ACID BAKERY

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『ACVI』のイレギュラーたちと、これからのイレギュラーたち

はじめに

おはようございます。ルビコンでの任務を楽しんでおられますか? 役立たずも役立たずなりに役立つことを証明していますか? 三周クリアしてエンディングも全て見たので、ゆっくり S ランクコンプリートでもしながら「どういう話だったのか」を自分なりに整理していこうかなと思います。先んじての内容としては、「イレギュラー」という存在から見た『ARMORED CORE VI』。必然的に全ルートとそのエンディングについて触れています。あとほんのちょっぴり過去作についても触っておりますので、お気を付けください。

それでは楽しい遠足を始めましょう。

そもそも「アーマード・コア」ってなに?

人型兵器モノに付いて回る「わざわざ人型にする理由ってなに?」という類の話ですが、『AC』においては明確に理由があるように思います。「乗っているのが人間だから」です。

劇中の記述に則るなら、あの世界には MT(マッスル・トレーサー)と呼ばれる人型作業機械がありまして、 AC とはこの MT を「コア構想」に基づいて発展させたもの。全作の設定資料等を洗ったわけではないので勉強不足は否めないものの、恐らく『AC』世界のコア構想というものがはっきりと説明されたことはなく、あくまで「コア」を中心パーツとし、それ以外のパーツを付け替え・組み合わせることで自由な戦術を構築する……それ以上のものではなかったはず。

『VI』においては代わりに「コア理論」という言葉が出てきますが、これが別の概念なのか表記ゆれなのかは不明。しかし個人的には構想でしかなかったコアへの理解を推し進めたものだと解釈しています。なぜ「コア」理論かと言えば、コアにはコックピットが、更に言えば搭乗者が存在しているからであり、 AC が持つ「自由に戦術(パーツ)を組み替えられる)」特性が、人が持つ自由な発想と上手く噛み合うことで、これを強力足らしめていると、言葉にすればそんなところなのでしょう。

でもそれって人工知能じゃダメなの?

映像記録 : 部品性能試験
残骸から抜き取った映像記録
無人 AC の性能テストを行っている様子が見て取れ
責任者らしき人物の音声も残っている
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AIと有意な差は認められませんね
実験は失敗です
興味があったのですよ
無人機の時代を終わらせたのが AC なら
その優位性がどこから来るのか
ファクトリーに伝達しておきなさい
次は胴まで残した部品を送るのです

きっとこの実験に使われた AC には「人のパーツ(頭部)」だけが繋がれていて、それを無人機と戦わせてみたのでしょう。しかし結果が振るわなかった。「なんだ弱いじゃん」、というわけです。

VE-21A
アーキバス先進開発局の設計した長距離戦向け FCS。
接敵以前での封殺を目指したコンセプトモデルだが、これをコア理論に対する揺り戻しであると見なす向きも多い。

また遠距離用 FCS の説明文に「コア理論に対する揺り戻し」とあります。どう解釈するかですが、「遠くから鉄砲撃つだけなら、兵器が人型である必要なくない? ましてや人が狙いをつけるなら尚更だろ。なんだよ長距離戦向け FCS って」といった意味に取っています。

人の形をした兵器で人が戦う理由。これに対する議論が重ねられた末、この世界の AC からは遂に遠距離武装が取っ払われてしまった、または最初から人体の取り得るアクションとして極自然な近距離偏向の兵器として設計されてきた歴史があるのだと推測します。ゲームシステムと世界観を擦り合わせるならこんなところでしょうか。しかし遠距離から一方的に攻撃できることが有利には変わりないので、アーキバスグループなどはその優位性を AC に持たせる工夫を検討し始めていると。

そんなこんなで工夫と改良を重ねられる AC という技術ですが、或いは恒星間航行も可能になった人類文明において、人型兵器という技術自体が時代遅れになりつつあったりもするのでしょうか。ただ、もうしばらくは大丈夫でしょう。AC とはそれ自体が「人の本質」の反映であるのだから。

エア(アリーナ - ANALYSIS - フェイズ「δ-3」後)
「あなたの真似事をしてみて 気付いたことがあります。人は人と戦うための形をしている。無限の選択と淘汰を繰り返すための形状。それこそが人間の本質であり…生命進化のカギなのでしょう」

関連記事 : ぼくらはみんなイレギュラー

イレギュラーという存在がいます。

人類を管理しようとする者、大きなプランを描き暗躍する者、物事を思い通りに動かそうとする者たちの前に常に現れ、全てを破壊していく。イレギュラーとは「選ばれし者」などではなく、「選び戦う者」。故に彼らが何かを行うということは、他者の選択を否定することにも繋がる。

「そいつは『黒い鳥』って呼ばれたらしいわ。なにもかもを黒く焼き尽くす、死を告げる鳥」

(『ACVD』)より

- レイヴン -

最強の人型兵器「アーマード・コア」を操り 多額の報酬と引き換えに依頼を遂行する傭兵

支配という名の権力が横行する世界において何にも与する事のない例外的な存在である

(『ACLR』)より

言い方を変えれば、何者にも阻害されない、もっとも自由である者。これがイレギュラーの証明であり、過去作『ACLR』や『ACVD』で、「レイヴン」という呼称とイコールで結ばれたように思います。

そして『VI』における「レイヴン」の交代劇について今更申し上げることはありますまい。誰が主人公(イレギュラー)かは問題ではない。誰かが主人公(イレギュラー)であることが重要なのです。それは人類という種族への大いなる信頼でもあります。

思うに人間とはみな潜在的にイレギュラーなのです。古いシリーズにおいて「レイヴン」が AC 乗りの総称であったのはその示唆であり、強い AC 乗りとは、その内に秘める「人間(イレギュラー)性」といったものを大きく引き出した者を指すのでしょう。

なぜ人が乗った AC が強いのか。それは「パーツを組み合わせて自由に戦術を構築する」という特性が、そのまま「人は自由に生き方を選択できる(無限の選択と淘汰を繰り返す)」在り方を正しく反映したものであり、人が持つ「イレギュラー性」を正しく拡張する装置であるから。人型兵器「アーマード・コア」の本領とは、つまるところその一点に尽きるのです。だから AI がこれを完璧に御することは、あのような遠未来であっても叶っていない。AI は人を超えたかもしれませんが、人そのものである優位性を取りこぼしているんですね。

ただまあ、劇中での「コア構想」「コア理論」がここまでメタな、核心を突いたところに根差していることは無いと思います。単純に前述したような「アセンブリシステムと人間が持つ自由度の高い思考の相性が良い」くらいのものでしょう。

『AC』とはアセンを組み合わせて自分だけのステキ・ロボを表現するゲームですが、このゲーム性を通して歴代ずっとこのテーマを貫いてきました。今や古典的な、ピュアとすら言える人間賛歌じゃないでしょうか。

抑圧こそ自由のカギである

そして惑星封鎖機構は高い技術力を持ちながらその辺りを全く理解していなかったのだと思います。その為か、封鎖機構では有人・無人問わず AC を運用してさえいなかったように思います(してたらごめん)。挙句、 AC を「寄せ集め」と称するほどには自分たちのテクノロジーを信用していたようです。AC の代わりに HC / LCといった兵器が出てきますが、これらはコア理論に基づかない、アセンブルに依らない、兵器としての完成度では AC を上回るものでした。

AC が寄せ集めという評は正しい。現実でもそうであるように、既存のパーツを流用し組み上げたものより、最初から一個の道具として設計されたものの方が強力であるのが道理です。しかし寄せ集めであるが故に人が秘める可能性(イレギュラー)を正しく反映させる AC の前では、HC / LCとは、むしろ人間の本質を封じ込める「枷」として最後には機能してしまう。もちろん実際に戦ってみた我々から見れば滅茶苦茶強い兵器でしたが、「本当に強い AC 乗り」には通じない、というわけです。

人間への無理解から出力されたという意味では、カタフラクトも結構顕著です。あれは超性能の戦車に MT をくっつけたようなものでしたが、操縦の簡便化、または MT 部分の交換による長期運用化、更に弱点部位が露出しているのも、交換がしやすくコストが安く済むように、そういった設計思想の元に行われているのかもしれません。しかしもしかするとアレはコア理論の模倣なのかなとも想像しています。AC が MT から発展したのなら、同じ要領で MT を拡張させた兵器は強いはず、きっとそのはず、という結構安易な発想なのかもしれません。もちろん強力には違いないのですが、結果は御覧の通り。AC も二脚以外に逆脚やタンクといった選択肢がありますが、カタフラクトは人型部をあくまで交換可能な部品として見ている。それは「人を核とし拡張する」コア理論とは対極に位置するでしょう。

なので『VI』に対する批判の一つとして、AC こそ最強であるべきなのに AC を超える兵器が次々に出てきてイヤだというものがありましたが、結構本質を捉えていると思います。ただ、恐らく意図して配置されたものだろう、とは思って欲しい。AC を上回る人型兵器を AC によって打倒する、それがイレギュラーの証明であるなら、本作の大きなテーマとして「それをやれ」と言っているんです。

さてそんな惑星封鎖機構ですが、劇中で一番出張ってきていた割に目的がよくわからない、顔の見えない組織でした。C 兵器による防衛を機能させているにせよ、コーラルを独占している様子もない。コーラルを使用したテクノロジーの数々はあくまで技研の遺産でした。名前の通り、人類を脅かす危険が見いだされた惑星を封鎖する、ただそれだけを行う「防衛軍」的な組織なのではないかというのが通説のようですが、個人的にも同意見ですね。そして封鎖機構のトップは、どうも AI だったようです。

通信記録 : ドーザーの雑談
残骸から抜き取った通信記録
仲間との雑談がログに残っていたものと思われる
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なあ知ってるかよ
あの衛星を作った惑星封鎖なんちゃらでは
人間が AI に使われてるらしいぜ
あ? 言われてみりゃあそうだな
うちも大して変わらねえか
だがチャティはボスの言うことは聞くからな
そうプログラムされてんじゃねえかな

つまるところ封鎖機構とは過去作で言うところの「管理者」だったのだと思います。そして管理者とは如何に人類が愚かであろうともそれを根絶しない、あくまで種の延命のために働くものたちでした。では人類のために働く封鎖機構がコーラルの危険性に気づきながらも焼滅という手段を取らなかったのはなぜかと考えると、恐らくコーラルが秘める生体的特徴、およびその知性に気づいていたからではないかと推察します。

つまり過去作において、管理者たちが人類の延命のために生活空間や生き方までを制御していたように、封鎖機構という管理者はコーラルという生命体が絶滅せず、一方で「破綻」を招かないための管理を試みていたのだと思います。そして人類というエイリアンによって蹂躙・搾取されないための保護者役すら担っていた。AI のやり方はいつだって同じ。管理対象を封じ込めるんです。だからウォルターたち「観測者」は封鎖機構に協力を申し出てコーラルを燃やしてしまえば良かったのでは、という意見も見ましたが、「知的生命を絶滅させる」という選択肢が封鎖機構にはそもそも存在しなかったのでしょう。

しかし哀しいかな。人類は管理されるたびにその鳥かごを抜け出してきました。まるで抑圧こそがイレギュラーを呼び覚ますカギであるかのように。そしてもし、イレギュラーというものが「生命」に根付いた本能のようなものであり、それが人類に限定されたものではないのなら、コーラルにもコーラルのイレギュラーが発生しうるのでしょう。そして劇中でそれは「変異波形」と称され、彼女の名はエアと言いました。

余談ですが機体構成を変更して即座に対応できるのは強化人間くらいのもの(アリーナ - 「51-012 AL」)らしいです。また旧世代型の強化人間はコーラルによってその力を付与されていたわけで、「自由なアセンは自由意志の顕れ」仮説と合わせて考えると、人間とルビコニアン(コーラル)が互いのイレギュラー性を高め合った結果、 AC は正しく、より確固たる人体の拡張装置足り得るのかもしれません。

アリーナ - ANALYSIS - ランク:γ-3
ルビコン調査技研はコーラル研究の総本山でした
彼らの作ったACには人間とコーラルの
生物学的な類似性に着目した視点が見られます
異なる種が相補的に進化する手段としての AC
興味深い考え方です

明確な未来を思い描いているわけではない。しかし幾ら安全だからと言って、誰かに管理されたり閉じ込められてなどいたくない。『AC』シリーズは抑圧へと抗う者たちの物語でした。これまで人間がそうしてきたように、姿なきルビコニアンが同じ空を願ったって良いはずです。自らを抑えつける全ての者たちに牙をむく。「ルビコンの解放者」とは、二種族のイレギュラーが互いに手を取り合い、抑圧者たちを破壊する、そういうルートでした。

しかし一つの可能性は別の可能性を否定することでもあります。自分たちが生き延びるために、別の種族を絶滅させる、そんな道だってあるでしょう。そしてそれは管理者には選べない、イレギュラーだけに許された道です。

だから「レイヴンの火」ルートは、二種族のイレギュラーが互いの存続を掛けて潰しあうルートでした。『ACfA』の「人類種の天敵」ルートで主人公は「史上最も多くの人命を奪った個人」として刻まれたようですが、『VI』のレイヴンはコーラルの潜在的な危険性を回避するためとは言え、一つの種を根絶しました。イレギュラー(黒い鳥)とは、事を為すために、他の多くの可能性を焼き払う、そういう生物でもあります。

ところでアイビスの火とは結局なんだったのでしょうか。アイビスシリーズを利用して起こした焼滅だったことは読み取れますが、正確に何があったかは不明です。ちなみにアイビスとは「朱鷺(トキ)」を意味し、これが白い鳥でいることは知られていると思います。しかし調べてみると、どうも繁殖期には自らの身体を黒く染めることがあるようなのです。コーラルの自己増殖特性と何か関連性があるとして、過去の「アイビスの火」とは、ただ人間の手で熾されたものではなく、アイビスを操る別種のイレギュラー(黒い鳥)によって為されたものだったのでしょうか。

ぼくらはみんなイレギュラー

というわけで AI は人間の可能性を解さないという話をしましたが、一口に AI と言えど必ずしも同じ結論には達しないようです。

傭兵支援システム「オールマインド」。この AI は封鎖機構とは異なり AC が持つ役割を念入りに検証していました。

アリーナ - ANALYSIS - ランク:α-1
テーマは 「人体感覚の拡張」
表皮のように馴染む AC を目指して
オールマインドでは日々改良が続けられています
アリーナ - ANALYSIS - ランク:β-2
人体を模した有人兵器である以上
そこには人間に対する解釈が自ずと入ります
星外企業のACには人間を環境に対して無力なものと見なし
出力の最大化によりそれを超克しようという思想が見られます
アリーナ - ANALYSIS - ランク:β-3
ルビコニアンの機体には程度の差こそあれ
人体との調和を重視する傾向が見られます
自然存在としての人間のポテンシャルを高く見積もり
入力の最適化によりそれを発揮しようという思想なのでしょう
アリーナ - ANALYSIS - ランク:γ-3
コア理論の体現者として最も優れているのは
やはり独立傭兵と言えるでしょう
生死が自らの操縦ひとつに帰着する彼らにとって
AC は肉体の延長であるべき必要があります

想像ですが『AC』世界が繋がっている、ないし『VI』世界に過去作と似た歴史が敷かれていると仮定して、オールマインドとはそんな人類史の中、ずっとイレギュラーたちに打倒され敗れ続けてきた苦渋の蓄積がある「古い AI」なのかもしれないなと考えています。対して封鎖機構のトップであるという AI は、より新しく正当的であるが故に、理屈に合わないイレギュラーへの理解の浅い、旧態依然的な「管理」しか出来ない AI なのではないか……あくまでイメージですが、そう捉えています。ANALYS を進めていくとナインボールに似た機体が陳列されているのも、ちょっと興味深い。

51-201W

「修正が必要だ…」

さてそんな人類への理解のある彼女ちゃん、オールマインド。劇中で不明機体と呼ばれるステルス機を忍ばせていたのは彼女だったみたいで、要はあれこれ画策してコーラルリリースを狙っていたようです。結局リリース計画が何かは誰もはっきりとは言ってくれなかったのですが、身も蓋も無い言い方をしてしまえば、コーラルを使った人類世界の掌握、といったところでしょうか。

そしてリリースがもたらす結末に気付いていた人間は、少数ながら存在していたようです。その一人がルビコン解放戦線、帥父ドルマヤン。

アリーナ - アストヒク
青年期を流浪のドーザーとして過ごしたドルマヤンは
アイビスの火を生き残った後コーラルとの共生を 強く志向するようになる
ドルマヤンの随想録(1)
コーラルはルビコンの祝福である
この痩せた大地は しかし内より無限の恵みをもたらし 雫ひとつで我らの血肉を成す
コーラルよ ルビコンと共にあれ!

人間がコーラルと結びつくことで、両種族の意識が結びつくケースが存在します。621 がコーラル技術による強化とウォッチポイントでの被爆によってエアと「交信」を果たしたように、かつてサム・ドルマヤンは恐らくルビコンでの生活の中、或いはアイビスの火による被爆(技研の情報を取得できた時期を考えると「火」以前か)で、セリアという変異波形と結びついたようです(無人洋上都市調査 - ALT)。で、エアが 621 にそうしたように、セリアもまたドルマヤンにリリースを促したのでしょう。しかし。

ドルマヤンの随想録(5)
彼女は私の意志を尊重するという
ここを渡れば人間世界の悲惨
渡らなければ…
賽を投げる覚悟が私にはできずにいる
サム・ドルマヤン - 「無人洋上都市調査(ALT)」
「コーラルよ ルビコンの内にあれ」

解放戦線が掲げる警句である「コーラルよ、ルビコンと共にあれ(内にあれ)」とは、「ルビコンの外に出るな」という意味であり、結局ドルマヤンは決断が出来なかった。世界と、宇宙を変えてしまう賽を振ってしまえない程度には、彼は正気だったようです。そんな彼がルビコン解放戦線のトップとして星外勢力と戦い続けてきたのは、コーラルが意思疎通の出来る生き物だと知っているからこそ、それを考慮しない者たちによる徹底した搾取が許容できず、しかし自分たちはその搾取を行わなければ生きていけない矛盾に苦しみ、かといってコーラルをルビコンという鳥かごからリリースし、人類世界に悲惨をもたらす決断も出来ず……あくまで「ルビコンという惑星(鳥かご)」を星外圧力から「解放」する(それが本気で出来ると思っていたかは別として)穏当な立場に落ち着いたのでしょう。お茶を濁す、いや、コーラルを濁すと言うべきでしょうか。今のは忘れてください。

サム・ドルマヤン - 「捕虜救出」
「『レイヴン』…意志の表象…。だが全ては…消えゆく余燼に過ぎないのだ…!」

意志の表象たるレイヴンの名に反応したのは、自分にはできなかった決断を、人間の自由意志の証明たるレイヴンにであれば託せるかもしれないと、そんな考えが脳裏を過ぎったからなのでしょう。しかし結局、レイヴンの名を持つ者の力が本物であれば最後にはリリースに到達してしまうであろうことを予期し、これを阻むべく無人洋上都市にて登場。「意志の表象」に挑みかかった彼は、セリアの名を呼びながら無惨にも散りました。(ちなみにこの「セリア」がオールマインドの正体ではないかという考察もあるようですが、現状、個人的には懐疑的です。これも考えが変わらなければその内記事にします)

ちなみにエアの綴りは「ayre」。「air」とも変じられるようなので「空気(エア)のように偏在している」という意味かとも思っていましたが、ググると『16〜17 世紀イギリス・エリザベス朝時代のリュートの伴奏による独唱歌曲』とのこと。つまるところ波形であるルビコニアンとは「歌」なのでしょう。

ルビコン解放戦線 - 「捕虜救出」
「独立傭兵レイヴン
貴方が我々に共鳴してくれることを願う」

地味に『VI』で用いられる表現に「共鳴」というものがありますが、ルビコニアン(人間)たちの思想への共鳴に加え、ルビコニアン(コーラルの波形)への物理的な共鳴という意味を掛けていたのだと考えています。警句の本意もそうですが、解放戦線の下位構成員は、その核心に触れながら、無知故に本質には迫れない。啓蒙ですね。

これまたちなみに ANALYSIS のラストや最終戦でエアが操作する機体名は「ECHO」。そしてドルマヤンが口にする「余燼」は「残り火」という意味もありますが、「残響」という意味もあるようです。音や歌というワードを意識していることは有り得そうじゃないですか。

というわけで、とどのつまりコーラルリリースとは「向こう側」……詳細は不明ですが、恐らく高次元より全宇宙の人類、或いは生命体を被爆させ、強制的に「共鳴」させることだったのでしょう。そしてこのコーラルリリース、「誰が」トリガーを引くかが重要であるようで、推測ですがトリガーを引いたものの意識によって共鳴者たちの意志を掌握できるといった類の結果になるはず。

ALL MIND。すべての心。彼女(彼)もまた管理者であり、AI の使命である人類の延命を、管理と言う対症療法ではない、「戦争」という宿痾を取り除いた「根治」、そんな最高の形で達成することを望みました。なんか一部界隈で嫌にポンコツ扱いされている彼女ですが、恐らく組織的スケールでは大きく自分を上回る封鎖機構たちを相手取り、堅実に事を進めていたと思いますよ。また AI でありながらエアの存在を感知していたのは、多くの「交信」の素養がある強化人間をデータとして取り込んでいたからでしょう。

一応補足しておくと、過去作には人間の意識を電子化し兵器に搭載する「ファンタズマ」と呼ばれる措置がありました。オールマインドに「取り込まれる」とはそれと同じか、近似の結末を意味すると見ています。

オールマインド - 『AC6』
「貴方はオールマインドと一体になった
もう誰も貴方を止めることはできない」
スティンガー - 『ACPP』
「アビスへようこそ
これがファンタズマだ
俺は遂にこいつと一体になった
もう誰も俺を止める事はできない
死ね」

「旧世代型強化人間にはよくある」幻聴にイグアスが悩まされていたのは、彼も一端とはいえルビコニアン(これがエアなのか、他の波形かは不明)と共鳴していたからであり、同症状の強化人間たちを取り込み解析することで、言ってしまえばただの波形でしかないルビコニアン特有のコミュニケーションの仕組みを解し、621 とエアの関わりを傍受していたからではないでしょうか。

計画もいよいよ大詰めです。 621 を触媒とし、エアという変異波形すらもデータとして取り込むことで、AI オールマインドがコーラルリリースを起こすカギは揃うはず。すべてはその為の暗躍でした。が。

オールマインド
「取り込むべきでは……なかった……イレギュラー……」

ラスボスがイグアスかよ、という声が目立ちますよね。正直初見時は個人的にもそういう印象でした。しかし彼でなくてはならなかったとも思います。

人間という種族が潜在的にイレギュラーであるとして、それでもそこに至る為に必要な条件があります。「自由であろうとする意志」です。誰にも抑えつけられたくない、負けたくない。そんな極当たり前のことが中々に難しい世界の中にあって、レイヴンとはその表象でした。そしてイグアスは強く憧れたのです。自由な野良犬に。

あの場にいたのが例えばラスティか、或いはフロイトであれば、その活躍に誰も疑問は抱かないでしょう。それなのになぜイグアスが? そう思われる彼だからこそ。イレギュラーが「選ばれし者」ではなく、「選び戦う者」であるからこそ、あの瞬間 G5 イグアスとは紛れもなくイレギュラーでした。幾らその危険性を知り、検証を重ねたかに見えたオールマインドであろうとひとたまりも無かったのは、結局 AI というものは未だ以って人間(イレギュラー)を理解できないという証明でしょうか。

三種のイレギュラー盛り合わせ

イレギュラーズ

面白いのは、あの場には「まとも」と言える人間が一人もいないこと。AC を操ることしかできない強化人間、姿なきルビコニアン、そして元は強化人間であり、今やデータ上で生前を再現されただけのファンタズマ。しかしそんなものは少しも問題ではないのです。自由を体現する者たちは、生まれや外形を枷としない。LOC ステーション 31 はあの時、イレギュラーたちの独壇場でした。

そう考えるとシリーズナンバリング『VI』と紐づけられた男、「V.I」にして「ただの人間」フロイトは、設定だけを見ればイレギュラーと言って良い存在でした。

V.I フロイト - アリーナ
アーキバスグループ強化人間部隊 ヴェスパーの首席隊長
フロイトはアイランド・フォーの動乱において
作戦成功率 94.7 %を記録した稀代のエースパイロットであり
「スネイル同様の調整を重ねているに違いない」 と 周囲からは見なされている
しかし実際のフロイトは AC を駆ることを愉しみ 日々の小さな上達を積み上げつづけた ただの人間である

そんな彼が最後の決戦の場に居合わせられなかったのも、一つ象徴的かもしれません。自由に AC を駆ることを愉しむ彼がイレギュラーと呼ばれるには、抑圧を突破したいという想いに欠けていた。そんなところなのでしょうか。自由とは何なのか。

そんなこんなで決戦は終着し、レイヴンとエアの手でトリガーは引かれました。かくしてコーラルリリースは為され、二人は宇宙へと偏在する、ある種の形而上学的存在となったようです。

次々と起動していく AC が各種アセンブリを取り揃えているのは、人間の拡張であり可能性の体現である AC の姿に、そのまま人類種の未来を映し出しているからかもしれません。AC のバリエーションとは、そのまま人間が取り得るバリエーションの反映なのですから。ゲームスタート以前、脳が焼き付き、肉体の機能を「AC を操ること」のみに限定されてしまった強化人間 621 は、物語の終わりに見事 AC という肉体を得たのでしょう。始まったところへと帰ってきたわけです。始まったとき以上の形で。

コーラルリリースによって偏在し、あらゆる人々の中に 621 とエアは宿ったのでしょうか。そうして全ての人々が自由への翼を得たというのでしょうか。

今ならばどこへだって行けます。なんだってやれるでしょう。じゃあ何をする? 決まっているじゃないですか。

メインシステム 戦闘モード 起動

戦いこそ人間の可能性。選択と淘汰を繰り返し、これから先、イレギュラーたちはより強力に厳選されていき、未来永劫それを果たし続けていくのでしょう。

我々は、終に「答え」を得たのです。

おわりに。その後の世界

心からの余談ですが、このルートを真エンドとして見るか、もっと言えばここから続編が展開されて欲しいかと言われるとあまりそうあって欲しくは無いです。なぜかと言うとこのルートは「答え」が出てしまっているんですよね。『アーマード・コア』とは AC を通して「人間の可能性」を問い続けるシリーズだと思っているので、飽くなき戦闘という形でその答えが出てしまったことを「真」とはあまり思いたくない自分がいます。可能性とは「問い」だと思うので。ただ、エンディングとしては大好きです。

またこれは輪をかけて想像ですが、仮にエアと 621 両名によって「イレギュラー」が宇宙へと蔓延したあとの世界で続きをやるのなら、物語の鍵は案外 AI が握っているのかもしれない。実のところコーラルが人か C 兵器を媒介としなければ外界と関われないように(ハッキングはできてたみたいですが、オールマインドを封殺するといったことはやれてない)、コーラルや人に依らない AI こそやがてイレギュラーたちの天敵に成り得るんじゃないかと。ずっと人を理解しきれず、イレギュラーに敗北し続けてきた AI ですが、もしかするとこれから先、彼女(彼)たちの中からも「例外」が排出される時はやってくるのかもしれない。頑張れ管理者。ドントマインド、オールマインド。迷わず行けよ、いつか勝てるさ。

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