に落ちてる人間性の双子」は、あの遺体について、答えは分からずとも意味を考えさせる為だけの芳香剤のようなものだろうと、そんな結論を持っていたわけです。
御相談者様にはそんな玉虫色の答えを提出して話を締めようと思っていたのですが、改めてデータを整頓してみると、ちょっとしたことに気づきました。
理解している、話は済んでいると思い込んでいるだけで、核心的な部分を見逃していた。どれだけ噛んでも味がするゲーム、『DARK SOULS』、『DARK SOULS』を宜しくお願い申し上げます。
っつーかさ、門外漢が没データだなんだと猪口才なことをやる前に、実際のゲーム内情報を整理しましょうって話です。
人間性の双子の用途
- 使用することで HP が快復し、「人間性」が 2 つ手に入る
- あったかふわふわで「貴い犠牲の指輪」と交換できる
人間性の双子って、どこで、どうやって手に入るの?
- キャラメイク時の贈り物
- 敵
- さまよう人間性の精霊(赤)
- 深淵沸き
- ボス
- 鐘のガーゴイル
- 貪食ドラゴン
- 混沌の魔女クラーグ
- 半竜プリシラ
- NPC 殺害
- 教戒師オズワルド
- 弓の英雄ファリス
- 商人、店売り
- 商人
- 宝箱
- 病み村(大樹のうつろに至る前の宝箱)
- 遺体
- 不死街下層の遺体
- 混沌の廃都イザリスの遺体
- ウーラシール市街
- 深淵の穴
漏れや勘違い等あるかもしれませんが、人間性の双子の用途と取得方法については以上です。
そもそも人間性、及び人間性の双子は「所持」することが可能です。これはプレイヤーだけの特権でもないでしょう。つまり特定のキャラクターがドロップしたもの、或いは遺体が持っていた人間性を指し、それが「アイテムとして所持していたもの」なのか「死体になった後で生じたもの」なのか、厳密に見分けるのは難しいってことです。しかし逆を言えばどっちにも解釈して問題ないということでもあります。状況や環境を鑑みて、それぞれの入手経路から、その「双子」の背景を洗ってみましょう。
まず深淵湧きについては特に言うこともないです。ウーラシール直下、深淵の穴に湧き続ける人間性状の敵。深淵に飲まれた人々が、人の本質である「人間性」という形に還元され顕れたのが深淵湧きだと思ってますが、一種の亡霊のようなものだと考えれば、生前、その中には家族・兄弟などの関係にあった者たちもいたはず。「双子」をドロップする深淵湧きがいたのだとすれば、その人は文字通り誰かの「双子」であったのかもしれません。
次。オンラインプレイ上にしか登場しない「蟹」こと、さまよう人間性の精霊(ベイグラント)。通常個体と便宜上呼びますが、こいつはオンライン時プライヤーが人間性を 5 つ以上ロストした場合に発生し、倒されるまでオンライン(世界)を渡り歩く性質があります。倒すと人間性をドロップ。そうして渡り歩く世界が 20 を越えた場合、赤く変色し、ドロップアイテムが「双子」に変質する仕様だったはず。そのはず。通常個体が道中で「双子」を得たのか、より多くの人間性を溜め込んだ、或いは他の要因による変質なのかは不明ですが、獲得したのでない場合、通常の人間性が「双子」に変質するケースもあるかもしれない……という観点は結構重要なんじゃないでしょうか。
次。貪食ドラゴンはどうでしょう。とにかく飢餓状態にあったであろうあのドラゴンが多くの不死を食べてきたことは想像に難くないので、どこかのタイミングで「双子」所持者を食べたのかもしれないし、多くの人間性を取り込んだ結果、体内で変質したのかもしれませんね。
次。鐘のガーゴイルですが、これはシンプルに二体同時ボスであることを「双子」に準えるユーモアかと考えています。もっと深い意味があるかもしれませんが、特に何も思いつかないので、これについてはまたいずれ。(余談になりますが、『Demon's Souls』を遊んでから『DARK SOULS』に挑んだプレイヤーは、当然ながらガーゴイルを相手取った際に二体同時ボス「マンイーター」を連想したことと思います。そしてマンイーターが落とすのは「混成のデモンズソウル」。セルフオマージュだとして、「混成(二つ以上のものが混ざり合うこと)」という在り方を、人間性の双子に見て欲しかったのかもしれません)
で、次。ボスがドロップする理由に関してもう少し深い意味を考えられるのはクラーグとプリシラでしょう。クラーグはイザリスの魔女の一人であり、彼女には多くの「姉妹」がいました。その後に見える卵姫などもその一人であり、クラーグが血の繋がりを思わせる「双子」をドロップするのはその暗示だったという見方ができる。また、クラーグは妹である卵姫の為に人間性を集めていたという考察もあるようなので、「多くの人間性を所持していた」ことを示唆する為の「双子」であったかもしれません。
プリシラも「双子」を落としますね。こちらも彼女自身が誰かと姉妹ないし兄妹であったことを示すのかもしれませんし、もしもプリシラに子がいたとして、その子らは双子だった……なんていうのも面白い想像でしょうか。
関連記事 : グウィンドリンのつくりかた
プリシラとクラーグについては少し後にもう一度触れますが、そろそろ NPC にも視点を移してみましょうか。
教戒師オズワルド。ガーゴイルを倒し、鐘を鳴らした後に出現するキャラクターです。その装備などからも分かる通りベルカの信徒だと思われるのですが、彼は死後「双子」を落とします。さてこれは「持っていた」のか「生じた」のか。個人的には前者かなと思っています。根拠とも言えませんが、「双子」の用途の一つとして、あったかふわふわにより「貴い犠牲の指輪」と交換できるんですね。
- 貴い犠牲の指輪
- 犠牲の儀式によって作られる 罪の女神ベルカの、神秘の指輪
- 中でも、赤紫の色味を持つものは特別とされる
オズワルドは指輪との交換用に双子を携帯していた、は言い過ぎにしても、ベルカに由来するであろう貴い犠牲の指輪を仄めかすフレーバーの一つとして、彼は双子をもたされていた、というのは考えられると思います。
犠牲の指輪を装着した際のアイコン
また犠牲の指輪類を装着することで人間性のアイコンが表示されるように、そもそもベルカと人間性、或いはそれに反する呪いという事象の間に関連性があるようなので、そういった意味でも、オズワルドの所持していた人間性の双子は、彼という信徒を通してベルカなる神の存在を強調するフレーバーだったのかなと。
次。パッチ。こいつはまあ、そんな深く考える必要も無いでしょう。渡してくる双子、店売りする双子、ともに大方、遺体から剥ぎ取ったと考えるのが自然です。パッチの持ち物はいつだってそうした類のもの。こいつについては終わり。それ以上のことはない。いや、こう書くとなんかありそうですけど、本当に無い。
では弓の英雄ファリスですが……彼女についても後述とさせてください。
さて話を畳んでいきましょう。人間性の双子を、遺体から入手するケースについて。
まずざっと並べてしまいますが、件の不死街下層の遺体含め、人間性の双子を所持している遺体は以下の 4 人(他にもあったらごめんなさい)。
あ、ちなみに拡大できますのでね、お好きにやって頂いて。
人間性の双子を持つ遺体
まあ名も無き遺体から読み取れることは限られているわけですが、強いてこれらの遺体に共通点を見出すなら、どれも地表と比べて深い場所、言い換えれば深淵に近い場所で動かなくなっている……それくらいでしょうか。
人間性には独特の「重さ」が存在します。だからスタミナ削りにも使えますし、それは後世、「人の澱み」として深みへと沈んでいく要因となる(『DARK SOULS 3』より)。なので分かりやすく深淵に触れる場所であるウーラシール市街と深淵の穴には「双子」が落ちており、その他の入手場所である「病み村(大樹のうつろ前の宝箱)」、「混沌の廃都イザリス」も位置としては深い場所にある。後はパッチも元々地下の遺体から「双子」を仕入れていたであろうことを考えると、ここにも「深さ」が見出せます。アノール・ロンドや書庫などの高層エリアに「双子」が配置されていない点からもそれっぽいですが、まあ「入手場所」という観点ではこれくらい。
というわけでね、「人間性の双子を持っていた」という一点から読み取れるのはこの程度なんですよ。なんとなく深淵が近いんだなーとか、双子を持っているということは結びつきの強い、血を分けた兄妹だの、因縁の相手でもいたのか、もしくは生前は人間性を沢山持っているような人物だったのかな、程度の想像をしておけば十分だと思うんです。
不死街下層の遺体についてもその程度の認識だったんですよね。しかし知ったつもりでいること程、案外見落としってのはあるもんです。
くどいようですが、明度を上げた上で重要箇所を枠線で囲ってみたので、もう一度ご覧ください。
人間性の双子を持つ遺体
おわかりいただけたでしょうか。いやまあ勿体つけてみましたが、そう大したことじゃございません。
『DARK SOULS』は干からびた亡者のような遺体一つにも、実は性別が設定されています。そう、不死街下層の遺体のみ胸当てを付けている……つまり女性なんです。
……なるほど? 少し話が変わってきました。
「火防女の魂」というアイテムがあります。
- 火防女の魂
- いつかどこかにいた火防女の魂
- 火防女とは篝火の化身であり 捧げられた人間性の憑代である
- その魂は、無数の人間性に食い荒らされ 不死の宝、エスト瓶の力を高めるという
- アイテムとして使用することもできるが その場合エスト瓶は強化されず 人間性を得、HPを回復し、火防女の魂は失われる
基本的にはエスト強化に充てられる火防女の魂ですが、これをアイテムとして使用することで HP を快復し、人間性を 5 つ得ることができます。言ってしまえば「人間性の双子」の上位互換なんですよね。
未だ謎多き火防女は、名の通り女性にのみ至れる境地であり、故にその魂もまた女性だけが持つ特質なのでしょう。
不死街下層で、人間性の双子を浮かび上がらせた遺体。彼女の周囲に松明を掲げた亡者がたむろしていたのはなぜか。
結論を言います。不死街下層で、人間性の双子を抱いて眠る彼女は、「火防女のなりそこない」だったのではないでしょうか。周囲で火を掲げる亡者たちは、彼らにとっての火防女信仰のようなものを、その対象が動かなくなって尚も一途に遂げようとしていたのではないか。
なぜ不死街下層の遺体は人間性の双子を抱いていたのか。「複数の人間性を宿す」という視点から、人間性の双子を火防女の魂の下位互換として見るなら、或いは不死街下層の彼女は、火防女に至る道半ば、斃れたのでしょうか。無数の人間性に食い荒らされているという火防女の魂とは、人間性の双子のように、複数の人間性が「混成」していき、やがて至る、そういうことなのでしょうか。もしくは、火防女と不死の英雄の伝承を耳にした自我無き亡者たちの真似事に過ぎなかった、そんな見方もあるでしょう。
それでも「双子」を抱く遺体は確かに女性であり、周囲の亡者は一心に火を掲げ続けている。そこには、下層には下層なりの信仰めいたものが、そして救いのように見えるものがあった、そんな物語が読み取れるんじゃないでしょうか。
ところで時は流れ『DARK SOULS 3』において、火防女になれなかった聖女、カリムのイリーナが登場します。彼女は不死街に幽閉されていたわけですが、見方によっては不死街の下層にいたんですよね。
イリーナの佇まいが『DARK SOULS』の火防女アナスタシアとほぼ線対称になっていて、この両者はお互いの在り方を補完するような立ち位置にあったのかなと考えていますが、もしかすると不死街下層の「彼女」もまた補完の対象であったのかもしれません。
火防女 / 火防女じゃない / 火防女じゃない
関連記事 : なりそこないのイリーナ
宝箱に入っていたりパッチが店で売ったりと、多くの入手経路や背景を持つ、人間性の双子。不死街下層を除く遺体が持っていたそれらは、或いは本当に「持っていた」だけかもしれません。しかしこと女性が持っているのであれば、それは「火防女の魂のなりそこない」であるという可能性が見出せます。他の解釈を潰したくないので、あくまで可能性として。
「双子」を持つクラーグとプリシラは、当たり前ですが女性でした。クラーグの妹である卵姫が火防女であった辺り、火防女になる素養のようなものは何も人間ばかりに在るのではない。なら、或いは姉であるクラーグもまた、何らかの素養があったのでしょうか。
これはまたも一つの没ネタからの推測になりますが、半竜プリシラは開発時にはヒロインとして祭祀場に立つ予定だったそうです(『DARK SOULS DESIGN WORKS』より)。つまり当初の予定では火防女であったのでしょうか。結果としてそうは「なれなかった」プリシラが「双子」を落としたのは、その残滓のようなものだったのかもしれません。
そして弓の英雄ファリス。知る人は知っているでしょうが、実は女性のようです。女性が「双子」を宿していたからと言って全員が全員火防女のなりそこない、などと言う気もないですが、「鷹の目」ゴーと並び称され、そして後に狩りの神エブラナとして祀られるほどの威容は、もしかすると聖女に似た信仰を集め、ファリスの中の特別な素養を刺激したとも考えられます。
あの世界には火防女という存在がいて、故に火防女になれなかった女性と、彼女達に纏わる多くの物語があったはず。その残骸の一つ。不死街の下層にて。野盗、野犬、デーモンと、多くの脅威が跋扈する土地で、それでも亡者たちは、彼らなりの信仰を、「彼らなりの火防女」を抱いていたのでしょうか。
不死街下層、人間性の双子を抱く、名も知らぬ女性の遺体。恐らくきっと、不死サーの姫でした。
不死サーの姫
とまあそんなわけで、何気なく頂いた御相談から、あらかた考察し終えたと思い込んでいた場所を洗い直してみたところ、これだけ面白い要素が抽出できました。 2024 年 2 月 22日に配信された『ELDEN RING』DLC のトレーラーと同タイミングでフロム・ソフトウェア社長の宮崎英高氏が「まだ発見されてない秘密がある」という旨の発言をし、界隈をざわつかせていますが、 10 年以上前の『DARK SOULS』とてまだこんなに味がするんです。そりゃ最新作なんて食べ残しだらけですわな!
そんなわけで以上、『DARK SOULS』の記事でした。まだまだ書くことは、尽きない。