おはようございます。服、着替えてますか? 着替えましょうよ。お願いします。この通り(深々と頭を下げている)。
……着替えましたか? いいえ、分かっておりますよ。見えないところでなら何をやってもいい、皆様方はそういう人たちです。
今回取り上げるのは『エヴァーグレイス 2』。フロム・ソフトウェアが送る着替えゲー、「装備する RPG」の続編です。一人旅だった前作から一転して、今回はパーティプレイをお楽しみいただけます。
――仲間となら、着替えられる。
『EVERGRACE U』
公式サイト
- ジャンル : コーディネート RPG
- 機種 : PlayStation 2
- プレイヤー : 1 人
- 発売元 : フロム・ソフトウェア
- 発売日 : 2001 年 6 月 21 日
『エヴァーグレイスU』をやっていきます。
— ACID BAKERY (@cid_bakery) November 12, 2023
予想もできないことかもしれませんが、なんと『エヴァーグレイス』の続編です。 pic.twitter.com/yOqbsBrIeQ
前作のレビューはこちら。
エディンベリーという大陸がある。
そこには、太古から 「ビリヤナ」 と呼ばれる木々が存在していた。
そして、ストルタ、モレア、セクルエ、 トレドという四つの村があり、人々はその森とともに慎ましやかに生活を喜んでいた。
かつてリューベーン帝国という強大な軍事力を誇った国が存在したこともあったが、いまその姿は絶えて久しい。
クレストと呼ばれる奇妙なあざを持つストルタの少年ユテラルドは幼い頃、村の指導者の一人であった父と母、そして幼なじみで姉のように慕っていたシャルアミを、対立していたモレアの人間に暗殺されてしまう。
両親を失い、天涯孤独になったユテラルドは、 交流の友人であったリヤナの父に引き取られ、セクルエ村でリヤナと一緒に育てられた。
ユテラルドは、村はずれで修行していたある日、倒れているひとりの少女を発見する。「災禍の夜」の直後のことであった。
フィルナというその少女には、それ以前の記憶の一切がなかった。 その後、彼女もまた、セクルエ村で彼らとともに過ごすのだった。
両親を暗殺した、そしてモレアへの復讐を胸に、やがて一流の剣士に成長したユテラルドは、 両親の仇を討つべくストルタ軍に加わる決意をする。
彼と本当の兄弟のように育ったリヤナも、成人したのを機にユテラルドとともにセクルエをあとにした。そしてフィルナもまた、彼らとともに旅立つのだった。
その先で彼らを待つ運命の出会いも知らずに。
(説明書より)
固有名詞がいっぱい出てきて怖いと思いますが、主人公三名の名前「ユテラルド」「リヤナ」「フィルナ」だけ覚えておけば問題ないです。
というわけで、前作主人公ユテラルド、続投です。しかしあらすじを読んで貰えれば御理解頂けるように、本作は時系列上では『1』の前日譚に位置します。『1』においてはストルタ四剣主としての地位を確立していたユテラルドが、才気あふれるパンピーに過ぎなかった頃のお話。四剣主というからにはユテラルド以外の三人は? という前作からあった疑問も一気に氷塊するってんですから、景気の良い話でございます。
ただユテラルドは変わらず主人公ではあるものの、彼の核心が描かれるのが未来の出来事(『1』)ということもあり、実質的にはパーティメンバーであるリヤナとフィルナが話の主軸を担っています。ユテラルドは一歩引いたところで腕を組み、たまに重みのある一言を発する立ち位置。そんな三人がストルタの兵士になる為に旅立ち、道中遭遇した呪術師に「HP を共有する呪い」を掛けられてしまったところから、お話は始まります。
呪術師のなにやら怪しげな企みについてはともかく、三人で HP を共有した状態では危なくて兵士になれない! あの野郎をとっ捕まえて術を解かせよう!
……という、ちょっと弱めの導入から始まる『エヴァーグレイス 2』。ここから呪術師の目的が明らかになるに連れて物騒な事件に巻き込まれていくわけですが、結局この HP (魂)を共有するという設定自体は切欠に過ぎず、お話の上で特に重要なものではなかったのが残念でした。「HP を共有する三人パーティー」というシステムの為の言い訳でしかなかったので、欲を言えば、せめてフレーバーとしての深みが欲しかった。
「せめて」って言っちゃいましたね。
そう、本作の特徴である「パーティー内で HP が共有される」システム。それが面白さに寄与していたかというと、残念ながらそうでもないという。
運命共同体の主人公's
極論、戦闘ゲームとは「HP を管理する遊び」です。パーティーメンバーが増えるほど生命維持に必要な数字の増減に気を配る手間も比例して増大していき、むしろその手間こそ面白いところではあるのですが、その点、本作は三人で一本の HP バーを共有しています。四の五の考えたくない、あちらこちらに気を回したくないという性質のプレイヤーにとっては、単純化されている分、遊びやすいゲームだとオススメしたいところでは、ある。
そうはならなかった。主人公三人が HP(劇中では SG)を共有しているというのは、言い換えれば当たり判定が三倍になった上で一人死んだら即全滅、この現実を受け入れねばならないということ。
もちろんここまでは悪いことだとは思いません。ここまでは「ゲーム性」です。命が共有された今のままでは不味い、という物語の導入に沿っていますしね。しかし本作では基本的に三人のうち一人を操作し、キャラの得手不得手に合わせ任意のタイミングで切り替えながら攻略を進めるのですが、操っていないキャラはオートでガードしてくれたり攻撃してくれたりするわけです。そう、「してくれたり」する。つまり「してくれなかったりする」んです。自キャラがガードを固めていても、仲間がガード不能行動中に攻撃を喰らうことが、ままある。そして酷い時はワンパンで死亡しやがる。(ガードブレイクなんて要素もある!)
要はこのゲーム、事故って死ぬんですよ。
仲間が戦闘不能になるなら、別の人員の努力を以てリカバリーする。これが戦術でありゲーム性です。でも本作ではそれが出来ません。一人が死んだら終わりだから。みんなはひとりのため、ひとりはみんなのために、死ぬ。
そして本作最大の売りである「装備する RPG」。前作と比べて更に属性のメリハリが強調されており、敵の弱点属性を突けば驚くほど容易く討伐が可能で、逆もまた然り。即ち敵の攻撃属性を打ち消す装備で固めないとあっという間に全滅です。そして HP は共有なのにメンバーのステータスはもちろん個別なので、一人の装備を固めたところで他二人の装備が柔いままでは意味がない。一本の HP バーを保持するためのリスクとコストが、ただ三倍になってしまっている。よろしくない、よろしくないですよ、コイツは。
言いたいことはまだあります。繰り返しになりますが、シリーズの売りは「お着替え」です。つまり今では当たり前になっている、「装備をファッションとして愉しむ要素」なんですが、上述したようにちゃんと敵の属性に則した装備で固めないと難度がハネ上がる事情がある為、ある程度アセンが固定化します。キャラクターによって身に着けられない装備がある、という事情を除き、まあ武器も装備も似た構成になるわけです。この時点で自由度高くファッションを愉しめる……とは、ちょっと言い難い。ただでさえ防具のバリエーションがあんまり多くないのに。
前作はパルミラパワー(耐久値)が装備それぞれに設定され、その値がゴリゴリ目減りしていく様が「装備する楽しさ」を損なっていたと書きましたが、今作ではゲームオーバーを避けるために最適に近い装備構成を心がけなければならなず、結果としてバリエーションが狭まるといった方向で、「装備する RPG」という売りを自ら損なっている。
なんか……なんか常に「惜しい」んだよな、このシリーズ。
とはいえ仲間(非操作キャラ)は基本的に優秀です。事故の元とは言ったものの、それでも仲間たちは健気にも出来る限りの努力をしてくれます。そこら辺の仕様を理解した上で装備を固め、自キャラでガードすべきところを怠らなければ段々と楽になっていくゲームなんです。つまり慣れが全部と言っていい。大抵のゲームはそうだろと言われそうですが、とにかく慣れです。慣れてください。それは、呪い言葉であった。
良い所もあります。ゲームがごちゃごちゃしてしまっただけとも取れる「パーティー性」ですが、そういうの考えなければ、単純に賑やかで楽しいです。思えば荒廃した土地に一人で放り出されて「死ね!!」と言われるゲームばっかり作ってる会社なので、この当たり前の「仲間」という概念が何とも嬉しい。というか全プロダクトの歴史を見渡してみても珍しいですよ。
仲間がいる"よ!!!!
次にステータス周りが明解になりました。『1』であまり意味を為していなかったキャラクターの基本ステータスは廃止され、『2』では装備によってのみ能力値が変動するように。HP 総量は三人のステータスの合算。シンプルで良いでしょ。
ステータス画面。ちなみに画像の装備は前作衣装。『1』のデータが保存されたメモリーカードを読み込むと店売りされます。
また前作におけるパルミラアクション(PA / 技)は健在ですが、前作との違いとして、PA は武器ごとに付帯されてはおらず、アクセサリーの形を取っていること。これにより、この効果を得たいならこの装備を身に着けなければならないという縛りが取っ払われています(ファッション性の拡張)。また前作では耐久値を削る形で発動していた PA が、回数制になっていること。なおこの「回数」は熟練度のようなものであり、使用するだけ PA ごとに増えていくし、使い切っても装備は壊れない。「使い続けると装備品として役に立たなくなる」という心理的負荷を撤廃できたことは大きいと思う(ここら辺はソウルシリーズにも言えますが、向こうはまだ耐久値が高く設定されている)。
さて、更にこのゲーム、通常攻撃できるのはあくまで操作キャラクターだけで、非操作キャラはオートで攻撃したりガードしたりするのですが、この PA のみ、それぞれのキャラに割り振られたボタンを入力することで、プレイヤーが任意のタイミングで発動させられます。そして PA の組み合わせやタイミングを工夫することで「コンボ」が狙えるんです。
コンボゲー
コンボが上手くハマると強化素材が入手でき、これを使って装備を強化することができる。つまりレベルアップや経験値の概念が無い代わりに、装備を鍛えることで攻略難度が低下する、名実ともに「装備する RPG」ってワケですわ! システムに振り回され、理不尽なゲームになってしまったことは否めないのですが、こと「装備する RPG」というコピーに対する誠実さに関しては、ちゃんと前作を超えようという工夫が見られます。そして TPS 視点の『キングスフィールド』でしかなかった前作を、アクション RPG として発展させたいという意気込みも感じる。これらの創意は評価したいんですよね。いやぁこれは……売れちゃうかも……。
進歩する企業、フロム・ソフトウェア。いつか世界中で 2500 万本以上売れる大作ゲームを作り出す日がやってくるかもしれない。そのころにはプレステも 5 とかになってんのかな。
何度も言ってしまいますが、惜しいシリーズなんです。このゲームの評価点としてコンボの導入を挙げ、アクションゲームとして向上しているなどと言いはしたものの、実はコンボしなくてもクリアできてしまうっていうね。自分はたまに使いましたが、距離を取って単発で PA をぶっ放すだけでも割と敵は解けて無くなってくれます。
そしてこれはもう一つの事実を示唆します。実は装備を強化しなくてもクリアできちゃう。前作冒頭でステータスをカンストさせてしまったので、今回は苦しくなったら強化する、くらいの遊び方を心がけてたんですが、結局やらずに最後までいけちゃいましたからね(当然、強化した方がゲームの進行はスムーズではあります)。
加えて言うと、キャラによって得手不得手がはっきりしている為、任意のタイミングで操作キャラを切り替えて攻略を進める……とかも、実際のところは、ガード成功時に体力回復する能力を持ち、かつ攻撃速度の速いリヤナを使っておけば基本的に問題なかったりする。
新規導入された要素のどれも、クリアに必須じゃないっス。
つまり、そういうバランスのゲームなんです。良く言えば、試行錯誤しながら攻略するのが好きなプレイヤーから、とにかく最小限の手間でエンディングを見たいプレイヤーまで広く楽しめるゲームだと評価できないこともないのですが、まー総評として「大雑把」かなと。
ただ、それでも、それはそれとして、続きをください。
『1』はユテラルドという青年に刻まれた出自の謎と、喪ったはずの幼馴染との再会が描かれました。
『2』ではユテラルド本人の核心からは離れるものの、打倒すべき因縁の敵勢力「モレア」との確執を描きました。
こうして振り返ってみると、『エヴァーグレイス』という世界を壮大なサーガとして見た場合、『1』『2』どちらも「外伝的」ではあるんですよね。本編というには大きなことに決着がついていない。そうして小さく切り取る形でないと『エヴァーグレイス』というゲームは世に出なかったんだろうなとも思いますが、前作で再会できたシャルアミはその後どうなったのか。対照的に今作で別れることになったフィルナの行方は? と、正直ボルテージを上げるだけ上げて放り投げられた気分なんですよ! お願いします! この通りです(深々と頭を下げている)!
かのスクウェア・エニックスだって、「イヴァリース」という世界を色んな作品で多角的に描いているじゃないですか。「ひとつの世界の歴史を一コマずつ送り出す」、みたいなやつ、やってよ、フロムも!
本シリーズはソウルシリーズの源流に当たるという評がありますが、裏を返せば、ソウルシリーズを作り続けてきたフロム・ソフトウェアは、この「装備する RPG」と向き合い続けてきた企業と言えます。見た目だけに限らず、ステータス補正や強靭度・特殊効果の導入によって「それを装備する理由」をプレイヤー自身に思考させる、この導線を引くことにずっと余念が無かった。だからこそ、『ELDEN RING』という集大成を作り終えた今、ソウルシリーズ的なアプローチから外れた、新しい「装備する RPG」を生み出して欲しい、そういうぼんやりとした期待感があるのです。
本日もやって参りました。フロムお得意のセルフオマージュ、或いはフロムの「癖」ってずっと変わんないのね、のコーナーでございます。
きっと皆様方が最も気にかけている要素が、本作にも毒沼は登場するのか、その一点だと思われます。
あります。っったりまえじゃないですか。
導きの毒沼
たぶん「毒沼」の次に「虫」を愛する企業、フロム・ソフトウェアですが、「虫を纏わりつかせることでプレイヤーに不快感を与えてやろうぜ」という試みは、『エヴァーグレイス』の頃にはありました。
虫が食む
『エヴァーグレイス2』
— ACID BAKERY (@cid_bakery) February 14, 2024
フロムくんってホント好きだよね、「蝕み」。 pic.twitter.com/fERx4PFF0J
そしてフロム・ソフトウェアといえば、コレ。ムーンライトもちゃんと登場します。嬉しいですね。
……画像ですか? ……とってないん……ですよね。いや画像じゃなくて月光そのものを。
いえね、本作にはコロシアムという要素がありまして、大量に湧くモンスターをなぎ倒していく特殊ミッションのようなものがあるんですが、各章ごとに内容が変化するコロシアムをクリアする度にアイテムを入手できるわけです。で、「全章の」コロシアムをクリアすることで、晴れてムーンライトを入手できるんですが、一章分やり忘れまして。この時点でムーンライト入手は不可なんですね。更に本作はクリア後に周回要素が愉しめるんですが、次周回で同様にコロシアムを全クリすると、ムーンライトから光波を放てるようになります。
じゃあ仮に一週目でムーンライトを取り逃しても、二周目でゲットすればいいじゃん、三周目で光波を撃てるようにすればいいじゃん、とっととやり直してこいよ……じゃ、ないんです。ムーンライトを入手できるのはそのデータの一周目だけなんですね。つまりその後何周しようが、ムーンライトだけは入手できない。なにそれ。
慣れてしまえばこのゲーム、理不尽さも苦ではなくなりますし、べらぼうなプレイ時間を持っていかれるということもないのですが、一周目で取り逃したらもうそのデータではムーンライトを入手できない「仕様」で大分イヤになってしまい、じゃあ、もういいかなと。一度遊んだデータを割と大事にするタイプなので、新たにデータを作り直すというのが心理的にしんどかったんです。
というのは理由の半分で、このゲームで遊んでいた時期は、「もうすぐ『ELDEN RING』の DLC が発売される」という段階だったので、ちょっと狭間の地に戻りたかったんですよね。本作クリアしてからレビューの執筆に時間がかかったのはそういう理由もあります。
ということなんで、忘れたころ、思い出した頃に、また本作の世界観に戻りたいなという心持ちになったら、ムーンライトを取りに戻ってくるかもしれません。
そういう希望が、人生には必要なのだ。