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北の国から - 契 - (1)

はじめに

こんな記事を書きました。

関連記事 : 北の国から - 楔 -

『Demon's Souls』の内容を整頓する目的で書いた記事です。対して今回の記事タイトルは「北の国から - -」。ややこしいですね。この記事の趣旨を簡潔に言ってしまうと「『Demon's Souls』は『DARK SOULS』や『Bloodborne』と同じ世界の物語である」というもの。総てはセルフオマージュでしかないという主張もあるでしょうが、どうせ公式から明言されない事にかこつけての遊びなので、まあいつものように軽い気持ちで読んでいってください。尚、必然的に一切の遠慮なくネタバレをする旨、注意喚起だけはさせて頂きます。いいか気をつけろ。

またこいつを執筆している時点では相変わらず PS5 は入手しておりません。あくまで範囲は PS3 版の『Demon's Souls』のみとさせて頂きます。

ちなみに全部で二回か三回の予定です。ではいきましょう。

楔の神殿

さて今回の記事は、『Demon's Souls』内の各エリアごとに章を分け、その場所に纏わるネタを並べていく方式を取ります。書きやすいかなと思っただけで、そこまで深い意味はないです。ということで、まずは「楔の神殿」について。

契と楔

「契と楔」。タイトルの理由、メインテーマと言える部分を最初に消化してしまいましょう。

『DARK SOULS 3』には幾つかのエンディングが存在しますが、中でも「火の簒奪」に到達するにはロンドールと深く関わる必要がありました。そしてその達成の為のキー・イベントの一つが「契りの儀式」です。今や神のいない暗月の霊廟の最奥には「伴侶」と認定されたアストラのアンリが横たわり、手渡された「契りの剣」にて、何とその顔を刺し貫きます。

灰アン貴い

契りの儀式

ロンドールのヨエルによって暗い穴を穿たれた灰の中には「呪い」が蓄積していき、やがてその様を指して「亡者の王」と呼ばれるようになりますが、契りの儀式により灰は更なる「暗い穴(呪い)」を得ました。剣より伝う不吉こそ「呪い」なら、自死によって得られるそれを超えた「呪い」を得るためにこの儀式が行われたと解釈できます。『DARK SOULS』の歴史において、王とは「器」でした。膨大な量のソウルの器となって、自身を最後に火へと焚べる者が「薪の王」なら、同じく膨大な「呪いの器」として耐え得る者が「亡者の王」として君臨するようです。

関連記事 : ロンドール戦記

ロンドールが契りの儀式を通して何を目論んでいたか、亡者の王に課せられた役割とは何かは既に記事にしたので割愛するとして、ご覧頂きたいのは以下の画像です。

契りの儀式
篝火の儀式?

王と王

契りの剣を突き刺す灰の人と、 OP に登場する化身の構図は対になっていることが分かります。

OP に関しては想像するに篝火を作っているのではないかと思っています。もっともこの篝火制作が実際に行われたことなのか、あくまでもイメージなのかは不明です。しかし、論を補足するために言っておきたいことがあるのですが、『3』リリース時に削られてしまった要素として、本来であればプレイヤーが篝火を制作することができたようです。どうも侵入要素の一つだったという話ですが、推測するなら、侵入用の篝火を入り口とし、他世界に侵入して残り火を奪いに行くといった流れだったんじゃないでしょうか。「火の無い灰はそれ故に火を求める」という性質にも適うでしょう。

削られてしまった要素をわざわざ論拠とせずとも、よりシンプルに対比の意図を考えるなら、それは「亡者の王」と「薪の王」の対比であり、「契りの剣」と「螺旋の剣」の対比になっている事は直感的に受け取れるでしょう。ならば「篝火」と対になるものが存在するのではないか、だとすればそれは何なのか。これがこの項の本題となります。それでは以下、どうぞ。

契り
楔

楔の起源

楔

契りと楔

何が言いたいか。単純です。

契りの剣が突き立てられた頭部とは、即ち「要石」の原型だったのではないか。

簒奪エンドにアンリがいるという指摘もありますし、「そのもの」という話ではありません。『Demon's Souls』の要石とは、このロンドールの儀式を起源としているのではないか、そんな話がしたいわけです。だから「薪の王」と「亡者の王」が対比される傍ら、ここでは密やかに「篝火」と「要石」の対比が行われていたんです。

思えば元々篝火と要石は「拠点へと帰還する機能を持つ」という点において、「似ているもの」として描かれていたように思います。ならば火が失われた後の時代に、限定的とはいえ「篝火の如きもの」「人にとってのよすが」を残すための措置が契りの儀式の役割の一つであり、後々に残る楔の神殿と要石とは、そんなロンドールの思惑を汲むものだったのかもしれません。「楔」の一字が「剣」と「契り」から成り立っているように思えるのは、その示唆の為なのだと。

というわけで十数年後しに、何となくそこに存在していた要石の正体が僅かに輪郭を帯びました。我々がかつて頼りにしたそれは、恐らく人の頭蓋だったんです。果たして要石を精製する度に、契りの儀式か、或いはそれに類するものが行われていたのでしょうか。いずれ別途情報の開示を待ちたいところですが、「特殊な剣で対象の呪いを吸い上げる」、そんな小さな儀式が、何らかの意図を以て行われてきた……くらいは想像してみても罰は当たらないかもしれません。

また余談ですが、ずっと以前『DARK SOULS』が発売された当初、その舞台に巨人が存在していたことから、『Demon's Souls』の壊れた要石(通称「巨人要石」)の先がロードランなのではないか……などといった噂がまことしやかに囁かれました。しかし公式見解として両作に繋がりはないと明言されている上に、ソウルシリーズが代を重ねるごとに作品間の繋がりに対するプレイヤーの関心が薄れていった印象なのですが、この度シリーズ最終作、「巨人の地」とも言えるアノール・ロンドで、要石を想起させる契りの儀式が行われました。この意味は何かと考えてみて、もしこれが当時ファンの間に存在したささやかな歓談への遠回りなアンサーだったなら、これほど嬉しいことはありません。

火防女のロウ

火の時代、火の為に生きた火防女が深海の時代にどうなったかというのは過去記事で触れてきました。ここで話題にしたいのは、元祖、我らが「かぼたん」こと『Demon's Souls』の「黒衣の火防女」についてです。もっとも楔の神殿にいる彼女が守る「火」とは何か、などについてはここで書いたので、今回は彼女の眼を覆う「蝋」を取り上げます。

かぼたん
かぼたん

特に意味は無いが、かぼたん新旧。

「蝋」と聞いてすぐに連想するのは、『DARK SOULS 3』の「大書庫」で賢者やプレイヤーキャラクターが頭に被るこれでしょうか。

蝋
蝋

蝋は被るもの

これを頭に被ることで、大書庫内に蔓延する呪いを無効化することができるわけですが、なぜそんなことが可能なのかというと、この蝋が「屍蝋(死蝋)」だからではないかという説があります。

死蝋は、永久死体の一形態。死体が何らかの理由で腐敗菌が繁殖しない条件下にあって、外気と長期間遮断された果てに腐敗を免れ、その内部の脂肪が変性して死体全体が蝋状もしくはチーズ状になったものである。

ありがとう wikipedia。要はドロドロに溶けた死体であり、大書庫ではそれを頭に被っていたのではないかという心温まる話。そしてなぜ死蝋を被ることで呪いが避けられるのかと言えば、ここに通じると考えています。

解呪石
半ば頭骨が溶け込んだ灰色の石
カリム伯アルスターの秘宝の 1 つ
呪いの蓄積を減らし、呪死状態を解除する
人は呪いに対し無力であり それを逸らすことしかできない
解呪石もまた、呪いを逸らす先でしかなく それは人、ないし人だった何かなのだろう

人は呪いに対して無力だそうですが、それ故に呪いの「器」として作用するという理屈でしょうか。亡者の王はその最たるものだったと前述しました。それはどのような姿になろうとも変わらず、例え石に溶け込もうとも、そして例え蝋としてドロドロに溶けようと変わらない。だから賢者たちは頭に「人、ないし人だった何か」を被ることで呪いの矛先を逸らしていたんじゃないかという考え方ができるわけですが、では、なぜ「解呪石」と類似するものをわざわざ「蝋」という形で登場させたのか。それは、人が持つ特性への言及と同時に、かぼたんの目を塞いだ「蝋」についての示唆でもあったのではないか。黒衣の火防女の目を塞ぐ蝋もまた「同じ材質」であり、従って彼女はこの蝋によって呪いを遠ざけていたのではないかと。

結局、呪いとは何か。これまた何度も何度も言及してきましたが、恐らく「死」そのものではないかと推測します。不死は死なないのではなく、幾度も死ねる存在でした。しかし死ぬ度に人間性は漏れ出し、代わりに蓄積する「呪い(死)」が理性と知性を歪めていくのならば、大書庫の賢者たちは蝋によって理性の延命を図っていたものと考えられます。解呪石や、或いは死蝋が呪いを逸らすのは、石や蝋に形を変えて尚、人は呪い(死)を重ねられるからなのでしょう。

肝心なのは、この「死を蓄積できる」という特異性こそが、悠久の時を生きながらも「死」それ自体からは逃れられないであろう神々にして人々を「不死」と言わしめ、それ故に呪いが人のみを蝕む「理性の毒」であるなら、逆を言えば呪いを遠ざけようと工夫することは人の証明なのではないか、即ち黒衣の火防女とは人なのではないかという論法です。彼女の正体については、実ははっきりしないものがありました。

吸魂
ソウルの力を操り、デーモンを殺すものを助けた火防女は かつて最も危険な古いデーモンのひとつであった

黒衣の火防女とはデーモンでした。しかし『Demon's Souls』におけるデーモンは、人々の空想が人型を成すケースと、人がデーモンへと変わるものとで分かれました。そして火防女がどちらのケースに該当するかについては明示されていなかったはずです。なのでそこに触れる十数年越しのヒントとして、二つの物語を繋ぐアイテムとして、改めて「蝋」というものが取り上げられたのではないか、そんな発想からの考察でした。

ちなみに「吸魂」とは、ご存知ダークレイスの「吸精」に似るわけですが、その業とは元より人間性を、人のソウルを奪う世界蛇の遺産だったと言います。

ダークハンド(『1』)
カアスに唆された、ダークレイスたちの業
闇のソウルにより人間性を奪う吸精の業をなし また特殊な盾ともなる
ダークハンド(『3』)
亡者の国ロンドール独特の業
世界蛇の遺産であるともいわれている
おぞましい吸精を行い、特殊な盾ともなる
また両手持ちすることはできない
戦技は「吸精」
相手を抱き寄せ、HPを奪い取る
なお、吸精は人にしか行えない

ダークレイスに通じる業を、黒衣の火防女は宿していました。彼女の用いた吸魂とは、もしかすれば自らを呪いから遠ざける為に人間性を充当する措置だったのでしょうか。そして「契り」が「楔」に通じるように、「吸魂」を持つ火防女のある楔の神殿とは、やはりロンドール或いは世界蛇の叡智の流れの末端に在る場所だったのかもしれません。

ミルド

どこにいれようか迷いましたがここでやります。

ミルド・ハンマー
ミルドとは、今はとうに失われた 最初の神殿があった地の名前であり 神職の間では、この武器は特別な意味を持つ

一周目攻略において強力で、またこれを竜派生させたものは伝説の初心者狩り武器として名を馳せました、ミルド・ハンマー。テキストを読むと今は無き「最初の神殿」とやらの存在した地が「ミルド」と呼ばれていたようです。ミルド……ミルド。ミルウッド

ミルウッド騎士シリーズ
伝承の森ミルウッドは、それが発見されたとき 腐った霊樹のそびえる無人の遺跡だったという
そこには死体ひとつなく すべてがひっそりと捨てられていた

最初の神殿「ミルド」。無人の遺跡「ミルウッド」。似てるね、というだけの話ではあるんですが、これ某玄人実況者が動画内で口にしていたのを聴いて、いたく感心したんですよね。他シリーズに散らばる「『Demon's Souls』っぽい要素」は日頃からリスト・アップするようにしていたのに、この可能性は全くスルーしてました。

と言ってもこれだけです。それ以上のことはない。例えばミルウッドの大地信仰や、彼らの仇敵たる深淵の竜などの要素は特に『Demon's Souls』内に見つけられないので、ミルドとミルウッドの語感が偶然に似てしまっただけだと考えた方が早いかもしれません。しかし『Demon's Souls』の神職、その源流にはひょっとしたらミルウッドが存在したのかもしれない。そういった見方を覚えるだけで、新しい遊び方も生まれると思うわけです。

もしかすると人喰いミルドレッドが由来かもしれない。

ボーレタリア王城

と、いうような事を各エリアごとにやっていくわけです。ではボーレタリア王城編に入っていきましょう。

ファランクス

史実においてファランクスと呼ばれる、槍と大盾を駆使した陣形が存在するそうです。『Demon's Souls』における、チュートリアルを除いての初ボスである「ファランクス」とは、たぶんこの陣形を元ネタにしたキャラクターでしょう。

といった事を踏まえた上で、事の出典を現実世界ではなく、あくまでゲーム内に求めるのならば、ファランクスとはファランに由来するのではないでしょうか。ファランとは『DARK SOULS 3』に登場する土地の名であり、ファランの戦士とはかの地に集った戦士の総称であったはずですが、中でもファランクスに近しい者たちを探すならば、「幽鬼」こそが相応しいんじゃないでしょうか。

幽鬼のジャベリン
ファランの幽鬼たちが用いた軽量の槍
投擲できるようバランスが調整されている
幽鬼たちは集団戦を旨とし 敵を囲み、盾を構え槍を突き、一斉に投げつける
役目を終えた戦士を、相応しい最期で弔うために
戦技は「投げ槍」
幽鬼たちの戦い方を再現する戦技
一時的質量をもった幻影の槍を投擲する

『集団戦を旨とし 敵を囲み、盾を構え槍を突き、一斉に投げつける』。まさしくファランクスの戦法がそれでした。ファランの戦士、中でも幽鬼と呼ばれる彼らの戦法が何らかの形で語り継がれ、後々の「ファランクス」という名に繋がったと考えると感慨深い。「塔の騎士」や「つらぬきの騎士」がそうであったように、『Demon's Souls』のデーモンとは人々の畏怖や口伝を吸い上げ具現化する性質を持ちました。ボーレタリアに語り継がれる神話、或いはお伽噺が、鉛のデモンズソウルに形を与えることもあったのでしょうか。

ファランクス。遥けき古い戦士たちの名を持つデーモンでした。

一対の剣

さあ、周知であろうセルフオマージュを並べてニヤニヤするコーナーが始まりました。よろしくお願いいたします。

北のレガリア
古いボーレタリア王の証
この剣の影がソウルブランドであり、またデモンブランドである
ボーレタリア王家の伝承にも、その由来は多く語られないが 古い獣と共に、悪意により世界に残されたとされている
双王子の大剣
ロスリックとローリアン 双王子のソウルから生まれた二つの剣が 再び分かち難く結びついたもの
それは本来呪いであり、今は弔いでもあろう

一対の剣が融合して一振の剣になる、という意味でこれら二本の剣は似たものですが、成り立ちや意味は異なります。なのでこれはセルフオマージュに属するネタだと思っております。が、ご存知でしょうか。「レガリア」とは王権を象徴する品を意味するそうです。ならば「北」にあるというロスリック国の王子であり、薪の王として選定されたロスリックと、分かち難きその兄ローリアン。彼らが所有する剣とは、それだけで「北のレガリア」と呼ばれるに値する品だったのかもしれません。

微笑みデブ

王の公使について。ビヨール曰く「ブヨ虫」、ライデル曰く「黒ブタ」。彼らはなんだったのでしょう。

公使の帽子
王の公使がかぶっている帽子
この帽子さえあれば、きみも公使になれる!
ボーレタリアにデーモンが蔓延る直前に現れ オーラント王に取り入った、太った公使たちは 薄笑いと共に民衆を虐げた
その帽子は、奴らの憎憎しい象徴として もっぱら民衆の憎悪の対象となっていたという

デブ、不気味な笑い声、巨大な凶器と炎の攻撃、そしてデブ。こうして要素を並べると、公使と似た特徴を持つ者が見つかります。「聖堂の教導師」です。

ブヨ虫
深みのブヨ虫

微笑みのデブ。

教導師シリーズ
聖堂からやってきた教導師たちの帽子
教導師は全員が女性である
彼女たちは、不死街の住人を教え導き 「運び手」に生贄の道を往かせるという

あれですね。改めて見比べると共通点が際立ちます。首元の襞襟なんかはそのままですね。面白い。さて、似ているものには「似せた理由」があると信じているので、特に目立つ「襞襟」という共通点は何を意味しているのでしょうか。襞襟はヨーロッパの富裕層が愛用していたなんて話を聞いたことがありますが、教導師がそうであるように一部の聖職者のアイコンとしてここでは用いられていると考えてみてはどうでしょう。王の公使もまた、ある種の教導師だったと、遡って示す為の装飾なんじゃないでしょうか。小国ボーレタリアの王オーラントは、彼らによって邪教を、ソウルの深淵を「教導」されたのです。

一方、教導師シリーズのテキストを読む限り、彼女らは不死街の住人を聖堂まで運ばせていたらしいですが、その先に待つものはエルドリッチへの供物としての末路でしょうか。彼女たちは「深み」の信徒、教導師でした。

結論を言うと、王の公使たちはこの「深み」の一派に属する者たちではないかと見ています。それが『DARK SOULS 3』に登場する聖堂の一派そのものなのか、或いは歴史のどこかで枝分かれでもした別の宗派なのかは分かりませんが、公使と教導師が共有する多くの特徴はその事実を示す為のものではないかと考えるに至りました。

深みとは何か。これまでさんざん言ってきましたが、暗いソウルが持つ「重い」という特性故に澱み、形成される深淵に似た領域・存在の総称と、当サイトでは規定しています。これは火の時代が終わった後も残り続ける「神秘」の源泉となる為に、後世の探求者たちがあの手この手で追い求め続けているのだと考えますが、つまるところ深みの信徒たちは、この領域、存在、そしてそこから汲み取れる暗く重いソウルを信奉するわけです。

そして『Demon's Souls』の時代において、その神秘の源泉とは「古い獣」を指しました。なので深みの信徒である公使たちはオーラント王を「教導」することで獣を呼び覚まし、大いなる深みに触れる足がかりとしていたのかなと想像しています。

と、仮定した上でもうちょっと続けます。深みの信徒と炎の業についてです。

大主教の大杖
深みの聖堂の大主教に与えられる大杖
最高位の象徴にすぎなかった大杖は 大主教マクダネルの手で魔術杖となった
それは信仰を魔術の糧とする禁忌である
主教のスカート
深みの封印者であったはずの彼らは やがて皆、おぞみに飲まれた
信仰も灯火も、役には立たなかったのだ
赤虫の丸薬
深みの聖堂で作られ 教導師から、信徒たちに配られるもの
燃えるとき、せめて痛みの少ないように

深みの信徒たちは元々その「封印者」であったらしく、その対策として火の魔術を扱ったそうです。「深み」には虫を始めとするおぞましいものたちが湧き、あれらが基本的には火に弱いことからの知恵なのでしょうが、聖職者である彼らが対立する魔術師の業を使うのは、大主教マクダネルの思惑があってこそのようでした。しかし「信仰も灯火も役には立たず」、封印者たる彼らはむしろ深みの信奉者と堕し、しかしそれでも、変わらず火を扱うことを止めなかった。元を正せば封印者として身に着けた業を、深みに飲まれた後も、むしろその狂気の助けとすべく行使し続けている。だとすれば王の公使たちがソウルの矢などではなく、炎の魔法を扱うことは、彼らが深みの一派だという論の助けとはならないでしょうか。

最後にもう一つ。大主教マクダネルをはじめ、主教達の一部はブクブクと肥った体型が目立ちますが、恐らく「水死体」に似た状態なのではないかと考えます。

深みとはどうにも水気と相性がよく、それもありエルドリッチも火の時代の後を「深海」と予見したのだと思いますが、主教たちや教導師たちが概ね大柄であるのもその暗示なのでしょう。だとすれば公使たちがデブ揃いだったのも同じ理由なのでしょうか。元来「襞襟」とは裕福さの象徴としても存在していたそうです。しかし彼らのブヨブヨの体は決して豊かさを示しているのではなく。

マクダネル
黒ブタ

「深海」で溺れた者の末路

深海の時代に、彼らは溺れ続けているのかもしれません。

ウーランの長弓

実は一番やりたかった話の一つがこれです。

『DARK SOULS 3』の輪の都でこういったものが拾えました。

白木の弓
白皮の木で作られた短弓
光を操る魔術を帯びている
それは、深淵歩きの英雄譚でも知られる 深淵に飲まれた古い魔術の国の足跡である

白木の弓。テキストから察するにウーラシールを由来とする弓のようですが、その名とビジュアルからピンときた方もいたのではないでしょうか。『Demon's Souls』には似た武器が存在したんです。

白の弓
曲がりくねった白木を組み合わせた長弓
交差する 2 本の弦を持ち 人にはとうてい扱えないといわれる伝承の武器
射程距離がきわめて長い
白の弓
白木の弓

白木を組み合わせた弓

短弓と長弓ということで同じものでこそ無いようですが、楔の神殿ではオストラヴァがこんなことを言います。

「ボーレタリア王オーラントには、多くの素晴らしい騎士が付き従っていました。双剣のビヨールとヴァラルファクス。塔の騎士アルフレッドと、つらぬきの騎士メタス 異民族の勇者、長弓のウーランと、彼の蛮兵たち」

城 4 の序盤に 3 体の黒ファントムが待ち構えていますが、彼らはそれぞれ塔の騎士アルフレッド、つらぬきの騎士メタス、そして白の弓を携える騎士でした。塔の騎士とつらぬきの騎士それぞれのデーモンが結局偽物であったなら、あの黒ファントム達はまさしく本物の、しかし「堕ちた英雄」だったのだと考えられます。

特筆すべきは最後の一人です。ウーラシールに由来する白木のそれに似た伝承の弓を構える勇者の名は、ウーランと言いました。「ウーラシール(Oolacile)」と「ウーラン(Oolan)」、偶然でしょうか。しかし武器が似ていた。名も似ていた。似ているものに似せた理由が存在するなら。異民族の勇者だというウーランは、即ちウーラシールの末裔であった、それを示す為の名だったと考えています。

白の弓と白木の弓。或いは同じ材料で造られたその弓は、共に黄金の国を同郷としたのかもしれません。

ストーンファング坑道

穴掘り

聖杯ダンジョンのレア敵「穴掘り」。狩人を飲み込んでは吐き出す気色の悪い敵ですが、ストーンファング坑道でツルハシ担いだ人形の敵の名は、なんと「ウロコ穴掘り」と言いました。……以上です。これに関しては特に無いです。

竜骨
竜の神の要石
地下神殿は、竜の神を奉り鎮めると同時に これを封じ込めるためのものであった
穴掘りの先人は、巨大な竜骨から神を想い これを敬い、また十分に備えていたのだ

という訳で真面目にやりますが、『Demon's Souls』のデーモンは人々の畏れ、思い描いた物語を読み取って生まれてくるようです。竜の神とはその最たるものの一つと言えるでしょう。しかしさらっと流されてますが、そもそもこの竜骨ってなんだよという話で、単純に、本当に竜の骨と考えていいんじゃないでしょうか。いたんです、竜が。

黒渓谷
ストーンファング坑道

竜の化石

画像のように、灰の時代に神々や騎士たちの手で狩り尽くされた古竜、その遺骨或いは化石と思わしきものは地中深くに埋没していました。こういったものが至る所に存在するというのであれば、ストーンファングの竜骨とは、素直にそれらがそのまま残ったものと考えていいのかもしれません。

ここで思い出したいのが、かつて廃都イザリスで乱雑に配置されていた「なりそこない」たちです。あれらがドラゴンゾンビの下半身であることから、「イザリスが竜を作ろうとしていた痕跡」という見方もあるようですね。個人的にはただモデルを流用しただけで、単純にデーモンのなりそこないか何かではないかと考えていたのですが、竜の神が竜骨から発生したことをそこに繋げるなら、ちょっと話が変わります。

関連記事 : 火と楔と血の話 07

デーモンについての一考ですが、あれらはかつてイザリスの魔女たちの手で炎へと捧げられた生贄や、彼女たちの空想した物語がモデルになって生まれたものではないかと述べました。デーモンとはある種の奇跡(物語)であると。実際にイザリスが竜を製造しようとしていたかどうかは、記述が無いので分かりません。しかしながら数多のデーモンが魔女の祈りや畏れを根源として生まれたのだとして、そこに、かつて魔女たちが加担した竜狩りの記憶が混入しなかったと言えるでしょうか。魔女が抱く竜への畏れ。それが混沌を介して這い出し、しかし再現しきれなかった強大さ。それがイザリスに蔓延る竜の半身「なりそこない」の正体だったのかもしれません。

そして幾星霜。古い獣の力と結びついた人間たちの竜信仰は、マグマの中へと見事に竜の神を描き出しました。或いはイザリスの魔女にすら成し得なかったそれは、ストーンファングに眠る竜骨の力か、はたまた人間が持つ想像力故にこそ叶ったのでしょうか。

結晶トカゲ

恒例となった「希少な鉱石をドロップする mob」、その原点こそ『Demon's Souls』の結晶トカゲでした。対して『DARK SOULS』のそれは「石守」と呼ばれており、恐らく「ヤモリ(家守)」を意識したネーミングなのでしょうが、何と同シリーズの『2』からはしれっと「結晶トカゲ」に変更されていました。

楔石のウロコ
ごく稀に巨大結晶トカゲがソウルを喰らい巨大な体に、このウロコを宿すという

『3』に至ってはテキストにそう書かれています。え、「石守」って無かったことになってる? しかしそうでもなさそうなのです。古竜の頂に出現する、結晶トカゲ(石守)を大きくしたような敵が「石守」と名付けられているんです。もう何が何やら。

推測を述べるなら、古竜の頂の石守こそ「原種」であり、我々が良く知る石守(結晶トカゲ)とは白竜シースが何らかの意図で品種改良したものだと思っています(その割には結晶トカゲが宿す鉱石を原種?の石守がドロップしちゃったりしますが)。

例えばセンの古城や公爵の書庫の蛇人もまた古竜の頂の蛇人たちに手を加えたものか、あれらを参考にしたシースの被造物ではないかと考えてますが、つまりシースは品種改良の際、原種の名前をそのまま流用していたわけです。「石守」もまた同じだったのでしょう。しかし人々の中で認知されていくうち、いつの間にか石守はその煌びやかな見た目からか、或いはその性質をより尖らせた名前を与えられたのか、「結晶トカゲ」と呼ばれるようになっていった、という流れを想像しています。余談ですが『DARK SOULS 2』のジェルドラはシースの執念が憑く土地だと以前述べましたが、あの場所に限って結晶トカゲの亜種のようなものが出現する辺り、やはり結晶トカゲ(石守)の出生にはシースが関与しているんじゃないでしょうか。

そんなわけで結晶トカゲ。シリーズのどこにも登場し続けたあの生物が、竜が滅び去った後もひっそりと交配し繁殖していたというならば、世代を重ねる過程で外形が変わることもあるのでしょう。しかし希少な鉱石を身に宿すという特性は変わらず、後々の世においてもやはりそれは「結晶トカゲ」と呼ばれ続けていました。そのルーツが「石守」であるなら、彼らはその責務を果たし続けているのでしょうか。

石守
結晶トカゲ(ダークソウル)
結晶トカゲ(デモンズソウル)

石守の系譜

精霊

何気に準レギュラークラスの概念、「精霊」について。

精霊の抜け殻
上位者の先触れとして知られる軟体動物の抜け殻
軟体生物は多種存在し、医療教会は総じてこれを精霊と呼ぶ
夜空の瞳
精霊に祝福された軟らかな瞳
かつてビルゲンワースが見えた神秘の名残だが 終に何物も映すことはなかった

「精霊」と聞いて瞬時に想起するのは『Bloodborne』だと思いますが、実は『DARK SOULS』にも登場しています。それは「さまよう人間性の精霊(ベイグラント)」と呼ばれ、オンライン上に流れたアイテムや人間性を媒介に生まれる要素でした。

ベイグラント
漁村の卵

精霊と精霊

しつこいほど言ってることですが、『Bloodborne』の精霊とは上位者に寄生する「虫」の媒介者として働くものであり、この場合の祝福とは「二次感染」を意味するという仮説を立てています。上位者に宿るものを、周囲に植え付けて回る為の装置と言っていい。現実にナメクジなどが寄生虫の媒介物になる現象が元になっているのでしょう。

そしてこの「虫」、諸々省きますが、「人の淀み」の根源と呼ばれるこの虫は「人の澱み」、即ち人間性が基になっているのだと当サイトでは定義しています。つまりその考えの元、両作品における「精霊」は「人間性を運ぶもの」としてその機能を統一できるわけです。これを踏まえて更に付け加えるなら、この「精霊」という名称、初出は『Demon's Souls』だったりします。

「鉱石は精霊の分け身じゃ。奴らは、武器を祝福するのじゃよ」

ストーンファングの鍛冶屋エドのセリフですが、「精霊」ときて「祝福」。そのままお出ししてきましたね。

「虫」は人間性を根源とすると前述しましたが、深みによっておぞましく変質したそれは、しかし元々有していた性質が色濃くなっただけに過ぎません。火防女の魂を夥しい人間性が食い荒らしていたように、人間性とはそもそもが「寄生虫の如きもの」であり、それが形を与えられたことで、正しく「寄生虫」になっただけなのでした。

火防女の魂
夜空の瞳

群がる人間性

一方で同様に人間性は(ソウルそのものに言えることですが)「石」になる性質も持ちます。だから人間性が闇の貴石などに変質するように、血の遺志(ソウル≒人間性)もまた「血石」や「血晶」へと変わりました。やはり形や性質を変えても従来の「宿る」という性質は残り続けるのだと思います。

ソウルとはそも血肉に「宿り」、また虫になって生物へと「宿り」、或いは鉱石や血石と化して尚、武器へと「宿ろう」とする。全ては根源的に同じ現象なのです。『Demons's Souls』に登場した「精霊」と「祝福」というキーワードを『Bloodborne』にそのまま転用したのは、人間性(≒ソウル)が持つ変わらぬ働きを示唆する意図によるものだったんじゃないでしょうか。

というわけなんですが、ここで気にしておきたい事があります。繰り返しになりますが「虫」や「石」へと形を変えて尚も人間性は何かへと「宿ろう」とする。その本能的な働きを「祝福」という形で媒介する存在を総じて「精霊」と規定するなら、結晶トカゲもまた精霊の如き機能を持っていると解釈できないこともないでしょう。

以前、こんな記事を書きました。

関連記事 : 火と楔と血の話 06

火の時代にいた上位者についての記事ですが、ここで白竜シースは最初の上位者だったのではないかという仮説を立てました。それは白き竜と呼ぶ他なかっただけの、その実「ウロコの無い」軟体生物だったのだと。この仮説に則るなら、白竜もまた上位者である以上、精霊の類を残したはずです。ならばシースに取ってのそれは、シース自身が作り出した「結晶トカゲ(石守)」こそが該当するのではないでしょうか。精霊とは虫を、石を、ソウルを別のどこかへ広げる為の媒介物でした。「鉱石とは精霊の分け身」ならば、それを宿す結晶トカゲを媒介者だと言い換えても大げさではないでしょう。

これらの想像が正しかったとして、今やシースは消失しました。したはずです。しかしかつてウロコを欲した白竜が、その目的の為に行ったあらゆる探求の痕跡だけは、「結晶トカゲ」として今もなお残り続けているのだと想像すれば味わい深い。

ソウルとはその者の遺志である。ともすれば「石守」とは、「遺志守」であったのでしょうか。

NPC たち

パッチ

最後に NPC についてもやっていきましょうか。ならば真っ先に触れたいのは彼でしょう。パッチ・ザ・なんたら。ソウルシリーズの準レギュラーですが、世界全てが繋がっていると仮定しても、パッチの名を持つ彼は、果たして同一人物なのでしょうか。

これに関して言えばまず解決しなければならない問題があります。つまりはじまりの火が消えた後、不死は不死のままだったのかということ。当初の予定では「火が消えた後、世界には闇だけが残る」そうで、闇の時代が到来し不死が跋扈するはずでした。しかしカアスの遺志を継ぐロンドールが火の抹消から簒奪に切り替えた辺り、結果的にそうはならなかった、それが闇よりも恐ろしい深海の時代だったのだと想像しているわけですが、そうなると古い獣の登場と封印とボーレタリアの盛衰という、恐らく数百年分の出来事を経て、尚もパッチが生存していたことになります。本編後、パッチが不死でなかったのならこれはおかしい。

なのでここは無難に、『DARK SOULS』のパッチと『Demon's Souls』のパッチは別人だと考えた方が分かりやすいんじゃないでしょうか。奴の事なので、実はちゃっかり同一人物だったとしても不思議ではないですが。

しかし別人にせよ、共通して聖職者嫌いだったパッチですが、『Bloodborne』では少し様子が違っていました。あの作品でも訳分からん男だったパッチ・ザ・スパイダーですが、言動や首から下げるロザリオのようなものを鑑みるに、なんと彼自身が聖職者だったように思えます。何らかの目的があるにしても聖職者として生きるパッチは「らしくない」と言うべきなのか、聖職者でありながら容易く信仰対象を鞍替えする様は、或いは彼らしいと思うべきなのか。

どちらにせよ、パッチ・ザ・なんたら。今後の動向が気になる男です。

答えは「沈黙」

薄い繋がりからの、ふとした思いつきの話をします。『DARK SOULS 3』には沈黙の騎士ホレイスという NPC がいました。アンリが頼りにする無口な男とのふたり旅は、しかし旅の途中、カーサスの地下墓で終わりを告げることになります。はぐれてしまったというのです。結局のところホレイスは燻りの湖にいました。地下墓にかかる大橋、その横の崖際には一人のカーサス戦士がホレイスのいるエリアをじっと見下ろしているのですが、どうもこのカーサス戦士がホレイスを突き落としたのではないか、というのが有力な説の一つであるようです。

このイベント自体は恐らく『DARK SOULS』でパッチがレア一行を突き落としたイベントを踏襲しているのでしょう。場所が「墓地」であること、そして落とされたレア一行のニコという男は、ホレイスのように無口であり、全身を鎧で覆い、携えるのはやはり「斧槍」と「盾」でした。そして落ちた先で正気を失い、守ろうとしていた者に牙を剥くという流れまでもが一致する。あくまで共通点を挙げるなら、という話ですが、そんな視点も面白い。

そんなホレイスですが、実のところ何者だったのでしょう。なぜアンリに同行するのか、最期まで沈黙を貫いたこの騎士からは、何一つ確かな情報は得られませんでした。ただ恐らく、ロンドールがアンリを契りの儀式へと導きたがっていたあたり、アンリ自身の目的とロンドールの目的は反するものであり、であれば旅の同行者であるホレイスとは、ロンドールにとってみれば邪魔な存在だったのではないか、そんな推測が可能です。このことからホレイスを高所から突き落としたのは、実は密かに後を追跡していた巡礼者だったのではないか、などという憶測もあるようです。どうなんでしょうね。

結局よく分かりませんが、ちょっと変わった角度から見てみるのも一興だと思います。「沈黙」とは何だったのか。

『Demon's Souls』にはユルトという人気キャラクターがいました。ソウルシリーズという大きなくくりの中における、いわゆる「暗殺イベント」の初代担い手であり、以降それを知るプレイヤーは露骨に怪しい NPC を警戒するようになるわけですが、そのユルトには二つ名がありました。「沈黙の長」です。はて、沈黙の長と、沈黙の騎士。何を思っての共通項かと考えると、シンプルに「沈黙」の名は暗殺者を示すのではないでしょうか。

処刑人シリーズ
沈黙の騎士ホレイスの○○
彼はこの、分厚く冷たい鉄の内を好んだ
元は、ある下種な男を殺し奪ったものであり その男は堕落した処刑人であったという
ホレイスはエルドリッチの子供たちの一人であり 唯二人の生き残りでもあった

ホレイスはエルドリッチの子供でした。もしかすると答えはずっとシンプルで、エルドリッチの子ホレイスは、最初から我が親を害そうとするアンリを殺そうとしていた……などと続けたいところですが、あくまでも「沈黙」という言葉が持つ不穏さからの、ふとした思いつきでしかありません。仮にそれが正しいとして、なぜ彼は道中アンリを殺してしまわなかったのか、心変わりでもしたのか、道半ばでは行えない理由でもあったのか。とまあ結局よく分からないまま終わる話なのですが、ただ一つ確かなことは、やがて壊れてしまったにせよ、或いはそれが最初からの本性だったにせよ、ルート如何によっては、結局ホレイスはアンリを殺害するということです。

薄い繋がり。しかし「沈黙」の名を持つ者を生かしておくことは、誰かの死に繋がる、これだけは確かなようです。アンリとホレイスの旅路とは、遠回りな「暗殺イベント」だったのかもしれません。

秘匿者メフィストフェレス

さて今回のところは彼女を最後と致しましょう。ユルトを殺害し、かつ自身のソウル傾向が最黒になるや否やどこぞから現れる仮面の女性。本作暗殺イベントの、恐らくは「元締め」です。秘匿者であるという彼女は、一体何者だったのでしょうか。

エペ・ラピエル
繊細な金の意匠が施された、儀式用の刺突剣
密室に篭り、ソウルの業を奉じる秘匿者たちの武器
強い炎の魔力が付加されており 秘匿者たちがひどく恐れられる理由のひとつとなっている

行動から察するに、獣の復活と共にもたらされたソウルの業は愚か、断片的な情報の漏洩も許さず、全て余さず「秘匿」すべく NPC たちを亡き者にしようとしているという事情が推測できます。その上で気になるのは、彼女自身がデーモンの業である「吸魂」を使いこなしていること。本編のソウルの業とは概ね、獣の復活後に賢者フレーキが見出し体系化したものであったはずですが、恐らくメフィストフェレス、引いて「秘匿者」と呼ばれる者たちは、此度の獣の復活以前に存在した古い知識を持ち、そして維持していることが伺えるでしょう。

さて『DARK SOULS』にはカリムのオズワルドという NPC が登場します。不死教会のガーゴイル戦後、鐘を鳴らした後に出会うことができ、免罪などを行ってくれるキャラクターです。突然ですが装備を見比べてみましょう。

カリムのオズワルド
防具 : ベルカの仮面、黒の聖職衣、黒のマンシェット、黒のタイツ
右手 : ベルカの刺剣、ベルカのタリスマン
左手 : パリングダガー
秘匿者メフィストフェレス
防具 : 金仮面、秘匿者の服、秘匿者の手袋、秘匿者の長靴
右手 : エペ・ラピエル
左手 : パリングダガー

オズワルドとメフィストフェレス。仮面に黒尽くめという身なりもさることながら、刺突剣にパリングダガーという点で共通しています。またその装備は共に魔法防御が高い。正直、シンプルにオマージュの関係ではないかと踏んでいるのですが、続いてはこちらに注目して頂きたい。

ベルカの刺剣
教戒師はまた卓越した剣士でもある
闇朧
黒教会の指導者の一人であるユリアは 卓越した剣士であり

カリムのオズワルドとロンドールのユリアの武器の比較です。この共通点はよく取り上げられる印象があります。率直に言ってしまえば、ロンドールの黒教会とはカリムの教戒師、そして女神ベルカの神秘の流れを汲んでいる事を示唆しているのでしょう。そしてこのユリア、『DARK SOULS 3』において「暗殺依頼」を出し、ダークハンドによる「吸精」を行うのです。装備という点では離れてしまったものの、こう結論づけています。ロンドールのユリアと秘匿者メフィストフェレスこそ、オマージュの関係であったと。

しかしただのオマージュでないとしたら。メフィストの正体などと大層なことまでは分かりませんが、しかしあの人物が、カリムの教戒師、そして黒教会の存在を強く想起させる作りになっている点だけは強く推せます。ここから想像できることは何か。吸精と吸魂、契りと楔。黒教会と秘匿者。やはり古い獣や楔の神殿といった、あの物語の根本部分に、かつてのロンドール、そして世界蛇が強く関与している気がしてならないのです。

秘匿者メフィストフェレス。或いは世界蛇の遺志を継ぐ、ロンドールの末裔だったのでしょうか。

微笑みのデブの余談。

そういえば余談があります。これは何度も言っていることなのですが、当サイトでは「基本的に」没データを考察材料にしません。それは「没になっているから」というより、「本当に無かったことになった」か、「設定上残っているけど本編の描写から外されただけ」なのかの判別が難しいからです。なので基本的には考察材料としては採用せず、しかし面白そうであれば都合よく取り入れるといったずるいことをしています。前置きが長くなりましたが、よそ様のサイトにこんな記事があります。

ダークソウル:没になった会話テキストを調べる (2/2) | クズ底

めちゃ面白いサイトなので引用した部分だけでなく全部読んで欲しいのですが、掻い摘むと、『DARK SOULS』に登場した「素晴らしいチェスター」は、元々同作が『Demon's Souls 2』として開発されていた頃からの流用であり、なんと「王の公使」のバリエーションの一つだったのではないかと。言われてみれば服装、そして貼り付けたような薄笑いという共通点があるんですよね。

で、それを踏まえた上でもう一つご覧いただきたいのが、この素晴らしいチェスターとロンドールの白い影の装備です。

微笑みロングハット
ウーラシールの過去で出会った謎の男 素晴らしいチェスターの黒いロングハット
あるいはチェスターの怨念によるものなのか これをかぶった者の顔には 常に満面の異様な微笑みが張り付くという
微笑の仮面
ロンドール黒教会の刺客たちの金仮面
その表面には、優しげな女の微笑が張りつき 故に彼らは「死の娼婦」とも呼ばれる
だがその笑みの下には 暗く萎びた亡者の顔があるのみだ

「張り付いた微笑」。先のチェスターが王の公使の一員だったかもしれないという仮説を頭に入れた上で、ではそのチェスターの要素を再び『3』で復活させたことに意味があるとするなら、「チェスターはロンドールないしカリム(ベルカ)と関わりがあった」という可能性の他、「チェスターの元々の設定は没になっておらず、彼は遠く先の時代から火の時代に紛れ込んだ王の公使だった」なんて深読みが可能になります。

仮に後者だとして、前述したように王の公使が「深みの信徒」であったなら、チェスターが紛れ込んだウーラシールもまた深淵に飲まれかかっていたわけです。そんな視点で見つめ直してみると、公使によって唆されたオーラントが獣を復活させた異変と、世界蛇に唆されたウーラシールが深淵を招いた異変は非常に似通ったシチュエーションであるように思えてしまいます。そして後者に至っても公使が潜んでいたことになるわけです。結局のところロンドールや公使一派がどう関わっているのか、などというのは推測もできないのが本音ではあるのですが、そこに似た要素があり、それを似せた理由があるなら、それを念頭に入れてもう一度ゲームを遊んでみると、また違った物語が想像できるかもしれません。何か思いついたら教えて頂ければ嬉しいです。

気になるのは、仮に深みの教導師から王の公使への動線が引かれているのだとして、そこには「女性から男性」という転換が存在しており、ロンドールの白い影から素晴らしいチェスターに対しても同じ転換が存在するという点。この転換が、元々は重要であった「性別」が意に介されなくなるほどの時代の流れを意図してのものだとすれば、やはりチェスターもまたロンドールの末裔、であったのでしょうか。

などと終始書きたいことを書き散らかしただけになってしまいましたが、今回はこれで終わりとします。楽しかったです。あなたもそうであってくれたなら幸い。

ではでまた次回お会いしましょう。

つづきます

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