ACID BAKERY

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少女でなければ

インターセックスは性自認が男か女か、どちらかにきまっているケースがほとんどだ。しかし代樹の性自認は、数少ない「インターセックス」だった。この場合才覚や資質などという言葉を適用するのが正しいかはともかく、とにかく代樹は自分がインターセックスである事にコンプレックスなど微塵も抱いていなかった。むしろ「両方もってるなんてラッキー!」などと本気で考えていた。実際、その身体的特徴が不利に働いた事もなかった。そう立ち回ってきたからだ。インターセックスという特徴は、少なくとも代樹にとっては「才能」であった。

だから、女性でなければプリキュアにはなれないという事実は、代樹の心の根幹を徹底的に打ちのめした。「ふざけんじゃねえマニ! いますぐその股間にはえた汚ねえブツを切り取ってこいマニ! なにがインターセックスだボケ! 中途半端な糞が!」。そんなつまらない罵声すら、今の代樹には強く響く。

キュアレッドは口汚く代樹を罵るマニーをなぐりたおして言った。「プリキュアは、わたし一人で十分。……あなたは、そのままでいいの」。その言葉で代樹は思いだした。じぶんは完璧な存在であるだけに、敵もおおい。インターセックスについて心ない態度をとられたこともある。代樹はそんな誹謗中傷になにも感じなかったし、いつだってぶちのめして前に進んできた。だけど一度だけはっきりと言われたのだ。「そのままでいい」。いつのことだか忘れたし、なんでそんなことを言われたのかもおぼえてない。しかし皆が実は「どっちかだったらよかったのに」と思っているなかで、彼女は、たぶん本心からそう言ったのだ。どうでもよかっただけかもしれない。きっとそうだろう。それでも、やっぱり、代樹はうれしかったのだ。うれしいと感じたじぶんに、気づいてしまったのだ。「おまえはもしかして」と代樹が言う間もなく、キュアレッドはカブラーンとの戦いに戻っていった。

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