大好きなオレンジをふたりで食べながら、学校でこんなことがあっただとか、勉強が難しいだとか、そんな他愛もない事を話す。
「鈴はほんとにオレンジが好きねえ」
鈴は笑いながら思い返した。むかし熱を出した時に、身体に良いからといってオレンジを食べさせてくれた母の笑顔を。だからわたしがオレンジをいっぱい食べるのは、お母さんにいっぱい食べて貰うのは……。そんな事で病気が治る訳ないだなんて知っていたけど、そうやって願う事くらいなら、きっと神様は許してくれる。母と子の、何よりも尊く、穏やかな時間がそこには流れていた。