ACID BAKERY

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うごめけ! オドン(前編)

『ブラッドボーン』の記事も四本目です。色々言ってきましたが「上位者とはなんぞや」についてはそこそこ固まってきた感あるので、ちょっとここで整理してみます。

まず上位者には特別な「虫」が宿っていて、そこから刺激を受けることで彼らは神秘のパワーを発揮していたということが分かりました。ただしこの「虫」は人間にとりつくものではありません。つまりこの「虫」の宿主たる資格こそ、皆が求めた「瞳」だったのです。

瞳を得るにはどうすべきか。実験棟での探求は失敗に終わったものの、「脳液」という一応の成果は得ていました。そして脳液とは、恐らく上位者の血が高啓蒙の女性患者と結びついた結果生成されたものです。つまり「神秘の智慧」と「上位者の血」が揃ったとき上位者は生まれるのですが、残念ながら上位者の血が人間に適応することはありません。上位者の血の秘密は、そこに宿る「虫」だからです。つまり人間が人間である時点で、瞳の獲得からは縁遠いことになります。血の医療とは、人間の限界への挑戦でした。

それでも瞳を得るにはどうすべきか。「3 本目のへその緒」です。特別な血を持つ人間と上位者の間に子が成された時、そこには同時に「人間にも宿る上位者の『虫』」が生み出されます。それがへその緒、別名「瞳のひも」であり、これを宿した人間は脳に瞳を得ることになります。へその緒によって刺激された啓蒙が瞳へと変質したのでしょう。

瞳とは何だったのか。上位者たちが軒並み軟体生物であることから、恐らくは「軟体」であること、特に啓蒙が軟体質へと変態したものが「虫」にとって最高の環境、「瞳」なのです。そしてへその緒によって脳内の啓蒙を軟体化させた狩人は、月の魔物から継承した血の遺志、即ちそこに宿る「虫」と結びつくことで、新たなる上位者となりました。

「奇妙な寄生生物を体内へと宿らせる、叡智ある軟体生物」――改めてまとめれば、これが上位者の定義です。

こんなところでしょうか。今回お話したいのは、そういった上位者の中でも「特例」に位置するであろう存在、「姿なきオドン」と呼ばれる上位者についてです。

上位者の分類

その前に踏むべき段階がありました。大よその定義は上述の通りでいいと思いますが、一口に上位者と言っても幾つかのカテゴリーが存在します。特例を示すには、まず本道を示さなければなりません。

通常

「通常の上位者」っていうのも奇妙な話ですが、上述した「叡智ある軟体生物」全般がここに区分されます。

該当者
ゴース
メンシスの脳みそ
メルゴ―の乳母
禁域の森の大蛇

ちなみに「通常」という大枠に収めはしましたが、こいつらも細かく分類できます。例えばゴースは元々人間であり、赤子を受胎した結果、彼女自身が保有していた高い啓蒙が瞳へと変質したのではないか、と前回述べました。ならば血の穢れを啜ることで啓蒙を蓄えていたアンナリーゼも同様に進化する可能性がありますし、偽ヨセフカは現になりかけていました。女王ヤーナムも条件を満たしていたと思うので、恐らく時間とともに肉体が変態していったのではないかなと推測します。つまりこれらの類例は受胎という経緯で進化した「母なる」上位者として分類できる訳です。

次にメンシスの脳みそですが、これは上位者ではあるものの、よく見ると脳みそに見える部分は「使者」の死体で構成されています。乳母戦でドロップするへその緒のテキストから察するに、メルゴーという赤子に誘引される形でこの脳みそは出現したのでしょう。元々この姿だったのか、現れる際に使者の肉体で「軟体」を代用したのかは不明ですが、仮に依り代を必要とすることで存在する上位者なのだとすれば、それはそれで特殊な部類に入るのではないかと思われます。このように、こと上位者においては、人智を超え過ぎていて何が普通で異常なのかが厳密には分からないのです。なので幾らかの特殊性は置いておいて、「叡智ある軟体生物」に区分できるものは全て「通常」の大枠に放り込んでしまおうという試みであることをご理解ください。

ちなみにメルゴーの乳母ですが、こいつもまた……。まず数ある上位者の中でも、こいつが最も軟体からはかけ離れている。内部に軟体部位があるのだと考えれば筋は通るのですが、気になるのはこいつの散り様です。『ブラッドボーン』においては「返り血」がゲーム上の特徴として挙げられると思うのですが、ボス戦では撃破直後に大量の血飛沫が雨のように降り注ぎます。恐らくこの時に狩人は血の遺志を得ているのだと考えているのですが、乳母に限っては血液ではなく「羽」が舞い散るんですよね。特別扱いというのは、理由があるからそうされている訳です。なのでこいつこそ例外である可能性もありますが、また話が無駄に膨らんでしまうので、とりあえずここに押し込ませてください。

後は禁域の森の大蛇についてですが、こいつに関しては前回の記事を参照してください。人由来の「虫」から上位者へと駆け上がった例外、と言いたいところなのですが、「軟体生物が獣を喰らい続ける」ことで上位者になれるのなら、結構そこらへんでポンポコ生まれてる気がしてきますよね。手法に再現性があるという意味では、もしかしたらこいつみたいに軟体動物が上位者になったパターンが一番ありふれていたりするのかもしれません。なーんだ、上位者って簡単だな。

眷属

眷属とは何か。劇中では説明されていないのですが、言葉通りに捉えるのなら、親類や従僕といった扱いになります。そしてロマは眷属であり、またミコラーシュ曰く「ゴースが瞳を与えた」のだそうです。これらの事柄から推察するに、恐らく「上位者から血を継ぐこと」が「眷属」と呼ばれる一つの条件なのでしょう。しかし上位者の寄生虫は人に宿らないはずです。それが身に沁みていたからこそ、ミコラーシュは「どういうことなんだよ! 俺も上位者になりてえよ!」と叫び続けていた訳です。

該当者
白痴の蜘蛛、ロマ
星界からの使者
星の娘、エーブリエタース

「失敗作たち」は上位者ではないので除外しました。彼ら「なりそこないの赤子」は軟体のようにも見えますが、「頭(智慧)」がないので上位者とは呼べないのです。このように上位者には至れなかったであろう眷属もいますが、彼らは上位者の血に適応しながら「瞳」を獲得できなかった、或いは量か質だかが不足していた者たちなのでしょう。ちなみに実験棟で脳液を得たのは女性に限られるといいましたが、それは彼女たちが持つ「子宮」が瞳の代用品となり得たからだと考えられます。つまり女性であるほど上位者に近い訳です。ということは、眷属と言えど上位者に到達できた者たちには、それらの条件が備わっていたのでしょう。ただし実験棟を顧みるに、性別や啓蒙だけではまだ足りないようでした。なぜなら彼女たちには「特別な血」が欠けていたからです。逆を言うなら、劇中で登場した眷属上位者たちは皆が人工的でない特別な血を宿していた可能性が高い。前回の記事で示したように、医療教会がトゥメル人と繋がりを得ていたことを考えると、ロマとはトゥメル人の女性、或いは、特別な血を持たずとも、それをカバーできるほど膨大な啓蒙を蓄えた女性がゴースの血と交わった結果生まれた上位者なのかもしれません(それ故にロマは周囲から白痴と認識されていた?)。その延長として、星界からの使者やエーブリエタースからも同様の経緯が想像できます。思えば劇中の眷属上位者は、皆が自身のコピーとも呼べる小型の眷属を従えています。あれらが赤子のようなものであるというのなら、その性質は極めて女性的ではありませんか。

さて、劇中の眷属上位者は、分かりやすく軟体生物に分類できそうです。ロマが若干怪しいですが、あくまで脳に「瞳(軟らかさ)」を抱いていたか否かという話なので、そこはどうとでもなりそうです。その上で眷属とは何ぞやと考えると、必然的にそれを生み出したものたちについて考えることになります。以前触れたことではありますが、「本物の上位者は悪夢にしか存在していない」のです。前項で示した通常の上位者も、後述する赤子の上位者たちも悪夢にしかいない。なぜかと考えると、あまりに物理を外れた存在であるから、神秘の中でしか成り立たないのではないかと推測できます。メンシスが悪夢の中で儀式を行ったのも、かつて実験棟が悪夢の中に建造されたことも、そういった並外れた神秘が夢の中でしか起こり得ないからこそだと考えると納得できます。ならば眷属上位者とは、あくまで現実に存在し得る素材で構築された「ダウングレード版」なのかもしれません。最もその割に、ロマは上位者たちの働きを阻害するかのような役割を担っていましたが。現実は強し、というべきでしょうか。

眷属についてもう一つ考えられることがあります。夢の世界の住人である本物の上位者にとって現実世界が遠く手の届かない場所なのだとするなら、自らの意志を達成するための手段が必要になるのでは、という発想をしてみます。それこそ月の魔物が狩人を捕らえ続ける理由であり、眷属と呼ばれる者たちの殆どが現実世界に存在している理由なのかもしれません。つまり眷属とは、それを生み出した上位者の端末となるべく在るのではないでしょうか。エーブリエタースやロマなど、上位者に至った眷属がどうかまでは分かりませんが、ビルゲンワースの有様を見るにその説が濃厚であるかのように思えます。

ビルゲンワースには多くのクリーチャーが集っており、なんとその全てが眷属です。学院の湖にはロマが隠されており、あの蜘蛛を倒すことで月は赤く染まり、獣の病は一層勢いを増します。あの晩、ロマは儀式を覆い隠し、上位者の影響力を阻害していたのです。あらゆる上位者にとってそれが迷惑極まりないものだと考えると、ビルゲンワースに集った眷属たちとは、悪夢の中に住まう上位者たちが「ちょっとロマなんとかしてきてくんない」と派遣した下僕たちだった訳です。現に赤い月が出た後、オドンはせっせと子作りを始めます。

いつの間にか上位者の話題というより眷属全般の話になってしまいましたが、要するに眷属というものがいれば、それを生み出した上位者もいるのだという話です。ロマを生んだのはゴースだそうですが、ではエーブリエタースや星界からの使者を生んだ上位者は誰なのでしょう。わかるはずもない、と思っていましたが、実は特定に至るヒントを発見しました。もったいつけるようですが、これは後述。

悪夢

悪夢の上位者。上位者とは悪夢の中にしかいない、という話をしたばかりなので混乱を招くと思いますが、明確な定義として、倒した後に「HUNTED NIGHTMARE」と表記される個体を指します。つまりは赤子の上位者のことです。

該当者
メルゴー
青ざめた血
ゴースの遺子
主人公

青ざめた血とは狩人の夢を支配する「月の魔物」のことですが、そのことに関して整理したい情報があるので、以下の引用文をご覧ください。

それは悪夢に住まう上位者の声を表音したもので 「月」の意味が与えられ、更なる血の遺志をもたらす
悪夢の上位者とは、いわば感応する精神であり 故に呼ぶ者の声に応えることも多い

このカレルは三段階ともにメンシス学派由来の場所で手に入ります。「メンシス」が月を意味する言葉なので、当然と言えば当然なのかもしれませんが、そこをもう一歩踏み込んでみましょう。「悪夢の上位者」が「赤子の上位者」とイコールなのだとして、なぜそれが「月」のカレルに繋がるのか。以下再び引用。

ローレンスたちの月の魔物。「青ざめた血」

メンシスがメルゴーという上位者を所有していたように、ローレンスたちもまた「青ざめた血」という上位者を所有していた、という意味に取れる訳ですが、つまり「月の魔物」とは狩人の夢を支配するあの個体のみを指す名称ではなく、「悪夢(赤子)の上位者」自体を示す別称なのです。ちなみに「NIGHTMARE」とは言うまでもなく「悪夢」を意味する言葉ですが、それとは別に「悪夢を司る夢魔の一種」という意味もあるそうです。これを頭に入れることで「HUNTED NIGHTMARE」とは「悪夢を狩った」という、ちょっとふわふわした意味ではなく、「夢魔を狩った」という明確さを帯びます。つまりメンシス(月)学派とは医療協会の中において、悪夢を生み出す上位者「月の魔物」を探求するグループだったんですね。そしてミコラーシュが冠する「悪夢の主」とは、「悪夢世界の主」という意味ではなく、それを生み出した「月の魔物の主」という意味だったのです。

劇中に登場する月の魔物たちは、どうやら総じて人と上位者の混血児です。彼らがたまたまそうなのか、夢魔の上位者とは人と上位者が交わらなければ生まれないのか、そこはまた想像が膨らむところです。……考えるっていうのは謎を増やす作業のことでしたっけ。

ああ、忘れてましたが、主人公である狩人もここに分類できます。「幼年期の始まり」エンドを迎えた際に取得できるトロフィーは「自ら上位者たる赤子となった証」だそうなので、赤子になったということなのでしょう。これは狩人が青ざめた血から遺志を継承し、新たな月の魔物となって狩人の夢を運営していくのだと以前述べましたが、それがそのまま、他の月の魔物たちと同様の存在になったとは思えません。トロフィーには「人の進化は、次の幼年期に入ったのだ」とも記載されているので、或いは月の魔物三体分のへその緒を取り込んだことで、狩人はよりおぞましい存在に至ったのかもしれませんね。

例外

これまで 3 タイプの上位者をご紹介させて頂きましたが、これから紹介するのは上記に該当しない者たちです。しかし既に述べたように、考えようによっては上述した上位者の中にも例外として扱える者たちがいます。なのでこの度「例外」として分類した上位者は、「上位者とは悪夢にしか存在できない」「現実に存在する上位者は眷属である」という定義を踏み越える者たちになります。

該当者
アメンドーズ
オドン

アメンドーズ、てめえだよ。悪夢にも現実にもいやがって。こいつが眷属なら話は簡単なんですが、「眷属狩り」特攻を持たない辺り、どうやら違うんですね。しかし気になる言質が一つ存在します。本編末期でパッチがアメンドーズのことを尋ねられ、こう口にします。

「あれは憐れな落とし子。…ゆえに、救いもあったろう」

さー、どういう意味でしょうね。分からないなりに考えてみると、もしかすればアメンドーズとは赤子の上位者……のなりそこないなのかもしれません。前回の記事で申し上げたことですが、月の魔物の誕生条件とは 2 つあるのではないかと考えられます。一つは上位者と特別な血を持つ人間が交わること。そしてもう一つは「死ぬこと」なのではないかと。アリアンナの赤子が殺されることで「へその緒」をドロップし、対して捨てられた古工房に赤子の姿はなく、「へその緒」だけが落ちていた。あれはかつて工房で赤子が生まれ、その後何者かに殺害されたという形跡なのでしょう。

ただそうなるとメルゴーが気になります。あの赤ん坊は気になることばかりだ。聖杯ダンジョンが本編の過去を写しているという説が正しいのだとすると、女王はローレンスたちとまみえた時には妊娠していたことになります。いつまで腹の中に入っているつもりなのでしょうか。一方で、なぜアリアンナの赤子はすぐに生まれてきたのでしょう。マリアが赤子を孕んで産み落とすまでの期間は、ヤーナムのそれほど長くはないでしょう。もしかすれば遺子が胎内にあったゴースを基準とすると、ヤーナムもまた胎内に赤子を有することで、自身を上位者化させようとする途中だったのかもしれません。胎内に赤子を抱え、その状態である種の「成熟」を完了させることが「母なる」上位者が誕生する条件なのでしょうか。ヤーナムはメルゴーを胎内で育む途中で医療教会に捕らえられてしまったのでしょう。

母なる上位者はともかく、月の魔物の誕生条件が、生まれ、そして胎内という揺り籠で成熟していくか、或いは率直に死を与えられることなのだとすれば、もしもアリアンナから生まれた赤子を殺害しないまま放置すればどうなっていたのか。アメンドーズになっていたのではないでしょうか。この仮説が正しいのだとすると、子作り大好きオドンの教会にアメンドーズが張り付いていたこと、そして月の魔物を探求していたメンシス学派の本拠地であるヤハグルにアメンドーズが蔓延っていたのは結構深い意味がある気がします。メンシスは月の魔物を人為的に生み出そうとしており、その成れの果てこそがヤハグルの光景だったのではないでしょうか。しかしこの仮説が正しいのだとすると、アリアンナや偽ヨセフカの赤子を殺害したことで新たな月の魔物誕生に手を貸してしまったことになりますが、まあ、仕方ないよね。

アメンドーズに見られる最も大きな特徴は、他の上位者と異なり、同種の個体が複数存在するという点でしょう。恐らく彼らは純粋な上位者となり損ねた為に、「個性」を得る機会を失ったのではないでしょうか。言わば未成熟なまま完成してしまった訳です。パッチの口にした「憐れな落とし子」とは、そういう意味なのでしょう。

次にオドンです。オドンに関しては本記事のメインテーマなので後に大きくスペースを取るのですが、この上位者、実は劇中にはっきりと登場しています。「姿がない」のではありません。誰もがそれと気づけないだけだったのです。

いくつかの補足

ここまでの話で捕捉事項が幾つか出たのでまとめてやります。

狩人の悪夢の体現者

ナイトメアには「悪夢」やそれを生み出す「夢魔」という意味があると述べましたが、この夢魔というのは馬の姿に描かれることがあるようです。由来に関しては定かではないのですが、「mare(メア)」という言葉には「悪魔」という意味と、「雌馬」という意味があります。この二つは出典として区別するべきではあるのですが、要するにある種の馬は「悪夢を象徴する獣」としての意味を持つということです。

ルドウイークがなぜ馬型の獣だったのか、というお話でした。

こんな逸話を知ってる?

ちなみ上の方で引用した手記は海外版で「The nameless moon presence beckoned by Laurence and his associates. Paleblood.(ローレンスと彼の仲間によって名も無き月の魔物が招かれた。青ざめた血)」と訳されています。括弧内は直訳もいいところですが、もう、なんかゾクゾク来ますね。もう何度めかになりますが、「青ざめた血」の母親はマリアだというのが定説になっています。上位者とマリアの血が交わり、生まれた赤子は直後殺害され、結果として月の魔物「青ざめた血」へと昇華したのでしょう。

さて、「ローズマリー」というハーブがあります。この香草にまつわるこんな逸話をご存知でしょうか。かつて聖母マリアはイエスを連れてエジプトへと逃れた際、ある花の中へと姿を隠しました。それがローズマリー(マリアの薔薇)です。ローズマリーとは本来白い花でしたが、マリアたちが身を隠して以降、花弁を青く染めたのだそうです。

ヤーナムに蔓延する不浄の源とは、女王ヤーナムの血でした。それを輸血された主人公は、悪夢の上位者という「感応する精神」によって狩人の夢へと捕えられることになります。ローズマリーの逸話、「花を青く染める」というのが「青ざめた血」が持つ「血の支配権の上書き」を比喩しているのだとすれば、なかなか凄い話だと思いませんか。もちろん、他の事柄を示唆している可能性もあります。そして更に思わせぶりなことがまだ一つ残っています。「ローズマリー」をラテン語訳すると、「ロスマリヌス」になるんです。

ロスマリヌス
医療教会の上層、「聖歌隊」が用いる特殊銃器
血の混じった水銀弾を特殊な触媒とし、神秘の霧を放射し続ける
歌声と共にある神秘の霧は、すなわち星の恩寵である
「美しい娘よ、泣いているのだろうか?」

前々回の記事で、実験棟の建造時「聖歌隊」は存在しなかったと述べました。そして実験棟にはロスマリヌスを使用する車いすの敵がいる訳ですが、実験棟の成果が後年「聖歌隊」によって引き継がれたと考えると、あの時点で開発されていたロスマリヌスもまた「聖歌隊」の持ち物になったのではないかという推察が成り立ちます。正直ロスマリヌスの説明文に関してはちんぷんかんぷんなことが多いのですが、「美しい娘」とは誰のことなのでしょうか。「聖歌隊」と結びつきが強く、かつ嘆きの祭壇で肩(?)を震わせているエーブリエタースを指していると考えるのが当然です。しかし、あくまで可能性の話ではあるのですが、ここで示された「娘」とは、時計塔で血を流し続けていた彼女のことだったのかもしれません。

二人の乳母

メルゴーの乳母について一つだけ思い当たったことがあります。彼女は叩いた時に黒いエフェクトが散るのですが、カインハーストに出現する悪霊を叩いた時も同じようなエフェクトが発生するんです。推測するにメルゴーの乳母とは他の上位者と比較して霊的な存在なのかもしれません。まあ、その「霊的」というのがちょっとよくわからないのですが、乳母だけが肉体を感じさせず、また死に際に鮮血ではなく羽毛を降らせる辺り、彼女はやはり肉体を持たないのか、或いはメンシスの脳みそがそうであるように、別の何かで肉体を代用しているのかもしれません。

ところで「乳母」とは、本物の母親の代わりに子供に乳をあげる女性を言います。乳母戦のフィールドに散らばっていた白骨は、乳母がメルゴーへと飲ませていた「乳」の残骸なのでしょう。赤子に栄養を与える。これが「乳母」の役割なのだとして、我々はもう一人その役割を担った女性と出会っています。運ばれてきた血の遺志をその者の力とし、そうして肥え太った運び手は、最終的に蓄えた全てを月の魔物へと捧げることになります。そう、我々が良く知る「人形」とは「青ざめた血の乳母」だったのではないでしょうか。

ゴースが赤子を身ごもったことで上位者となったのなら、或いはマリアもまた受胎によって上位者となっていた可能性は十分考えられます。条件は不明ですが、同じような経路を辿り、しかしまた別の結果になったものが「霊的な上位者」に至るのかもしれません。それがメンシスの悪夢の乳母であり、一方で自らを宿す依り代を得たものが、狩人の夢の乳母「人形」だった、なんていうのはどうでしょう。

医療教会の神(追記 : 2017.10.06)

医療教会は名の通り宗教ですが、一体何の神様を崇めてるのかという話はしてませんでした。ヤーナムは地下墓地で女王ヤーナムと出会い、彼女の名を持つ聖堂を建て、そして同名の街が出来ました。と、いうことはヤーナム(聖体)を神様として崇めてるのではという話になるかもしれませんが、たぶん違いますね。医療教会は、恐らく特定の神を持ちません。しいて言うなら「上位者」という神を崇めているのであり、かつて神と通じた女王を交信の材料としているに過ぎないのだと考えられます。体だけが目的だったのね……!

メンシス学派は悪夢の中で動物同士の首を挿げ替える実験を行っていました。結果、悪夢の中にしかいない生き物と人間の首を挿げ替える領域にまで踏み込んでいました。その成功例がパッチ・ザ・スパイダーです。このことから、彼がメンシス学派に属していた、というのは言い過ぎかもしれませんが、しかし以下の台詞は医療教会「らしい」と言えるかもしれません。

「私は神を失った。新しいそれを、探さなければならない」

聖職者嫌いとして描かれていたパッチが聖職者だったかもしれないとは何とも複雑ですが、しかし医療教会の有様を見るに、聖職者の名を騙るマッド・サイエンティスト集団というほうが正確でしょう。同一人物でないにせよ、一貫して聖職者憎しの彼を一員とした時点で、それはもう医療教会という組織の在り様を示す何よりの証明ではないでしょうか。

星の上位者、オドン

姿なき蠢き

本題です。ここからが面白い。オドンという上位者は、劇中でも特に異質な存在感を放っています。疑わしいのが「姿なき」という二つ名です。そもそも上位者とは現実には存在しないはずで、言わば眷属を除く全員が「見えぬ主」と言えます。しかし劇中ではオドンだけが、どうやらそう称されている。おかしな話ではないですか。つまりアメンドーズが一部の高啓蒙者に認識されているのとは、また違った形で存在している示唆と言えます。確かにいる、しかし姿はないのだと。まさしく劇中のオドンもそんな感じでした。

しかしそんなオドンと言えど上位者です。「瞳」を持ち、それを刺激する「虫」を宿しているはず。

地下墓の鍵
オドンの地下墓を閉ざす門扉の鍵
この地下墓の先、オドン教会は聖堂街の中心にあり だが、いまや人気のない廃教会である
噂では、オドンの住人は皆、まともではなくなってしまうのだと
オドン教会の手記
ビルゲンワースの蜘蛛が、あらゆる儀式を隠している
見えぬ我らの主も。ひどいことだ。頭の震えがとまらない
姿なきオドン
人ならぬ声の表音となるカレル文字の1つ 上位者オドンは、姿なき故に声のみの存在であり その象徴となる秘文字は、水銀弾の上限を高める
人であるなしに関わらず、滲む血は上質の触媒であり それこそが、姿なきオドンの本質である 故にオドンは、その自覚なき信徒は、秘してそれを求めるのだ
オドンの蠢き
人ならぬ声の表音となるカレル文字の1つ 「蠢き」とは、血の温もりに密かな滲みを見出す様であり 狩人の昏い一面、内臓攻撃により、水銀弾を回復する
人であるなしに関わらず、滲む血は上質の触媒であり それこそが、姿なきオドンの本質である 故にオドンは、その自覚なき信徒は、秘してそれを求めるのだ
3 本目のへその緒(アリアンナの赤子)
全ての上位者は赤子を失い、そして求めている
姿なき上位者オドンもまた、その例外ではなく 穢れた血が、神秘的な交わりをもたらしたのだろう

以上がテキストに存在する、オドンについての記述の全てです。なんともややこしいことを言ってますが、一生懸命解読してみましょう。カレルの難解さに拍車をかけているのは「それこそ」とか「それ」といった代名詞が並ぶからです。「それ」ってなんだよ! ですが少なくとも前者に関しては、「触媒」こそがオドンの本質と関わっているのだと読み取ることができます。だからオドン関係のカレルは水銀弾に影響を及ぼすのでしょう。ならばもしも後者、信徒に求める「それ」が同じものを指しているのだとするなら、こうなります。「オドンは自身の触媒であることを信徒に求める」と。

これで意味が通るんじゃないですか。つまりオドンという上位者は血を宿すものを自身の触媒とする力を持つ訳です。オドンの信徒が、やたらと親切に教会に人を集めたがった理由。彼は心から親切に、しかし自覚無く、オドンが赤子を手に入れるための触媒とされていたのですね。思い出して欲しいのが、上位者の力の秘密とは、あくまで「虫」であるということ。それが「瞳」を刺激することで神がかり的な力を発揮している。つまり「瞳」とは「触媒」なのです。言い換えるなら、触媒として選ばれた人間はオドンにとっての「瞳」となるのでしょう。しかし上位者の「虫」が人には簡単に宿らないはずなのに、オドンの「虫」はどうやら異なるようで、人間であろうと意のままに操ることができる。ここら辺が、オドンという上位者の異質な部分なのだと考えられます。果たして、どのような理屈なのか。

オドンに願いを

唐突にゴースの話になりますが。彼女の綴りは「Kos」、或いは「Kosm」となります。ミコラーシュの祈りをよく聞くと「コース」と発音してるのが分かります。そも上位者の名を誰が付けたかは分かりませんが、これ、もしかしてギリシャ語の「Kosmos」、転じて「宇宙(cosmos)」を由来としているのではないでしょうか。上位者の名が空から来ているというのは、とても納得できることです。宇宙は空にある。では、皆さまは「星」という意味のモンゴル語をご存知でしょうか。詳しくは調べて頂きたいのですが、「од」と書くそうです。発音は「オドゥ」、或いは「オドン」になります。

上位者の名が空の彼方に由来しているのなら、ゴースが宇宙を意味するように、オドンとは星を意味していた。これも十分考えられることです。さあ、楽しくなってきましたよ。劇中、「星」の名を与えられたキーワードは意外と多く、代表的なものがこちらでしょう。イズの大聖杯と呼ばれる地下遺跡が出てきますが、そこに出現する敵、並びに上位者は、トロフィー曰く「輝ける星の眷属たち」だそうです。星の眷属。「オドンの眷属」。エーブリエタースたちは、オドンが生み出したのです。

イズの汎聖杯
「聖歌隊」によれば、イズの地は宇宙に触れている
故に上位者たちは、かつて超越的思索を得たのだと

イズが宇宙に触れていたから、そこに住む者は上位者及び眷属となった、ということです。イズに行った人はお分かりかと思いますが、あの場所は星の光のようなものが漂っていて、「聖歌隊」はその光景を見て「宇宙に触れている」と感じたのでしょう。見たままですね。ですが見たままではありません。あれは星の輝きでも何でもない。イズには幻想的な光とは別に、やたらと群生しているものがあります。「墓所カビ」です。じゃあもう、答えは一つしかありません。漂う輝きは星などではなく、「カビの胞子」だったんです。

これが何を意味するのか。結論を言ってしまいますが、あの胞子こそが「オドン(星)」であり、オドンを構成する「虫」なのです。「虫」とは何も寄生虫のみを指すのではありません。寄生性の生物全般にまで視野を広げれば、カビもまた寄生生物となります。イズの大聖杯とは、オドン(墓所カビ)によって満たされており、そして「星(オドン)の眷属」とは、カビによって寄生された者たちの成れ果てだったのですね。上位者の寄生虫は人に容易には宿りませんでした。しかしそれが菌類という形態を取ったことで(血という経路に依らない、そしてそれ故に血(触媒)を求める?)、それが上位者由来のものであろうと、上位者以外の存在に宿り操り得る。それがオドンという上位者の秘密なのだと愚考します。

イズに登場する眷属は三種。脳喰らい、星界からの使者、そしてエーブリエタース。イズがオドンで満たされていたのなら、それを「星界」と呼称するのは言いえて妙と言う他ありません。特に最後は露骨じゃないですか。星の娘、エーブリエタース。彼女は「オドン(星)の娘」だった訳です。これらが事実だとすればもちろん衝撃的なのですが、最も注目して欲しいのは脳喰らいです。こいつ、オドンにとっては非常に便利な小間使いだったことでしょう。

脳喰らいはなぜ啓蒙を吸うのか。オドンが「虫(カビ)」のみで成立する故、「瞳(触媒)」の原材料たる啓蒙に惹かれていた、というような推測はできます。もしかしたら、同じ星の眷属であるにも関わらず、啓蒙が足りなかった故に上位者へと至れなかった、その欠損を補うべく発現した習性のようなものなのかもしれません。しかしながら脳喰らいの本質とは啓蒙を吸う行為ではなく、「媒介者」としての役割にあります。

まず脳喰らいがオドンの端末として各所に派遣されていたことは疑いようもありません。ロマを邪魔に思った上位者たちが、それぞれ己が眷属をビルゲンワースへと集結させていたように、脳喰らいもその一人でした。つまり脳喰らいがいる場所には、「いる理由」があるのです。それが最も顕著なのが、ヨセフカの診療所です。偽ヨセフカが戦闘によって殺害されることで「オドンの蠢き」をドロップすることから、彼女の中にはこの時点でオドンが蠢いていたのだと思われます。それが赤い月の出現によって活発化したのか、彼女の血と交わった蠢きは赤子へと結実します。偽ヨセフカはオドンの子を孕んだ訳です。しかしオドンがカビなのだとして、その胞子がどのタイミングで偽ヨセフカへと入り込んだのか。まあ後述する理由からその機会は幾らでもありそうなのですが、ここで注目して欲しいのは診療所の裏手にいる脳喰らいの存在です。オドンの蠢きは、こいつが運んできたのではないでしょうか。「オドンの子を孕んだ女性の近くに、オドンの眷属がいた」 これはあまりに大きなヒントです。更に言うのなら、禁域の森から診療所に抜ける道中は、死体と墓所カビだらけなんです。無関係とは思えません。

それが理解できればオドン教会という場所についても理解が進みます。なぜオドン教会に集った人々は皆異常をきたし、時に子を授けられてしまうのか。それはあの場所へと特に濃厚な「カビ(オドン)」が飛散していたからだと考えます。なぜそんなことが言えるのかというと、オドン教会を上り、聖堂上層から先にその答えがあります。エーブリエタースがいた嘆きの祭壇をご覧ください。あそこ、ロマに似た蜘蛛の死体がありましたよね。あの死体が何者かは依然として不明ですが、今問題なのは、あの蜘蛛から墓所カビが芽吹いている事実です。即ち、あの死体こそが古都ヤーナムにおける「オドン(カビ)」の出処なのです。カビの芽吹きに近いほど、恐らく姿なき上位者の影響力は強くなる。聖堂上層に脳喰らいが跋扈していたこと、そしてオドン教会がオドンの支配下となっていたのも、中継地点である蜘蛛の死体に近かったからなのでしょう。

そしてもう一つ。この考えが正しいのだとすると、嘆きの祭壇においてエーブリエタースが蜘蛛の死体を見下ろしていた理由も何となく推察できると思いませんか。彼女は、もしかすれば自らの「親」と交信を試みていたのかもしれません。彼女の内面など知る由もありませんが、彼女が言葉の通り「見捨てられた上位者」なのだとすれば、蜘蛛から芽吹いた墓所カビを通して、自らの故郷たるイズ(星界)へと帰還したがっていたのではないでしょうか。そう思うと「聖歌隊」が探していた星の徴とは何だったのか。

聖歌装束
見捨てられた上位者と共に空を見上げ、星からの徴を探す
それこそが、超越的思索に至る道筋なのだ

「星の徴」そっちじゃないから! 「聖歌隊」が「宇宙は空にある」のだという気付きを得たのは、イズを目の当たりにしたからでしょう。或いはその気づきが真実に触れていたのだとしても、当のエーブリエタースは最初から空など見上げてはおらず、「星(オドン)からの徴」を眼下の墓所カビにこそ求めていました。このスレ違い。結局のところ、人間に理解できることなど多くは無いのでしょう。だからこそ皆、瞳を探しているのです。

このように、オドンとは通常の上位者とは異なり、悪夢にも現実にも、凡そ肉体と呼べるものを所持していないのではないかと考えます。それは霊体と推察した乳母とも違う在り方です。にも関わらず、死体というどこにでもあるようなもの、その傍に芽吹くカビを媒介に目的を達成する能力を有している。言い換えるなら、「オドンとは『虫(カビ)』によってのみ構成された、肉体(瞳)を外部に依存する特異な上位者」なのです。何たる宇宙悪夢的脅威か。

オドンに限らず、上位者の目的とは恐らく赤子を得ることでしょう。そして赤子が悪夢を生み出すために存在しているのだとしたら、その先にあるものとは何なのか……こればかりはまだ手が出せませんね。

オドンの子など孕みとうない

ここまでオドンの正体に迫ることができると、芋づる式に判明する事実があります。オドンに関連するカレルが、そこにオドンの手が伸びていた示唆だと考えると色々面白い。まずオドン教会に避難してきたアデーラから「蠢き」が取得できること。これは偽ヨセフカと同じで、オドンによって蝕まれつつあったのでしょう。しかし同じ場所にいたアリアンナが赤子を孕んだのに対してアデーラがそうならなかったのは、つまりこれこそ「特別な血」と、調整を受けていたとはいえ、「凡庸な血」との違いなのです。

次に注目したいのが「姿なきオドン」です。これはオドン教会の宝箱に入っていたり、信徒がドロップします。これはこの場所がオドンの支配下にあったことからも分かりやすいですね。思うに「蠢き」が「女を孕ませてやる」という不屈の意志の発露であるのに対し、「姿なき」は宿った対象を自らの触媒とする意志なのでしょう。しかし腑に落ちないのが、ガスコインの娘もこれを所持している点です。診療所へ案内した際に彼女は星界からの使者へと変えられてしまう訳ですが、そんな彼女を殺害することでこのカレルは現れます。星界からの使者がオドンの眷属だから、と言いたいところですが、それにしては彼女以外の眷属がこれをドロップすることはない。このことについてちょっと考えてみます。

話が変わるようですが、青ざめた血の母親はマリアなのだとして、父親は誰なのか。考えるまでもないですね。オドン教会は蜘蛛から芽吹いた墓所カビに近く、それ故にかつて古工房にいたマリアは「蠢き」を宿し、子を成したのだと推察できます。カインハーストの女抱きまくってんな、こいつ。それでなんですが、前回の記事で悪夢の上位者は人の血に宿る「虫」を操ることができる、というようなことを書きました。青ざめた血もまたヤーナムの血を介して人間を捕えることができるようで、それが狩人の夢に所属する狩人であり、ガスコインもまたその一人でした。言うなればガスコインは月の魔物を介して、オドンとの繋がりを得ていた訳です。夢を見なくなった狩人は、恐らくその繋がりからも解放されるのだと思います。ですがガスコインが未だ夢を見ている最中に娘を設けたのだとすれば、オドンとの繋がりは血を介して継承されていたのかもしれません。それこそが、ガスコインの娘が「姿なきオドン」をドロップした理由なのではないでしょうか。この描写が単なる繋がりの示唆なのか、彼女もまたオドンによって何かを「秘して求められていた」のか、それは分かりません。人食い豚によって無残な結果を迎えた彼女ですが、ある意味でオドンの血を引く彼女が、オドン教会へと無事辿りつけていた場合、果たして何が起こっていたのでしょうね。

余談ですが『Bloodborne Official Artworks』に、青ざめた血とともにオドン関連のカレル、その後半部分のテキストが記載されています。これをどう見るか。もしかすれば、オドンは自らの赤子ですら「触媒」として利用していたのでしょうか。だとすれば我々狩人は、青ざめた血を通して、オドンから何を求められていたというのでしょう。

(追記 : なんか色々複雑なこと書きましたが、単純に偽ヨセフカのようにガスコインの娘も脳喰らいにカビを移された、とかでも良い気がします。ただ肝心の使者化したアリアンナに何の痕跡も無いんですよね……)

全部オドンのせい

ここまでの話が正しいとすると、少々うんざりすることまで分かってきます。カレルの話に戻りますが、「姿なきオドン」も「オドンの蠢き」も、二つともトゥメル=イルで発見されるんです。カレルが即ち上位者の痕跡なのだとすれば、トゥメル文明にもオドンの息が掛かっていたことになります。しかし何も不思議ではありません。死体あるところに墓所カビは芽吹き、カビある所はオドンの領土、そして地下遺跡とは巨大な墓地なのです。だとすれば後は簡単な連想になります。メルゴーの父親もオドンだったのではないでしょうか。青ざめた血とメルゴーは、血を分けた兄弟だった訳です。

ガスコインの娘がそうであったように、オドンの意志が血によって伝染するのだとすれば、話は一本の線になります。女王ヤーナムにはオドンの蠢きが宿っていました。胎内にオドンの血を引いた子を宿していたのなら尚更でしょう。医療教会はそれを聖血とした訳です。ならばどうなるかと言えば、ヤーナムに蔓延する聖血にはオドンのそれも混じっていたことになります。それはヤーナムという町が丸ごとオドンにとっての触媒と化していた可能性すら示唆します。なぜ女王の血が入った人間を青ざめた血は狩人の夢へと捕えることができたのか。それは悪夢の上位者が持つ力というより、そこに流れる「オドン」という共通因子に対する干渉だったのかもしれません。全てはオドンの企みなのか、或いは青ざめた血とメルゴーの兄弟対決だったのか。何にせよオドンのせいなんです。

追記 : ちなみに少し朧気ですが、アデーラの警戒心を解き、避難場所を教えずにそのまま放っておくと、獣化せずにヤハグルの隅っこで息絶えることになります。この時にも「オドンの蠢き」を落としたはず。これは聖血とオドンの繋がりの示唆であり、また血の調整を加えられた聖女は蠢きの支配下にあるという示唆なのかなと思っています。

うんざりするのはここからです。以下引用。

苗床
人ならぬ声、湿った音の囁きの表音であり 星の介添えたるあり方を啓示する

「星(オドン)の介添え」……。劇中の「星」という言葉を全て「オドン」に置き換えていく姿勢を見せるならそうなります。実験棟の患者たちは皆、ゴースの血を入れられたことで狂ってしまったのだという説を以前述べました。これが正しいとして、なぜアデラインがゴースの血によって「オドンの介添え」たる在り方を啓示されたのか。もう溜息しか出ませんが、ゴースと交わり赤子を授けた上位者がオドンだったからではないでしょうか。ゴースもまたその交わりの先に上位者となったのなら、言わばオドン(星)が赤子(月)を生み、またゴース(宇宙)を生んだ訳です。何をちょっとロマンチックな解釈をさせているのか。

オドンは自らの血(カビ)を通じて、それが混じったものを行動の触媒とすることができます。「星の介添え」とはそういう意味で、程度の差こそあれ、オドンの血が入ったものは皆、オドンの「虫」から刺激を受ける「苗床(介添え)」と化している訳です。メルゴーがヤーナム市民の気狂いを促進させるのも、青ざめた血が異邦者を夢へと捕えて離さないのも、ゴースの遺子が狩人を血に酔わせるのも、言ってみりゃこいつら三兄弟のヤンチャは、その向こう側にいる父親のせいなんです。「連盟」はカビキラーを開発すべきなのです。

まとめ

さいごに

いかがでしたでしょうか。全部オドンが悪いのです。で、今回の記事タイトルを「前編」とさせて頂いたことからもお分かりのように、まだ続きがあります。しかしこれは、いつも記事が長くなるから分割したというような意味ではなく、ちょっと現時点では語れない理由があります。材料が揃っていないというか。いつになるかは分かりませんが、この先「後編」を書く機会を得たとき、その時はオドンの起源について語りたいと思います。全ては遠く昔、一匹の蜘蛛から芽吹いたのです。

(追記 : という訳で後編です。

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