『ジャンプ流!』 vol.25 荒木飛呂彦
ジャンプ作家たちの「〇〇流」を学ぶ『ジャンプ流!』。その中の「荒木飛呂彦回」の備忘録です。なお意訳の激しい要約になってしまっている可能性がありますが、そこはご容赦ください。また()内の「注釈」に関しては当サイト管理人のメモ書きです。
秘伝ガイド
付属の冊子です。内容の抜粋。
- 『定本 映画術 ヒッチコック・トリュフォー』
- 荒木先生がマンガの描き方を勉強していた時期に参考にした作劇の本。
- 第 5 部で主人公の眉毛を初めて細くした。
- 先生に質問!
- 影響を受けたマンガ家の先生は?
- デビュー前に読んで影響を受けていると思うのは梶原一騎先生、白井三平先生、横山光輝先生。永井豪先生のプラスティックのような質感の線も好きで。ファンレターを出して返事をいただきましたね。
- イタリア好きにはどんな理由が?
- イタリアの文化って、ただ優雅なだけじゃない、ちょっとズレたというか、ズラした感覚があるんですよね。芸術や料理からも、独自のアイデアを感じられて、それに触れるとなんだか落ち着くんです。
- 第一部主人公、ジョナサンの名前は、ファミレスから?
- 過去に「最初の打ち合わせをジョナサンでやったから」と話したけれど、あれ実は、面白いからそーいうことにしようってなったモノで(笑)。実際は JJ という風に頭文字を揃えたくて考えました。
- (注釈 : PS ゲーム『ファントムブラッド』の特典 DVD では確かに「ジョナサンで考えた」と言っていて、近年のインタビューでは否定しておられました。どうなってる? 新手のスタンド使いの仕業か? と眠れぬ夜を過ごしていたら、遂に真相が明らかになりました。おとなはウソつきではないのです。まちがいをするだけなのです。でもたまにはウソもいいよね!)
- 荒木飛呂彦 DAY & WEEK
'80 年代後半の連載時は 1 週間の中でネームと作画に約 3 日ずつ費やし、残る 1 日はオフに当てた。オフの日も映画などで自身へのインプットを行ったそう。
月間連載となった現在も、ペースを変えないようにそれぞれの作業を週単位で配分し、週間連載時とあまり変わらない感覚で仕事ができるようにしている。
- 先生からのメッセージ
安定していなくてもいい。変化する方が自然だし、楽しいんですよね。
ジョジョリオンが出来るまで
実際に原稿を描く荒木先生への質疑応答
- 仕事は鉛筆を削るところから始める。毎回自分でやる。「儀式」というか、「気分」がここから「入って」くるッ。
- アタリを取る青ペンを削る。
- デビューからずっとやっている。
ラフ
- 清書はネーム通りにはいかない。清書には清書のリズムがある。
- 荒木先生はラフを何枚も同時に行う。
- カメラで撮っているというのを意識したい。
- 一枚ずつ描いていると、その流れが途切れてしまうのだそうだ。逆にネームの時点ではあまり意識しない。ネームはただの設計図。
- (注釈 : 映画好きな荒木先生のこと。恐らく荒木先生の脳内にはカメラがあって、清書の際には「シーン」単位で描いているイメージなのだろう)
- 「漫画を描く上で重要な部分、時間を割く部分は?」という質問に対して
- 「表情」
- ただキャラクターが去っていくシーンだけを切り取っても、何かを考えて立ち去っているということが理解できる表情にしたい。上からの表情か、下からの表情かでも変わる。
- コマの中のキャラクターの体の向きや顔の向き一つで、伝わってくる雰囲気や感情が変わってくる。
- 「空間を作りたい」
- キャラクターがいる場面の奥行きなどを演出して、読者にさも「自分がそこにいるかのような」感覚を味わってほしい。
- 「立ち姿に気品が欲しい」
- (注釈 : 承太郎がクリント・イーストウッドの持つ存在感や気品を下敷きに設計されているように、荒木先生にとって「登場人物」とは知性を感じさせる工夫の上に成り立っているのだろう)
下書き
- 「定助というキャラクターは歴代の主人公に比べて『こうしよう』という意図はありましたか?」という質問に対して
- 「遭難者」のイメージでセーラー服にした
- ミステリアスな印象を持たせるため。
- 承太郎の帽子や仗助の髪型がそうであったように、遠くから見てもそのキャラクターであることが一目で判別できるシルエット(象徴)を作りたかった。
- キャラクターは着替えない。象徴性は被らないようにしなければならない。
- 定助のすきっ歯にはモデルがいるらしい。
- 康一くんや間田はどんどん小さくなっていったが、漫画にすると 10cm 程度の身長差はほぼ変わらないので、過剰に描かないといけなかった。
- 下書きは「構図」と「印(眉や口の位置など)」だけを作る。なんだったらペン入れで直しちゃう。下書きは全然重要じゃない。
ペン入れ
- 定規を使う際、「定規を置いた時の影」で線が入る位置を把握している。なので今使っている定規が生産中止になると困る。むしろ文房具に関しては下手に改良とかしないで欲しいそうだ。
- 『ジョジョ』内でよく使われる「丸いコマ」。これは元々、どうしても一コマ足りないと考えて付け足したもの。
- 漫画は面積が決まっているのが嫌だった、と語る先生。映像のように編集ができないのを不便に思っていたようだ。特に少年ジャンプはページ数も決まっていて、昔は CM(広告) なども全部決まってた。
- 今は無き「CM」だが、荒木先生はネームの表紙に「CMなし」と書くことを慣習として続けている。
- ジャンプの 19 ページという制限は、荒木先生のリズムと合わなかったらしい。どうしても 21 ページで話を作ってしまい、 2 ページをどう削るかで毎週悩んでいたそうだ。「DNAが『21ッ』」。「21 ページというのは宇宙の法則で決まっている気がする」。
- ベタを塗る箇所に使うペンはどうでもいいので、描きにくいところなどは先にサインペンで描いてしまうことにした。
- サインペンは線の描き分けが出来なかったり、消しゴムに弱かったりするという弱点はあるが、本当であれば皆サインペンでやってしまいたい。ペンをいちいちインクにつけるのが手間。
- 使用しているインクは「開明書液」という墨汁。これを水で薄めて使っている。
- つけペンは、映像内では明記されてないがゼブラの G ペンを使っている。これにクッション用のテープを巻いているだけで、特にこだわりはないらしい。太さは丁度良し?
- ベタは耐水性マーカーを使っている。
- ペンは「地球からの打撃」が手にクる。筆ペンにはそれが全然ない。腱鞘炎になりにくいのではないかと。
- 「30 年の間、絵柄に関して意識的に変えた部分は?」という質問に対して
- 他の作家に比べたら、あまり同じものを描かないように意識はしているが、自然に変わっていった。
- 時代の流れによって軽さや重さは意識している。陰影の入れ方。若い時は勢いからか、重量感を出していた。今は軽やかに。
- 白いコマがあっても、ベタを入れたり白いトーンを貼ったりと変化をもたせるようになった。
- ペンは道しるべ。主線にあまり意味はなく、「影」で人物を見せたい。目を書くにしても「眼球の丸さ」を描きたい。立ち姿にしても、体重がどこにかかっているかなど。
- 昔は太い線で描く風潮だったが、気持ち悪かった。主役を描いていても悪役を描いているような気持ちになる。
- 絵は描こうと思えば無限に描ける。
伝心! 創作の現場から
荒木先生の仕事場紹介
- 玄関にはトロフィーや、これまでの連載で使った印象深い資料など、「荒木飛呂彦の仕事現場」と分かるアイテムを配置して出迎えている。
- 今の仕事場は 15 年ほどと長い。こだわりはなく、使いやすさ優先。
- 洗面所は画材などを洗うのに使う。
- 『ジョジョ』関連書籍が並んでいるタンス。「『ジョジョ』の 8 巻」が無いらしい。
- 最近は CG 処理も取り入れている。人物は手書きだが、背景などのリアリティのために使い始めた。
- エアブラシ部屋
- キッチンの横に画材部屋。画材部屋にはなぜか調味料。
- 海外ロケをする場合、一週間ほど早く描き溜めておいて、 10 日から、できれば 2 週間ほどのスケジュールを作って、年に 2、 3 回行く。
- 荒木先生はキッチンで食事をとるようだが、使っているイスは前後に揺れる、いわゆるロッキングチェア。(注釈 : ……絶対食べにくい)
- ペンや原稿用紙が入っている棚の中を全部紹介したのは荒木先生が初めてらしい。
- 最近取り入れられている、「キャラクターがぼやけている」などの描写は白トーンで演出している。
- 本棚の一部が神棚になっている。本当は天板があってはいけないが、マンションなので取り付けられない。
- 資料はアシスタントが分類しているが、分類カードはダンボール製。本当はダンボールではなく既製品が欲しい。
- 『輪切り図鑑 クロスセクション―有名な18の建物や乗物の内部を見る』という本が面白い。船や建物が輪切りになって紹介されている。
- 「輪切りのソルベの話は……」「あれはまた違う」
- (注釈 : 失礼ながら、ソルベのこと覚えてたんですね……)
- 電話は有線の方が安心できる
- 画版は自家製。
- 机自体は有名デパートで購入。 2、30 年前に買ってずっと使い続けている。
- 使い終わったペン先を「供養」の意味でボトルに溜めている
- (注釈 : DVD では指摘されていないが、「吉良の爪」の元ネタらしい)
- 作業机の引き出しから出てきたノートには、ネーム前のプロットのようなものが書いてある。台詞などを書き出してあり、それで一話のページ配分などの構想を練ってから下書きへと入るようだ。
- 映画の脚本と同じらしい。「場所」や「登場人物」。(注釈 : 恐らく 5W1H を整理するものなのだろう)
- 最初からこのやり方。
- ジャンプだと 3、4 枚。ウルトラジャンプだとその倍。
- 「気分が乗ったら」、「思いついたら」とかではなく、仕事の時間にきっちり作り込むらしい。
- 仕事の時間以外にアイデアなどが浮かんだ場合は、「超トップシークレット」のノートに書きだす。
- 某ブランドの人から貰った iPad 用ケースに入っている。 iPad は持ってない。
- ヤバイ……結構ヤバイかもしれない……人の悪口とか書いてるから。
- 「キリスト」と記載されている箇所を指さして「キリス……」と言いかけるが末尾をぼやかしたように聴こえた。(注釈 : 色々気にしているんだろうか)
- 日常で感じた疑問などを全て書いている
- 「キャラクターデザインの上で考えていることは?」という質問に対して
- シルエットから考える
- リストバンドに限らず、何か手を絞めるものが欲しい
- 髪型は四次元を意識している
- 使用する画材や道具へのこだわりは「耐水性」くらい。
- 作業机の目の前にあるセパレートには写真が貼り付けてあり、これらは荒木先生が絵を描く上で「美の基準」にしている。
- 気分や季節などを考慮して BGM を変える。
- 読者に対して新しい考え、アイデア、絵、文化、世界を見せるために描いている。ジャンプはそういう意味では最先端を走っていると思うので、ジャンプで連載するということは、そういうことを考えることだと思う。
- ジャンプは自分が描いていた頃はまだ若い雑誌だった(から自由がきいた?)が、これから描く人たちにとっては「これまでの伝統」が重くのしかかってくる。若い漫画家はジャンプが持つ「最先端を行く」という部分を意識して欲しい。
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