ACID BAKERY

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「瞳」の中身

『ダークソウル 3』DLC が目前まで迫る中、皆様どのようにお過ごしでしょうか。というわけで『ブラッドボーン』の話をします。本当はとっくに書けてないといけないのですが、全く内容がまとまらず伸び伸びになってしまったので、分割という形でちょっとずつ公開していきます。でないと永遠にアップできない。というわけでやっていきます。あれは一体どういう、何の話だったのか。獣とは、上位者とは何なのか。「瞳」や啓蒙とは。ちょっと考えてみて、それっぽい答えをでっちあげてみました。ネタバレに関しましては無配慮な上、勘違いや情報が整理できていない部分も大いにあるでしょう。そして言うまでも無いことですが、以下の記述は「想像」です。他の解釈もできることを、こう考えれば面白いという理由で一点に収束させている、言わば二次創作に近いものになります。そしてその空想を大いに楽しめるのが、いわゆる「フロム脳」というものの醍醐味だということを踏まえた上で、どうかご容赦ください。言い訳終わり。やっていきます。

「それ以上のことはない」

「遺子ころ」……じゃなかった、「石ころ」のフレーバーテキストにそう記載されています。なんだか含むものを感じる、というのはその通りで、このアイテムには投げて遊ぶ以上の楽しみがあります。良く見てください。何か別のものに見えてきませんか? 日がな目玉をついばんでそうなカラスや、目玉抉りのおばあちゃんがこれをドロップするのはなぜか。そう、「石ころ」は「瞳」に似ている。似せる理由があるからです。

「瞳」です。本作ではストーリーが進むと「瞳」というキーワードが無視できなくなってきます。ヘムウィックの魔女は全身に目玉を纏い、聖堂街周りの教会の使者たちはこちらの啓蒙が高まると、目玉をくくりつけたランタンから神秘的な何かを放ってくる。ウィレーム学長は「思考の瞳」としきりに述べて、メンシスの悪夢は眼球塗れ。「血に酔った狩人の瞳」、「瞳のペンダント」「夜空の瞳」。どこもかしこも瞳だらけ! プレイヤーがストーリーの核心に近づいていくほど、次第に「瞳」の存在は色濃くなっていきます。物語において、謎の「答え」は予め示すもの。ゆえに「石ころ」には三つの役割がありました。一つは、投擲アイテムとしての役割。もう一つは、「物語の中核に『瞳』あり」とプレイヤーに暗示する、重要なフレーバー・アイテムとしての役割です。三つめは後述するとして、では「瞳」とは何だったのでしょう。

作中の情報を解するに、「瞳」とは「人が理解できないものを理解するための能力」と表現することができそうです。「上位者の叡智」のテキストによると、ウィレームはこう述べていました。「我々は、思考の次元が低すぎる。もっと瞳が必要なのだ」

では我々は何を理解できていないのか。それが即ち、本作の大きなキーワードの一つである、「啓蒙」なのだと思われます。啓蒙はボスと初めて遭遇した時や、特定のエリアに踏み入った時などに増加します。脳喰らいに頭を吸引され減少する辺り、尋常の知識と同じく脳に宿るものなのでしょう。そしてこの啓蒙、高まるに連れてそれまで見えなかったはずのものが見えるようになります(実例に関してはこちらをごらんください)。反面、発狂しやすくもなる。現実には起きようはずもない怪異は、しかし確かに存在する。特別な智慧を持つものは、それらを目に映すことは出来るのでしょう。ですが内に瞳を持たぬものは、超現実を正しく認識できる力がないため、頭が壊れてしまう……そんな解釈ができそうです。

余談ですが聖杯ダンジョンで戦うことになる「異常者(いじょうしゃ)」は「上位者(じょういしゃ)」のアナグラムだと思われます。至極簡単な言葉遊びではありますが、要は両者は「紙一重」ということなのでしょう。神秘の智慧によって狂人と貸した者、一方で「白痴」の名を持ちながら上位へと至ったもの。彼らを分けるものこそがまさしく「瞳」なのです。

人から上位者になった者がもう一人います。主人公です。「幼年期の終わり ED」において、3 本の「3 本目のへその緒(瞳のひも)」を取り込んだ主人公は内に瞳を得て、月の魔物を退けました。そして戦いの後、主人公は晴れて上位者に伍することとなります。「幼年期の始まり」のトロフィー名は、上位者として生をやり直す様を現すものであり、また他の人類にも変化が訪れていくという暗示なのかもしれません(トロフィー解説より : 『人の進化は、次の幼年期に入った』)。では、恐らく同様に人の身でありながら上位者となったロマは人類に進化をもたらせなかったのでしょうか。そこらは両者の成り立ちの違いにヒントがありそうですが、ちょっと書いてて頭がこんがらがってきたので、忘れていなければ別の記事でやります。

ところで、全ての上位者は赤子を求めているそうです(「三本目のへその緒」より)。メンシスはその性質を利用して、上位者を誘因し、交信し、「瞳」を授けてもらうべく赤子を手に入れました。ですが赤子それ自体は核心ではなく、それらが持つ「へその緒」こそ、本当に必要なもの。ですがメンシスは、ミコラーシュは、終ぞ悲願を達成することなく敗北します。進化を謳い、身勝手にも人々を悪夢に沈めた彼らは、しかし肝心の「瞳」が何かも分かっていない、唯の「異常者」に過ぎなかった。これが、言ってみれば本編における犯人捜し、その「オチ」の一つとなるのでしょう。

さて「石ころ」には三つの役割がありました。一つ、投擲アイテムとしての役割。二つ、「瞳」をプレイヤーへと暗示する、フレーバー・アイテムとしての役割。そして最後に、それが嘘であることを気づかせないための役割です。

物語の核心にあるのは、「瞳」ではないのです。

「瞳」の中身は

で、結局のところ「瞳」とは何なのでしょうか。人に人ならざる思考を与えるものというのは理解しました。手に入れる手段も。ですがそれらは表層についての分析であり、「瞳」の具体的な正体については未だ分かっていません。古工房の「へその緒」のテキスト曰く「みんな忘れてしまった」という、「瞳」がもたらす何か。本編では情報が足りず考察できなかったその正体が、DLCでついに明かされました。

話を DLC へと移します。過去のヤーナムから先、醜い獣を眠りにつかせ、実験棟を抜け、失敗作、そしてマリアを打倒し、ついには漁村へと辿り着きます。医療教会がひた隠しにする「秘密」とは何か。探るプレイヤーの前に、顔面がフジツボ塗れの石造が現れる。また、「瞳」の暗示か。更に先へ進むと、丸い、つやつやしたものが目立つようになる。さながらメンシスの悪夢……いや、何かが違う。そして気がつけばどうでしょう。漁村故、各所に樽詰めされていた魚が夥しいほどに溢れかえっている。いや、これは魚ではない。もっと別の何か。というか最初から、漁村に魚などありはしなかったのではないか。おぞましさに震えながら進んだ先には、巨大なゴース。ミコラーシュが交信を試みた上位者は、しかし死骸として打ち捨てられおり、そして産み落とされた遺子とプレイヤーは対決することになります。当然「ゴースの遺子」とは、聖杯制覇の証である「ヤーナムの石」とかけたネーミングでしょう。メルゴー、そして月の魔物がそうであったように、我々は最後には赤子と対峙することになります。しかしながら、本編をそのままなぞるような DLC の流れには、ほんの少しだけ続きがありました。

遺子を倒した後、ある物が手に入ります。「ゴースの寄生虫」です。このアイテムは特殊な変形武器であり、「苗床」となった狩人を変形「させて」くれます。装備していない方の腕や顔から触手が伸びているあたり、軟体として伸びたり縮んだりしているのは寄生虫ではなく、狩人の肉体です。この寄生虫は精霊の苗床となった人間の肉体に変化を与える、ごく小さなものなのです。一体、この虫はなんなのでしょう。やはりゴースに寄生していたから特別な力を得たのでしょうか。つまりゴースとはそれほどの存在だったと伝えるためのフレーバーだった? だとすると、強敵「遺子」を倒した見返りであり、仄めかすだけ仄めかした謎の解答としては、結構な拍子抜け感が否めないように思えてしまいますが……。

「逆に考えるんだ。『力を与えていたのはどちらなのか』……そう考えるんだ」

ジョースター卿! ですがなるほど、では逆に考えてみましょう。上位者には「瞳」という性質以外に定義できるものがあります。それが「精霊」の存在です。精霊とは神秘的な力を有する軟体生物の総称であり、上位者は誰もがこれを保有するとあります。作中で知られるのはエーブリエタースの先触れであるナメクジですが、きっとロマやアメンドーズらも、それぞれ固有の精霊を有しているのでしょう。この精霊の特性として、宇宙悪夢的交信能力が挙げられます。その性質故に、媒介として用いることで大本たる上位者を一部とは言え呼びだすことができたり、宇宙と交信することで星の小爆発や隕石の召喚までも可能としました。上位者たちが行うビーム攻撃などは、恐らくこの精霊の性質と無関係ではないでしょう。

ここで改めて触れたいのが「苗床」のカレルです。このカレルを刻むことで、狩人の頭は星輪の幹となり、内に精霊を住まわせます(「苗床」より)。特に注目したいのが、変形攻撃でナメクジ、もしくはナメクジに似た何かをぶちまくことができるという点。「内に精霊を住まわせる」というのが、文字通りの意味であったことがこれで分かります。時計塔前の星輪樹や星輪草の庭にはきっと、見えないだけで大量の軟体生物が蔓延っていたのでしょう。出来損ないとは言え、あの場所で上位者「失敗作たち」の召喚さえ可能としたのは、精霊の力を借りたからなのです。しかし面白いのは、「苗床」となった狩人が触手やナメクジによる攻撃、宇宙的爆発を引き起こせるのは、全て「寄生虫」が刺激した結果であるということ。逆を言えば精霊を宿した状態になって始めて、「人に宿るものではない」寄生虫から刺激を得ることに成功したという事実から、一つの可能性に行きつきます。

精霊には苗床たる住み家が存在し、そして精霊は時に苗床そのものに力を与える。ならば上位者とはそれ自身が「巨大な苗床」なのだと考えてみるのは如何でしょうか。そして寄生虫が持つ「精霊を刺激する」という性質が、その「巨大な苗床」をも対象とするのであれば、これまでの認識はたちどころに逆転します。即ち「上位者とは、この『特別な虫』から力を得ていた」のです。

メンシスの悪夢が瞳に塗れていたように、漁村もまた瞳に似たもので溢れ、しかしその中身は孵化していました。両者の光景を似せ、また違いをもたせたのは、つまり「瞳」という言葉にはその先に続く意味があるのだというメッセージでしょう。上位者の「虫」が人にとりつくことはなく、対して上位者だけが「虫」から恩恵を得られる。というのであれば、つまり上位者だけが持つ「内なる瞳」とは……。改めて漁村へと視点を移します。村の各所で樽詰めされ、最奥に向かう手前からあふれかえるつやつやした生き物。卵から孵化したものがこいつらなのだとして、その正体は軟体生物、上位者ゴースの精霊です。言わば「ゴースの先触れ」。よくみればそれらがナメクジに似た生き物であることが分かります(参考までにナメクジと卵の検索結果を貼っておきますので、自己責任でクリックしてください。「真珠ナメクジ」とは……)。 瞳は卵。この比喩をそのまま信じるのであれば、「内に瞳を得る」という言葉、その意味が理解できます。ただ一点、「虫」の宿主足り得るか否か。即ち「自らを精霊の苗床とすること」なのです。「瞳」に似た「石」は、しかし「瞳」を表していたのではなく、むしろ「瞳」こそが「卵」を示すフレーバー・アイテムに過ぎなかった。これこそ『ブラッドボーン』という作品に仕掛けられた最大の「秘密」という訳なのですね。果たしてこの「虫」はどこから来たのでしょう。高次元暗黒にはこのようなおぞましい「虫」が所狭しと蔓延っているというのでしょうか。ヴァルトールは正しかった。「淀みの根源は虫」なのです。

「へその緒」の正体

さて、では人を上位者へと押し上げるキーアイテムでる「3 本目のへその緒」。これはなんなのでしょう。赤子、あるいは赤子がいたであろう場所から「へその緒」はいずれも発見できました。しかしこれを落とさない赤子もいます。この違いをヒントと捉え、紐解いてみることにしましょう。

本編には赤子が多数登場します。大多数は聖堂上層の赤子たちのことですが、彼らは誰も「へその緒」を落とさない。恐らくはエーブリエタースの赤子なのではないかと言われていますが、同じ上位者の赤子でも、彼らは何かが欠けているようです。では「へその緒」を落とす赤子にはどのような共通点があるのでしょう。それは母親が特別な血の持ち主である、という事実です。

まず娼婦アリアンナ。彼女所自身の血や、まつわるアイテムのフレーバーを感じ取る限り、彼女がカインハーストの末裔であることが分かります。そしてメルゴーの母はトゥメルの女王ヤーナムと見て間違いないでしょう。「特別な血」という意味では、その権化のような存在です。偽ヨセフカも自分が有象無象とは異なることを喜んでいたあたり、特別な血統なのか、或いは何か特異な調整を施したのでしょう。古工房で産まれた赤子「青ざめた血」の母親は、まことしやかに囁かれている通り、恐らくはマリアなのだと思います。彼女はカインハーストの血統でした。彼女たちの誰もが人間であり、しかし半歩だけ人間でない、そんな存在です。つまり上位者が真に求める「へその緒を持つ」特別な赤子が生まれるためには、特別な血を持つ伴侶が必要になるということなのです。(『穢れた血が、神秘的な交わりをもたらしたのだろう』 ―― アリアンナの赤子がドロップする「へその緒」)

この事実から、聖堂上層の赤子たちには特別な血が入っていないのだと推測できます。彼ら「特別でない」赤子たちについてはまた別項を設けますので、とりあえず話を先に進めさせてください。では、なぜ「ゴースの遺子」は「へその緒」を落とさなかったのか。「進める」と言った手前あれですが、少し話を巻き戻します。一部の赤子にはもう一つ共通点があります。「悪夢を生み出す」能力のことです。メルゴーの乳母を倒した後、メルゴーの鳴き声が止まり、「HUNTED NIGHTMARE」の表記が現れます。直接的な描写が避けられていますが、メルゴーは乳母とともに生命活動を終えたのでしょう。そして本作ラスボスである「青ざめた血(月の魔物)」を討伐した後も同様の表記が現れます。「青ざめた月(の魔物?)」との邂逅が狩人の夢の始まりとなった、とのこと。赤子の上位者が「悪夢を生む」のなら、「メンシスの悪夢」はメルゴーの誕生とともに生み出されたと見て良さそうです。推測ですが、赤子の上位者が生まれたその場所こそが、「夢の生地」となるのでしょう。そして「遺子」もまた同様に、漁村という生地から悪夢をもたらしたのだと思われます。不可解なのは漁村から地続きにヤーナムすら悪夢の範囲に含んでいる点ですが、「呪い」とはつまりそこに関わってくるのかもしれません。話を元の位置に戻します。つまり悪夢を生む能力が備わっている以上、「ゴースの遺子」もまた特別な血を持つ人間と上位者の子なのではないかという話なのです。では改めて、なぜ「ゴースの遺子」は「へその緒」を落とさなかったのか。「老いた赤子」という表現に理由がありそうですが、全然分かりませんね。では逆に考えてみましょう。なぜ赤子たちは「寄生虫」を落とさなかったのか、そう考えてみます。そして彼らは「落とした」のです、寄生虫を。

何が言いたいのか。「3 本目のへその緒」とは、上位者の中でも赤子だけが持つ為にその名が与えられているだけで、本当に「へその緒」という訳ではなさそうです。それは人間と上位者が子を成すことで新たに生じたもの。特別な赤子が混血によって産み落とされるなら、そこに宿る寄生虫もまた、混血児と言えるのではないでしょうか。要するにです。「3 本目のへその緒」とは、人を宿主としないはずの「虫」が、人に宿りうるように品種改良された、「人を上位者へと変える」寄生虫だったのです。「瞳」が精霊の卵のことなのだとして、そもそもどのようにして上位者が精霊を生むのかは不明です。人智の及ばない領域なのかもしれませんが、或いはそこに「虫」が関わってくるのかもしれません。「我ら血によって人となり、人を超え、また人を失う」とは、この「混血の効能」に触れる言葉でもあったのではないでしょうか。

ここで取り上げたいのが、メンシスの脳みそが落とす「生きているヒモ」です。テキストから分かることは幾つかありますが、ここで重要なのは「上位者は遺物を残す」「それは生きていることもある」ということ。そしてアイコンをご覧ください。……虫でしょ、こんなもん。ハリガネムシとか線虫とか、そういう類の虫にしか見えなくないですか。虫だという先入観がそう見せていると言われればそれまでなのですが、とどのつまり主張したいことは一つです。「上位者は自らの力の源となった『虫』を残す」ということ。寄生虫は宿主の中でしか生きられない種もいると聞きます。ならば生体が貴重であり、しかし宿主を殺した直後であれば生きているのも頷ける話です。「へその緒」が「瞳のひも」という「生きているヒモ」を想起させる別名で呼ばれているのも、この論を補強するポイントだと思うのですが、いかがでしょうか。

ただなぜ「3 本必要なのか」については分かりません。収集アイテムとして「3 本の 3 本め」というフレーズが魅力的だったからという、メタ的な理由しか思いつかないのが悔しいところ。或いは、海外でこのアイテムは「3 分の 1(one third)のへその緒」という名前らしいですが、 3 本集めれば事は成されるアイテムが 4 本以上存在していることに意味があるのかもしれません。とても希少な存在ではあるが、絶対数が定まっている訳でもない。つまり手順さえ揃えれば、再現は可能なのだと。

しかしこの理屈では、「ゴースの遺子」が「へその緒」をドロップしなかった理由が不明なままです。上述はしたものの、悪夢を作り出せるのが特別な赤子だけと断定できるソースはありませんし、「へその緒」を宿さない、特別でない赤子が「遺子」のような姿に至らないという確証もありません。もしや「ゴースの遺子」は、上位者と人間の混血ではない? しかしあんなフォルムで、人間の血が入っていないと考えていいものでしょうか。そこでやはり気になるのが、「老いた赤子」という言葉です。「ゴースの遺子」はある意味でメルゴーと似通っています。倒した直後に「HUNTED NIGHTMARE」と表示されないところです。遺子討伐時は「ゴースの寄生虫」がドロップするばかりで、その後にゴースから湧き出る「もや」のようなものを攻撃すると、そこでようやく表記されます。ここからは随分と飛躍した推察になりますが、相対した遺子そのものは、恐らく本体ではなかったのです。遺子(遺児)とは親が死亡してしまった子のことを指しますが、しかし同時に死産でもあったのではないでしょうか。遺子とはつまり遺志であり、生まれて来られなかった赤子が、或いは産み落とせなかった母の愛が、しかし作り出された悪夢に囚われ、そして主人公の来着とともに、母体の血肉から仮初の肉体を得た。故にあれは遺子の魂を宿すも、しかしゴース自身の一部であるために、「へその緒」ではなく「ゴースの寄生虫」を宿していたのだと……この部分は少し創作が過ぎますが、取り合えずはそう解釈しています。悪夢は夢の世界であるが故、「ローレンスの頭蓋」がそうであったように、最早届くことのない願いを叶える場となるのです。

ですが、じゃあゴースに人の遺伝子を提供したのは誰なんだ、とか、新たな謎が浮上してきてしまうのが悩ましいところですね。遺子撃破後、ゲールマンの心から重石が取り除かれたような描写があるのを鑑みるに、彼にとって悪夢に似た何かが起きたのだとは推察できます。だとすると、マリアの死体があった時計塔と、ゴースの死体が見下ろせる灯台前に同じ花が供えられていたことに意味が見出せるような気がするのですが……。今はちょっと手に負えませんね。

追記 : 次回以降の考察でこの部分の認識が逆転しました。劇中で赤子の上位者を孕む者は、皆人間の女性でした。人と上位者の間でのみ赤子が産まれ、そしてゴースのつがいもまた上位者なのだとすれば……。

余談 : 何か見落としているような。

実は前項で一つ見て見ぬふりをした点があります。特別な赤子が悪夢を生むなら、アリアンナの赤子はなぜ悪夢を生み出さなかったのか。理由付けは簡単です。アリアンナの赤子は生まれたばかり、もしくは早熟だった可能性すらあります。偽ヨセフカの子は産まれてすらいない。大して悪夢を生んだ赤子たちは、生まれてから時間が経過しているので、きっと成長仮定のどこかでそういった性質を獲得するのでしょう。と、ここで話を切り上げてもいいのですが、気になる記述があるんですよ。「古工房」と「乳母」戦で拾う「へその緒」にはそれぞれこう書かれています。『故にこれは青ざめた月との邂逅をもたらし』『故にこれはメルゴーとの邂逅をもたらし』 ……変じゃないですか。まるで「へその緒」が最初にあって、それが原因で上位者が付随してきたというニュアンスに取れませんか。英語の表記を参照してみても、同じ言い回しなんです(『The Third Umbilical Cord precipitated the encounter...』)。本当に、生まれた赤子と邂逅した上位者たちはイコールなんでしょうか? そもそも「青ざめた月」とは? 「青ざめた血」と同一と見ていいんでしょうか。英語表記でも「the pale moon(青ざめた月)」なんですよ。ただの言い回しだろうと納得しても構わないんです。しかし、根本的な部分を何か見落としているような、そんな気がするのです。

余談 2 : 「虫」の布石

「DLC でついに明らかになった真相!」などと銘打ってみましたが、実は本編中にも「虫」の存在は仄めかされていました。ローランの銀獣……というとピンとこないかもしれませんが、悪夢の辺境やメンシスの悪夢で、松明片手に雷光を放つグロいあんちくしょうです。こいつら、特にメンシスの悪夢に住まう個体は、口から触手に似た虫を伸ばして攻撃してきます。また無事に撃破しても、その肉を食い破って体内から虫が飛び出してくるのです。そして極め付けに、「トゥメル=イルの大聖杯」二層ボス「獣血の主」です。こいつは端から首なしの死体として動き、しかし中盤戦を超えたあたりで、さながら首を生やすかのように巨大な虫が姿を見せます。これらの寄生虫が何なのかは、この時点では全く分かりません。ですが獣の病に侵された者の影に「虫」の蠢きが存在していた。そのことだけは DLC 以前にも少しだけ語られていたのです。

ちなみに銀獣から飛び出してくる虫は、禁域の森、ヨセフカ診療所に繋がる毒沼にも生息していますし、またカインハースト城の入口付近にもいます。そして周辺にはノミのような敵がいますが、ノミもまた寄生虫の一種だったりします。はてさて……。

上位者にしかとりつかない虫。そして一部の獣を操るように寄生していた虫。両者にはどのような差異があり、またどこからやってきたのか……それこそが物語の根源なのでしょう。

「ブラッドボーン」

繰り返しますが、「上位者の寄生虫」は人に宿りません。裏を返せば「これを宿すに値する者こそ上位者となり得る」ということです。しかしそれは、人間が人間をやめることと同義。ウィレーム教授がこのような外的要因による進化を遂げることを良しとしなかった以上、この「人に宿らぬ瞳を人に宿す術」を求め、ビルゲンワースを離反する者たちが現れてしまったのも当然と言えるでしょう。ローレンスやゲールマンやミコラーシュを始め、彼らに関わる幾人か、でしょうか。もしかすれば、一人月見台で揺れていたあの様子から、ウィレーム教授を残して殆どの人間が離れていったことも考えられます。そして血に依った神秘の探求機関「医療教会」が誕生するのです。しかしウィレームは恐れているようでした。「病めるローランの汎聖杯」には、「ローランには医療の痕跡があった」ことと「それが獣の病の原因となった」ことが示唆されています。ローレンスたちは、その失敗を成功の母とする自信があったのでしょう。しかし彼らが同じ轍を踏もうとしていることが、ウィレームには予測できていた。「秘文字の工房道具」のテキストには、血によらぬ神秘こそウィレームの理想とあります。「血」は進化の触媒として有効ではあるが、同時に恐るべきもの。そして事実、医療教会は「血の医療」の名のもとに、ヤーナムをおぞましい獣の病へと沈めることになってしまいました。

とても奇妙な話です。ウィレーム教授こそが「へその緒」を求めていました。血に依らない神秘こそ彼の理想であり、その極点として「へその緒」があったのです。しかしその「へその緒」は血の交わりの先にしか存在せず、ビルゲンワースを禁域と切り捨てた医療教会の膝元で芽生えることになりました。しかし当の教会の面々は、それをどこまで把握していたのでしょうか。やがて訪れた異邦の主人公がそれを横から掻っ攫い、そして「思考の瞳」を手にした狩人は上位者へと至ります。ですがその有様を、「人として伍した」と称していいものか……。一体誰の夢が叶ったというのでしょう。一つだけ分かるのは、やはり『ブラッドボーン』とは、「血の物語」だったということだけです。血によって人となり、人を超え、また人を失う。獣も悪夢も神秘も狩りも、全ては血によって「生み出され」、また病のように「継がれて」いく。『ブラッドボーン(血液感染)』とは、つまりそういう物語だったのです。

まとめ

終わりに

いかがでしたでしょうか。「何とか日付が変わる前にアップしよう」という焦燥感がひしひしと伝わってくる、そんな内容ですね。とりあえず一旦ここで畳もうと思います。次回は今回の補足をやる……んじゃないでしょうか。獣の病についても何となく見えてきましたし、あと色々書きたいことがありますね。

それでは皆様、よき DLC を。

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