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君の瞳に恋してる (3) - 月編 -

「月」の話をさせてくれ

前項の続き。おさらいも兼ねて総括します。もうしばしお付き合いください。

回る変態

右へ
「狩人なら知っているでしょう、ヤーナムの地下深くに広がる神の墓地。かつてビルゲンワースに学んだ何名かが、その墓地からある聖体を持ちかえり そして医療教会と、血の救いが生まれたのです」

聖体、即ちトゥメルの女王ヤーナムとの出会いが、「ヤーナムの血の医療」の始まりとなりました。

トゥメル = イルの汎聖杯
トゥメルの王は伝統的に女性であり 代々古い名を継いだという

なぜ「ヤーナム」の名は代々の女王へ受け継がれたのか。それは「fair maiden」こそ上位者との繋がりを得る根幹であり、また稀有なる赤子を授かった娘こそを王へ戴く事が自然な成り行きだったのだと思われます。そしてトゥメル文明においても聖血の拝領は行われ、彼らは人ならぬ人となり、また副産物として獣の病が蔓延します。

宮崎社長のインタビューより

「このゲームのテーマの一つに獣型の敵に起こる「内的衝突」がありました。獣化への衝動は、私たちみんなが持っている、いわゆる人間性とせめぎ合っています。人間性はある種のカセとして働き、獣化を抑制しています。その枷によって獣化への衝動が強く抑えられていれば抑えられているほど その枷がいざ外れた際に、その反動は大きくなるのです」

では獣の病について。まーた以前書いたので結論のみ言いますが、獣化の引き金は「祈り」です。死の際、或いは絶望の淵で断末魔に似た祈りを放った者が獣へと変わります。故にこそより強い祈りを知る聖職者こそがもっとも恐ろしい獣となるのであり、一方で血に酔った狩人が獣化の兆候を得ながらも「獣を狩る者」であり続けるのは、彼らが祈る神を持たないからなのでしょう。

ではなぜ祈りが切欠になるのかと言うと、そこに応える者がいるからです。

悪夢の上位者とは、いわば感応する精神であり 故に呼ぶ者の声に応えることも多い

祈りに感応した上位者は人にはめられた枷を外し、そして奇妙な事に体内の血は宿主へと変化をもたらします。

これが「右回りの変態」です。

右回りの変態
血の発見は、彼らに進化の夢をもたらした
病的な、あるいは倒錯を伴う変態は、その初歩として知られる

ヤーナムの血の医療が人に変態をもたらすのは、彼女が王位を授かるほどに濃密な血質を持っていたからでしょうか。カインハーストで同様に拝領が行われ狩人と獣が生まれていた辺りその線が強そうです。たぶん、ヤーナムが孕んでいた赤子は関係が無いのでしょう。

「彼ら」とやらは夢を見たのです。人が獣に変わるなら、それ以上のものにだって。

祈りを知らない変態

ご存知の通り、聖血は人以外のものであっても変態をもたらします。具体的には凶暴性の増大、肉体の肥大化という形で。

豚
鴉
鼠

てめえらはなんのフレンズさんですか?

では人間とは、どこまでを人間と指すのか。例えば知性を持たない、頭のマヒした人間がいたとして、人間でありながら、人間とは呼べないほどに肥大化した彼は、しかし獣という変態を遂げませんでした。これは「知性が獣を産む」という逆説的な証明です。また知性無きものに「神」は理解できず、信仰も持ちえないのだと。

獣狩りの下男
教会の大男

大男たち

では例えば幼子なら? 例えば理性や常識を獲得する前の幼子が、捨てられ、何も知らぬまま育ったなら? その答えが画像のクリーチャーです。名を「捨て子の巨人」。

捨て子の巨人

血に酔った狩人がそうであるように、捨てられた子どもの行き先もまた悪夢でした。

『Bloodborne』とは獣の謎を追う物語である一方、人間とは何かと問う物語でもあったように思います。

左へ

「fair maidens」の血が狩人と獣を生み得るのなら、進化の極致たる上位者の血は何を産むのか。血の遺志が「精」としての役割を持ち、それ故に「瞳(卵子)」と結びつき赤子を成すというのは既に申し上げた通り。しかしその資質を持たない者の末路は、精々が頭を肥大化させて海の音を聴くばかりでした。

なのでこれは仮定の話なのですが、祈る神を持たない者が獣に成り得ないのだとして、実験棟の彼らも同様に「祈り」という条件を満たしていたなかったとすると、どうでしょう。肥大化で留まった彼らは、或いはまだ変態の余地を残していたのかもしれない。女王の血と祈りが獣を生むなら、上位者の血と祈りは何を生むのか。

それが「眷属」なんだと思います。

脳喰らい
瞳の苗床
蛍花

ビルゲンワースにお集まりの眷属の皆さん

以前から「眷属」とは何ぞやと考えていたのですが、血晶に「獣狩り」「眷属狩り」とあるように、どうも両者は相反する存在のように描かれている節があります。だとするなら、いっそのこと獣化と眷属化は同じ理由から起こっているのではないかと思い至りました。ただ一点、体に入った血が異なる訳です。そも「眷属」とは「一族」とか「従者」と言った意味を持ち、裏を返せば眷属たちには特定の「主人」がいることを意味します。つまりゴースの血によって眷属化すればゴースの眷属に、「星」の名を冠する上位者の血であれば「星の眷属」になるのですね。

そしてそういった先入観から眺めてみると、眷属「脳喰らい」「瞳の苗床」などは、服装・装飾品から元聖職者なのではないかという疑いが持てます。そう思いたいだけなんじゃないかって? なんも反論できねぇな。

脳喰らい
瞳の苗床

聖職者こそ恐ろしい眷属となる……?

聖職者こそが恐ろしい獣化者となるように、上位者の血を拝領した聖職者は強烈な祈りを引き金に、その聖体の従僕(眷属)に変態していくと考えれば、個人的にスッキリ。

ただその理屈で行くと、実験棟の患者にして教会の尼僧であったろうアデラインが眷属とならなかったのは不自然な気もしますが、脳液を得た事が信仰の結果なのか、それとも「血の聖女」とは名ばかりで、彼女は血を調整されただけの、祈る知能など持たない、気の触れた娘だったのでしょうか。思い返せば「彼ら」は同一の存在にして血に依る変態を迎えながら、獣にも眷属にも至っていませんでした。

鐘持ち
教会の大男

両者服装がほぼ同じ。恐らく同じ「頭のマヒした大男」が、血の違いによって異なる変態をもたらされたのだと思われる。

彼ら、獣でも眷属でもないんです。悪夢に住まう「鐘持ち」の方は「触覚(触手)」がある以上、眷属寄りの変態だとは思うのですが、そうではない。彼らは共に「教会砲」の説明にある「脳の麻痺した大男たち」の成れ果てであり、しかし「知性を持たなかった」という彼らは、やはり信仰という概念も理解できていなかったのではないかと思います。そしてそれ故に血の力で変態をもたらされようとも、信仰の矛先、つまりは仕えるべき主を知らぬが故、眷属、そして獣にすら至れなかったのではないかと推測できます。

ともかく上位者の血によって、生命には獣化とは別の変化がもたらされる事が分かってきました。

これが「左回りの変態」です。

やはり進化の極北に達しているだけあって、上位者の血は未だ人間の範疇である fair maidens のそれよりも影響が強いようです。ヨセフカ診療所での治験を顧みると、既に獣化を迎えていた「やつしの男」ですら「星界からの使者」へと作り変えてしまえた事からも血の力関係が伺えます。後から入れた血の影響が上書きされるのではないかとも考えられますが、ややこしいのでちょっと除外。

また眷属は水銀弾をドロップします。これは秘儀の触媒として水銀が使われるように、眷属という存在が触媒を必要とするほどに現実離れしている事の示唆であるように思えます。中には雷に弱い眷属などもいますが、彼らの血が白か灰のような色をしていることから、それらの特徴を持つ眷属の体液は丸ごと水銀化している、なんて考えると面白いですね。強力な血を持つだけあって、その存在の成立自体が、触媒無くしては難しくなっている。

なお右回り、左回りをどのように判断しているかというと、獣化の証である「右回り」が女王ヤーナムがいるトゥメル=イルなどで拾え、また眷属の証である「左回り」が禁域の森の、星界からの使者エリアなどで拾える事からの推察です。さて眷属の証と見た「左回り」が獣の地である深きローランでも拾える訳ですが、これはどのように読むべきですかねえ。まだまだ分からない事がいっぱいだ。

祈る変態

ということで、右回りだろうと左回りだろうと、ただ拝領に頼るばかりの正統な進化はありえない事が分かってきました。獣も眷属も、その変態の傍らには祈りがあったのです。祈りこそが上位者と感応する手段であるが故に。だからこそミコラーシュたちが作り上げた「メンシスの檻」は正しく「夢の上位者と交信するための触覚」として機能を果たし、曲がりなりにも聖職者である彼らに一定の成果をもたらしたのでしょう。

ちなみに子供じみたと言ってしまうと失礼ですが、「信仰(しんこう)」と「交信(こうしん)」は一応言葉遊びになっていたりします。「交信」のジェスチャーが腐っても上位者であったメンシスの脳みそと繋がりを得られたように、「信仰」は夢の上位者と「交信」する手段だったという話でした。

使者
星の子

怪異、祈祷中。

使者も、星の子ですら祈っている。祈りとは神秘と通じる為に不可欠なものなのでしょう。

補足 : 光の小人

祈るものに変態はもたらされる。よって聖職者にこそ、より強力な変態が訪れる。聖職者は変態。では彼はどうでしょう。医療教会最初の狩人にして、後の醜い獣、ルドウイークです。彼は月の光に導かれた狩人でした。

「導き」
かつて月光の聖剣と共に、狩人ルドウイークが見出したカレル
目を閉じた暗闇に、あるいは虚空に、彼は光の小人を見出し
いたずらに瞬き舞うそれに「導き」の意味を与えたという

狩人ルドウイークは闇の中、光の小人と出会ったようです。それが如何なる奇跡として作用したのか、彼にはムーン・プリズムパワーが与えられ、伝説に名高き「聖剣の狩人」として英雄的メイク・アップを成し遂げることになります。しかし……。

「導き」
ゴースの遺体
ゴースの遺体 2

導いたのはゴースの遺志

分かり辛いですが、「導き」のカレルはゴースの遺体の似姿となっています。これは実験棟でゴースからの聖体拝領が行われていた事実の裏付け……とまでは言い切りませんが、そう仮定するならば、ルドウイークもまたあの凄惨な治験と何らかの形で関わりを持っていた事が分かります。少なくとも、どこかで血を体に入れなければ、遺志も虫も宿り得ないはず。それとも軟体生物でも生食したのか。あれほど火を通せと言ったのに。

『Bloodborne』の時系列はまだ整理しきれていないので間違っているかもしれませんが、ゲールマンが狩人として活躍していた頃、既に夢に囚われていたのだとして、教会はその強さの裏に上位者の存在を確信したのかもしれません。「俺たちにもやれるんじゃないか……!」 佃製作所も青ざめるほどの職人魂を見せた医療教会は、たぶんロケットを作るのと同じくらい難しい夢に向かって歩き出します。どこまで感知していたかは不明ですが、「悪夢」「上位者」と、狩人の夢と同じようなものは揃っている。ならば上位者の血を以て、その力を引き出す狩人を望んだ結果、その成功例こそが「教会最初の狩人、ルドウイーク」だったのかもしれません。折れぬ心で自身の獣性を抑え込み、聖剣の狩人はヤーナムの夜を切り裂くのです。

さて実験棟の最上層にて、一匹のカラスがカレル文字をドロップします。それは「導き」、ルドウイークのそれと同じものでした。ところでカラスは「石ころ」をドロップします。なぜならカラスは遺体の目玉を啄むからです。似ている石を目玉と見て収集したのか、或いは本当に目玉だったものが石化したのかは不明ですが、しかし軟らかな目玉は人体で数少ない、上位者の寄生虫でも宿りうる簡易の苗床として機能すると前述しました。

なぜカラスが「導き」を所持していたのか。ゴースの遺志が宿った目玉を啄んだからではないでしょうか。「導き」の正体とはゴースの寄生虫、或いは遺志そのもの。ならばルドウイークが自身の拠り所とした「小人」とは、所詮、カラス程度にも宿るものでしかなかった。そして同時に、心血を注いだ教会、その在り方、正体を、彼はいつか直視してしまった訳です。

石ころ
夜空の瞳

「夜空の瞳」がゴース由来のものかは分かりませんが、比較のため。

「…狩人よ、光の糸を見たことがあるかね? とても細く儚い。だがそれは、血と獣の香りの中で、ただ私のよすがだった。真実それが何ものかなど、決して知りたくはなかったのだよ」

かくして折れぬ心は折れ、絶望の祈りは血を右回りへ捩じり、醜い獣は生まれました。

ルドウイークがゴースの血を拝領していると仮定した場合、眷属ではなく獣へ変わったのは気になるところ。もしかすれば自身が崇める神(上位者)を確信をもって信仰しなければ眷属化は訪れないのでしょうか。いえ、それだとヨセフカの診療所で避難民がこぞって星界からの使者に変わった点が腑に落ちない。眷属化に必要なだけの啓蒙が彼に不足していたとみるのが妥当か、それとも誰より「狩人」であったルドウイークは、その反動である獣性によって眷属化すら強引にねじ伏せたのか。獣でありながらも夥しい瞳を蠢かせたその歪さには、そういった理由があったのかもしれません。

醜いネ!

瞳持つ獣

補足 : 感染、発狂、瀉血

血の遺志はそれ自体が寄生虫のような性質を持ち、あまつさえ実際に虫に変態してみせます。血の本意である「精」、子を作りその血を広めたいという意志が具現化したものなのでしょうか。しかし上位者のそれは通常、人という未熟な母体に宿ることはないため、宿主は狂うか、半端な変態を迎え触手を垂らすか、良くて眷属と成り果てます。

「発狂」というステータス異常があります。エーブリエタースの体液攻撃、また実験棟の頭だけとなった患者の体液攻撃などで発生するのですが、これは分かりやすく「発狂」が上位者の血、またはそれを宿す者の血によって引き起こされている示唆なんじゃないかと。ヤーナム聖堂前の教会の使いが振るう丸太攻撃が発狂の初出かと思われますが、あれはゴースかエタースの血でも塗りたくっていたのでしょうか。ともかく上位者の血は人の気を触れさせる。それは狩人であっても同じ訳です。

しかし注目すべきは、狩人(主人公)が「発狂」と共に全身から血を放ちダメージを受けている点。「人には理解できない現象に見えた為に、脳が理解しきれずパンクしている」……のではありません。啓蒙の上昇と共に発狂し易くなる点も合わせて、多分フロムは積極的にそう誤認させようとしているようなのですが、よく考えてみると別の観方が出来ます。要するにこれ、本格的に狂う前に、狂いの元を外へ放っているんです。

劇中で同じことをしている人がいました。 DLC で登場したブラドーという狩人です。

瀉血の槌
はらわたの、心の底に溜まった血を吸い おぞましい本性を露わにする
それはまた、悪い血を外に出す唯一の方法だ

聖血の不浄を知ったブラドーは、それを排出する事に拘っていたようです。つまるところ、狩人の「発狂」は瀉血という医療行為だった訳です。血ごと外へ排出しているので当然ダメージを負うし、死ぬこともあります。でも、気が触れて二度と立ち上がれなくなるよりはマシだろうと、あれはそういう事だったんですね。もしくは、狩人の夢に君臨する上位者にとって、別の上位者の血が狩人に影響を与えることは受け入れがたい故なのかもしれません。

また瀉血の槌は自身の血を血石化させる武器でもあります。

血の石化 : 状態 1
血の石化 : 状態 2
瀉血の槌

血の石

脳みその発狂攻撃と共に狩人の内から鋭い棘のようなものが突き出してダメージを負いますが、あれは体内の血が強制的に石化させられているのですね。瀉血の槌はその現象を利用した武器であり、端的に言うと頭がおかしい。また同武器の変形後 L2 攻撃は特殊で、全方位へ衝撃を加えるものである一方、使用すると発狂ゲージが蓄積します。これ、多分順序が逆で、設定上は持ち主は瀉血がしたいだけで、その為の動作に威力がくっついているのかなと思っています。攻撃したいんじゃない、オレは瀉血したいだけなんだ。

不思議なのはなぜ啓蒙の数値に比例して発狂ゲージおよび獣性が増減するのかという点ですが、「啓蒙」を「血の媒介者としての資質」と見た場合、それを多く持つという事は上位者の血を受け入れやすいことになります。受け入れやすいという事は、進行が速いということでしょう。また啓蒙の高まりと共に獣性ゲージも短くなる訳ですが、この点からも眷属化には啓蒙が必要であり、そして啓蒙の多さが人を獣性から遠ざけるなら、やはりそれは眷属と獣は相反する存在だと示す一つの裏付けになると思っています。

昨今では車に自動ブレーキ機能が搭載され順当に事故率を低下させてくれていると聞き及びますが、恐らく夢を見る狩人のみに付与された自動瀉血の機能は、いい迷惑であると同時に、実は無いと困ってしまうものなのでした。

改めて「瞳」

女の子はお砂糖とスパイスと素敵な何かで出来ている

改めまして「瞳」についてですが、この言葉は血の遺志に虫や赤子という「形」を与えるための「苗床」を示すものであり、つまり「瞳」を持つという事は、「虫」にとっての「軟体」を、また「精」にとっての「卵」を有する事を意味します。つまり上位者になれるのは女性だけであると。

体内に赤子(へその緒)を宿す事が究極進化への道筋だとして、「赤子を宿す」という神秘は、先天的に「瞳(卵)」を持つ女性だけに許された資質だからです。……ちょっと待てと仰りたいでしょうがしばしお待ちを。

で、例えば人から上位者に進化したと思わしきロマも、当解釈に則るなら女性という事になるのですが、一つ取り上げておきたい事があります。ロマ、彼女は間違いなく上位者であると同時に、しかし「眷属」でもあるようです。ロマには眷属狩りが有効であり、また撃破時に「眷属の死血」を獲得できる点が根拠になります。合わせてミコラーシュの、ゴースに対する台詞(祈り)。

「白痴のロマにそうしたように 我らに瞳を授けたまえ」

素直に考えるならロマはゴースの血によって上位者へ変態した、ゴースの眷属という事になります。女性が女性を孕ませている事になりますが、血の遺志はそれだけで「精」の効能を持つことは前述しました。赤子を授かるのは「瞳(卵子)」を持つ女性だけですが、血が精を兼ねる以上、孕ませるのは男性でなくとも構わない訳です。『Bloodborne』って百合ゲーだったのか……。

しかし当サイトの解釈に依るなら、ロマは瞳を授かったというより、ゴースの血に適応できるだけの「瞳(苗床)」を最初から有していたというのが正しいのですが、ミコラーシュの口にする「瞳」が「上位者のみ有する超次元の思考」という意味で用いられているのなら矛盾は無い、はず、たぶん。

ともかく「苗床」たる資質を持つものが順当に血の交わりの果てに上位者へ進化した訳です。何もおかしくはないはずですが、わざわざ「眷属」とした点が引っかかる。ロマがゴースのように母なる進化を遂げた結果、血(精)を提供した上位者の眷属になるというのであれば、同じく血の交わりの果てに進化したはずのゴースも何者かの眷属だったという話になるのですが……。

別に、だから矛盾があるって訳でもなし、それで構わないんです。ここまで来ると様々な解釈が可能ですし、そもそも当サイトの読み解きが前提から間違っているのかもしれません。しかしやはりロマが眷属である一方で、ゴースは眷属でない正統な(?)上位者であったと主張したい。なぜなら両者には明確な差があるからです。

見捨てられた上位者たち

ゴースは眷属ではないと仮定します。一方でロマは彼女の眷属となりました。では両者の進化には如何なる差異があったというのでしょうか。

前述しましたが「眷属」とは主たる上位者を持つ従者のようなもの。それは名前だけの事ではなく、彼らには重要な使命があります。それは「主の血(虫)を伝え広める」という使命です。それを親切にも一番分かりやすい形で表現してくれているのが、ビルゲンワース名物「瞳の苗床」です。

は〜ぎゅ〜

HUG っと!苗床

画像のように苗床さんはホールド攻撃を行ってくるのですが、これによって発狂ゲージがモリモリ溜まります。前述したように「発狂」が上位者由来の血を入れらることで引き起こされる状態異常であるなら、このホールド攻撃時に苗床さんは体液を注入しているのでしょう。しかし敵は何も気を触れさせようとしてこんな事をしている訳ではないはず。主である上位者の血(精)を流し込むことで、その血を感染拡大、眷属の増殖という形で版図を拡げ、究極的には主が求めて止まない赤子を作ろうとしているのだと考えられます。ちなみに同じことを脳喰らいもやっているみたいですが、きっと全ての眷属に与えられた使命なのではないでしょうか。

しかしここで活躍するのが、我々に内臓された自動瀉血機能です。例え体は穢れても、心までは汚させない。血を排出して事なきを得る狩人ですが、しかしそのような能力を持たない者は、どうなるのか。

穢された老思索者
二体のケダモノ

古老凌辱 〜穢された思索者〜

こうなります。何やらに寄生されたように変形を始めているウィレーム師と、彼がいる月見台に潜む二体の苗床。祈りが獣化のトリガーとなり、赤い月が昇ることでその進行が加速したのであれば、裏返せば月を隠していたロマが上位者と血の影響を遮っていたということ。上位者たちにとってそれは邪魔極まる訳です。ビルゲンワースが眷属塗れになっていたのは、彼らが上位者に遣わされたからであり、そしてロマの居場所を知るウィレームは後ろから前から穢され尽くしてしまったのでしょう。彼自身に眷属反応が無かったのは、ウィレームに信仰が無かった証か、まだ変態を終えていないからでしょうか。かくしてウィレームは無心でロマのいる場所を指し続けるようになってしまいます。それは彼の意志などではなかったはずです。

重要なのはウィレームが「瞳」のカレル文字をドロップする点です。

「瞳」
「瞳」はまた、学長ウィレームが追い求めた探求の象徴である
彼は人の思索のあり方に絶望し、高次元思考者たるを目指した
自らの頭、脳の中に、思考の瞳を欲したのだ

なぜウィレームがこのカレル文字を所持していたのか。テキストにあるように、ウィレーム自身が思考の瞳を欲していた結果でしょうか。しかしご覧の通りウィレームは眷属によって、おぞましいものの苗床とされてしまいました。もしかするとその影響で「瞳」のカレルを得たとも考えられます。だとするなら、人の思考の進化を求め、例え学徒に裏切られても血の医療を忌避し続けたウィレームは、皮肉にも血に穢される最期を遂げた事になります。ウィレームにこのカレルを持たせたのは、彼の人生と執着そのものを否定する為なのかもしれません。フロム最低だな。

そしてもう一つ、「瞳」には気になる一文があります。

それは見捨てられた上位者の声を表音したもの

見捨てられた上位者。聞き覚えがありますね。ということで以下参照。

エーブリエタースの先触れ
見捨てられた上位者、エーブリエタースの一部を召喚するもの
真珠ナメクジ
特にナメクジは、見捨てられた上位者の痕跡である
聖歌装束等
「聖歌隊」は、医療教会の上位聖職者であると共に ビルゲンワースから思索を引き継ぐ学術者でもある
見捨てられた上位者と共に空を見上げ、星からの徴を探す
それこそが、超越的思索に至る道筋なのだ

星の娘、エーブリエタース。彼女を指して「見捨てられた上位者」と呼称している模様です。はて、彼女の声、その表音がなぜウィレームに宿ったのか。どうせなのでこの「見捨てられた上位者」という言葉から色々紐解いてみる事にします。続いてヒントに成り得るのは、エーブリエタースもまた上位者でありながら「眷属」である事実です。

本編に登場する眷属上位者は、エーブリエタース、ロマ、ついでに星界からの使者(大)の三体です。上位者でありながら眷属でもある彼女たちには一つの共通点が存在します。自身に似た小型の眷属を大量に生み出すという点です。

星界からの使者たち
ロマの子ら
星の子

ムダだ。ぜったいに勝てはせん。ちいさくてもわたしの子供達だぞ

眷属上位者には自分の似姿を多く生み出す(呼び出す)という共通項があるとした上で、あれら似姿もまた総じて「眷属」な訳です。ちなみに本編中確認できる赤子の上位者(月の魔物・ゴースの遺子)からは眷属反応はありません。つまり赤子は眷属ではない訳で、逆を言えばロマの子らは眷属である時点で赤子ではないと見ていいでしょう。唯の小型のクリーチャー。

話が飛ぶようですが、「上位者(じょういしゃ)」と「異常者(いじょうしゃ)」も言葉遊びになっていると、いつだか言いました。これに気づくと「忘れられた異常者」と「見捨てられた上位者」が何らかの比較関係になっている事にも気づけます。

異常者装備
医療教会に属し、地下遺跡に潜る墓暴きたち
彼らの多くは、神秘の智慧に耐えられず、精神に異常をきたす
真実は時に狂気に似て、愚者の理解とも無縁である
だが異常者は、ただ何者にも到れなかった者のことだ

皆が求める「瞳」とは何か。それは苗床、即ち「卵」の暗示だとここまでお伝えしてきました。その真実を誤認し、上っ面の理解からせっせと眼球を集めてしまうような者たちを総じて「愚者」と呼ぶ一方、神秘に触れ狂気に染まりながら、しかしどこにも到達できなかった者を「異常者」と呼ぶ。彼らはそれ故に忘れられた。ならば対比されている「見捨てられた上位者」もまた、エーブリエタース単体を指す言葉なのではなく、さる理由から見捨てられてしまった上位者全般を指す言葉だったと考えてみては如何でしょう。

全ての上位者が赤子を求め、そして「母」が「赤子」の苗床として上位者に押し上げられる存在であるなら、「見捨てられる理由」とは一つ。

即ち「見捨てられた上位者」とは、肉体だけが進化し、肝心な赤子を授かれなかった眷属上位者を指す別称なのです。

そしてウィレームの傍らにも眷属上位者(ロマ)がいたという符号。聖歌隊が師の理念を受け継いだというのなら、その源流たるウィレームもまた、ロマという「見捨てられた上位者」と共に空を見上げていたというのはどうでしょう。もしかしたらウィレームが「瞳」をドロップしたのは、おぞましいものを植え付けられたからではなく、それは正しく、ウィレームが見捨てられた上位者ロマと共に空を見上げ続けた成果だったのかもしれません。

余談ですが「忘れられた異常者」と「見捨てられた上位者」エーブリエタースは言葉遊びの関係であると同時に、それらは「男女」という対比関係にもなっています。ここら辺も「上位者に進化できるのは女性に限定される説」の論拠になっております。

不完全な「瞳」

進化の鍵が赤子である故、全ての上位者は瞳(卵)を持つ女性に限られる。それにも関わらず何らかの理由で赤子を授かれなかった女性たちは眷属に留まり、結果「見捨てられ」ました。人の進化には赤子が必要といいつつ赤子を成せなかったというのは奇妙な話ですが、ならば見捨てられた彼女達には血か啓蒙のどちらか、それともそのどちらも満たしながら「苗床」に欠陥があったのか。瞳が「卵子」を意味するのであれば、個人的にはこれがありそうだなと考えています。

彼女たちはきっと「軟体」という「瞳」は得たのです。膨大な啓蒙・偉大な血を持つ彼女たちの中で遺志は虫となり、虫は苗床を刺激し、やがて強大な軟体生物となった fair maiden は、大いなる力や高次元思考を獲得したのでしょう。ですがそれだけ。彼女たちは母になれなかった。彼女達に共通する、眷属の「子」を大量に生み出す能力は、得られなかった赤子への執着に起因するのでしょうか。「全ての上位者は赤子を失い、そして求めている」のであれば、一層そんな想像が深まります。

さて、ここで一つ面白い比較をご覧ください。見捨てられた上位者エーブエリエタースと、母なるゴースについて。両者の存在は極めて似たものとして誂えられているのですが、それが以下の、エレベーターを下った先に上位者がいて、「彼女から生まれた者達」が祈りを捧げているという構図です。

エーブリエタースに続くエレベーター
ゴースに続くエレベーター

上位者の元へ向かう為の「エレベーター」

エーブリエタースへの祈り?
ゴースへの祈り?

エレベーターで下った先、「彼女」から生まれた者達が祈りを捧げている。

何に祈っているのか。星の子らは親たるエーブリエタースでしょうか。もしくは星の娘も星の子らも、自分達の血の源流になった上位者へ祈っているのかもしれません。以前の記事では、嘆きの祭壇はエーブリエタースと血の交わりをもった上位者と繋がっている場だと解釈したので、そこへ向かって祈っていたのでしょうか。

では海岸前で貝女たちは何に祈っているのか。死したゴース? しかし彼女は既に死んでおり、上位者にとって死が重要ではないという可能性を除外するのであれば、祈りの対象は一体のみ。そしてそれこそ、極めて似た状況を用意されたからこそ浮き彫りになる、エーブリエタースとゴースの、見捨てられた上位者と母なる上位者の明確な差異を露にしています。言うまでもなく赤子でしょう。

赤子は「悪夢の上位者」であり、いわば感応する精神であり、故に呼ぶ者の声に応えるのです。

上位者について延々語ってきた本記事ですが、最後に赤子について読み解いていきます。

(追記 : 2019.10.5)「見捨てられた上位者」について、もう一つの可能性を思いつきました。彼女達は子どもだったのかもしれません。血筋も啓蒙も満たしながら、第二次性徴を迎えていない為に妊娠できなかった。我々が狩り殺したものとは……。

「月」

血は遺伝子

DLC のメインヒロインはマリア様かもしれませんが、モブまで可愛さが行き届いているのが『Bloodborne』の凄いところ。という訳で彼女達の話をします。

養殖人貝

カワイイはつくれる

『Bloodborne Official Artworks』曰く、彼女たちの名は「養殖人貝」だそうです。養殖ですって。続いて次の画像をご覧ください。

養殖中

「大変な仕事ですけど、やりがいがありますね(笑)」

左方、熊手を携えた作業員がゴースの精霊ないしその卵をかき集めているように見え、右方では別の作業員が巨大な貝殻に電気で何か施しているように思えます。その上で「養殖人貝」が貝殻の中から這い出して襲い掛かってきた点を鑑みると、まさにこの画像は漁村によって「人貝」が養殖されている様子である訳です。彼ら工員たちが狩人を襲うのは企業秘密を守護る為でしょうか。

そのうち改めて漁村についての記事を書く、たぶん、きっと、いつか、その予定なので、何の為の養殖だったのか、とかは置いておきますが、要するに人貝たちはゴースの血から生まれている訳です。つまり人貝たちの形態は、ゴースが人間だった頃の外見にきっと近いものなので、進化前のゴースを想像したい方は人貝をベースにするといいんじゃないかと思います。

ぐえー
導き

ちなみにゴース本体がそうであるように、養殖人貝の遺体も「導き」の似姿だったりします。血は争えない。

遺志は赤子

はい脱線でした。読んで頂いておいてなんですが養殖人貝の事は重要ではなくて、要するに血の遺志についての話へ立ち返りたい訳です。再三繰り返していますが、血に宿る遺志の本懐は「赤子」として結実すること。

ボス・ベイビー

赤ちゃんなのに、おっさん!?

DLC が誇るボス・ベイビー、ゴースの遺子。こいつには幾重の言葉遊びが仕掛けられています。「遺子」とは「遺志」に通じます。ゴースの血の遺志が晴れて赤子として成熟し、しかし遺子として最期を迎えてしまったという意味が一つ。そして血の遺志を「精」、つまり「遺伝子」と見るなら、「遺子」は「遺(伝)子」から成ったというのがもう一つ。そして更に一つが、「ヤーナムの石」との対比です。

ヤーナムの石

ヤーナムの血の石

穢れた血(遺志)には結晶化・石化する性質があるとは既に申し上げました。つまりこれは「ヤーナムの遺志」の結実たる赤子(メルゴー)が丸のまま血石化したものである訳ですが、聖杯の最奥、悪夢の最奥と、そこに待つのは二つの「赤子(いし)」だったと示す為のネーミングなのでしょう。

そして遺子とメルゴーには更に注目すべき共通点があります。スクショを忘れちまったので画像比較できないのですが、両者の攻撃方法が興味深い。方やゴースの遺子は天に向かって叫び、すると一筋の落雷がゴースの遺体に向かって落ち周囲へと拡散します。方や女王ヤーナム戦では、胎内の赤子(メルゴー)の泣き声の後、神秘の輪が狩人を拘束します。後者は恐らくヤーナムの攻撃というより、メルゴーの意志で行われているのだと思います。加えて言うならこの拘束攻撃、メルゴーが乳母と共にいる時に使用してこなかった事から、母子が同じ場所に揃った状態でなければ使えなかったのではないかと解釈できます。

つまりこれ、落雷・拘束と、両者とも赤子が母親を触媒にして放つ、ある種の秘儀だったと思うのです。この現象はこれまでの考察の集大成と言えます。ヘムウィックの魔女が眼球を触媒としたように、「夜空の瞳」が簡易の苗床として寄生虫から刺激を受け隕石を呼ぶように、上位者の先触れが様々な秘儀の道具となるように、「遺志(虫)」が「苗床」を刺激することで神秘が引き起こされるのならば、遺志から成る赤子もまた母親という「苗床(瞳)」と結びつくことで刺激を与え、神秘を行使できていたのでしょう。根底の理屈は全て同じだったんですね。

これ、結構えげつない描写だと思っていて、要するに赤ん坊は母親にとっての寄生虫だと言ってるようなものでしょう。もちろんフロムソフトウェアが赤ん坊嫌いとかそういう話ではありませんが、『Bloodborne』では全編に渡り、「赤子」というモチーフの醜悪で恐ろしげな面を強調してきたように思えます。ここに来てそれが極まっているなという話でした。

赤子は月

では「月」について。繰り返しになりますが『Bloodborne』でハントできる赤子は三体います。「メルゴー」「ゴースの遺子」、そして「月の魔物」です。それぞれ狩猟後に「HUNTED NIGHTMARE」と表記される理由については、赤子の上位者が「夢魔(NIGHTMARE)」だからとは前述しました。

次に教室棟の手記。

ローレンスたちの月の魔物。「青ざめた血」(英訳 : The nameless moon presence beckoned by Laurence and his associates. Paleblood.)

ローレンスたちが「月の魔物」と呼ばれるものの内一体を所持しているという意味にとれます。英訳には「The nameless moon presence(名も無き月の魔物)」とあるので、誰かがその個体を「青ざめた血」と呼んだのでしょうか。要するに「青ざめた血」を求めた主人公は、物語の最奥でその正体と見える事が叶ったという話なんですが、その上で手記の内容と、赤子が誰も「NIGHTMARE(魔物)」だった事実を合わせると、こういう解釈が可能です。

「月の魔物(夢魔)」は赤子の上位者の総称である

上位者の中でも「月の魔物」と分類される個体がいて、そしてそれは赤子として生まれてくる。だから狩人の夢で最後に戦う上位者は、「nameless(名無し)」であるが故に「月の魔物」と表記するしかないだけで、メルゴーも、ゴースの遺子も「月の魔物」なんです。

続きまして「月」にまつわるテキスト。

「月」
それは悪夢に住まう上位者の声を表音したもので 「月」の意味が与えられ、更なる血の遺志をもたらす
悪夢の上位者とは、いわば感応する精神であり 故に呼ぶ者の声に応えることも多い
メンシスの檻
この檻は意志を律し、また俗世に対する客観を得る装置であり 同時に、夢の上位者と交信するための触覚でもある
そして、これは実際に、彼らを望む悪夢に導いたのだ

「悪夢の上位者」「夢の上位者」とは表記通り「悪夢に住まう」ことを意味すると同時に、それを司る「NIGHTMARE(夢魔 = 悪夢の上位者)」を意味しているのでしょう。だからこれは「月」のカレルであり、同時に「赤子」のカレルでもあるのだと思います。

悪夢の上位者、つまり月の魔物が祈りに感応し応えようとした結果、しかし苗床としての瞳、または高次元思考としての瞳を持たない人間は、もたらされたものを理解できず、獣か眷属になる他ない。だったらその交信の齟齬のようなものを矯正することで正しく祈りを伝えられないものかとメンシス学派が考案したものが「檻」であり、それは実際に内なる獣性を封じることに成功したようでした。更には彼らを望む悪夢(夢魔)へと導いた。やっぱすげえよミコは。

ということで「赤子」と「月」という言葉が結び付けられたところで、「瞳」という言葉の最終結論を出します。「瞳」とは「苗床(卵)」を指す言葉でした。しかしこの結論には、まだ「先」があるんです。

うちなるひとみのほんとのひみつ

「瞳」とは「虫」にとっての「軟体(苗床)」、「精」にとっての「卵」、「赤子」にとっての「母」を意味すると申し上げました。血の刺激を受けて脳内物質は啓蒙となり、更なる刺激は啓蒙を脳液(アメーバ)へ、そして脳液は軟体へと変わり、女性だけが持つ卵子という先天的な「瞳」と合わさる事が人の進化の道筋。「瞳を得る」とはそいうこと。これがここまでの仮説。

しかし思い返して欲しいのが、「瞳」のカレルが「見捨てられた上位者」を示すものだということです。見捨てられた上位者が赤子を得られなかった女性の総称であるなら、劇中で人々が求める「瞳」そのものが「不完全な進化」を指している可能性が高い。あらゆる探求者が求めた「瞳」が、しかしそれだけでは不十分な進化であるならば、我々が真に求めなければならないものとは何なのか。

さて「石ころ」には幾つかの意味があると考えていました。投げて遊ぶ、「瞳」を暗示する、そうした上で「瞳」が「卵(苗床)」を指していると気づかせないためのものだと。ですが真実はもっと先にあり、シンプルでした。「石」が指し示す「瞳の先にあるもの」とは何か。

「石ころ」は、本当は何を暗示するアイテムだったのか。

石ころ

「石」

赤い月がのぼる空

「月」

「月」という巨大な「石」を指していたんじゃないでしょうか。「月の魔物」という、巨大な「遺志」を。

人の淀みは全て「遺志」から成り立ちます。そうした淀みの果てにあったのが、ゴースの赤子であり、ヤーナムの赤子です。赤子ら「月」の魔物たちを「遺子」や「石」に関連付ける事に拘っていたのは、ここに落とし込みたいからだったんじゃないかなと思っています。

上質な「瞳(苗床)」を揃えてさえいれば上位者への進化は可能であるようです。上位者の血に適合し、血は成虫へと変態し、従って肉体は軟体となる。進化した血と肉体の共生関係は悪夢のような力を生む。しかしそれは副産物に過ぎない。それでは唯の寄生虫の培養装置でしかない。だからこそ「月(赤子)」を得たゴースが母として正当な進化を遂げた一方、月無きただの空虚な「瞳(苗床)」に留まったロマやエーブリエタースは所詮眷属でしかなく「見捨てられた」と、そういう訳なんだと思います。

進化の鍵を「瞳」と認識している時点で不正解だったんです。その先に「月」を得なければ、意味の無い進化でしかない。もっと瞳が必要なのだ。「月」を得るために。

「石ころ」は何も暗示などしていなかった。指し示すものは他の何かでなく「石(月)」そのものだった。あちらこちらへ行ったり来たりして、元の場所に戻ってきた頃には最初の認識ではいられない。これぞ啓蒙。『Bloodborne』らしいオチなんじゃないでしょうか。

幸せな結末

未だ謎が多い『Bloodborne』ですが、最初の記事でこんな疑問を口にしています。「青ざめた月」とは「青ざめた血」と同一とみていいのだろうかと。

3 本目のへその緒(捨てられた古工房)
全ての上位者は赤子を失い、そして求めている
故にこれは青ざめた月(pale moon)との邂逅をもたらし それが狩人と、狩人の夢のはじまりとなったのだ
教室棟の手記
ローレンスたちの月の魔物。「青ざめた血(Paleblood)

狩人の夢の上位者、名も無き月の魔物。それを指して「青ざめた血」と呼んでいたようなのですが、「青ざめた月」とは一体? 単なる表記ゆれでしょうか。この点ずっと気になってたんですが、何とか答えが出ました。結論を言うと二つは同じものです。しかしその呼称は「青ざめた血」の特異性を示すものでもありました。

狩人の夢の「月の魔物」は、他の赤子と比べて明らかに異なる点が一つあります。遺子やメルゴーと異なり、あの赤子だけが母親と共にいないという点です。「月の魔物」の母親はマリアであるという解釈が主流ですが、だとして彼女は赤子を産み落とした後に時計塔へ腰を落ち着けたのでしょうか。その割に彼女の外見は人のままですし、狩人の夢の人形との関わりも伺えたりと、余りに謎が多い存在です。

無難な解釈をするなら、かつてマリアは「月の魔物」を孕んだ後、「人形」と「時計塔のマリア」に分かたれたのではないかと推測します。マリアを倒した後に人形が「枷が外れたかのよう」と述べている辺り、人形の方こそ本体なのでしょうか。何らかの理由で肉体を失ったが故に、その器としてゲールマンは人形を仕立てたのかもしれません。時計塔に棲む狩人は、マリアの後悔のようなものが悪夢へと囚われた、残留思念のようなものかと思われます。ではかつてマリアと赤子に何が起こったというのか。

アリアンナは早産、偽ヨセフカは妊娠初期、女王ヤーナムは安定期、ゴースは死産と、彼女たちはそれぞれ妊婦としての状態を異ならせます。では劇中の母たちとマリアに差異があるとすれば何か。彼女は出産を終えていたのではないでしょうか。遺子やメルゴーと異なり、月の魔物は母体と分離していた、即ちきちんと産まれてきたのだと思います。

ゴースが軟体になるまで進化しても赤子を胎内に留めていたのに対し、マリアは嫌にあっさり産んだなとか疑問は尽きないのですが、その「生まれてきた」という一点が月の魔物を特異足らしめている。母という器を捨て、その生存に他者の寄り添いを必要としない、自立した赤子。そこまで成熟した月の魔物を指して「青ざめた血」、または「青ざめた月(赤子)」と呼ぶのではないかと考えました。なぜ「青ざめる」と称するかは不明ですが、「月」のカレルが「更なる血の遺志をもたらす」事から、赤子が母乳を欲するように、月の魔物とは絶えず血を求めて止まないのでしょう。特に傍らに母の助力の無いあの個体は、殊更その欲求が深まり、常に飢えた魔物はさながら血が抜けたように「青ざめている」と、取り合えずはそんな解釈が妥当でしょうか。

ところで以前、「殺された赤子だけが月の魔物になり、生き延びてしまった赤子がアメンドーズとなる」という解釈を述べたことがあります。これ自分で結構気に入ってるので撤回する訳では無いのですが、本項との整合性を取るにはちょっと工夫が要りそうなので、取り合えず今は横に置かせてください。

さて、遡って「女性しか上位者になれない説」に対し、「うちの狩人は男だけど進化したんですがテメェ!?」と言いたい方もおられると思います。しかしそれこそ、主人公の成し遂げた偉業が前人未踏の大例外である証なのです。

上位者の血の遺志(虫)は人に宿りません。しかし「fair maidens」という特別な血を持つ女性のみを例外とし、高い啓蒙と、そして恐らく健康な卵子を持つこと、これらの条件を揃えた人物だけが赤子を宿し、やがて眷属ではない「母なる」上位者へと進化を遂げます。そんな事を延々述べてきた訳ですが、しかしどうでしょう。これ、言ってみれば赤子を育むための器として、必要だからついでに進化させて貰っているとも解釈できませんか。

教室棟の手記
ウィレーム先生は正しい。情けない進化は人の堕落だ

この手記が母としての進化を指しているかは不明です。もっともウィレームは血に依る進化そのものを否定していたので、獣も眷属もお母さんも、その全てを認めなかったことでしょう。しかし一方でウィレーム自身はへその緒を欲していたようです。

3 本目のへその緒(偽ヨセフカ)
かつて学長ウィレームは「思考の瞳」のため、これを求めた
脳の内に瞳を抱き、偉大なる上位者の思考を得るために
あるいは、人として上位者に伍するために
3 本目のへその緒(共通)
使用により啓蒙を得るが、同時に、内に瞳を得るともいう
だが、実際にそれが何をもたらすものか、皆忘れてしまった

たぶんへその緒がどのようにして生まれるか、ウィレームは知っていたと思うんですよね。だから彼が血に依らない進化を望んでいたとしても、彼が欲したへその緒自体は血の交わりの先にしか存在しない。だからウィレームの発言は若干欺瞞っぽいとも取れるのですが、まあそんな事はどうでもいいんです。大切なのはへその緒の使用が人の内に「瞳」をもたらすということ。月の魔物が持つへその緒が、母と繋がる赤子だけが持つ「寄生虫」だと仮定して、それは人と上位者の混血の実りであるが故、上位者の虫であるにも関わらず人にも宿り、そして脳を刺激し「瞳」をもたらすのでしょう。

ではこの場合の「瞳」とは何を表すのでしょうか。脳液イベントがへその緒イベントのなぞりだと思い出してください。脳液が人の内に「苗床」をもたらすのなら、へその緒がもたらすものとは、男女の差など関係の無いある種の「卵子」なのかもしれません。だからこそ狩人の性別に関係なく、エンディングでは新たな赤子の上位者が誕生したのだ……と考えてもいいのですが、実際に脳に瞳を得た狩人が成し遂げたのは、母としての進化ではありませんでした。

トロフィー : 幼年期のはじまり
自ら上位者たる赤子となった証。人の進化は、次の幼年期に入ったのだ

赤子の揺り籠として副次的に進化を許されたのではありません。内に瞳を得た狩人は、何と自ら赤子となったのです。

「瞳」とは「卵(苗床)」の暗示でした。しかし「瞳」が「赤子」を得る為の手段に過ぎず、母(卵)もまたその一つに過ぎないのだとするなら、狩人がへその緒から得た「瞳」とは、赤子を生成する為の、より本質的な「卵」なのかもしれません。そして脳に得た「卵」によりもたらされるものは、胎内の赤子の力を借りた「ついでの進化」ではなく、人間が自らの奮闘によって上位者へ至った「特例」なのです。「人の進化が次の幼年期に入った」とは、そういった進化の前例を作ったと、そういう意味なのだと思います。

月の魔物戦で敵はこちらの体力を強制的に残り 1 に減らしてきます。しかしこれ実は唯の攻撃ではなく、『Bloodborne』の特色である「リゲイン」をさせるためのものでした。狩人とは血の遺志を継ぐものであるが故に、魔物は自身の血を存分に浴びせ、そこに宿る遺志を継承させようしたのです。

その真意までは分かりません。ただ月の魔物は骨がむき出しの姿でした。もしかすれば魔物は、やはり不完全な出産であり、死に瀕していたりするのでしょうか。だから赤子は、自分の遺志を引き継がせるための新しい「血の器」を求めたのか。一切が憶測に過ぎませんが、ともかく狩人の夢には新たな「月の魔物」が君臨することになり、それを抱く人形の姿で物語は幕を閉じます。

神秘を拠り所とするあらゆる生物にとって自動的に一つだけ「神秘」のランクが下がった最悪の日

「俺を育てろッッ」

『Bloodborne』とは母と子の物語でした。しかし母子たちはその誰もが徹底して悲惨な末路を辿っていたように思えます。マリアは果たして赤子など望んだのでしょうか。名も無き月の魔物は一瞬でも母からの愛を受けられたのでしょうか。或いはそのような人の尺度で測ることがそもそも愚者の行いなのか。

しかしながらマリアの似姿たる人形の胸に、マリアの子の似姿となって我々は抱かれ、そして物語は幕を閉じました。母を持たない赤子が自らの遺志を狩人へと明け渡したのは、もしかすればこの光景をこそ望んだからなのかもしれません。血と誕生の物語は、全ての終わりにきっと幸せな結末を迎えたのです。

これ以上のことはないでしょう。

まとめ

最後に

終わった……。ここまで記事が膨らむと思っていなかったのですが、取り合えず書き終えました。「上位者について」は、ある程度はまとまったでしょうか。しかし謎はまだまだあります。「虫」は軟体と結びつくと言いましたが、軟体や触覚を持たない上位者がいるのも事実。あくまで現状から推察できることを書きなぐっただけなので、今後も何か書くと思います。また読んでやってください。お付き合いありがとうございました。

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