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『Demon's Souls』リメイク版について雑感

『Demon's Souls』リメイクとは

元はフロム・ソフトウェア開発、ソニー発売のアクション RPG(2009.2.5 / PS3)であり、PS5 のローンチタイトルとして 2020 年 11 月 12 日にリメイク版が発売された。手がけたのは『ワンダと巨像』のリメイクなどを手がけ、その仕事ぶりに定評のあるブルーポイントゲームであり、フロム・ソフトウェアは関わっていないんだってさ。

『ELDEN RING』の宮崎ディレクターがリメイク版『Demon's Souls』をプレイしていない理由を語る

「ソウルライク」の はじまり であり、かの『DARK SOULS』から現行最新作の『ELDEN RING』にまで発展したシステムの始祖でございます。故にというべきか、必然的に複雑さと自由度、そしてアクションゲームとしての難度が向上した後続作品を経験したプレイヤーが遡って遊んだ場合、そのシンプルさにちょっと驚くかもしれません。

生意気な言い方をすると、この時点で既に完成していた「ソウルシリーズ」としてのゲーム性からその後如何に外れず、その上で何を足し引きすべきかに苦心した――それが、『Demon's Souls』以降のフロム・ソフトウェアだったように思います。そしてその始祖システムを、フロム以外の会社が預かることでどうなるのか。その解答の一つがこのリメイクでした。

総評 : 良いリメイクでした。しかし。

良いリメイクでした。 PS5 専用タイトルである為、最新ハードの実力を遺憾なく発揮したグラフィック、音響を含めた演出力が魅力です。また PS5 をお持ちの方ならお分かりのことと存じますが、コントローラー(デュアルセンス)が物凄い仕上がりになっていて、視覚・聴覚の二点でゲームを遊んでいた我々に、部分的とはいえ「触覚」による没入感を与えてくれるんですよね。他ゲームになりますが『Astro’s Playroom』なんかは当のソニー開発である為、このデュアルセンスの性能を引き出しまくっていて結構凄いですよ。触れば分かる。早く皆さんのもとへ行き届くことを願っています。とはいえ、これはデュアルセンスに対応するソフトの話で、例えば『ELDEN RING』などは従来の操作感覚と変わらなかったりするわけですが、その点『Demon's Souls』リメイクは当然と言うべきかこの辺を意識して開発されています。映像面・音響面に加え、手触りの面で強化された腐れ谷で存分に死のうね。

とまあ、これはどちらかと言えばハードについての評価に寄ってしまう気もするのですが、とにかくハードの性能と、やはり仕事のできるブルーポイントゲームの実力が組み合わさった結果、『Demon's Souls』は「良いリメイク」になっていたように思います。理想的な一品と言い換えてもいいかもしれません。

しかしながら、それは必ずしも旧作の上位互換であることを示さない、のだと思います。

そんなわけでございまして、旧作との違い、良かったところ悪かったところを気ままに書いていきます。

良かったところ

演出の強化と独自解釈

前述したように映像や BGM が強化されているのですが、中でも目立って印象に残ったものが幾つかあります。

濃霧
まずエリア転送直後の濃霧です。このゲームそもそもロードが滅茶苦茶早いので(というかほぼ無い)、神殿と各エリアの行き来が一瞬なのですが、転送した際にぶわりと濃霧が立ち込めて晴れるという光景が毎度展開されます。そもそもこの世界は色の無い濃霧に飲み込まれつつあるという状況なのですが、はっきりと「霧」が描写されているのって各エリアの中間点や、いわゆる「ボス霧」くらいでした。なので本編を遊んでいても、そんな世界の危機的状況は忘れがちだったと思うのですが、リメイク版の演出によって否応なく意識させられる。転送先オブジェクトの読み込みを誤魔化す為というような意図もあったかもしれませんが、世界観を大事にしてくれるのは非常に嬉しい。
血痕の発光演出
ソウルシリーズの伝統である血痕。リメイク版でも勿論存在するのですが、この血が赤く発光します。それだけと言えばそれだけなのですが、まず目立つので見つけやすいという利点がある上、暗い通路だと血痕が仄暗く道全体を照らすので異様な雰囲気が醸し出されるんですよね。血痕があるということはそこで誰かが死んだということであり、血痕が重なっていればプレイヤーは当然警戒する。そこに発光という小道具が加わったことで、初見プレイヤーの恐怖は大いに煽られるでしょう。まあ、既プレイヤーは血痕の理由が大体わかってしまうのでそこまで意味はないですが、それでも雰囲気はあります。
タカアシ鎧蜘蛛のオイル攻撃
雑魚含めボスの行動は旧作そのままと言ってよいのですが、ひとつ、タカアシ鎧蜘蛛については目を引く変更点がありました。タカアシ鎧蜘蛛に接近すると数度の応酬の後、蜘蛛は溜め動作と共に通路全体を埋め尽くさんばかりの炎を吐いてきます。これはリメイク版でも変わりないのですが、こちらの場合、タカアシ鎧蜘蛛は膨大な量のオイルを口から吐き、通路全体に広がったそれに着火するという手順に変更されていました。エリア全域が燃やし尽くされるという結果自体は変わっていないのに、描写に手が加えられていたことで新鮮な驚きがありました。
元からある遺体もプルプルする
御存じの通り、ソウルシリーズの歪んだ名物として「遺体を動かせる」というものがあります。倒して動かなくなった敵にプレイヤーキャラクターが接触すると転がったり絡みついたりしてくるアレですが、元から遺体として放置されているものはその対象ではありませんでした。しかしこのリメイク版では、元からある遺体もプルプルさせられるわけです。すごいね。
とは言えこれだけであれば、遺体プルプル愛好家の興味しか引けないので、併せてリメイク版のちょっとした特色をご紹介します。 今回、例えば炎属性武器で殴った(殴られた)ものは自分含め敵もオブジェクトも派手に燃え上がってくれます。そして魔法属性武器で殴った場合も同様の現象が起きるのですが、ただしこちらの場合、青白く燃え上がった遺体はその後に「消失」するんですね。ここら辺、「生物が思考し、世界を認識する為に必要なエーテル」であるソウルというものへのブルーポイント解釈が垣間見えるようで面白い。そしてこの消失現象は、最初から転がっている遺体にも、プレイヤーが殺して出来上がった死体にも同様に発現します。個人的に、ここら辺の細かい部分の整合性を積極的に取っていこうという姿勢は好感が持てます。
装備、アイテムが増えている

これは素直に嬉しかった。嵐の祭祀場で金ガイコツが持っていたデカイ両手鉈とか、ファランクスの盾などが使えます(予約特典のみの入手ですが)。防具に関して言えば青目(赤目)騎士一式なんかが増えてました。あとは状態異常回復系のアイテムなどが追加されています。

ちなみに隠し装備なんてものもありまする。

つらぬきの騎士装備
つらぬきの騎士装備-2

なんかフリューテッド装備の遺体が持ってた。

細かい取得条件は調べてください。ブルーポイントはコイン集めさせるの好き過ぎ。

トロフィー取得条件が一新されている

武器強化のトロフィーが無くなっています。これを聞いただけでピンとくる人もいるんじゃないでしょうか。そう! 純刃マラソンをしなくていい……とでも思いました? そんなことはないんですよ残念だったな。

どういうことかと言うと、リメイク版では指輪も幾つか増えていて、中でも「長寿の指輪」なる『DARK SOULS』でいう生命の指輪が加えられています。そしてリメイク版のトロフィー取得条件の一つに指輪のコンプリートがあるのですが、長寿の指輪を手に入れる手段として、ピカピカキラキラで交換することになるわけです、純粋な刃石と。つまりトロコンするならどちらにせよ純刃マラソンはしなければならないのでした。

ただ一つ付け加えるなら、実は予約特典で手に入るアイテムに長寿の指輪が含まれていたりします。つまり実質的に予約特典には純刃が付いてくると言っても過言ではない。更にもう一つ付け加えるなら、リメイクにあたって純刃のドロップ率がかなり改善された気がするんですよね。何となく黒骸骨倒したら二度目で出てくれたので。

また一新されたトロフィー取得条件の中には、収集面だけでなくシチュエーションに掛かるものもあります。具体的には「塔 1 のバリスタ通路をローリング回避で渡りきる」「塔の騎士を周囲の弓兵を無視して倒す」「ゴッドハンドで竜の神を倒す(とどめを刺す)」など。個人的には長いマラソンを走らないと取得できないプラチナトロフィーは苦手なので、こういったシチュエーション系のトロフィーは嬉しい。かつバリスタ回避のトロフィーなどが顕著ですが、取得した時に旧作をプレイした人間がちょっと懐かしくなれるネタになっているのもグッド。

日本語吹き替えの追加

これは良かったですよ。原語でのプレイは散々やったので新鮮な気持ちでプレイできました。でも熱心なファンの方の中には世界観が壊れると言う意見をお持ちの方もおられますよね。じゃあ原語に切り替えりゃいいじゃん。

余談ですが『Demon's Souls』の火防女と『Bloodborne』の人形ちゃんの声優は同じ Evetta Muradasilova さんだったわけですが、後年人形ちゃんの日本語吹き替えを早見沙織さんが担当したことに合わせたのか、火防女の日本語吹き替えも同じ方が担当しておられました。

ラトリアの商人(物売りの貴族婦人)とか三石琴乃さんですよ。豪華すぎ。

フォトモード

これ最高! なあいいだろう! 取り引きしようぜ! 損はないだろォ!! 全部のゲームにフォトモードをくれッ!

いやこれ良いですよ。フォトモード機能って今作で初めて触ったんですが、凄く便利ですね。記事を書いたりする関係上スクリーンショットを撮りまくるんですが、静止した時の中で被写体に対して自由な距離と角度で撮影が行えるこいつがいてくれたら、どれだけ捗ったことか……。欲じい…欲じい…。

良くなかったところ

良い所を挙げていったので良くないところも言います。

OPが「弱い」

何といってもまずはこれ。好みの問題ではあるんですが、一言で表現するなら、旧作のOPは「強烈」なんですよね。シンプルにかっこよく、しかし一方でちょっと笑えてしまうほどのインパクトがある。

対してリメイクのOPは、非常に美しく、洗練され、どこか寂しく、「世界とは悲劇なのか」という命題を掲げるこの作品を表現する点で、或いは旧作を上回るのかもしれない。しかしそれは理屈です。心を揺らすにゃ、ちと弱い。

演出過剰なところがある

演出面を評価させて頂いた矢先ですが、過剰に思える点もありました。分かりやすいところだと致命攻撃です。致命攻撃を取る際には従来通りに独自モーションが発生しますが、こいつがやたら長い。初見は新鮮味もありましたが、毎度続くとストレスです。ちなみにダッシュ致命などの旧作から存在する致命モーションをキャンセルするテクニックはそのまま残っているようですが、まさかこれありきの演出でもないでしょう。

他に挙げるならラトリアの稲光演出も余計だと感じました。エリアごとに異なる特色があるからこそのエリア制なので、嵐を連想させる演出は祭祀場だけで良かったのではないかなと思います。

日本語訳の解釈違い

吹き替えそれ自体に不満はないのですが、要所要所で訳がちょっと。最たるものが塔のラトリアです。あの名物「ヘルゥゥゥプ!」が「おーい! 助けてくれ!」と字幕付きですよ。もっと何かなかったのか。そもそもあの声、海外でどう受け取られていたかは分かりませんが、あの場所に幽閉された多くの囚人たちの呻きの一つなのだと、初見時には聞こえたわけです。あれはラトリアという地の得体の知れなさを支える「BGM」の一種でなければならなかった。それがあなた、字幕まで出してしまったら「あ、NPCがいるんだな」と丸わかりでしょう。正体の知れた幽霊など恐怖に能わず。もう行きたくねえ! と思わせるのがあのゲームの魅力の一つなのに、恐怖に慄き、眠れない夜を過ごす機会を奪われた初見プレイヤーが哀れでなりません。

また宮崎英高テキストに良く出てくる「見える」という言葉。「みえる」と発音していましたね。少なくとも『Bloodborne』では「まみえる」でした。もっとも「みえる」は「視界に収める」といった意味だけでなく「対面する」という意味も含むはずなので表現としては間違いないと思いますが、個人的には少し気になりました。

装備やアイテムに関して

装備、アイテムが増えて嬉しい。嘘はついてないです。ただ正直なところ増えた意味があるかと言うと……無いとは言いませんよ。ただ防具の話をするなら、相変わらず序盤を除いてゲーム全体における防御力の有用性が低いので、コスプレ以上の意味がない。元々そういう調整のゲームでしたが、隠し要素で防具まで誂えるなら、いっそのことそこらのバランスも弄ってくれれば良かったのにと思ってしまいました。

あと予約特典限定で追加された金骸骨武器(祭祀の刃)ですが、強化もエンチャも出来ないとはこれ如何に。要は強い装備が増えたわけではないので、結局は旧作と同じような装備構成で攻略することになるわけです。ベースは ほぼほぼ原作通りで、言葉を選ばなければ絵や音が綺麗になっただけ……或いはリメイクとはそれでいいのかもしれませんが、新たに遊ぶ上で選択肢を増やして欲しかった。

最大の違和感、袋への転送

色々やかましく言ってきましたが、それらは些末な問題です。個人的に一番驚かされたのが、トマスの袋への転送機能です。できるんですよ、それが。アイテムを抱えた状態で探索を進めてしまった結果、所持重量制限に引っかかってアイテムが拾えない、何か捨てなきゃ……そんな不便さはもう過去のこと。余計なものはその場でトマスに郵送してしまえばいいんです。便利な時代になりましたよね。なったけどさ。

じゃあ所持重量制いらなくない?

上記の違和感や不満、そんなものは気にしなければ気にならない範囲だと個人的には思います。強い武器の追加や、防具の有用性に変更がなされていないというのは、言い換えれば旧作のバランスを崩さず、その上でちょっとしたサプライズを添える采配とも取れます。ただこの袋転送機能、これはちょっと、何がしたかったのかがよく分からない。単純に便利なんです。いい機能だと思いますよ。実装された以上は使わなきゃ損でしょう。ただこの機能を加えてしまったことで所持重量制自体が不要になってしまった。

所持重量制限。これを嫌う声も結構目立ちましたが、これがあったおかげで、「一度神殿に戻りたいが、そうすると敵が復活するし、傾向も変わってしまうし」というジレンマが生まれたのだと思います。「死亡」という外圧ではなく、あくまでプレイヤー自身に、自分の行動の結果を考えさせる。その為の地味に重要なファクターでした。引くか進むか、何を捨てるか。失敗も成功も全てプレイヤーのもの。所持重量制限の半撤廃によってもたらされるのは、便利で遊び易いゲームではあるかもしれませんが、それは「プレイヤーが自分の頭で考える必要のないゲーム」であり、また「プレイヤーがいちいち定期的にアイテムの整理を自分で行わなければ新しいアイテムを取得することすらできない」という別の不便さを生んだだけではないかなと。

だったら思い切って、所持重量制限自体を撤廃してしまえば良かったんです。半端な仕様変更が生んだのは、『Demon's Souls』が持っていた短所の改善というより、よくも悪くもストレスと無縁ではいられないゲーム性からしか味わえない独特の触感を和らげる事だったのではないでしょうか。

この辺にしとこう

良かったところや不満点は他にもあるんですが、長くなってきたし気も済んだのでそろそろ畳むこととします。

おわりに

如何だったでしょうか、周回プレイヤーの我儘は。色々言い繕ったものの、包括すれば「旧作は散々遊んだんだから新作気分で遊ばせろ」ですからね。勝手なこと言ってますよ、全く。ちなみに NPC のビジュアルが大幅に変更されたりした部分は、あんまり気になってないです。旧作通りのデザインでアップデートされた絵面を見てみたくなかったと言えば嘘になりますが、それ以上にその思い切りの良さは加点対象にしたい。懐かしい顔ぶれに会いたくなったら、それこそ旧作をやればいいので。こんなことを言っている時点で、旧作とリメイク版は別物だと思っている証拠でしょうか。

ただこのゲーム、ローンチタイトルだったことが災いして(と言ってしまいますが)、PS5が十分に行きわたっていない不幸と重なってしまった事情があります。つまり、ぶっちゃけあんまり売れてない……らしい。しかしどうも発売二年以上経ってハードが少しずつ出回ってきているという話も聞きますし、正直なところ機を逸した感じはあるものの、それでも『ELDEN RING』等の影響でこれから遊んでみる初見または旧作既プレイヤーもおられることでしょう。褒める傍らで文句も垂れましたが、正直初見プレイヤーがこのゲームを遊んでどう感じてくれるかは、ちょっと予想がつかないところがあります。

ソウルシリーズの始祖をフロム・ソフトウェア以外が解釈した結果、果たしたどんなゲームになったのか。是非体験してみて頂きたいところです。面白さに関しては大丈夫。何せ、『Demon's Souls』ですから。

狭間の地に疲れたら、ちょっと休憩がてら、楔に囚われてみませんか。

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