「青虫の丸薬」のテキスト曰く、冷たい谷には月の虫が蔓延っているそうです。こちらの記事で申し上げましたように、月の虫こそが「冷気」の原因であり、イルシールが冷たい谷たる所以はこの虫にあると思われます。では月の虫とは一体なんなのか。皆さま、「這う虫」を覚えておられるでしょうか。
『ダークソウル 2』において、最初に提示される目的は「4 人のボスを倒せ」でした。こちらで長々と書いてますが、彼ら 4 ボスは、それぞれがかつて最初の火よりソウルを見出した 4 王たち、その絞りカスです。中でも「公のフレイディア」を生み出した「這う蟲」は白竜シースの末路。かつてウロコを持たぬ故に同胞を裏切り、延々と不死の研究を重ねた古竜の生き残りが、最期には蟲にまで身を落としたという、一つの寓話です。『2』で主人公にソウルこそ回収されましたが、しかしそもそも 4 王のソウルは歴代の火継ぎとともに現れては狩られ、最初の火へとくべられていく宿命でした。つまり形こそ変われど、 4 王が完全に滅することはないのです。そして更に時は流れ、もはやカス以下の存在となった「這う蟲」は「月の虫」と名を変え、或いは姿を変え、冷たい谷へと蔓延しました。
グレイラット曰く、イルシールとは伝承に残る「古い月の貴族の街」。ちなみにですが『ダークソウル』の元ネタの一つであろうトールキン氏の世界観において、月は「イシル」、太陽は「アノール」だったりします。アノール・ロンド(太陽)の威光の下にある街、それ故に月ということなのでしょうか。それはさておき、「月」とはシースの符丁です。これまでのシリーズに存在しなかった虫にその名が与えられたのは、そこに関連性があるからでしょう。そしてシースは前作で既に虫へと変貌を遂げています。ならば両者は同じ種か、はたまた由来を同じとする変異種と捉えて不自然さはないように思えます。もしも「青虫」 = 「月の虫」 = 「這う虫」 = 「シース」であるとするなら、「青虫の丸薬」とはシースをすり潰して作ったことになります。ならば「魔力の祖」たる白竜を原材料とする丸薬の効能が「魔力ダメージの軽減」というのは、至極頷ける話です。
また DLC で追加された「瞬間凍結」が月の虫を使った「蝕み」とするなら、それを呼びだすのに信仰ではなく理力を用いる必要があるというのも、月の虫の起源を思えば感慨深い。
『3』で「虫」は重要な要素として取り上げられています。「人の澱み」、つまり人間性はその重さ故に世界の底へと沈殿し、深き場所を寝床に「虫」となり繁殖しました。前項の王たちの話に繋がりますが、人間性(ダークソウル)は「誰も知らぬ小人」が最初の火、その闇より見出したものです。それが今や「虫」として深みに蔓延ってるのです。シースと小人、彼らが見出した力(ソウル)、或いは彼らそのものの末路が「虫」なのです。ならば、他の王たちはどうなのでしょう。かつてシースだったものを丸薬と変えたものと同等の効果を持つ、他色の丸薬は一体何を原料としているのか。もう言いたいことはご理解頂けると思いますが、ここで「丸薬の原料となった各色の虫は、それぞれかつての王たちを根として生まれた説」を提唱したいと思います。
王のソウルは絶対不滅。今や火に還る宿命すら失ったとはいえ、シースと小人が見出したソウルは「虫」に落ちてまでも生き延びています。そういえば、混沌の苗床は前作で半ば寄生虫のような存在になっていたような。ならば他の王にだって同じことが言えるのではないでしょうか。太陽の王グウィンは黄虫として雷耐性を、イザリスの魔女は赤虫として火耐性を、最初の死者ニトは黒虫として闇耐性を。……と綺麗に纏められたらいい気分で終われるのですが、ニトが闇という部分にはどうしても違和感が残ります。ニトは死を司りはしますが、闇を見出したのは小人であったからです。ならば黒虫とは、やはり深みに蔓延る「人間性の虫」の一種なのでしょうか。でもそれだとニトが余っちゃうし……「余っちゃう」て。という訳で、月の虫の由来に関しては結構自信がありますが、以降は若干蛇足になってしまいました。しかしかつて世界の始まりを担った神々は、今やお薬となって我々を属性の脅威から守護ってくれている。なんとも夢のある話ではありませんか。