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火と楔と血の話 05

はじめに

前回の続きです。この記事は『デモンズソウル』『ダークソウル』『ブラッドボーン』の世界観には繋がりがあるという仮定に基づいた児戯幻想の類です。必然、該当作品のネタバレを扱いますのでご了承ください。

先に言っておきますと、「書き切れませんでした」。ただ「上位者とは何か」という部分に一応の結論は出したので、よければお楽しみください。

上位者に結論を(後編)

前回の内容をざっくりまとめます。

  • 人間性を基とする深みのソウル。その深みのソウルは澱んだ場所を深淵に変えてしまう性質を持ち、それは生物であっても例外ではありません。血の医療とは「血に宿った深みのソウル(深淵)」を輸血する業でした。
  • 深みのソウルは人間性の性質を引き継いでいるので、石や花や虫になったりします。それらは人間を始めとした、生物やその死骸を苗床に芽生えますが、特別に強力な形を得て生まれてくる場合には、苗床となる生物を、生まれてくるものに見合うだけの強力な苗床へと作り変える必要があるので、そうします。深みのソウル(血の遺志)が赤子の上位者として生まれてくる場合、親も上位者でなくてはならないので、逆を言えば赤子を孕めば上位者になれます。つまり上位者への進化は基本的に女性だけに許されています。
  • 女性であれば誰でもウェルカムなのではなく、一部の特別な資質を持った女性だけが進化できます。それらの女性は最近では「Fair Maidens(美しい娘たち)」などと呼ばれているようですが、大昔には特別な聖女、或いは「火防女」と呼ばれていました

全て該当する訳では無いのですが、人が上位者に進化するプロセスは、聖女が火防女に至る道筋とリンクする部分が多い、という観点から出来上がったものが前回の記事でした。

と、そんな事ばっかり言ってるサイトなので、初見の方は気を付けたほうがいいです。口に合わなさそうだなと思う方はお引き取りください……というのも寂しいので、気が向いたら読んでいって貰えるとありがたいです。

生まれてきたのは人だった。

同じ事を二度も三度も言いますが、人間性とは「精(黒い精)」としての役割を兼ね、そして火防女の魂とは「精に群がられる卵子」に似ます。要は元々火防女というのは、人間性(精)に対し苗床や母体となるような役割を求められていたみたいです。この素養を持たぬ者、或いは持ちながらも耐えられぬ者は、カリムのイリーナのように火防女になりそこなってしまうのでしょう。そして深みのソウルとは人間性を原形とし、その性質を引き継ぎます。故に人間性に対し特殊な形で感応する火防女だけが、深みのソウルすらも同様に受け容れて見せる訳です。

火防女の魂 血の穢れ

火防女の魂と血の穢れ

さて前回のラストでチラッと登場させたゴースの遺子ですが、彼は上位者から生まれたにも関わらず、人にとてもよく似ていました。遺子の出生に人間が関わっているんじゃないか、具体的にはゲールマンが何かしたんじゃないか、なんて様々な解釈が存在します。ゴースが元々人間だったのなら、そのせいではないか、なんて考え方もできるでしょう。しかしながら漁村で実際に何があったかは不明であるものの、遺子がなぜ人に似ていたのかについては一つ思い当たる節があります。シンプルに人間性(≒ 深みのソウル)が形を成したものだからではないかと。

深みの加護
深みは本来、静謐にして神聖であり 故におぞましいものたちの寝床となる
ソウルの大澱
永い間、深みに沈み溜まった 暗いソウルの大澱を放つ魔術
深みから這い出る湿り人たちには 時に大澱が憑依しているという
それはとても、人に似ている

人から零れ落ちた人間性は濃く澱んだ末、おぞましく変質し、しかしそれでも究極的には人に似た姿を取るようです。それはゴースの遺子を倒した後、ゴースの遺体から立ち上る黒い人影が顕しているように思えます。人の像を結ぶそれは、「暗いソウルの大澱」であり、突き詰めればどろりとして生あたたかい人間性の塊なんです。

人間性 ゴースの遺志?

巡り巡って人間性

そんな視点を得てしまうと、例えば湿り人から溢れ出してくる大澱なんかは深海の時代を思わせる「泳ぐ人間」のようでいて、まるで「ハイハイする赤ん坊」にも見えるんじゃないでしょうか。

大澱

それはとても、赤ちゃんに似ている。

付け加えるなら、前回獣化の原型だと言った「死体蛆」は、しかし獣のようでありつつも、同時に赤ん坊のようにも見えます。死体の胎を突き破って蛆(幼体)が這い出す有様などは考えようによっては非常にダイレクトな描写です。全て、同じものを描いていたんじゃないでしょうか。

ハイハイ 死産

「う うま うまれたぁ」

ソウルを求める人の渇望、これが獣性に通じるのだと前回述べましたが、ともするとそれは、人が持つ、より純粋で無垢な部分と言い換える事が出来ます。だからこそ人の本質、人間性を凝縮した異形は、無垢の権化として、「赤子」の名をもって生まれてくるんじゃないのかなと。

少し話は逸れますが、亡者とは誰もが萎びた外見を有していました。それは人間性やソウルが抜け出したからではなく、死を重ねた結果、それが「呪い」として蓄積したからだと過去何度か述べました。要は不死とは死なないのではなく、幾度も死ぬことが出来る存在であり、亡者の痩せさらばえた姿は、生きながらにして死する、その顕れなんです。

死者の活性(『3』)
亡者の国ロンドールでは、不死こそが人であり 死骸など、所詮相容れぬ生者たちのなれの果て
暗い偽りの指輪
非力に老いさらばえ、欺瞞に満ち己を見せぬ 故にロンドールの亡者は忌み嫌われるのだ
ロンドールの死相(キャラメイク時の顔つき)
生気のない、まるで亡者のような顔つき
ロンドールは老人と亡者の国である

このように不死こそ人の本質という見方があり、それは一面的ではあっても本質を突いた考えなんでしょう。そしてロンドールにおいて亡者と老人が並べられるのは、「生きながらにして死に近い」在り方が重ねられているからだと思われます。

ゴースの遺子は、遺体、即ち「死」を苗床として生まれました。故に「老いた赤子」と称されるその上位者は、しかし本当に老いていたのではなく、「生きながらにして死に触れる」そのルーツ故に、かつての不死、「亡者」の姿を象ったのではないでしょうか。人から零れ落ちた人の本質は、深みより巡り、終には最も人の本質を反映した姿へと辿り着いたんです。

亡者 死産

亡者 死産

それはとても、人に似ている

なんだか大きく遠回りをした挙句、最初の場所に戻った気がして楽しい見方なんじゃないかと思うんですが、以上ここまでが「原材料」の話です。赤子と呼ばれる者達の、あくまで中身の話。問題なのは赤子(月の魔物)とは何の為に存在しているのか。母たる上位者が火防女、その素質を持った娘たちの成れの果てであるなら、そんな彼女達を介して生まれてくる赤子とは何なのか、という部分を考えていきたい。

補足 : メンシスの澱

赤子が「澱」を原形とし、それを抱く事こそが上位者への道筋。その仮説を至極単純化するなら、「澱」を自身の内に形成する事と言い換えられる訳です。以前「メンシスの檻」について私見を述べました。それは内なる獣性を封じる為の、まさしく「檻」であり、そしてそれは古く大書庫で賢者たちが頭に蝋を被っていた事に通じます。獣の病が呪いなら、「檻」とは呪い除けの「牢(蝋)」でもあったのではないかという、楽しい言葉遊びのお時間でした。

しかしここまでの読み解きを踏まえた上でもう一つ言葉で遊ぶなら、「檻(おり)」とはまさしく「澱(おり)」であり、自身の頭に「澱(赤子)」を抱く為の手段として、メンシス学派はそれを構築してみせたんじゃないでしょうか。勿論ミコラーシュたちが人間性だの深みのソウルだのを知る由も無いのでしょうが、探求者の執念と意志は、知らずとも真理の断片を引き寄せたのかもしれません。

火防女(上位者)への道(前編)

赤子の上位者。女性を介する事でしか存在できない、その性質を以て「赤子」と称するのだと思っているのですが、その誕生が火防女と紐づけされているのなら、まず火防女について掘り下げる事が近道なんじゃないでしょうか。という訳で火防女の話をします。

ただ火防女について分かっていることはそう多くありません。分かっていることが幾つかあるとすれば、彼女達は「篝火の化身」なのだそうです。

火防女の魂
火防女とは篝火の化身であり 捧げられた人間性の憑代である

『1』では火防女が死亡する事で特定の篝火が消える描写がありましたが、要は両者は深いところでリンクしているみたいです。篝火に捧げた人間性が火防女の魂を食い荒らすのもその為なんでしょう。ということは、火防女の誕生と共に篝火もまた誕生するという解釈でいいのでしょうか。

そして分かっていること二つ目。総じて「盲目」であること。

アナスタシア 混沌の娘 暗月の女騎士

火防女(『1』)

ストロアン グリアントとモル

火防女(『2』)

火防女 イリーナ

火防女(『3』)

火防女のローブ
彼女たちは光を奪われ、魂を受け継ぐ
そして蝕み蠢く暗闇を愛した者ものだけが 火防女たる黒い装束を与えられるのだ

文言からして火防女たちは、火防女への道を歩み出す事で盲目となるのでしょうか。なりそこなったとはいえ、人間性に蝕まれ始めていたイリーナが、既に盲目であった事からもそう読み取れます。火防女 ≒ 上位者説に照らし合わせるなら、内に瞳を抱くものは表層的な瞳を無用とするのかもしれません。ウィレーム師を始め一部の探索者及び狩人が何らかの手段で目を塞いでいたのは、火防女の盲目と似た効能を得ようとした為とも考えられます。闇に自ずと身を浸す事は、即ち闇を理解し抗う手段なのだと。

さてここから推測が混じっていきますが、恐らく火防女に成る条件において、彼女達は聖職者でなければならないというものがあります。厳密に言えば「強い祈りを持つ」ということになりますが、『1』の火防女たちは結構露骨です。初代祭祀場の火防女、アナスタシアの装備には彼女が元々「聖女」であったことが仄めかされていますし、蜘蛛姫はイザリスの魔女、つまり「魔術師であり祈祷師だった」とされ、暗月騎士は奇跡を扱います。以降のシリーズで聖職と火防女を結び付けられる要因はカリムのイリーナに限られますが、「闇」が持つ特質を考えると、そう捨てたものでもないはず。

闇の貴石
闇の武器は闇攻撃力を持ち信仰による補正も高くなる。

何度も何度も引用してるので耳にタコが出来ているでしょうが、闇は光の如く祈りに感応します。この特性が根っこにあるから、内に闇を育む行為には信仰が不可欠なんです。

盲目であること、聖女であること。どうやらこの二つが火防女に至る重要な条件なんじゃないかと分かってきましたが、これだけではまだ足りません。それは聖女でありながら火防女になりそこなったイリーナが証明してくれています。では彼女は如何にして、なりそこないから火防女へ至ったのか……というのは前回やりました。「啓蒙」です。

聖女の指輪
カリムでは、聖女は物語の語り部である。
分厚い聖書を何冊もよく覚え、よい声で語る。
そのように、彼女たちは名高い。

イリーナに特定の聖書を渡し、かつその内容を教えて貰う(奇跡を購入する)ことで、彼女は火防女に至ります。無知なる者に智慧を授ける、これが「啓蒙」ですが、イリーナの行為とは即ち啓蒙活動に該当したのではないかというのが前回の仮説でした。

『Bloodborne』における啓蒙とは、「血」と「知」にかけたものでした。上位者の「血(知)」を広める器としての素養。だからこれを持たないであろう娼婦アリアンナは赤子を授かりつつも早産に終わり、対して同じ血筋である偽ヨセフカは啓蒙を有していた為に身籠った赤子と共に瞳の蠢きを実感するに至った訳です。だから啓蒙とは世界の理を解する確かな智慧である一方で、体内で深みのソウルを育み保持する為の「苗床としての資質」を作り上げるのだと申し上げました。ただ自分で言っておいてなんですが、分かったような分からないような説明です。なのでもう少し根源的な解釈をしてみます。

話が変わるようですが『Bloodborne』とは『クトゥルフ神話』を意識して構築された世界観だというのは今更解説するまでもないでしょう。困った事に管理人はあまり「クトゥルフ神話」の知識を持っていないという事もあり、当サイトで扱う事はほぼありませんでした。しかしあえて一つ取り上げるなら、『クトゥルフ神話 TRPG』には「啓蒙」に該当するステータスが存在します。「クトゥルフ神話技能」と呼ばれるそれは、事あるごとにプレイヤー・キャラクターに蓄積されてしまい、多ければ多いほど「発狂しやすくなる」というもの。まんま「啓蒙」ですね。これにはオマージュという以上に、もう一つ面白い側面があると思っています。

「クトゥルフ神話技能」とは文字通りクトゥルフ神話について、というより「この世ならざる物語」についての知識、その総称と言えるでしょう。そして『Bloodborne』劇中、我々が行く先々で獲得していた尋常ならざる智慧もまた、「この世ならざる物語」と言えます。

踏まえて次のテキスト。

回復(『ダークソウル』)
奇跡とは、神々の物語を学び その恩恵を祈り受ける業である

奇跡とは「物語」。故に啓蒙それ自体がある種の「奇跡」なんです。だからきっと、啓蒙を持つ者の前でのみ、動かないはずの人形が動き、或いは様々な神秘が可視化されていたのは、ある意味「奇跡」の効果・恩恵だったのでしょう。記憶スロットから外した奇跡が行使できないように、啓蒙の喪失は恩恵の喪失に繋がるんです。

そういえば「狩人呼びの鐘」は啓蒙を消費するアイテムでしたが、「鐘」ないし「鈴」とは古来、奇跡の触媒でした。

狩人呼びの鐘
地下遺跡で発見された古い大きな鐘
その音色は次元を跨ぎ、最初の狩人はこれを特別な符牒とした
別世界の狩人たちが、しかし断絶を越えて協力するために
この神秘の鐘を鳴らすため、人の身では啓蒙を消費するが 別世界の狩人の協力を求めることができる
祭司の聖鈴
神の奇跡をなす聖鈴
ロスリックの祭司たちに与えられるもの

次元を跨ぐ鐘を模したものに「聖歌の鐘」がありますが、結局 HP とステータス異常の回復効果しか付与されなかった様子。しかし元々それらは奇跡の範疇でした。神秘の鐘(鈴)の解析は、期せずして古い智慧を手繰り寄せてしまったようです。

余談ですが「次元を跨ぐ鐘の音」は、たぶんこの辺りが起源だと思ってます。

目覚ましの鐘

目覚ましの鐘

知らない方もいるかと思いますが、オンラインプレイ時、この鐘の音は他世界のプレイヤーにも聞こえます。次元を跨いでいるんです。後に地下遺跡で発見されたというそれは神代の技術の名残であり、だからこそ他世界のプレイヤーに干渉するという、ある種の奇跡を起こす触媒となったんでしょう。

この通り啓蒙とは奇跡であり、物語である。ということは、ただの聖女を火防女へ押し上げる力もまた、ある種の「奇跡」なのでしょうか。

補足 : 人間性の赤子

別記事で書いたと思うんですけど、「人間性が赤子になる」というのは過去作で地味に描写されてます。

骨の赤子

スケルトン・ベイビー

ニト前のこの子たちです。場所も場所なので赤子(水子)の死者が湧いていると目されているみたいですが、個人的には違う解釈をしていて、これらは人間性(闇)が「ニト信仰」を感受することで人の死者(骨)の姿を成した怪異だと考えています。

ちなみにこの場所もそうなんですが、『2』の「古き闇の穴」といい、やはり闇に関わる場所には水があります

深淵の穴 深淵の穴

古き闇の穴の水場

闇と信仰、水気の関わり、人の澱みや深み、深海の構想が初期からあったかは不明ですが、しかし蜘蛛姫に捧げたそれらが卵となって現れる事からも、少なくとも人間性とはやはり「精」であり、祈りを感知し、やがて人に似たものが生じるという現象自体は最初から存在していたんじゃないかと思います。

火防女(上位者)への道(後編)

火防女は聖女であり、闇は信仰に感応する。故にというべきか、闇を育む火防女には「奇跡(啓蒙)」が求められるようです。興味深いのは火防女になる上で全ての奇跡知識が有用である訳ではないということ。

「カリムの点字聖書」と「ロスリックの点字聖書」を渡し、内容を啓蒙して貰うことでイリーナは火防女と成りますが、同様の行為を「深みの点字聖書」「ロンドールの点字聖書」に頼んだ場合、彼女は闇に飲まれてしまいます。ただ光を失うばかりで内に瞳を得られなかったが故、暗闇を愛することが叶わなかったのでしょうか。

深みの点字聖書
深みの主教が加護を知るための聖書にはいまや幾編かの暗い物語が追加されている。
故にこれは禁忌である。
学べるもの : 「黒剣」「沈黙の禁則」「死者の活性」
ロンドールの点字聖書
それは亡者全ての救いであり また生者全てを呪う書である
故にこれは禁忌である。
学べるもの : 「深みの加護」「蝕み」

共通項として、どうも両書は闇に属するものであるようです。そして火防女に至る為の啓蒙は、闇を闇のままに行使する物語であってはならないのだと解釈できます。

思い返してみれば篝火とは異質な存在でした。時に人間性を、時に遺骨を、つまりは「闇」や「死」をくべることで火を大きくしている。考えようによっては、暗いソウルから火のソウルを生み出しているとも言える。だから篝火の化身たる火防女にも同様の力が求められているのではないでしょうか。ならば深海の時代の火防女、母なる上位者にも、同様の力が備わっていると考えて差し支えないでしょう。深みのソウルが、彼女達の中でのみ「月の魔物」として形を成すのは、きっとこの力があってこそなんです。ではその力とは何か、というのが要点になる。

3 本目のへその緒
使用により啓蒙を得るが、同時に、内に瞳を得るともいう
だが、実際にそれが何をもたらすものか、皆忘れてしまった

眷属に属する上位者がいます。「見捨てられた上位者」エーブリエタースを始め、彼女達には確かに「瞳」が備わっていたものの、それは完全なものではなかった。故に「赤子」を宿すには至らず、母に成れなかった彼女達は、「見捨てられた」。

これも繰り返しになってしまって申し訳ないのですが、当サイトでは「月の魔物」とは狩人の夢の個体のみを指すのではなく、赤子の上位者の総称と考えています。そして完全な「瞳(苗床)」のみが「月」を宿すに至り、そして内なる「月」は人を上位者へと導きます。

月

「月」

「月」です。母なる上位者がそうであるように、火防女の力の根源とは、ならば「月光」だったのではないか。

こんな記事を書きました。

「天使にふれたよ!」

『ダークソウル 3』に存在する妙な現象の一つに「『天使の光柱』属性問題」というものが存在します(名前は勝手につけましたが)。簡単に言えばプレイヤーが使う光柱は物理属性で、羽騎士が使う光柱は魔力属性であるというもの。同じ名前の魔法の属性がシリーズごとに変わっているだけなら「仕様」の一言でいいと思うんですが、さすがに同じタイトル内で異なるというのは、ちょっと考えてしまう。そしてこの疑問から端を発したのが上記の記事であり、結論としては「月」の力が関与していたんじゃないかというところに落ち着きました。

フロムの伝統の一つ「月光」。ソウルシリーズにおいてそれは信仰から魔力(ソウル)を生み出すシステムだと理解しています。

暗月の錫杖
理力ではなく信仰により魔術を強化する
暗月の光の剣
右手の武器を暗月の光の力で強化する
(右手武器に魔力攻撃力を与える奇跡

月光とは太陽光が月に反射したもの。祈りの輝きは「月」を介し、魔力という影を生む訳です。そして「月」から魔力を得る方法は二つ存在します。

内一つが「誓約」。単に「繋がり」と言い換えてもいいでしょう。かつてグウィンドリンとの誓約下に限りプレイヤーキャラクターが暗月の奇跡を用いたように、要は大元の「月」との繋がりを得ることで、その力を借り受ける方法です。思うに羽騎士たちの光柱は何らかの手段で「月」と繋がり、魔力属性を得ていたのではないか、という仮説でした。

そしてもう一つはシンプルに、大元たる「月の力」そのものを得ること。

暗月の錫杖
グウィン王の末子として歴とした神でありながら 月の魔術師でもあったグウィンドリンの錫杖は 理力ではなく信仰により魔術を強化する
化生の指輪
暗月の神グウィンドリンに 幼き頃与えられた神秘の指輪
男性であれば女性、女性であれば男性に 動作が別性のものに変化する
彼はその月の力から、娘として育てられ暗く儚い女神のごとく振る舞ったという

暗月の長たるグウィンドリンは「月の力」を有していました。月の魔術師たる彼の魔法の正体は、或いは全て「信仰」を元手にした奇跡だったのでしょうか。

小型弾 大型弾 ワープ

月の魔術?

ここでご紹介したいのが、巡礼の蝶と天使です。ロスリックを目指し、そしてロスリックで生まれた巡礼の蝶たち。しかしその先、吹き溜まりにおいて巡礼者は蛹に至り、空に天使を見出しました。

おや!? 巡礼者のようすが……!

新種のポケモン

元を巡礼者とするこれらのポケモン、もとい怪異は、しかし何かを境に進化(変態)を分岐させます。吹き溜まりとは本編より遥か未来のようなので、単純に時間経過なのかもしれませんが、だとして何が巡礼者の成熟を可能とさせるのでしょうか。

さて大事なのはここから。蝶の攻撃が闇属性であるのに対し、蛹が見出す天使、その攻撃は魔力属性でした。繰り返しになりますが、闇は人の肉体を苗床とし、恐ろしい怪異として産み落とされます。深みの聖堂の死体蛆たちと、グンダなどから発現した人の膿、そしてこの巡礼者の変態は、同じ理屈から成り立っているんです。では蛆も膿も蝶も蛹も、共に闇が成熟して生まれた怪異であるはずなのに、なぜ天使のみ魔力へと至ったのでしょうか。そして魔力をソウルそのもの、つまり「火から見出された力」と見るなら、進化の過程で、闇のソウルが火のソウルに変わっている事を意味します。闇をくべて篝火が育つように

よって仮説を膨らませました。月とは信仰から魔力を生むシステムであり、闇もまた信仰に感応し力を増す性質を持ちます。であれば「月」とは「闇」と結びつくことで、闇に対し向けられた祈りと、生み出された闇のソウルを吸い上げて「魔力(ソウル)」に変えてしまうのではないか。「暗月」なんて言葉がありますが、この性質を利用したものだったのかもしれません。グウィンドリン自身のそれと違い、暗月騎士の光の剣と、後のエルドリッチが放つ魔術が暗い色をしていたのは、人々が扱うそれは元々が闇のソウルであり、しかし月の力によって魔力へと変換されていた、暗い色はその証なのだと考えています。

ということで、ここまでの仮説が正しいのであれば、篝火というものが人間性の闇をくべることで火の勢いを増したことの、一つの説明になると思います。闇から火を生み出すことが篝火の機能であるなら、それは火防女が宿す「月の力」によって成り立っていた訳です。そう考えるなら、火防女たちが軒並み聖女であった事とうまく接続できると思うのですが、如何でしょう。或いは篝火や火防女が持つ「闇から火を生む力」を模したものが「月の力」だったなんて想像もできますが、堂々巡りなので止めておきましょう。

細かい部分は曖昧ですが、カリムのイリーナにそれが欠け、しかし奇跡の啓蒙によって獲得できたなら、月の力とは「学ぶこと」で芽生え、そして磨かれるのでしょう。或いはもう一つ。

限られた大回復
高位の聖職者の使う偉大な奇跡を 下々のために一般化したもの
「大回復」の物語を一部切り出しているため その使用回数はかなり少なくなっている

精霊が軟体生物の形を取るのは、それが「虫」を感染させる媒介者として優秀な形態だからだと言った覚えがあります。血の感染とは、知の啓蒙に似る。「狂人の智慧」や「上位者の叡智」のアイコンに見られるように、精霊自体が啓蒙の体現だと。案外、「限られた大回復」の記述がヒントになるかもしれません。つまり「啓蒙」が奇跡であるなら、それは大きな物語を一部切り出したものであり、その断片を集めていけば、やがて「月光」という一つの大きな物語が紡がれるという考え方もできます。故に精霊もまた、上位者という巨大な奇跡(物語)の断片と見るべきなんじゃないでしょうか。個人的にこの解釈がしっくりきますね。

とうことでようやく核心。「月」とは信仰を魔力に変えるシステムです。そして闇と結びつくことで、闇に向けられた祈りと、そこから生まれた闇のソウルですらも魔力に変えてしまう。

ビルゲンワースの学徒、筆記者カレルの残した秘文字の 1 つ
それは悪夢に住まう上位者の声を表音したもので「月」の意味が与えられ、更なる血の遺志をもたらす
悪夢の上位者とは、いわば感応する精神であり 故に呼ぶ者の声に応えることも多い

火の無き時代、火防女の素質を持ったもの(Fair Maidens)は、自身に宿るはずだった人間性が深みのソウルに置き換わったことで、母なる上位者へと変態しました。ならば彼女達を進化に導く「月の魔物」とは、火防女を火防女たらしめる「月の力」が、母体(深み)の中で闇と共に実体を得た存在ではないかとここに提言します。

それは信仰(呼ぶ者の声)に感応し、「月」の力によって「魔力(ソウル、遺志)」を生み出す。故に火防女を介する事でしか生まれ得ないその異形の名は、「月の魔物」なんです。

補足 : おいしい卵になるために

またちょっと図を作ったんで見てやってください。

ブラモン

ゲット(拝領)だぜ!

図で示すところは単純で、要は「虫」と「精霊」がセットになっていれば神秘的な力が発揮されますよと。「星輪」と名の付く植物たちにはどれも精霊が宿っている訳です。細かいところは抜きにして注目してもらいたいのは「失敗作たち」と「星界の使者」の二つ。後者を「成功作」とするなら、それぞれの「星輪」の差にお気づきでしょうか。失敗作たちのそれは大きく育ち花開いているのに対し、成功作(使者)のそれは未だ蕾。これ、「育ち切ったものは進化に行き詰まり、硬く閉じたものが更なるものを生み出す」という意味で、巡礼の蝶と蛹(天使)の関係にそっくりなんです。

「深みのソウル(≒人間性)」は「深淵」において力、或いは実体を得ます。人の淀みの根源、「虫」とは深みのソウルを基とし、「瞳」とは苗床の暗示。故に揃えば力を生みだしますが、より上質な実体を得ようというのなら、やはりより上質な「苗床(瞳)」が必要になる。要求されているのは「卵(苗床)」としての完成度なんです。だから無様に花開かず、或いは半端に羽化もせず、「蕾(蛹)」である事を真っ当した先にこそ、成功の母たる道は存在します。

天使のなりそこない 上位者のなりそこない

失敗作たち

天使 星界からの使者

成功作たち

注目して欲しいのが「蓋」です。聖職者の青衣に付属するそれは、その実真逆の意味があったのではないかという話。

聖職者の青衣
かつて、不死となった聖職者が身に付けた上衣
見間違えようもない鮮やかな青衣
青衣の旅人は使命を帯びたといわれ その不死が闇の苗床とならぬよう 背中に大きな蓋を背負っていたという

聖職者 巡礼者

聖職者の「蓋」と巡礼者の「蓋」

「闇の苗床とならぬ」為とされる蓋ですが、巡礼者が身体と蓋を鎖でガチガチに固定しているのは、むしろ「闇を漏らさないため」なんでしょう。蓋をした青衣の聖職者が輪の都でむしろやばい変化を遂げていた辺り、たぶんそういうこと。だから「闇の苗床」としての成熟を目指し、そしてより上質にそれを成し得たものだけが、母として天使に見えたんです。

ああ、そうそう。補足の補足になっちゃうんですが、前述したように人の進化には「月の力」が関係してるようです。そして「上質な卵」としての素養は、まさにこの月の力そのものか、少なくとも地続きの場所にあると考えています。たぶんそれらは、本来女性にしか宿りません

月光の長衣
棄てられたアノール・ロンドを守る 陰の太陽グウィンドリンの長衣
その月の力から、娘として育てられた彼の衣装は 極めて薄い魔力の衣であり、 物理的な防御力はまったく期待できない

ソウルシリーズの世界において性別は超重要。だから生まれ変わりの母ロザリアでさえも性別ばかりは変えられない。それをやってしまうのは、月の力、進化の根源的な素質を付与する事に他ならないからです。ちなみに実験棟で「脳液」を宿すのは、確認できる限りでは全員女性です。

脳液を宿した患者

「マリア様、私はコマドリ。ゆるゆると、私卵になるのかしら?」

そして吹き溜まりの巡礼者が月の力故に天使を見出したというのなら、それらは全て女性であったことになります(蓋っかぶりの「婆」)。ロスリックで「蝶」として羽化してしまった巡礼者は、女性であっても月の力を持たなかったか、単純に男性だったんでしょう。「人の膿」も同じ。そう言えば確か膿を溢れさせる亡者は全て男だったはず。

人の膿 英雄の膿

早産スッポンしちゃった人達

「月光」に導かれた狩人ルドウイークもまた男性でした。彼が「彼女」であったなら、話は別物になっていたかもしれません。

月光のルドウイーク

月の光に導かれ 何度も巡り会う

さてそんな訳で、硬く閉じた卵、上質な苗床こそが歓迎されるという理屈はここにも効いています。娼婦アリアンナは「早産」でした。開いてしまった花であり、羽化してしまった蝶でした。上位者を宿しながらも、その「苗床(卵)」である事を真っ当できず、早々に出産してしまった結果、彼女自身の進化には繋がらなかった。対して偽ヨセフカは、蕾のように、蛹のように、最期まで硬く「閉じて」いました。そして内に瞳が蠢くのを自覚していた。彼女は母に、上位者に、深海の時代の火防女に成りかけていたんです。

娼婦アリアンナ 偽ヨセフカ

咲いた花、閉じた蕾

まあ、そうなる前に殺っちまったんですけど。

補足 : 「死」という肥料

時計塔前「星輪樹の庭」には死体が埋められています。聖堂上層「星輪草の庭」のレリーフから察するにここにも死体が埋められているんじゃないかと読んでいる訳ですが……。

星輪樹の庭 星輪草の庭

死を養分に

不死とは死なないのではなく、幾度も死ぬことができる存在だと申し上げました。

王者の遺骨
不死の価値は、死の積み重ねにこそある
祭祀場の侍女

「死を糧に、それが我らの呪いですじゃろう?」

不死にとって死は糧、つまりは養分です。だからこそ長い時を生きた不死はそれだけに死に続けており、呪い(養分)は内なる怪物を凶悪に育てます。そうして生まれてきたのが人の膿や蝶たちな訳ですが、きっと星輪と共に生じた失敗作たちや使者は、「死を養分とする」、その理屈を流用する形で現出したんです。ミコラーシュの「檻(澱)」と同じ、古い時代の仕組みを、人々は闇雲ながらも探り当ててしまったんでしょう。

ちなみに過去記事でも言いましたが、「使者」とは悪夢の世界に溜まった「死」が顕れたものと考えています。故に「使者」とは「死者」だと思うんですが、死を養分として生じた星輪の異形たちもまた、「星界の使者(死者)」だったのかもしれません。だから聖堂街を徘徊する「教会の使い」は、「使い」でありながら「使者」とは表記されないんでしょう。彼らは「死者」ではない故に。

教会の使い 星界の使者

「教会(きょうかい)の使い」と「星界(せいかい)の使者」

雷光

本筋に戻ります。火防女が宿すものは、祈りから魔力を生む「月の力」。それが実体を得ることで「月の魔物」と成りました。では、だとして、そんなものが何のために存在するのか。かつて火防女の一部であったものが実体と意志を持った、それが何だというのか。『Bloodborne』とは、本当は、どんな話だったのでしょうか。

こんな記事を書きました。

「罪の火は火に非ず」

罪の火についての記事です。たった一言で纏めるなら、罪の火は「火属性の闇」でした。

アンドレイ(罪の種火を渡した際の反応)

「…あんた、この種火は…暗すぎる。むしろ深淵に近いものだぜ」

『1』 OP より

だが、やがて火は消え、暗闇だけが残る

細かい話を抜きにすれば、火のソウルが消えた後も闇だけが残り、そして闇はその形を火に変えるようです。罪の火の正体とは、つまりそれではないかと。

そしてもう一つ。

王たちの化身 奴隷騎士ゲール

ライトニング / ボルト

ソウルシリーズにおける「雷」とは、グウィンが「はじまりの火」より見出した太陽の力でした。故にそれは純然たる光の輝きを放ちます。対し輪の都の最奥で対峙したゲール爺が招来した雷は青白い。そして我々はこの雷光を知っています。

黒獣パール 小さなトニトルス

青白い雷光

加えて知っておいて頂きたい事実として、『DARKSOULS』の雷は「Lightning」であるのに対し、『Bloodborne』の雷は「BOLT」と表記されているんです。意味は単純だと思います。後世の雷は、「光(light)」ではないんです。ゲール爺が扱うそれもまた、雷でありながら、内なる「暗い魂」が反映した「雷属性の闇」だったのでしょう。

闇は祈りに感応します。だから炎がそうであったように、雷もまた同じなんじゃないでしょうか。誰かの意志や遺志のままに闇は形を変え、虫や木や岩になる一方で、炎や雷としても振る舞うんです。では魔力属性はどうでしょうか。思うに「神秘属性」と呼ばれるものがここに該当します。

追尾するソウルの塊 星海ビーム 追尾するソウルの塊 星海ビーム

追尾するソウルの塊

追尾するソウルの塊
追尾性の高いソウルの塊を浮かべ、放つ
探求者たるローガンの一端が見える魔術だが 生命に惹かれるその性質において 後の研究では、むしろ闇に近いとされている

闇が炎雷へと変わるのなら、魔力の形をとる事もあり得るんじゃないかと思います。『3』になってから、魔力の業である「追尾するソウルの塊」に「闇に近い」という注釈をつけたのは、この可能性を示唆する為だったというのは邪推でしょうか。

かねてより予言されていた通り、今や「火は消え、暗闇だけが残る」。深海の時代とは、闇が「火」の代わりを務める世界なのでした。だから後に「神秘」と称される属性の正体は、「魔力属性の闇」なんです。そしてこれが肝と言っていい。火の時代、魔力とはソウルそのもの、少なくともその一端を指す呼称でした。故に純粋な火の力であるそれは当然、火の消失と共に失われています。だから姿形の似た魔法を取り上げても、その本質は哀しい事に、どう足掻いても「闇」なんです。

鎮静剤
神秘の研究者にとって、気の狂いはありふれた症状であり

補足すると、馴染み深かったはずの「神秘(ソウル)」に触れ後世の人々が気を狂わせるのは、その正体が暗いソウルであったからというのが真相だと思ってます。ウーラシールや深みの信徒たち、そしてゲール爺が「より深い闇」に飲まれて狂ったように、火の無き時代の神秘は、ただそれだけで人間性を蝕みます。人の淀みの根源は「闇」なんです。

かくして闇は火に成り代わり、覇権を握ったのでした。ハッピー・エンド。

……しかし本当にそれで良いのでしょうか。あくまで真のソウルを、「火」を求めることこそが人の本質であり、闇の本意であったはず。だから、それこそが火の無き時代における、月の魔物の役割なんじゃないでしょうか。

ご覧ください。赤子の上位者、ゴースの遺子が招来した雷光を。その月の力を。

深海のライトニング

光ん力だアアアアああ!!

これです。これが「月の力」です。その雷の色に明確な意図があるなら、遺子の呼んだそれは、確かに「太陽」の輝きを宿していました。赤子の上位者はその月の力を以て、闇(Bolt)から火(Lightning)を生んだんです。

さて、属性などというものは、所詮表層の概念であり、形だけなら幾らでも真似られることが分かってきました。しかし本質は違う。巧く化けても闇は闇。ただ「月の力」だけが、闇を燃料に火を熾すんです。

補足 : 漁村の呪い

既に書いたことなので端折ってしまってましたが、ゴースの遺子自体は月の魔物ではないです、たぶん。討伐後に「HUNTED NIGHTMARE(夢魔を狩った)」と表示される敵が魔物である、という基準からすると、ゴースの遺子戦後にそれは表示されません。表示されるのは、その後にゴースから立ちぼる影を祓った後です。

……比較しようと思って撮るつもりだったスクショを撮り忘れたので、動画等で確認してみてください。メルゴーの乳母戦後も、乳母そのものではなく、赤子の鳴き声の後に「HUNTED NIGHTMARE」が表示されたりと、赤子に関する匂わせは半端じゃなくて楽しい。

YOU HUNTED HUNTED NIGHTMARE

YOU HUNTED / HUNTED NIGHTMARE

更には赤子が遺すという「へその緒」を遺子は遺さない(代わりに「ゴースの寄生虫」)あたり、あれは正しく「遺子」であり、本当は存在しないものが悪夢故に再現されたものなんでしょう。前述した「悪夢には死が溜まる」という仮説と繋がるかもしれません。遺子は「使者(死者)」でもあったのでしょうか。

そんな訳で、遺子が招来する、太陽の輝きを宿した雷光。そしてゴースの遺体に落ち周囲へ拡散するそれは、しかし明るい輝きを保てず、すぐに青白く変色してしまいます

火から闇へ 闇の雷

火は再び闇へ

恐らくゴース目掛けて落ちたそれは、遺体と接触した瞬間に火(Lightning)から闇(Bolt)へ変わっている。仮初とは言え「月」と切り離された母の遺体は、今やその力も失っているのでしょうか。そして「虫」と「星輪(精霊)」が一か所に揃わなければ力を発揮できなかったように、「赤子」と「母」もまた同様の関係にあるのだとすれば、赤子は母なくして雷光を呼べない理屈です。しかし当の母は既に死亡しており、何だったら子も既に死んでおり、そしてその事実と「火から闇への再変換」が無関係でないのだとすれば、赤子は永遠にその月の力を十全には発揮できないことになります。

それが呪いの源となっているのであれば、呪うほどに赤子が果たしたかったこととは何なのでしょうか。

補足 : Y → L

ずっとしたくて仕方が無かった小話があります。

遥かな昔、信仰の対象とはもっぱら「太陽」でした。それが全てでは無かったにしろ、最大手であったことは確かだと思います。ジェスチャー「太陽賛美」の由来は「ソラールがやってた」以外によく分かっていませんが、だからこそ敬虔な祈りが込められていたのは確かだと思っています。

一方、過去にも書きましたが、『Bloodborne』のジェスチャー「交信(こうしん)」は「信仰(しんこう)」とかけた、お子様でも受け取りやすい言葉遊びかなと思っているのですが、それは「月」のカレル文字をくれたメンシスの脳みそが、(文字通り)腐っても赤子の一種であった証になるかもしれません。赤子、つまり月の魔物は呼ぶ者の声(信仰)に応えた訳です。

交信

悪夢の上位者とは、いわば感応する精神であり 故に呼ぶ者の声に応えることも多い

そうした上で実はこの「交信」が「太陽賛美」の変形であることにお気づきでしょうか。

太陽賛美 交信

月光あれ

今や火は陰り、信仰を聞き届けるものは「太陽」ではなく「月」に成り代わりました。そして元より月光とは太陽の光の成れの果て。時代の実情を伝えるような、結構核心的な描写なんじゃないかと思っています。

ただもう一つおまけに言っておくと、脳みそや人形ちゃんが「交信」のジェスチャーに反応するのは、「交信」の手の向きが入れ替わる(「太陽賛美」の形になる)タイミングだったりします。実は「交信」の形は間違っていて、変わらず「太陽賛美」こそが正しい、真に力を持つ祈りの形だったりするんでしょうか。聖堂上層で「交信」のまま干からびていたと思わしき遺体(?)がありますが、誤った祈りでは終ぞ届かなかったのかもしれません。そしてそれを死ぬまで続けた。メンシスの「澱」といい、医療教会とはつくづく、おしいところまでは行く奴らですね。

間違った例? これが正しい交信?

やはり、太陽あれ

篝火の化身

という事で粗方材料が揃ったので、ここで一旦まとめます。上位者とは、そして『Bloodborne』とは、本当は何だったのか。

母なる上位者、深海の時代の火防女。火の無き時代、月の力を以て火防の任についた彼女達は、それ自体が大いなる「瞳(苗床)」であり、その中でしか育たぬ赤子は、それ故に月の力そのものと言える存在へと成長を遂げます。ではそのようにして生まれた「月の魔物」の存在理由とは何か。

篝火

BONFIRE LIT

「篝火」です。そのものではなく、「闇から火を熾す仕組みが形を成したもの」と言い換えてもいい。遥か昔、火防女と共に篝火もまた生まれたのなら、それは今や母なる上位者と赤子に置き換えられたんです。思い返せば、別にこのゲームに限った話ではないものの、篝火に関する記述には「育てる」という表現がなされていました。母なる上位者にとっての月の魔物のように、篝火とは火防女にとっての「子」でもあったのでしょうか。

注ぎ火の秘儀
注ぎ火にて、さらに大きく篝火を育て より多くのエストを得るための秘儀

そこで考えなければならないことは、篝火とは、火防女とはそもそも何のために存在していたのか、ということ。不死の旅路を火継ぎへと導く為だったでしょうか。恐らく、少しだけ違います。

メルゴーの乳母を思い出してください。有名な話かもしれませんが、乳母が乳母車へと覆いかぶさるような体勢を取ったかと思えば「ゴポリゴポリ」と水音が鳴ります。様々な解釈があると思いますが、個人的には「与えている」描写だと受けとりました。シンプルです。糧を、「血」を与えている。だから「乳母」なんです。

そしてもう一つ。ゲールマンの介錯を拒否し、戦闘の後、降臨した月の魔物は狩人を抱擁するのですが、この時にも同じ「ゴポリゴポリ」。「飲んでいる」のだと思います、「血」を。狩人のものというより、狩りを経て狩人という器の中に充ちた血の遺志を「回収」している。本来であればその役はゲールマンが担っていたのでしょう。彼は介錯と共に自身へ流れ込む血の遺志を毎夜、魔物へと献上していたんです。そしてゲールマンが死んだのなら、ゲールマンを殺したものを代替とすれば良い。「遺志を継ぐ者」とはそういう意味のエンディングだと思っています。

メルゴーの乳母 月の魔物

赤子食事中

メルゴーも月の魔物も同じ。赤子とは血を求めるものでした。そしてその実、血に宿る暗いソウルをこそ求めていたなら、闇を糧に大きく育つ様は、まさに篝火的です。しかし今や火の無き深海の時代。月の魔物が「生ける篝火」だとすれば、そこにはもっと重大な意味があるはず。

人形の話をしましょう。狩人の夢において、彼女の役割は火防女に似ていました。

人形

「狩人様。血の遺志を求めてください。私がそれを、普く遺志を、あなたの力といたしましょう」

狩りの助けとなるべく狩人を強化している……のではありません。彼女は狩人という器に血の遺志をひたすらに注いでいたのだと思います。最期には月の魔物へと与える為に。即ち人形は「月の魔物の乳母」として狩人を太らせていました

火防女の役割とは何だったか。シリーズごとに多少仕様は変わりますが、彼女達はレベルアップという名目でソウルを不死の中へと定着させる業を持ちます。そしてそれはきっと不死の旅路を助ける為ではなかった。少なくともそれは手段でしかなかったはずです。不死という器がソウルで充ちた分だけ、よく燃える薪が出来上がる。そして「はじまりの火」は大きく育ち、継がれます。よって火防女とは「はじまりの火」の乳母だったのでした。それが「火防」の意味なんです。

人形 火防女

おいしくなあれ

全ては「再現」なんです。不死と狩人、その役割は同じ。自身を器とし、ソウル(遺志)を蓄え、終には捧げる。だから赤子の上位者を「篝火」だと申し上げましたが、この表現は的確ではなく、訂正する必要があります。普くソウルを燃料とし、火の無き時代に火をもたらさんとする月の魔物の役割とは。

3 本目のへその緒
使用により啓蒙を得るが、同時に、内に瞳を得るともいう
だが、実際にそれが何をもたらすものか、皆忘れてしまった

最初の火

「火の炉」です。ソウルをくべて火を育てる月の魔物の存在理由とは、それはそれは特別な篝火。赤子の上位者たちは、それぞれが「生ける火の炉」なんです。皆が、きっと上位者自身さえ忘れてしまった「瞳」がもたらすものとは、かつて世界に確かに在った「はじまりの火」なのでした。だから、彼ら自身が「火」であり、そして新たな「薪の王」の姿とさえ言ってしまっていいかもしれない。ならば赤子(火)を育てる為に「乳母」たる役目を担った人形は、『Bloodborne』における「火防女ポジション」ではなく、彼女こそ正しく、「深海の時代の火防女」だった訳です。

母なる上位者とは火防女の成れの果てだと申し上げてきました。つまり人から上位者に至るのは女性のみに許されていることになりますが、例外が存在します。「へその緒」です。これを 3 つ得た狩人は「瞳」を宿し、キャラクターの性別に関わらず、赤子の上位者に変態します。

トロフィー「幼年期のはじまり」
自ら上位者たる赤子となった証。人の進化は、次の幼年期に入ったのだ

要は火防女という在り方すら手段に過ぎない訳です。月の魔物を生む為の苗床であり、それはたぶん、方法の一つでしかない。「月の力」を宿しさえすれば、その者は「月」足りえます。だから月の魔物自身が遺す「へその緒」により得られる「瞳」とは、火防女という苗床以上の、もっと純粋な「月の力」そのものなんじゃないでしょうか。そしてへその緒が同時に啓蒙を与えるのは、イリーナにとってそうであったように、「月」という大いなる物語を紡ぐ為には、やはり断片となるものが必要だったからなのでしょう。

ということで、定義します。上位者とは、深海の時代に至って尚、「火をもたらす能力」を宿した者である

以上です。上位者についてあれやこれやと述べてきましたが、現状における最終最後の結論としては以上の一文になります。月の力をもった上位者も、月の苗床となる母としての上位者も、共に目的と役割は一つ。一方で今後別の作品で同じく上位者に類する存在が登場するなら、もしかすると母や赤子といった形態ではなく、また別の手段を用いて火を熾そうとするのかもしれません。とにもかくにも、上位者とは「火をもたらす者」の総称なんです。

しかし何ということでしょうか。獣狩りが、赤子へと血を捧げる大がかりな「食餌」であり、そして終には瞳を得た狩人へ赤子の座自体が継承され次代へ続いていくのなら、『Bloodborne』とは再現された火継ぎを描いた物語であったことになります。

それはかつて世界全土を満たしたほどの規模ではなく、灯ったものは、哀れなほどに小さな火に過ぎないのかもしれませんが、やがて人の世の終わりに、全ての生命(遺志)が赤子へとくべられるに至るなら、そこに待つものは大きな火の熾り、それこそ「火の時代」の再来と言えるのでしょうか。或いは全く別の何かなのか。想像もできませんが、一つだけ言えることは、既に火は陰り、しかし未だ以て尚、火防も、火継ぎも、終わってなどいなかったのでした。

「はじまりの火が、消えていきます。すぐに暗闇が訪れるでしょう。…そして、いつかきっと暗闇に、小さな火たちが現れます。王たちの継いだ残り火が」

火継ぎの終わり 幼年期のはじまり

終わりと始まり

ところで両作のエンディング名ですが、「火継ぎの終わり」と「幼年期のはじまり」でした。終わりと始まり。構図も含め、何とも綺麗に対照的ではありませんか。そして両名の火防女に抱かれるそれは、形は変われど、「火」なのです。

補足 : 人間性を捧げよ

終わろうと思いましたが、最後にこれだけ書きます。カインハーストの女王アンナリーゼは血の穢れを啜りました。「血の穢れ」とは見たまま「精」でしたが、これを啜ることで女王は懐妊しようとしていたのでしょうか。また血の穢れは啓蒙を得るアイテムでもありました。啓蒙(物語)を集めた先に月の力があるのなら、女王はこれを求めたのかもしれません。

血の穢れ
故に彼らは狩人を狩り、女王アンナリーゼは 捧げられた「穢れ」を啜るだろう
血族の悲願、血の赤子をその手に抱くために

そうした上で、血に宿った「穢れ」とは深みのソウル、そして元を辿れば人間性でした。それを女性に捧げるという行為には既視感を覚えるはず。

穢れを捧げる 人間性を捧げる

人間性を捧げよ

カインハーストのこのイベントは、「人間性を捧げる」イベントのセルフオマージュであり、そしてオマージュの影に隠して同じことをやっていたんです。蝕まれることでしか叶わない望みがあるのなら、女王の願いとは、かつて多くの火防女や火防女になろうとした女性たちと同じ道の先にあるのでした。その願いはいつか叶うのでしょうか。

素晴らしきかな不死、血の女王アンナリーゼ。彼女もまた、深海の時代の火防女、その道を辿る者でした。

さいごに

いやー、書き切れませんでした。本当はここから「火の時代の上位者」編まで書く予定だったんですが、一応 6 月中のアップを目指していたので、となると難しいかなと。あとなんか予定した倍くらいに膨らんできて(いつも言ってる気がする)、読むほうも大分辛いかと思いましたので、もうアップしちまえと踏み切りました。元々次の章と 1 セットの構成だったので、この記事だけだと細かい部分が詰め切れていないんですが、まあなるべく早めに次も仕上げまする。

まとめ
  • 母なる上位者とは深海の時代の火防女である。火防女とは「月の力」によって闇から火を熾す業を持ち、よってその機能が具現した存在こそ「月の魔物」、即ち赤子の上位者である。
  • 赤子の上位者は血を求める。血に宿った遺志(ソウル)で育つ。故に月の魔物は生ける篝火であり、また、生ける火の炉であり、そして「火」そのものである。
  • 火の時代は終わった。しかし、再来を望む者達がいる。上位者とは、深海の時代において「火をもたらす者」である。
関連記事 : 火と楔と血の話に、狼を添えて

回生・竜咳・人間性

怨嗟・鬼討ち・深淵狩り

つづきます。

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