『SHADOW TOWER』
2022.07.24
フロム・ソフトウェアによる、広大なオープンフィールドを探索させる手腕は『ELDEN RING』で見せて頂きました。だったら次はただ一つの建造物をじっくり探索するようなものを作ってくれやしないか、などと思ったものですが、そういやフロムには既にこいつがいたぜ。
『SHADOW TOWER(シャドウタワー)』、長大なる塔を、ただひたすらに潜るゲーム。

『SHADOW TOWER』

ストーリー
PROLOGUE
大陸イクリプス。ここにはゼプターと呼ばれる聖地がある。その地には封印の塔があり、周辺諸国の王達は旧くからの言い伝えを守り、その塔を護衛していた。あの災いが再び起こらぬようにという祈りを込めて。
それは旧い時代の出来事であった。遥か昔、この大陸の名前の由来である王国イクリプスに悲劇が訪れた。
単眼の王冠。それは巨大な穴を残し、一夜にして王国イクリプスを消し去った忌まわしき瞳。隆盛を誇っていた王を破滅へと導いたその恐るべき力。
国王は満足げな顔をし、常にそれを身につけていた。「この冠こそが、予に力を与え、覇者とならしめたのよ。」王の口癖であった。
かつて怪しい光を放っていたその単眼は閉じられ、今は塔の中で静かに封印されている。あたかも永遠の眠りに就いたかのようであった。
古の悲劇がいかなる物であったのか、今となっては知る術はない。聖地ゼプター、平和な時は永遠に続いていくかのごとく思われた。まるで呪われた土地である事など忘れられたかのように…
STORY
最近大陸には「傭兵」と呼ばれる者がその数を増やしていた。国には所属せず己の利益のためだけに行動し、己の力のみで道を切り開く。
その中の一人であるルース・ハーディは、新たな仕事を探して、旅に出ていた。各国の中継所であるゼプターの町には彼が駆け出しであった頃に世話になった宿屋のばあさんがいた。 「久々にばあさんの所で飯でも食わしてもらうか…。」 ルースの頭の中には厳しく、やさしいあの笑顔が浮かんでいた。それは両親を知らぬ彼が初めて感じた暖かみであり、いつの日も彼の支えとなっていた。
しかし夕闇迫る森を抜けたルースの目に飛び込んできたのはただの瓦礫の山だった。近くには人の気配すらしない。はっと気づいて空を見上げた彼の目に、いつも偉そうに聳え立っていた塔の姿は写らなかった。そこにはすべてのものがそこに吸い込まれたかのようになぎ倒され、塔の根元だけが寂しげに残っているだけであった。
呆然と立ち尽くすルースは人の気配を感じ振り向いた。「誰だ!」 そこに立っていたのはローブ姿の一人の老人であった。「私はその塔を代々守ることを宿命付けられた僧侶。そなた、その長剣から察するにマルスのウェディン卿であろう。この事態を察するとはさすがに素早に事じゃの。」 ルースは人違いだと言おうとしたが、老人は言葉を続けた。「ここにいた者達は魂を喰われてしまった。この塔の下にある魔の世界の者達にな。魂を取り戻せれば救う事もできるのだが、儂に魔の者と対峙するほどの力はない…。何人かが降りていったが、おそらく生きては帰るまい。人が造った武器など奴等には役には立たぬのだから…。」
「しかしもう時間がない、あと幾日かもすれば塔の下にある闇への扉は閉ざされ、魂を喰われた者が救われることはない。今はもうそなたに全てを託すしか手だてがないのだ。ここで貴公が行かめと言うならばそれは仕方ない事なのだが…。」
「どうすれば魂を救える?」 ルースの問いかけに老人は答えた。
「闇の者に喰われた魂は、その者の力としてつながれている。それを解き放つには魂を縛っている闇の者を倒せばよい。そして何より重要なのは解き放った魂を元のさやに収めるための鍵、単眼の王冠を見つける事。そうすれば自然と導かれるであろう。」
「これは我らの一族に代々伝わる宝剣。闇の者の剣だというが…本当の所はわからぬ。しかしこの剣だけが希望となることだけは間違いない。持って行くがよい。」そう言うと老人は古びた短剣を差し出した。
「こんな短剣一つで穴に降りろだと?」 ルースは頼りなさげな武器を見つめ、呟いた。どうやら闇の者と言うのは御伽噺に聞く魔物と言うやつらしい。しかも人が造った武具では太刀打ちできぬほどの…。この穴に入って自分は果たして帰ってこられるのだろうか? 人違いだと言ってさっさと逃げてしまうのが得策ではないのか?
だがその時に浮かんだのは、ばあさんの笑顔と暖かい食事だあった。「仕方ない。」 ルースは小さくため息をつくと、塔の地下部分へと降りていった。
シャドウタワーを恐れるな。
そんな話だったっけ……っていうか初期装備のショートソードってそんな貴重なもんだったの!? 特に使わなかったけど!? などと改めてストーリーを読み直して目を剥いちゃってますが、要はいつものやつというか、何も考えず前へ、いや深くへ潜っていけばいいゲームになっています。で、 wikipedia などで本作の該当記事を読んでみると、結構な高難度を謡われてますな。しかしちょっとビビらせすぎというか、「ゲームの腕とか戦術とか以前のところで、めんどくさがらず、変にゴリ押そうとしなければ全然クリアできますよ」ってことだけは言っておきたいなと思いました。
まず本作を高難度たらしめる要素の一つとして、回復アイテムが有限であるということ。これは(半分)本当。というのも、エリアで拾える回復アイテムの数に限りがあるのは勿論として、敵もアイテムをドロップしてくれるのですが、このゲーム、モンスターのリポップ数に上限が設けられているんですね。アイテムショップはありますが、入手できる通貨にも数の限りがある以上、転じて「回復アイテムは有限である」としているわけです。
かつ本作の装備には結構シビアに「耐久度」が設定されていて、壊れたものは使用できなくなる上に、これらは特定の場所でHP と引き換えに修復するようになっています(この手段を取らず修理するアイテムは別に存在する)。つまり「HP 回復アイテム」が「装備耐久度回復アイテム」を兼ねていることを意味しており、有限であるそれが尽きれば探索すらままならずゲーム進行が不可能になってしまう、ある種の詰め将棋的な様相を呈しているのが本作『シャドウタワー』なのです! ……そんなことないよ!
や、まあ言い分に嘘はないんです。実際そういう「限られたリソースをどう割り振るか」というシビアさが本作の売りであり美味しい部分であることは間違いないでしょう。しかしちゃんと抜け穴めいたものは用意されているといいますか、本作では割と早い段階でリジェネ指輪、いわゆる「時間経過で HP を自動で回復してくれる」アイテムを配置してくれちゃってるんですね。さすがに最大 HP の半分までしか回復してはくれないものの、こいつの入手によって「HP 回復手段が有限である問題」は半ば解決します。
もっとも装備品は強力であればあるほど修理コストが大きくなるので、現在の最大 HP 、あるいはその半値を上回る装備を修復することはできません。なので序盤に手に入れたちょっと火力に欠ける武器なども場合によっては使ってやる、それこそ「やりくり」が大事なゲームであることは間違いない、ないんですが、だとしても「修理→待機(回復)→修理……」と時間を掛けることを覚え、回復アイテムの温存を覚えれば、基本的にはもう詰むことはないでしょう。しかもここだけの話、もうちょっと進めば「HP 全回復ポイント」まで用意されているという至れり尽くせりっぷり。禅の心。しかもやや面倒ではありますが、この給水ポイントまでのショトカが後々開通しさえするので、もうお分かりですね。時間と手間をかけることに絶望しない精神をお持ちであれば……シャドウタワーだぁ? そんなもん、たまに魔物に襲われるだけのピクニック・スポットですわ。
そんなビクビクしながら掘り進むような遊び方で楽しいのか? というのは見解の分かれるところでしょうが、要はプレイヤーが一手間違えればゲーム進行が詰む! なんてことにはなりませんよ、ということだけはここで覚えて帰って頂きたいわけですね。
自動回復を活かして装備耐久度や HP を維持して慎重な探索を心がけるというのはあくまで遊び方の一つでしかありませんが、そういうコツコツしたやり方が楽しいんだぜという人には、むしろ向いているゲームだと思っています。もちろんリジェネ指輪は進めていれば絶対入手できるアイテムってわけでもないので、本作の味である「回復手段の管理」に苦しみながら遊ぶのも当然、面白い。そう、シンプルな話、ちゃんと面白いんですよ、このゲーム。
『シャドウタワー』。一部の NPC を除き全ての生物・非生物がプレイヤーへ敵意と悪意を向けてくる中、 BGM すら無い暗がりの世界であなたは自らの一挙手一投足と向き合うことになります。ベースは確かに『キングスフィールド』ですが、そこへ「プレイヤーが自分の選択に悩む楽しみ」を付け足したものが本作。確かに人を選ぶゲームではあるのでしょうが、それ以上に、あなたが選ぶ価値のあるゲームであると信じています。
え? 「古さ」がキツい? ……いやアナタ……それを言っちゃあ……。
フロムゲー温故知新 - 1
では「古さ」を楽しんでいきましょう。過去作から新作を知る、フロムゲー温故知新。
曰く『デモンズソウル』はそも、「『キングスフィールド』の新作は作らないのか」といった話題から企画が出来上がったらしく、ソウルシリーズが語られる際もその源流に据えられるのは『キングスフィールド』だったりします。そのこと自体に異論はないものの、大きな流れの中で「ソウルシリーズ」の確かな「型」を作ってみせたという意味で注目されるべきは、本作『シャドウタワー』ではないかと常々思っておりました。
「ソウル」の息吹
例えば。本作はレベルという概念こそ無いものの(モンスターとの戦闘でステータスが微増する仕様ではありますが)「ソウルポッド」というアイテムから得られるポイントを消費してステータスに振っていくシステムになっています。本作は『キングスフィールド』三部作に続くフロム製 ARPG 二作目となりますが、この時点で「ステ振り」の原型が誕生していました。また前述した、 HP が装備品の修理コストを兼ねる設計が「リソースの割り振りをプレイヤーに吟味させる」目的に基づくなら、そこに面白さの肝を見出したかつての製作者たちの志を継ぐ形で、後々のより先鋭化したリソース管理システムたる「ソウル」が生まれた……とも言える。想像に過ぎないことですが、後々世界を魅了する「ソウルシリーズ」の確固たる息吹はここに在ったのだと、そう考えて損は無いんじゃないかと思います。
あとはですね、「敵のリポップ数に限りがある」と聞いて思い当たる節がある方もいるでしょう。『ダークソウル 2』ですね。思うに『2』は隠し扉の仕様が『キングスフィールド』及び『シャドウタワー』のそれに回帰していた点もあり、「過去作でやってたことをもう一回やろうぜ」という、ある意味でフロムらしい意識が特に強い一作だったのかもしれません。付け加えると『シャドウタワー』のステータスについては前述しましたが、異様に多いステータス項目のうち武器を振る速度やスタミナ回復速度に関わる項目があり、これは『ダークソウル 2』の「適応力」、或いはそれ以前の「技量」等による魔法発生速度の上昇に通じます。もしかすると「ソウルシリーズ」というプロジェクトそのものが過去のフロム製ファンタジー作品の「再トライ」という意気込みのもと動いていたと、そんな見方は大いにアリでしょうね。
ところでステータスによって武器を振る速度が上昇する制度……絶対にソウルシリーズでもやろうとしてただろと踏んでるんですが、対人等の兼ね合いもあって断念したんだろうと思ってます。「敏捷」とはその名残だったのでしょうか。
フロムゲー温故知新 - 2(なんかみたことあるやつら)
能書きが長くなりましたが、ここからが本題。フロムゲー温故知新! これなんか見たことあるのコーナー。
きのこ

『SHADOW TOWER』


『DARK SOULS』

怪奇! きのこ人間現る。『SHADOW TOWER』の頃はまだハードパンチャーではなかった。
人形

ルルフォン - 『SHADOW TOWER』


人形 - 『Bloodborne』

『シャドウタワー』のヒロイン……ヒロイン? のルルフォンさん。意地悪なシャドウタワーの住人に本体を封印され、人形にその魂を移しています。ポーズ、そして設定面を考えても並べ甲斐のあるキャラクター。
人形

ルルフォン - 『SHADOW TOWER』


プリシラ - 『DARK SOULS』


フリーデ - 『DARK SOULS 3』

鎌! 女! 強い! 闘鬼ルルフォンさんの本体。「女性には鎌を持たせよ」。フロム・ソフトウェアの雇用契約書にはそう記載されているらしい。
人形

キラーデーモン - 『SHADOW TOWER』


山羊頭のデーモン - 『DARK SOULS』


オックスラミヤ - 『SHADOW TOWER』


牛頭のデーモン - 『DARK SOULS』

「どうして『ダークソウル』のデーモンは羊と牛なの?」とお子さんに訊かれたら「『シャドウタワー』からのオマージュだよ」と返してあげるのも一つの解答かもしれません。
上は女、下は蜘蛛、なーんだ

『SHADOW TOWER』


『キングスフィールド 3』


クラーグ - 『DARK SOULS』

「裸の女をゲームに出すときは、半身を異形にするか、腐らせよ」という社則の存在が疑われる企業、フロム・ソフトウェア。
ちなみに画像の例で全部ではないです。
巨人、二人

『SHADOW TOWER』


『DARK SOULS 2』

暗がりに配置された巨人二体。これがセルフオマージュだとすると、あまりに引用の仕方が渋いので個人的にはこのゲームでベストに近い感動がありました。ちなみに『シャドウタワー』のこの場面、結構な難所なのでマジで嫌い(来なくても良い場所だった気もするけど)。「好き」で相殺しないと憎しみに変わってしまう。
手本

『SHADOW TOWER』


『DARK SOULS 3』

本から手が出るほど。渋いよ~。
ブラッドとボーン

血と骨 - 『SHADOW TOWER』


ブラッドとボーン - 『Deracine』

『ブラッドボーン』の「ボーン」は「骨」じゃない! という叫びは偶に見ますが、『シャドウタワー』の「ボーン」は「骨」でした。ちなみに『アーマード・コア』に登場する組織には「ダーク・ソウル」というものがある。滅茶苦茶に珍しい単語の組み合わせでもなし、セルフオマージュと断言できない部分はありますが、真相は……。
あ、二枚目の画像は VR ゲーム『デラシネ』からですが、今はまったく関係ない話なので割愛。
以上です。
ここにないものは twitter にまとめてあるのでご自由かつ適当にどうぞ。
かねて血を恐れたまえ。#shadowtower pic.twitter.com/SJiehwjcrA
— ACID BAKERY (@cid_bakery) January 30, 2021
当然ながら網羅しきれていませんし、気付いていないであろうオマージュ、或いはオマージュでない偶然の被りをカウントしている点を考えると、このサイトはデータベースなどとはとても名乗れません。気になる方は是非ご自身で確かめてください。セルフオマージュ色が強い会社の過去作は、それを探す楽しみというものがあります。
ということで今回はここまで。
気が向けば、次の深淵でお会いしましょう。