ACID BAKERY

ABout | Blotter | Text | Illust

継がれる古い遺志

ついに『3』発売ということで、ちょっと書きます。前から書きたかったことではあるのですが、筆無精なもので、こんなタイミングになってしまいました。あ、明けましておめでとうございます。

じゃあ始めます。お題は「最初の王たち」について。今は昔、灰の時代、突如現出した「最初の火」が、あらゆるものに「違い」を与え、そして王のソウルを有する者たちを生みました。光の王グウィン、最初の死者ニト、イザリスの魔女、裏切り者の白竜シース、そして誰も知らぬ小人です。『ダークソウル』とは、彼らが「火」より力を得るところから始まり、またそれらの力が「火」へと還っていく物語です。その因縁は「火」が消え、或いは継がれ、数多の国が盛衰して尚朽ちることがない。「最初の火」も、その力も、形を変えて永遠に継がれていきます。まるで呪いのように。

そして最初の薪の王より「火」が継がれてから遥か先、ドラングレイグという名が興り、そして忘れられ始めた時代。訪れた不死は、四つの大きなソウルへと導かれます。「鉄の古王」「腐れ」「忘れられた罪人」「公のフレイディア」......を生んだ「這う虫」。彼らの持つ巨大なソウルを得ること、それが不死へと示された最初の道しるべでした。で、何を隠そう、知っている方々には常識でしょうが、彼ら四大ボスとは、かつてのグウィンたちの成れの果てです。その事実を示すヒントは作中に幾つかありましたので、今回はそれらを交えた上で、ちょこちょこ書きます。公王? あいつらは死んだ。

鉄の古王 = グウィン

世界から闇を遠ざけるため、己を薪とし最初の火を継いだグウィンは、炉の中で燃えて燃えてそのままマグマ的なものになってしまったらしい。太陽の神としてはもう跡形も無く、さながら混沌の炎に似た姿(あるいはそのもの?)へ変わってしまったのは、王たちの力の源が全て「火」へと帰結するからでしょうか。そして混沌の炎がデーモンを生み出してきたように、「熔けた土」は熔鉄デーモンの誕生や鉄の古王の変貌を招いたのです。グウィンに付き従った黒騎士たちがデーモンと対峙する存在であったにも関わらず、彼らの主がデーモンを生み出す者となってしまったのは悲劇に他なりませんね。世界とは悲劇なのか。薪の王は何代も存在していたようですが、しかしグウィンだけがこうなってしまったのは、最初の火に直接触れた者の呪いなのかもしれません。

(追記 : 後から思い返してみれば、熔鉄デーモンを招いた「炎」自体は混沌であり、グウィンを基とした「熔けた土」はその中を漂っていたとも受け取れます)

シャラゴアが口にした「見栄っ張りの嘘つき」というのは、謎多きグウィンのメンタルを語る数少ない言質です。グウィンは闇の時代の到来を恐れ、自ら火へと身を投じたという英雄のような描かれ方をされていたはずですが、彼女の言葉を信じるのであれば、真実は別のところにあったのでしょうか。

腐れ = ニト

こいつはビジュアル的に結構分かりやすい。白骨の集合体が、腐った肉の集合体に置き換えられ、一部の攻撃モーションも似通っている。腐れ自体の正体はサルヴァの王らしいですが、(長らく直し忘れてましたが、明確に嘘みたいですね。謹んで訂正させて頂きます。しかし傾向として)誰かが「古き死者」のソウルに憑かれたことで、あのような姿へと変わってしまったのでしょう。古き王たちマジ迷惑。ですがある意味で清潔と言えた白骨の体が、肉を得たことで生者へと近づき、しかしそれが故に腐敗したというのは、なんとも皮肉な話ですね。

『1』の時代も「こいつ悪いことしてなくね?」などと言われていたニトさんですが、以降も自分がいなくなった後に備えて仕事の引き継ぎをしていたようで、本当に出来た死人です。

忘れられた罪人 = イザリスの魔女

こいつは四人の中で唯一原型を留めた生存者と言えるでしょう。罪人戦の直前、ムービーにて、罪人の仮面の中へと侵入していくおぞましいなにかを良くご覧ください。どう見ても混沌の苗床さんです。ちっちゃくなって、ちゃっかり生き残っていたのです。呪術とはイザリスの魔女が「最初の火」を生み出そうとして出来た副産物のようなものであったはずです。故にこの人はまだ全然諦めておらず、他人の体を使って研究を続けていたのです。罪人自体がなぜ呪術を使役できなかったのかは分かりませんが、それほどまでに苗床が弱体化していたのか、或いは封じられていたのか(触媒を持っていなかったから?)。しかし PS3 版では二週目以降にボス戦中参戦してくる呪術師たちがいますが、奴らは苗床の配下、または信奉者か何かだと思うので、牢内にあって尚、不自由はしていなかったのかもしれません。ビスケット・オリバみたい。

ちなみに忘却の牢へと続く隠れ港には、通称「手長」と呼ばれるモンスターがいます。正式には「暗闇亡者」というらしいですが、恐らくこいつは苗床による呪術の火の研究、混沌の炎の影響で、半ばデーモン化させられてしまった元人間です。彼らが火を恐れ、倒れればかつての名残ある道具をドロップするのは、きっとそのためなのでしょう。忘却の牢へ続く船内に呪術の火があったのは、両エリアが呪術の影響下にあったことの示唆なのです。

這う虫 = シース

もう「白竜」って言っちゃってるもんな。この方に関しては書くことが沢山あります。まず、よく思い違いをされますが、「公のフレイディア」は古王や腐れのように四大ボス「そのもの」ではありません。正確には「這う虫」と呼ばれる、文字通り虫のような存在があの地にいて、それが生み出した怪物、それがフレイディアです。フレイディアは他のボスのように撃破後「GREAT SOUL EMBRACED」とは表示されません。代わりに地面に赤い小さな点がぽつりと現れます。これに触れた後、ようやく我々は偉大なソウル(GREAT SOUL)を取得することになります。つまりあの赤いぽっちこそが「這う虫」で、真の四大ボスの一角なのです。ジェルドラ公の隠し部屋にあった小さな檻は、格子が歪められ破壊されています。きっと元々この中に可愛いフレイディアちゃんがいて、しかし「這う虫」に憑かれ、あのように巨大な姿へと変わり果てたのでしょう。

かつて灰の時代を跋扈した古竜たちは、その鱗によって朽ちぬ不死であったといいます。しかしシースは鱗を持たず、それ故に「白竜」であり、そしてそれ故にグウィンたちとともに古竜討伐に乗り出しました。シャラゴアの言う「醜い裏切り者」とはそういう意味です。シースは「他人のものが欲しくてしょうがなく」、他の古竜のような鱗を、不死の力を得るための研究に没頭します。幾ばくかの間、シースは「原始結晶」の力によって仮初の不死を得ました。『1』の主人公によってその栄華は砕かれてしまった訳ですが、それでもシースは諦められませんでした。その身を虫に堕としてまでも、かつて竜だった者の執着は続くのです。

余談ですが、シースとは魔術の祖です。呪術でも奇跡でもなく、ソウルという力を最も純粋に使役した存在でした。その最高の結実が「結晶」です。原始結晶がシースによって生み出されたものだったのか、元より在った原始結晶から着想を得たのかは分かりませんが、ともかくシースは結晶……「石」が持つ力に執心していたように思います。灰の湖にいた古竜の生き残り、あれが「石の古竜」の名を持っていたことから考えるに、古竜が持つ鱗とは、「死を留める石」のようなものだったのかもしれません。ということで、シースは「石」の研究を続けていたようです。それは這う虫になってからも続きます。『2』作中、武器の変質強化に必要な鉱石のテキストにこうあります。

かつてメルヴィアの魔法院では 楔石に魔力を与える試みが行われたものの ついに果たされなかった。この石は誰かがそれを成し遂げたということを示しているのだろうか

答えは出ていますね。結晶魔術がソウルを結晶化させて力を固着させる類のものであったように、その応用として、シースは、這う虫は、様々な特性を有した楔石を作り出していったのです。雫石もまた同じでしょう。原産地であるジェルドラが這う虫によって憑かれていたという話からもそれが伺えます。またシースは人体実験の類も継続していたようで、そこには獅子族が該当します。「獅子族の魔術師の装束」のテキストにこうあります。

獅子族は亜人とでも言うべき種族だがまるで地の底から現れたかのようにある時から突然、歴史にその姿を見せている

つまり何者かによって作り出されたと考えるのが妥当でしょう。シースは『1』で聖女を集めてスキュラを生み出していました。あれと同じことを繰り返しているのです。更に蠍のタークや蠍のナジカも同じように作り出された亜人であったようです。タークの台詞からそれがが伺えます。

「我らは互いを殺すことができぬようなのだ。互いの手でつけられた傷では、死ぬことができん。主の狂気によって生みだされたものが我らなら、この業も、それ故かもしれぬ」

つまるところ、全ては不死の研究の一旦ということなのでしょう。しかしなぜ、人間を研究材料に選んだのでしょう。これも答えは簡単で、人間だけが持つ呪い、つまり「不死」の性質が格好の研究素材だったからだと思われます。その事実を示す一つの事例として、「石化」があります。あれは呪い、「呪死」することで引き起こされる現象です。「石化させている」のではなく、人間が持つ「呪い」を促進させることで石化という現象が起きるのです。思い返してみて欲しいでのすが、『2』各所に点在する石化したキャラクター、NPCは当然として、虚ろの影の森の獅子族、アン・ディールの館のオーガたちが、石化オブジェクトに該当します。石化が人間の身にのみ起きる現象という仮説が正しいのであれば、逆説的に彼らは皆人間だということになりますね。石化というと『1』の嫌な記憶が蘇る最低の死に方ではありますが、しかし見方を変えてみましょう。『2』において石化とは解除できる現象でした。つまりコールド・スリープよろしく、「人間を亡者とすることなく長期保存する手段」とも言えるのです。出来損ないではありますが、それは間違いなく不死身と定義できます。シースが人間という存在に着目した理由が、まさにその不死性なのでしょう。そしてアン・ディールが篝火、引いては人間の「呪い」を探求していたことを考えると、あの館にバジリスクがいた理由も、きっと同じ理由なのではないでしょうか。もしかすると、古竜たちの不死の秘訣たるウロコと人間性の間には、何か因果関係があるのでしょうか。

(追記 : 考えてみると、二週目のジェルドラに出現する牙獣(大きな猪、豚?)は、アーマードタスクに似せているんでしょうか。だとするとアーマードタスクは公爵の書庫にもいたことですし、あいつもシース製ということなのかもしれませんね)

マヌス = 誰も知らぬ小人

誰も知らぬ小人とは、かつて「最初の火」より「闇」を見出した存在です。その「ダーク(闇の)ソウル」こそが後に「人間性」と呼ばれる精となり、この作品の主題となったのです。即ち「人間性とは闇である」。誰も知らぬ小人とは、全ての人間の祖というわけです。

とうに滅んだ小人ですが、その墓を掘り起こした者たちがいました。ウーラシールの民です。闇撫でのカアスに拐かされたらしいですが、ともかく暴かれた墓の主が、一人の術者に取り憑いたとするなら……それが深淵の主マヌスなのでしょう。彼は『1』DLC のボスキャラであり、ウーラシールと、小人の再来にマジビビリしたグウィンにより派遣されたアルトリウスを、共々深淵に沈めた張本人です。マヌスは、未だ残っていた思慕の感情からか、遥か先の時代を漂っていたウーラシールの宵闇を己が元へ引き寄せます。が、運の悪いことに、同じ時代に存在していた最強の不死「主人公」をも召還してしまいます。闇の起源たる小人ではありますが、さすがに弱体化していたのか、はたまた主人公が尋常でなかったからか、あえなくマヌスは討ち滅ぼされます。しかしこの小人の成れの果ては、滅びることなく、しかし砕かれ、それぞれが後の時代に「闇の子」として暗躍することになります。それが『2』におけるデュナシャンドラや闇潜みたちです。本編と DLC で倒しはしましたが、なんかまだ沢山いるっぽい気配が漂っていますね。

まとめ

今「まとめ」と書こうとしたけど勢いで「まぬす」と書いてしまい、部屋で一人ゲタゲタ笑ったことだけは秘密にしておいてください。さて『2』において、かつて火から力を見出した偉大な始祖たちは、出涸らしのような存在となって尚も、新たな器に宿り、復活を遂げる、そういう存在として描かれていました。これは『2』の主題である、「『火』は盛り、しかし消え、そしてまた盛る」という理をそのまま描き出したものです。全てのものに終わりはあるが、しかし形を変えて始動する。古い遺志は継がれていく。数多の国が栄えて滅びたように。巨人が倒され草木へと成り代わるように。さて、その構造を眺めてから振り返ってみると、要するに『1』の DLC はちゃんと『2』の前振りになっていた訳ですね。王のソウルを持つものが変貌し復活を遂げ、そしてまた滅びゆく物語。後になって『2』をプレイしてみると、『1』DLC がそのような構造であったことに気づかされるのです。とても素晴らしい相互関係ではないでしょうか。

という訳で長々と書き殴ってしまいましたが、言いたいことは言った気がするのでこの辺で失礼します。ゲームって良いですね。プレイしていないときでも楽しいゲームは、良作の極みです。

スポンサーリンク