「虫」の話をさせてくれ
2023.09.10
こんな格言を知ってる?
「どこもかしこも『虫』だらけだ!」
「連盟」の長、ヴァルトール
「連盟」の長、ヴァルトールの言葉です。彼は DLC の配信に合わせて禁域の森へとアップデートされたキャラクターです。曰く、夜は汚物に満ち溢れている。穢れた獣、気色悪いナメクジ、頭のイカれた医療者。これら人の淀みの根源には絶えず汚物が蠢いており、「連盟」とはその根絶のために存在する。そしてその汚物とは「虫」なのだと。
前々回、前回と、『ブラッドボーン』における「虫」の重要性は語ってきたつもりです。ですがそれは上位者と呼ばれる存在と「虫」の関わり、そして医療教会が行った実験の一部について触れたのみで、まだまだ本作には汚物どもが隠れ蠢いています。我々連盟員は一日でも早く夜に清潔をもたらすため、その一助となることを願って、改めて「虫」について書き記すことにしました。
また今回は分量がなかなか凄いことになっていて、それだけに内容もぐっちゃりしてます。いつも以上にとりとめがないですが、ご了承ください。

狩人さんチームは獣を! 連盟さんチームは「虫」を! メンシスさんチームは夢から覚めてください!

……「虫」?
申し訳ありません。性急過ぎました。以前の記事を読んでくれというのも不躾だと思うので、そこも含め改めて「虫」についておさらいしてみましょう。
「The Old Hunters Edition」を購入の方はご存じないかもしれませんが、 DLC エリア配信に合わせて無料アップデートが行われました。その中の一つ、上述の追加 NPC ヴァルトールは、プレイヤーに新たな誓約カレルをもたらしてくれます。そこに付随するアイテムが「虫」という訳です。以下引用。
人ならぬ声の表音となるカレル文字の1つ 禁じられた獣喰らいの内に見出されたというそれは 「淀み」の意味を与えられ、連盟の誓いとなった
この契約にある者は別世界の狩人に協力し 狩りの成就に「虫」を見出す
それは汚物の内に隠れ蠢く、人の淀みの根源 躊躇なく、踏み潰すことだ
淀み
連盟の狩人が、狩りの成就に見出す百足の類
連盟以外、誰の目にも見えぬそれは 汚物の内に隠れ蠢く、人の淀みの根源であるという それを見つけ踏み潰すことが、彼らの使命なのだ
おそらく慈悲はあるのだろう 願うものにだけそれは見え、尽きぬ使命を与えるのだ
虫
この「淀み」を刻んだ状態でマルチプレイを成功(ボスを撃破)させると「虫」は手に入ります。オフライン環境下でも「狩人の悪夢」にいる一部狩人を倒せば一匹ずつ落としますし、ヴァルトールを召喚した状態で「初代教区長ローレンス」と「醜い獣、ルドウイーク」を倒すと手に入りますので、オンラインに接続しない方であっても、イベントのフラグに必要な数は揃うみたいです。
DLC のテーマは「血に酔った狩人の末路」と言っても過言ではありません。獣狩りに魅入られた狩人はいつしか忽然と姿を消し、ヤーナム市街とそっくりな悪夢の中で、永遠に獣を狩り続けるという末路が用意されていました。この DLC と同時期にアップデートされた「虫」の概念は、まず狩人というものの在り方に触れるものでした。狩人狩りのアイリーン、そして古狩人デュラ。彼らは劇中に登場した「血に酔わなかった狩人」です。もっともアイリーンはイベントの進行具合によっては話が変わりますが、取り合えずはそこには触れません。狂ってしまった狩人と彼ら古狩人の違いは何か。それは「理由」です。ただ理由も無く、狩猟者であるが故に狩りをする。このような者たちが血に酔っていくのでしょう。つまり「虫」とは、狩人たちを血に酔わせぬための方便なのではないでしょうか。「願うものにだけそれは見え、尽きぬ使命を与える」とはそういう意味で、実際には「虫」など存在せず、もしかすれば連盟と呼ばれる者たちは、ただ狂っているだけなのかもしれません。それでも与えられた使命により、連盟の狩人たちは血に酔わずにいられる…… DLC の前半部分だけを取り上げれば、そんな結論に達するかもしれません。しかし悪夢を進んでいくに従って、どうやら事情が変わってきました。悪夢の最奥、そこにあったのは、上位者ゴースの死体。そしてそこに巣食っていたのは、夥しい「寄生虫」でした。「虫」はいたのです。連盟だけが目にする「虫」は、彼らが正気を保つための欺瞞ではなく、いや、もしかすれば彼ら自身は狂っていたのかもしれませんが、それでも本当に存在していた。ここで初めて、連盟の長の言葉が真実に触れていたのではないかという可能性に行きつきます。人の淀み、つまり獣も医療も上位者も、その根源には「虫」が巣食っていたのだと。
悪夢の中盤、実験棟と呼ばれる場所で、何らかの人体実験が行われていました。通り過ぎる分には意味が分からないのですが、漁村で得た真実によって実験棟の闇が僅かだけ照らし出されることになります。恐らくあの場所では、ゴースの血を人間に輸血していたのです。医療教会は神秘の解明を血に求めた者たちです。だからこそシンプルに、上位者の血を人間に入れることで、その力を解明しようとしたのでしょう。しかし結果は「失敗」。そこには死体の山が積み上げられ、流れた血が河を成すことになりました。理由は、上位者の血に潜む寄生虫が人間に宿らないからであり、しかしそれでも、少なからず神秘を見出すことはできました。失敗はしても、血の医療そのものに間違いは無いことが証明されてしまった訳です。
上位者という存在の影に「虫」はいました。そして実験棟の惨状から分かる通り、医療教会が掲げた血の医療にも「虫」が蠢いていることも分かりました。そして悪夢をもう一歩下ると、そこは狩人と獣の巣窟です。街を流れる血の医療そのものが「虫」によって汚されているのだとしたら、ヤーナムに蔓延る獣の病も、そしてそれを狩る者もまた……?
不浄は聖血に宿る
血の医療は「虫」に汚れ、そこからもたらされた獣もまた汚れている。そんな視点でやっていきます。なお、本編中でも獣とは汚れた存在だと見なす記述が散見します。
なによりヤーナムは、不浄な獣に満ちているのだから
火炎放射器
更に血族狩りのアルフレートに「未開封の招待状」を渡すと、彼は別れ際にこう言います。
「お互い、この街を清潔にいたしましょう…」
アルフレート
もっとも後者に関しては特に含むところもなく、獣というものは汚らわしい存在なのだという程度の意味でしょう。しかしこの上さらにヴァルトールの口から「汚物」という言葉を吐かせる。どんだけ汚ぇーんだと。それはヤーナムという場所が、何か共通の穢れに侵されていることの示唆だと思えてなりません。加えて教区長エミーリアは、ボス戦前にこんな一言をつぶやいていたりまします。
「聖血を得よ」
エミーリア
日本語吹き替えです。「聖血」即ち holy blood とは、ローレンス戦の BGM でも使われていたフレーズだったと思います。「聖血」とは医療教会が用いる血の救い、その源と考えていいでしょう。もちろん他に解釈もできますが、個人的に面白いなと思うのは、「聖血」と「清潔」を掛けている点ですね。つまり街に蔓延する不浄の原因こそ「聖血(せいけつ)」なのだという皮肉なんじゃないでしょうか。これが正答だと仮定して、じゃあその聖血とは何かというと……え? ゴースの血じゃないのかって? 違います。ギルバートとアルフレートの台詞を引用します。
「聖堂街の最深部には古い大聖堂があり…そこに、医療教会の血の源があるという…噂です」
ギルバート
「血の救い、その源となる聖体は、大聖堂に祀られていると聞いています」
「かつてビルゲンワースに学んだ何名かが、その墓地からある聖体を持ちかえり そして医療教会と、血の救いが生まれたのです」
アルフレー
まず地下遺跡から聖体を拝領したという経緯があって医療教会が誕生しているので、悪夢の漁村で死亡していたゴースは除外できます(かつて地下遺跡の先に漁村があった、という可能性は排除するものとします)。次に、エミーリアが祈りを捧げていた先には巨大な頭蓋骨があります。これは獣化したローレンスの頭蓋ですが、言われた通りそこにあったものですから、初見時「聖体」はこいつのことかと思ってました。しかし後になって聖堂上層から大聖堂へと帰ってきた際には、エーブリエタースがいる訳です。ご丁寧にもローレンスの頭蓋が祀られている祭壇をエレベーターで降下していった先に、しかもそれまでテキストでちらちら顔を覗かせていた上位者がいる。「ローレンスの頭蓋はブラフで、エミーリアは地下のこいつに祈っていたのでは? つまり聖体っていうのはエーブリエタースのことなんだ!」ってなりませんでしたか? でもちょっと考えると、そうでは無い可能性が首をもたげてきます。
医療教会の上位会派「聖歌隊」の礎となった、イズの大聖杯は ビルゲンワース以来、はじめて地上に持ち出された大聖杯であり 遂には彼らを、エーブリエタースに見えさせたのだ
イズの大聖杯
大聖堂の膝元にあった孤児院は、かつて学習と実験の舞台となり 幼い孤児たちは、やがて医療教会の密かな頭脳となった
教会を二分する上位会派、「聖歌隊」の誕生である
孤児院の鍵
エーブリエタースというのは「聖歌隊」が出会った上位者であり、そして「聖歌隊」は医療教会の設立時に存在していませんでした。なので血の医療の源となる聖体はエーブリエタースではありえないのです。一流の賭博師さながらの心理戦のブラッフ。見事だった!! 今さら何言ってんだと言われてしまうかもしれませんが、整理するまでは勘違いしてたんですね。じゃあ結局聖体ってなんなんだという話になります。分からないので、輸血してくれた人に聞いてみましょう。
「ほう…『青ざめた血』ねえ… 確かに、君は正しく、そして幸運だ まさにヤーナムの血の医療、その秘密だけが…君を導くだろう だが、よそ者に語るべき法もない だから君、まずは我ら、ヤーナムの血を受け入れたまえよ…
それでは、輸血を始めようか…なあに、なにも心配することはない なにがあっても…悪い夢のようなものさね…」
血の医療者
こんなのベッド横で医者に言われてしかもクスクス笑われたらうんこ漏らす自信ある。うんこ漏らす自信はともかく、何の血なのか言ってくれてます。「ヤーナムの血の医療」「我ら、ヤーナムの血」……そう、「トゥメルの女王ヤーナム」です。固定聖杯のラスボスとして彼女が設定されている理由は、ただ本編で登場した謎の花嫁の正体が明らかになるという以上に、かつて医療教会が遺跡から持ち帰ったという聖体を、その遺跡の最後に配置することで判明させる意図なのではないでしょうか。無論上記の台詞は言葉の通り、ヤーナムという場所に流れる血、そこに住む人々皆が共有する医療を受け入れたまえよという意味なのでしょうが、聖杯を制覇したプレイヤーだけが、一度聞いた台詞から初めとは異なるニュアンスを見出すことができる仕掛けになっていた……らいいなあと考えています。ちなみにですが、女王ヤーナム戦の BGM の名は「Queen of the Vilebloods(穢れた血の女王)」です。
また本編中では知れず、公式サイトなどでアナウンスされていることなので案外知られていないことなのですが、医療教会の本拠地であり、エミーリアがいた大聖堂。あそこが街の名前の由来になっているそうです。つまりは「ヤーナム大聖堂」。初めに聖堂ありき、次いでヤーナムという街が築かれていったことになります。ここからは解釈が分かれるところですが、つまり聖体となる女王ヤーナムを墓地から連れ帰ったローレンス達は、彼女を聖体として戴き医療教会を興したのでしょう。必然、ヤーナムの名を冠した大聖堂が建ち、そして血の救いに誘引された人々が集い、街を成すことになります。つまり古き医療の街ヤーナムは、ローレンスたちによって作られたことになるのです。こう考えると歴史の歩みが見えてくるように思えてわくわくするのですが、例えばビルゲンワース時代から、医療教会末期まで生き永らえていたウィレームは何歳なんだとか(半ば人間ではなくなっていたようですが)、色々考えないといけないことが出てきます。まあ正直今回の記事とはあまり関係がないので、その辺はいつかまた考えたいところです。話を進めましょう。
(追記 : 2018.10.08) 話を進める前に一つ。今更ですが古都ヤーナムはローレンスたちが興したものではない、という考えに至りました。すっごい初歩的な部分として NPC 「孤独な老婆」が「お前らが来てから街はおかしくなった」という旨の台詞を口にしているんですよね。つまり医療教会は古都を乗っ取った訳です。ただし街の名の由来は変わらず大聖堂から取られているようで、思うにこの古街自体がトゥメルの遠い末裔であり、ローレンスたちはその歴史的背景をひも解く形で地下墓地から聖体を発見したのではないでしょうか)
そもそも医療教会はヤーナムの血を使って何がしたかったのでしょうか。思い出して欲しいのが、上位者の血が人間に馴染むことはなかったという事実です。人間は脳に瞳を持たないが故に、上位者の血に蠢く「虫」の宿主足り得ない。しかし例外がありました。それは人の中にあって人でない、特別な血を持つ人間です。それら特別な人間、主に女性たちは上位者に選ばれ、血を交えることで赤子さえ設けます。その結果、赤子の母親たちの中には人間から上位者にさえなった者もいたのではないか、とは以前の記事で触れました。ならば特別な人間の血を体に入れる、適合するということは、それだけで上位者へと近づく一助と成り得る訳です。そして実験棟の惨状を見るに、人間に対して上位者の血を直接用いるよりは可能性のある試みだったことでしょう。
トゥメルとは、地下遺跡を築いた古い種族の名であり 神秘の知恵を持った人ならぬ人々であったと言われている
トゥメル=イルとは、トゥメル人の王ないし王都を意味する それは、上位者の眠りを祀るトゥメル文明の末裔たちが せめて彼らの王を戴こうとした証しであろう
トゥメルの汎聖杯など
即ち医療教会の狙いとは、女王、つまりはトゥメル人の血を使い、古き叡智を秘めた人ならぬ人を製造すること。そしてかつてあった上位者との結びつきを得ることにありました。言い換えればそれは、ヤーナムという街に、トゥメルを再臨させる目論見でもあった訳です。結果として血の医療は救いをもたらしはしましたが、同時に獣の病を蔓延させることになります。ですがこれは何も教会に技術的な不手際があったということではありません。思い出して欲しいのが、聖杯ダンジョンを進んでいった先に待ち構えていた「獣血の主」という巨大な獣です。「獣憑き」含む、遺跡道中の獣たちも同じです。これらはトゥメル文明に元より獣の病が存在していた事実を示します。つまるところ、医療教会はとても上手くやったのです。ですが、だからこそ、トゥメルが有する生命力とともに、獣化という病魔をも呼び覚ましてしまった。不浄は聖血に宿っていたのです。
興味深いのは女王ヤーナム自身が獣ではなかった一方で、女王の血が獣を生んだ事実です。ならばトゥメル人達の中に現れた獣は、女王から血を拝領した者たちの成れ果てなのか、或いは女王のみに関わらず、獣化はトゥメルの血筋に共通して潜伏する病だったのか、そこはちょっと分かりませんが、どちらにせよ古代の超人たちであっても、獣化という呪いを克服することは叶わなかったことになります。だとすればこの不浄の発端は何なのでしょう。神秘の古代人と言えど、そのような存在が降って湧いたとは考えられません。「もたらしたもの」があったはずです。上位者の「虫」が何かをきっかけにトゥメル人へと感染したのかもしれませんし、宇宙から隕石と共に降ってきたのかもしれない。或いはそんなちっぽけな想像を超えた、もっと暗い場所から這い上がってきたとでもいうのでしょうか。
補足 : 病めるローランの医療
医療と獣の病を語るのに欠かせないのがローランという土地です。ここに関しては「よく分からない」というのが本音なのですけれども、劇中には以下のような記述が存在します。
ローランとは、砂の中に消えた悲劇の地である 悲劇の所以は「獣の病」であったといわれ 病めるこの地は、あるいはヤーナムの行く末なのだろうか
病めるローランの聖杯
病めるローランの各所には、僅かに、ある種の医療の痕跡がある それは獣の病に対するものか、あるいは呼び水だったのか
病めるローランの汎聖杯
獣の病というものが古い血に宿っていて、そしてこの地に医療の痕跡があったことから、ローランはヤーナムの「前例」だったことが分かります。しかしヤーナムのように学徒たちの探求の結果として病が蔓延したというよりは、純然たる医療行為が悲劇を招いたという方がしっくりきます。なぜならばローランは、まるで全体がヤーナム旧市街であるかのように羅患者の獣、つまり元病人で溢れかえっているからです。砂の中に消えたというのが分かりませんが、獣の病の果てにはそういった異変が訪れるということなのでしょうか。
重要なのはローランが何を拝領したかという点です。地下遺跡を築いたのがトゥメルということからも、医療教会と同じものを聖体としたのではないかというのは想像に難くありません。しかし血に渇いた獣や獣憑きなどは一部共通するものの、ローラン産の銀獣や黒獣は地下遺跡に巣食う獣と違って「雷」という特性を持ちます。これはトゥメル産の獣にも見られないものです。これをヒントと捉えるのなら、ローランにとっての聖体はまた別にあるのではないか、という推測が浮上してきます。というかそれ以前に、「女王ヤーナム」が二度、或いは二代に渡って捕まったと考えてしまうと、トゥメル=イルのセキュリティどんだけガバガバなんだという話になりませんか。
ただ、すみません。一点だけ嘘をつきました。禁域の森で出会う身を窶した男、オドン教会に移動させると NPC を殺害してしまう彼ですが、この男はローランにもボスとして出現した「恐ろしい獣」に変態する能力を持ちます。これは「聖職者こそがもっとも『恐ろしい獣』になる」という記述からの名称、そして人間時に纏う「やつしの頭巾」からして、彼はきっと医療教会の聖職者だったのでしょう。つまり雷特性を持つ獣はヤーナムの血からも生まれていることになります。さあ、ややこしくなって参りました。
この辺りに整合性を持たせるなら、ローランの「恐ろしい獣」もまた、ローランという土地の聖職者だったという事実の示唆になるのでしょうか。また、ローランにはそのまま「ローランの聖職者」という mob が出現するのですが、こちらは炎を使役します。そして上述したように医療教会のローレンスは全身が燃え盛ってさえいました。これらのことからどんな推測が立てられるのかというと、聖職者が恐ろしい獣となる時、出自に依らず彼らは炎や雷などを、超常的な力を行使するに至るのかもしれません。思えばエミーリアも自身を回復させる神秘を用いていましたね。だとすると地下遺跡の獣憑きの正体とは、「トゥメルの聖職者」だったのではないか、なんてことも考えられる訳です。そういえばオドン教会の最下層に獣憑きがのんびり座っていましたが、あれは地下遺跡から逃げ出してきたのか、或いは医療教会の聖職者の成れ果てだったのかもしれません。
補足 : 仁義なき医療教会
医療教会の血の源は女王ヤーナムである、という発想に基づいての考察ですが、一応まだ根拠はあります。劇中、医療教会上位学派のメンシスは女王ヤーナムとその赤子メルゴーを利用していたようですが、なぜそんなことが出来たのか。どこで出会ったのか。単純な話、医療教会に元々「聖血」として祀られていた彼女たちを引っ張ってきただけなのではないでしょうか。加えて言えば「メルゴーの乳母」直前、エレベーター横にあった「ヨセフカの輸血液」。滅茶滅茶意味ありげだったあのアイテム配置ですが、こちらも単純な話、ヨセフカ の診療所にメンシス派の息がかかっていたことの示唆でしょう。そしてヨセフカはあるタイミングで、偽の女医に成り代わられることになります。服装などから察するに、偽ヨセフカは「聖歌隊」の人間です。つまりここでも「聖歌隊」と「メンシス学派」の抗争劇が垣間見える訳です。そりゃ同僚同士でこんなことやってる職場なら滅びるよ。
図解 これが「虫」のパワーだッ!
図はないです。ようやく「虫」の話ができます。さてヤーナムの血の医療には不浄が蠢いていて、そして不浄とは「虫」のことでした。ではその「虫」は具体的に何をもたらすのでしょうか。
「感覚」を得るぞ
ヤーナム独特の血の医療を受けたものは 以後、同様の輸血により生きる力、その感覚を得る
故にヤーナムの民の多くは、血の常習者である
輸血液
感覚効果が高く、より大きなHPを回復する
ヨセフカの輸血液
狩人の生きる力、その感覚を鈍らせ、HP回復を阻害する
感覚麻痺の霧
作中幾度か登場する「感覚」という言葉。違う視点で読むのなら、そのまま精神力という意味ではなく、「生きる感覚」をもたらす「何か」を指す言葉なのだと考えられます。まあ前回の記事でも触れたので遠回りに語る意味もないですね。要するに「虫」を体内で飼うことで、それは尋常でない生命力を授けてくれるようです。ならばプレイヤーキャラクターの HP の意味は、体内の血液量及び、そこに巣食う「虫」の量と捉えてよさそうです。輸血によってそれを補充すると。水銀弾を生成する際に HP が減少するのは、狩人の生命力と血液量が連動しているという描写ですね。
また、これは狩人のみの能力なのかもしれませんが、「リゲイン」というシステムも興味深い。前回の記事で触れましたが、これは返り血によって体内へと血液を補充しているのでしょう。排出してしまった「虫」を相手の体液から取り戻している、という考え方もできますが、毒沼に生息するウジ虫からもリゲインが可能なことを考慮すると、血そのものを取り込んで「虫」に栄養を送っているとした方が自然かもしれません。だとすればヤーナム民が皆持っていそうな能力ではありますが、これに関しては確認する術はありませんね。また「なぜリゲインには制限時間が決められているのか」という疑問についてですが、たぶんリゲイン受付時間は、そのまま狩人の外傷が修復されるまでの時間なのではないかと考えました。開いた傷口から血を補充することをリゲインと呼ぶなら、塞がった後でそれが出来なくなるというのは頷ける話です。なので HP が減少し、かつリゲインができない状態とは、言い換えれば「傷は塞がったが血が足りない」状態な訳です。ということはゲーム中描写こそされていませんが、たぶんヤーナムの血の医療を受けた人たち、特に狩人は、傷ついても瞬く間にそれが塞がるといった体質を持っているはずです。すげーな血の医療。この考えを突き詰めると、経口投与、つまりそこら辺の人間に噛り付いて血を啜れば回復が可能になる理屈ですが、それをする者を人間と呼べるかは疑問ですね。
人を獣にするぞ
次に獣化という現象です。これはヤーナムに蔓延する風土病であり、「獣の病」と呼ばれています。「虫」による強靭な生命力と獣化は表裏一体ということですね。ですが誰もかれもが獣になりはしません。宮崎社長曰く「人間性という枷が外れた結果」だそうです。全て理解した気になってしまう説明ではあるのですが、謎は残ります。何を引き金にして獣化は起きるのか。単純に心折れた者が獣となるのか。劇中、獣にならずに死んでいく者がいるのはどういうことなのか。聖堂前の大男たちなども「虫」の影響だとは思いますが、彼らはなぜ肥大化だけして獣になっていないのかなど、ここら辺まだ分からないことだらけですが、そこは一旦忘れて、獣の病が「虫」によるものなのだという事実を示す描写に思いを馳せてみます。
劇中「獣」に属する敵は共通する弱点を持ちます。「ノコギリ」と「火」です。如何にも獣に効きそうな要素なのですんなり受け入れてしまうところですが、改めて考えると意味不明です。獣は火を恐れるとは良く言いますが、だからと言って人間よりもよく燃えるなんてこともないはず。というか巷の印象ほど獣は火を恐れないとも聞きます。ノコギリだって同じこと。むしろ獣となって身体能力や生命力が増大する訳ですから、外傷に対しても頑強になるはずではありませんか。獣になった結果、それら 2 つへの耐性が低くなる、そんなことあるのでしょうか。あります。実は火に弱いのは獣ではありません。その内に潜む汚物たち、そう、「虫が炎に弱い」のです。劇中で炎を恐れる獣がいますが、あれは獣の内に蠢く「虫」たちがビビり倒している訳です。そしてこれは病が進行した宿主はその行動規範を「虫」によって支配されてしまう事実を示します。合わせてノコギリが獣に対して有効な理由は、ノコギリという形状がより肉を酷く裂き、多くの血、つまり「虫」を排出させることに適しているからでしょう。つまりは「ノコギリ」も「火」も獣そのものへの対抗手段ではなく、獣を動かす根源へと働きかける手段だったのです。ヤーナムという街にはヤーナム葬という独特の風習があります。市街各所で見かける、獣を磔にして火を放つやり方です。それは古来より人間が伝染病に対して行ってきた手法に似て、また彼らは不浄が何を嫌うかを本能で嗅ぎ分けていたのではないでしょうか。
余談ですが、この理屈の上でルドウイーク戦を思い出すと、彼は HP が半分になった途端に人間性をやや取り戻したように思えます。これは血を排出させたことで、「虫」の支配から一時的に逃れた描写なのではないでしょうか。ちなみにメンシスの悪夢に登場する銀獣は、倒すと寄生虫を排出する訳ですが、この時炎属性の攻撃、また内臓攻撃によって倒すと「虫」が出てこないまま死んでくれます。
動物をおっきくするぞ
「虫」が人を獣にする。では獣は何になるのでしょう。その答えが、劇中で幾度となく登場するカラスやネズミやブタさんです。彼らは見るからに尋常の状態ではありえませんが、それもその筈、彼らアニマルたちは、まず最初に「虫」に侵された死体でも食べたのでしょう。その結果があのように異常なまでに肥大化した姿です。つまり人が「虫」によって獣性を獲得する一方で、獣は獣としてその凶暴性や食欲とともに肉体を際限なく肥え太らせていったのだと思います。もちろん、彼らもまた「火」と「ノコギリ」に弱いです。ちなみに犬も「獣」に分類されるのですが、こいつは特別大きくなっていません。なぜなんでしょうね。まあ、でかい犬とか勝てる気しませんけど。
このことからも、宿主が元の形態からかけ離れるといった現象は人間にのみ起こることが分かります。やはり人間性という、人だけが持つ知性や魂のような部分に「虫」は大きく作用しているのでしょう。人はその人間性ゆえに人を失い、或いは超えることができますが、動物は所詮、動物でしかないということなのです。……実は例外が存在するのですが、これは後述。
死体を動かすぞ
人間を獣に変え、獣の成長を促す「虫」ですが、「死体」に取り付いた場合どうなるのか。その答えがヤーナム市街や禁域の森の沼に出没する、上半身のみで動く死体なのではないかと思われます。獣になる間もなく死んだか、死んだものに寄生したのかは不明ですが、「虫」はある程度原型を留めてさえいれば死体を操ることができるのでしょう。またそれは、裏を返せば獣化という現象に「生者の意志」が不可欠だという事実も示します。
石になるぞ
石になります。「虫」が。なるったらなるんです。結論を言ってしまうと、「血石」と「血晶石」はこいつらが血中で固まったものです。
死血に生じる固形物の欠片
血中に溶けたある種の成分が、死後凝固したもので 結晶化していないものは血石と呼ばれる
血石の欠片
これ笑ってしまうのが、「(血の持ち主が死ぬことで)血中の成分が凝固する」という意味の文章じゃないんです。「死んだ血中の成分が凝固する」という意味なんです。ずっと前者だと思っていました。意味合いとしてはあまり変わらないかもしれませんが、要するに血の中に何らかの生物が蠢いていることは初めから仄めかされていたんですね。そして「『虫』は死ぬと石になる」という視点を持つことで、他にも色々楽しげな事実が見えてきます。
ほおずき(脳みそ女)やメンシスの脳みそに視認されることで、発狂とは別に狩人の体から鋭い槍のようなものが突き出してきます。あれ、血中の「虫」が無理やり血石化させられているんです。つまりあの腐れ脳みそどもは、「虫」に直接攻撃を加え、そしてその性質を利用することで内部から攻撃してくれていた訳です。メンシスの悪夢に転がっているトゲだらけの遺体はその被害者なんですね。ファック! また面白いのが、メンシスの脳みその邪眼は人間は勿論、敵キャラクターであっても同様の効果を及ぼします。つまり巨人や銀獣の体から針が突き出しているということは、彼らの体内にも「虫」がいるということ。しかし銀獣の死後、その体を突き破って出現する「虫」自体にはこの効果が及ばないんですね。脳みそが「虫」を攻撃するというのであれば、これはおかしい。つまりこれは血という触媒が持つ性質な訳です。恐らく血と言う触媒を介してのみ、「虫」に対して強制力を発揮できるのではないでしょうか。また最大の血石である「血の岩」は本編中、メンシスの脳みその傍で、そして DLC エリアではほおずきの近くで「岩」は手に入ります。手に入る血石が強力になっていくのはストーリーの進行度合いを知らせる意味が強いのですが、「岩」に関して言えば両者ともに脳みそが近くにいたという描写から、「そこまでたどり着いた強力な探索者の血が固められた」というフレーバーにもなっているのではないでしょうか。
そしてもう一つ。狩人ブラドーと彼が振るう「瀉血の槌」です。
医療教会の刺客、狩人ブラドーの狂った狩武器
はらわたの、心の底に溜まった血を吸い おぞましい本性を露わにする
それはまた、悪い血を外に出す唯一の方法だ 地下牢に籠ったブラドーは、そう信じ続けていた
瀉血の槌
「瀉血」とは古く信じられてきた「悪い血を出せば健康になれる」という治療法だそうですが、現代の医療では限定された状況でしか用いられません。つまりブラドーの思想は狂っていると言っていいのですが、『ブラッドボーン』というゲームでは、狂気の沙汰ほど真理に触れているもの。そして彼の「気づき」は正しく、血中にこそ「淀み」の根源があるというのは、ここに至るまで再三口にしてきました。「虫」の認識が禁断の獣喰らいより端を発したように、獣の皮と血を被るという所業がある種の啓蒙をブラドーにもたらしたのでしょうか。
さて瀉血の槌ですが、これは DLC で追加された特殊な変形武器です。通常形態は変哲もないメイスなのですが、腹に突き立てることでそれはグロテスクなモーニングスターの如き姿へと変形します。腐れ脳みそどもがやったことの逆利用、つまり「自らの血を血石化させて武器としている」訳です。更に注目すべきポイントとしては、変形前が筋力武器であるのに対し、変形後の槌は血質武器へと変異すること。これらを鑑みることで、地味に謎だった「血質とは何か」という疑問に光明が見えます。この辺りは後述。
そして極め付けは女王ヤーナムを撃破することで入手できる「ヤーナムの石」です。
トゥメルの女王、ヤーナムの残した聖遺物
女王の滅びた今、そのおぞましい意識は眠っている だが、それはただ眠っているにすぎない…
ヤーナムの石
ヤーナムの胎内にはメルゴーという赤子の上位者がいました。ならばこの石は、メルゴーが丸のまま血石化したものと捉えるべきでしょう。まだ生きているらしいです。さながら冷凍睡眠のよう。いつか目覚める日が来るのでしょうか。
火や雷を起こせるぞ
言うまでも無く「炎」や「雷」、そして「神秘」と名の付く血晶石の存在は、血に宿った「虫」がそれらの事象を引き起こし得ることの示唆です。一部炎や雷を行使する獣が存在しますが、上位者が「虫」から刺激を受けることで神秘を行使するのと同様の仕組みなのかもしれません。
また興味深い描写があるのですが、漁村に点在する小さな灯を思い出してください。それらをよくみると蝋燭などではなく、ナメクジに似た軟体生物から火が出ているんです。この軟体生物はゴースの精霊です。初めて気づいた時にはシュールさに笑ってしまったのですが、しかし何も漁村民も伊達や酔狂で軟体生物に火をつけてみた訳ではないでしょう。わざわざ油をナメクジに塗りたくって燃やしたとも考えられません。精霊や上位者と言えば神秘が目立ちますが、恐らく使いようによっては火や雷の触媒にもなるということなのではないでしょうか。漁村の司祭などは雷を落としてきましたが、もしかしたら精霊を触媒にしていたのかもしれませんね。ゴースの遺子が母体を起点にして落雷を招いていたことからも考えられることではあります。そこから考えを進めてみると「トニトルス」の雷光や、炎・雷のヤスリには血晶石、もしくは教会が保有するエーブリエタースの精霊などが利用されているのでは、などと想像できてしまいます。
毒になるぞ
じわじわとダメージを受ける「遅効毒」に対して、一気に HP を持っていかれる「劇毒」ですが、これらは名称通りの意味で「毒」なのではなく、「虫」が悪さをしているのではないかと考えます。後者に関して言うなら、例えば「虫」が対象に纏わりついて噛り付き、激しい出血を促す、というような。劇毒ゲージが蓄積しきることで大量の血飛沫が発生するのはそういった理由からではないでしょうか。そして狩人に宿る不浄の源が聖血であると捉えるなら、まさに聖血の主である女王ヤーナムの血飛沫は劇毒の効果を持ち、また同様の攻撃を獣血の主も行ってきます。更にはカインハーストの武器である千景は、変形することで狩人自身の血を刀身とする訳ですが、これには劇毒の効果があります。
では遅効毒の方はどうなのかというと、こちらももしかすれば「虫」に原因を求められるかもしれません。理由は「白い丸薬」で治癒できるからです。劇毒が「虫」による侵食なのだという仮説が正しいのだとして、それを治せる丸薬とは何なのか。簡単な話、「虫くだし」なのではないでしょうか。そして劇毒が虫下しで治るのなら、遅効毒もまた「虫」による健康被害だと考えて不自然さは無い気がしますが……。
薬にもなるぞ
白い丸薬の話が出ましたが、その前に「獣血の丸薬」に触れましょう。これはもうそのまま、テキストにある通り「獣血を固めた」ものなので、その主たる獣、名の通り「獣血の主」が源となったのでしょう。獣の血を取り込む、それは「獣喰らい」に通じますが、あちらが「虫」の認識という、狩人としての在り様に影響を及ぼしたのに対して、丸薬とした際の効能は純粋に獣性の高まりという形で表出します。重要なことは、「虫」とは時に人の意思を変質させ、石になったかと思えば毒にもなり、更には薬にもなるのだということ。触媒如何で様々なものに変態するのです。という訳で、白い丸薬に触れます。
毒を治療する小さな丸薬
かつて旧市街を蝕んだ奇怪な病、灰血病の治療薬
もっとも、その効果はごく一時的なものにすぎず
灰血病は、後の悲劇、獣の病蔓延の引き金になってしまった
白い丸薬
「灰血病(ashen blood)」。白い丸薬のテキストにしか登場しないのでご存じない方もおられるかと思いますが、本作屈指のミステリーです。手がかりが少なすぎるのでこの謎の病に関しては現状降参するしかありません。今取り上げるべきは白い丸薬の方です。少ない情報を意地でもヒントとするなら、これをわざわざ「丸薬」としてあるのは、この薬品が獣血の丸薬と同様の製法だからではないでしょうか。
しかし仮に「白い血」などというものを原料にしているのだとすると、候補は多岐に渡ります。脳喰らいや星の子などの眷属、そしてエーブリエタースの一部分から流れる血は、白いような、銀色のような、もしかしたら灰色のような血液をしています。エーブリエタースなどは教会が保有していることですし、あり得そうですね。もっともそれだと旧市街の惨劇と聖歌隊の設立(エーブリエタースとの邂逅)の順序まで考えなきゃいけない。ああ、頭がこんがらがってきた。ただ可能性としてもう一つ考えられるのが、「血」という入れ物を抜きにした、「虫」そのものをすり潰して丸めているのではないか、というもの。もしかしたら獣血の主に巣食う巨大なウジ虫を原材料にしているのかもしれません。毒性の原因となる「虫」そのものを摂取することで、それらへの耐性を上げる、または「虫下し」としたのではないでしょうか。多分に推測ですが、一つの考察としてあっても損はないかなと思っています。
補足 : 灰血病
降参と言いましたが、ちょっとだけ頑張ってみます。灰血病の元ネタが「敗血症」なのだと仮定してみます。敗血症とは現実に存在する病で、簡単に言えば重度の細菌感染症だそうです。では灰血病もまた、何らかの細菌やそれ以外の何かに蝕まれたもの、と推察できます。そして灰血病は「旧市街を蝕んだ」そうですが、この「蝕み」という言葉が、病魔に掛かった比喩というだけではなく、言葉通りの「虫食み(むしばみ)」だとすると、何かうっすらと見えてくる気がするような、しないような。
分かっている限り、旧市街というのは二つの異変の舞台になっています。「灰血病」と「赤い月」です。そしてこの二つが無関係だと考えるのは不自然でしょう。赤い月が上位者の徴(しるし)なのだとすれば、旧市街の異変にも上位者が関わっていたことになります。そして上位者の何某かが旧市街を「虫食んだ」のだと仮定した上で、前述したように一部眷属が「灰色の血」を持っていること、特にヨセフカ診療所で人間が眷属(星界からの使者)化させられていた事実と結びつけると、ちょっと突拍子もないですが、こんな推測が出来ます。「灰血病とは、旧市街の住民が眷属化していく現象だった」
そして医療教会は、その異変に立ち向かうべく、或いは既存の技術を有効と見ただけなのか、白い丸薬による「虫下し」を試みます。もっとも医療教会が事の原因を「虫」と捉えていたのかは怪しいので、単に眷属化、人間の血が灰色になっていく現象を投薬により何とかしようとしたのかもしれません。そして確かに薬効は現れましたが、一時しのぎにしかならず……そして「何か」があったのでしょう。旧市街を蝕んだ灰血病は、代わりに獣の病によって塗りつぶされることになります。後のことは、ご存じの通り。焼き討ちというパワー医療の決行です。
余談ですが旧市街のボスである血に渇いた獣は、常に血を噴き出しているが故に渇いているのだそうですが、その血は毒を含み、また灰色のように見えます。旧市街の獣だけが毒性を持っているのは、灰血病の名残なのでしょう。そしてローランの獣もまた毒性を持つのは、或いはあの土地はヤーナムというより旧市街の似姿だったのかもしれません。
「虫」には「虫」を
『ブラッドボーン』には炎・雷だけでなく、様々な効果の血晶石が登場します。それらは全て凝固した「虫」の力ではないかというのが何となく分かってきた訳ですが、中でも特筆すべきは「獣狩り」や「眷属狩り」と名の付くものです。これらは実際に獣や眷属への特効となりますが、果たしてどのような力が働いているのでしょうか。例えば松明を持って火を放ち、自身は雷光の能力を持つ銀獣は炎と雷の血晶石をドロップします。松明を基にした火炎攻撃であるにも関わらず炎の血晶を落とすというのが腑に落ちない気もしますが、或いは炎を苦手とするはずの獣が炎の道具を所持するという習性が、銀獣に宿る「虫」に何らかの変質を促したとも考えられます。このように対獣・対眷属の血晶をそれぞれドロップするものたちに何らかのヒントが無いかを調べてみたのですが、ちょっと分かりませんでした。
分からなかったんですが、分からなかったなりに仮説を立ててみるなら、「虫」はそれ自体が「虫」に対する特効に成るということなのかもしれません。毒のくだりで申し上げた、「虫」はすり潰せば「虫下し」となるという仮説や、「虫」を宿した狩人が、同じく上位者の「虫」が宿ったエーブリエタースの血飛沫を受けて発狂してしまうのは、そういうことなのではないでしょうか。この仮説に基づけば、やはり「白い丸薬」は巨大なウジ虫をすり潰したものなのかもしれません。ヤーナムの聖血から生じたであろう「虫」故に、同種の「虫」がもたらす毒性への薬効が認められるものの、上位者由来と思われる灰血病の治療には効果が足りなかったのではないでしょうか。もしかしたら「発狂」とは、上位者の「虫」がもたらす「毒」なのかもしれません。通常の「虫」では宿主の血液ごと排出するしか逃れる方法がなく、故に白い丸薬が効果を見込めない……とか。ちなみに時折出てくるウジ虫ですが、この寄生虫、遅効毒に滅法弱かったりします。
余談ですが「醜い獣、ルドウイーク」には当然獣狩りの血晶が有効です。しかし「聖剣のルドウイーク」となってからはこの特効が消えるそうです。一方で変わらずノコギリや炎はよく通ります。つまり対獣の血晶というのは、「獣が持つ肉体的な弱点」ではなく獣化の際に失われた人間性、転じて「獣性」部分に対して効果を及ぼしていたということなのでしょう。