『ダークソウル 3』は、「最初の火」が消えそう、継がなきゃ、というところから物語が始まります。前作もそうでした。何なら前々作もそうでした。『ダークソウル』とは火継ぎの物語なのです。ただ今までと異なるのは、今回においては最初からその使命が言い渡されること。そして主人公が火継ぎの使命を言い渡された訳ではないということ。ここら辺勘違いされることがありますが(っていうかしてましたが)、主人公が求められているのは「火にくべるための薪が逃げちゃったから、お前ちょっと行ってかき集めてこいよ」です。「火の無い灰」は火に惹かれるもの。よって、言わば「薪センサー」としての役目を与えられて、野に放たれます。『ダークソウル 3』における「火継ぎの主人公」は、あくまでロスリック王子なのです。今回はこの基本的なストーリーラインのお話をします。
薪の王たちの残り火を再利用することで、最古の火継ぎを再現する。一度薪の王となった者たちのソウルは「王のソウル」としての資質を備えているので、それを集めてこいと。つまり『1』で行った「王のソウルの収集」をなぞらえている訳ですね。注意したいのは、火継ぎそれ自体は必ずしも王のソウルを用いなくても構わないということ。『2』の時点で実はもう既に必要ありませんでした。「腐れ」や「鉄の古王」やらをスルーして、代わりに莫大なソウルを取得することでもドラングレイグへの道は開かれ、問題なくエンディングまでたどり着けてしまいます。ホークウッドが語っていた通り、強大な力を有する存在であれば誰でも薪の王になれてしまうようです。人喰いを繰り返してソウルをため込んだエルドリッチなどが分かりやすい例かと思われます。
しかし此度、再び王のソウルの探索が求められました。これは理由を「最初の火」に求めるかロスリック王子に求めるかという話になるのですが、ロスリックという国はそもそも火継ぎの合理化の果てに生まれた節があり、王子もそのための血統故にまともな出生ではありません。なので強引に付与された資格の欠落を補うため、最古の火継ぎを再現する必要があるというのは可能性としてはありえるでしょう。しかし複数の名入りの玉座が予め用意されていたこと、そしてルドレスの「そのために薪の王となった」という台詞から察するに、今回の「薪の王リサイクル計画」は何代も前の火継ぎへと遡って計画されていたことが分かります。特にルドレスの言葉は衝撃的で、世界が終わるかどうかの瀬戸際にあった火継ぎという行為が、最早先を見据えての「つなぎ」扱い。結局王のソウル無き継ぎ火は、可能であっても不十分なものだったのでしょう。だからこそ遠く先に陰りが予言されたのです。
薪にするための王たちなのに、ルドレスを除きみんな起きてすぐ帰宅しちゃいました。しかし薪の王の薪の部分だけあれば問題無いので、首だけでもお戻り願うための旅が始まります。エンマが「王になってください」と願っていたことから、この時点ではまだロスリック王子は薪の王となる目があったようです。しかしやはり王子もまた、火継ぎを断固拒否します。ですがご安心を。王は外見じゃない、大切なのは薪なんだ。首さえ玉座に戻せばよい。という訳で、火にくべる燃料は無事に祭祀場へと集いました。
分かりづらくはあるのですが、ロスリック王子以外の薪が揃っているのだから、彼らだけをくべて主人公が火継ぎを行えばよかったのではないか、と思われるでしょう。しかしそうも行かないのです。主人公はかつて英雄に成れなかった凡百の不死。有象無象です。つまり「王のソウル」が揃っても、薪を行う者に王の器が無ければ最古の火継ぎは行えません。今回の火継ぎは、ただ大量のソウルを捧げればいいというものではないのです。だから本命は現資格者であるロスリック王子だったのですが、当の本人が拒否したため、その「王の器」も含めて灰に引き継がせなければ条件は満たされなかった訳です。灰では火継ぎは行えず、しかし灰であるが故に、火継ぎの条件は整いました。古き薪、そして新しき薪のどちらが玉座を捨てようとも、目的は達成される手筈だったのですね。ロスリック流の火継ぎは隙の生じぬ二段構え。建国にフラムトが噛んでるだけのことはあるというものです。
さて本題です。「なぜ彼らだったのか」。3 つの祭祀場には、全てに同じ名が刻まれた玉座がありました。専用の玉座が設置されていたということは、彼らでなければならない理由があったということ。仮に他の薪の王が蘇っても用は無かった、或いは蘇ることを端から想定すらしていなかったのでしょう。おめーの玉座ねーから! ルドレスが今回の火継ぎを見据えていたように、予め薪の王となる人選は済んでいたようです。募集要項でもあったのでしょうか。或いは王のソウル無き火継ぎには限界があることを理解していた者たちがいて、それがロスリック国であり、ルドレスだったということなのでしょう。ならば、復活して里帰りしてしまった王たちには最初からその気はなかったということになります。また古き王達は、エンマの横をすり抜けて高壁の外へ抜けていっています。そして OP ムービーで彼らが墓から出た際に背後が闇に覆われていたこと。この二つを根拠とすると、彼らが目覚めた場所は無縁墓地であったことが分かります。つまりロスリック国は自らが所有する墓地へ、再び起き上がることが分かっていた王の遺体を安置していたということになるのです。なぜ彼らは選ばれ、片や選ばれなかった王がいるのでしょうか。
注目すべき点は、なぜ彼ら王たちは「火の無い灰」とともに目覚めたのかということ。これがヒントにならないでしょうか。
「火の無い灰」は火継ぎを重ねていった先に生まれた独特の存在だと言われています。「火は陰り」というのが火継ぎを積み重ねた結果を指しているのなら、火それ自体が弱体化した故に闇は深まり、同時に人間の不死性が強化され、通常であれば活動を停止しているはずの遺体までもが復活するに至ったのでしょう。懐かしい顔ぶれを見る限り、火が陰りを迎える以前の不死にもその呪いは有効なようです。
また灰とは「火を手に入れられなかったが故にそれを求める存在」とも言われています。ただこれは本能的な部分の定義であり、彼らにはもう一つ共通点があります。彼らは皆「やり残したことがある」者なのです。ヨームとの約束を果たそうとするジークバルドや、打倒エルドリッチを掲げるアンリたちを始め、「おじいちゃん」を討たんとするシーリスなど、みな火への渇望というよりは、自らの人生に決着をつけるために復活したと言う方が正しい。またパッチやギリガン、カークやクレイトンなど、過去作から灰として復活したキャラクターは殆どが悪人ばかりです。彼らには果たすべき使命など無いのでしょうが、尽きぬ欲望故に「まだまだ遊び足りねえ!」という心根を活力としているのだと思います。それこそがまさに人間の強さなのでしょうね。とどのつまり、強い執着を遺した不死は、火の陰りによって復活します。「火の無い灰」とは名に違い、「未だ燃え尽きぬ者たち」を指すのです。ただしその理屈から言えば殆どの不死が蘇ってもおかしくありません。恐らくですが、遺体が残っているかどうかが条件の一つなのではないでしょうか。
また『1』において黒騎士はグウィンとともに最初の火に焼かれて灰となり舞い、世界を彷徨っているのだと説明されました。彼らアノールロンドの騎士たちは厳密には人間ではないので「火の無い灰」とは異なる存在です。しかし黒騎士が火に焼かれることで「灰」というある種の不死性を付与されたのに対して、人間は火の弱まりとともに「灰」として不死性を高めたというのは、面白い対比だと思います。成り立ちの異なる「灰」ではありますが、根っこにあるのは同じ「執着」なのです。
話を戻します。「火の無い灰」の話を挟んだことで察して頂けたかもしれませんが、蘇った薪の王たちはその在り方が「灰」に似ています。皆「執着ある者たち」だからです。ヨームは友との約束、ファラン不死隊は終わりなき深淵との戦いを続行し、エルドリッチは「深海」の時代に向けて神喰らい。そしてルドレスは、此度の火継ぎへの参加を最初から予定していました。火が陰りを迎えた後、強い執着が不死の復活を促すなら、薪の王もまた燃え尽きぬ未練とともに目を覚ます……のでしょうか。
しかし疑問が残ります。あの世界、基本的に人が幸せにはなれないように出来ている気がしませんか。それは言い過ぎにしても、一体どれほどの薪の王が未練なく、万感の想いの中、火に身を投じていけたというのでしょう。世界最初期の不死とも言えるパッチまでもが復活していたのですから、時代を遡り、本作の 4 王以外もバカスカ復活していておかしくないはずです。むしろその方が選択肢が拡がり、王のソウルを収集するという目的上、利便性が高い。けれど祭祀場にはわざわざ専用の玉座が用意してあり、作中でも他の薪の王が蘇ったという話は聞きません。執着の有無はあり得るとして、他にも理由がありそうです。
ここで拾っておきたい設定が、ロスリックには薪の王たちの故郷が流れ着くというもの。そして「ロスリック騎士の剣」には、ロスリックが流れ着いたそれらを征したとあります。ですが今回の物語で旅する王達の故郷には、ロスリックの気配を全く感じません。征服した痕跡は愚か、ロスリック騎士の一人も、遺体も、フレーバー・アイテムすら存在しない。またロスリックがそのように版図を広げていたのは「遠い昔」とも記述されています。つまりロスリックは既に国力を失い、これまでのように征服を行えなくなっていたとみて間違いないでしょう。ロスリックの武力を支えていたのはどうやら飛竜のようで、その飛竜たちはロスリック各所で、火の陰りの影響か、灰となり朽ち果てていました。つまり火の陰りとともにロスリックは衰勢したのです。これらの推測を繋ぎ合わせると、単純な仮説が浮かび上がります。本編に登場する薪の王たちは皆、ロスリックの国力が衰えた後に火を継いだ 4 代の王たちなのだ、と。
(追記 : だいぶ後になって気づきましたが、「聖堂騎士の大盾」にロスリックの名前が出てきますね。またこれも失念してましたが、古竜への頂きに転移する場にロスリック騎士がいましたね。ただ彼らは騎士として侵略行為を行っていたというより、オスロエスの竜信仰に倣う形で竜を目指した者たちなのだと思われます)
ただこれはこれで疑問があって、ロスリックの衰勢が火の陰りとリンクしているなら、一旦は火が継がれているわけですから、国力もまた復活しているはずです。にも関わらず、 4 王の故郷いずれにも征服の手は伸びていませんでした。逆にこれをヒントとするなら、恐らく火の陰りは、莫大なソウルを捧げるだけの継ぎ火では充当されなかったため、世界は存続すれども、ロスリックの要たる飛竜は復活しなかったのかもしれません。ここで玉座でスヤスヤするルドレスの寝言にこっそり耳を傾けてみましょう。
「…なあ、みんな、俺は王になった… …弱い火とて、世界を繋いだんだ… …だから、許しておくれ。許しておくれよ… …そんなに責めないでおくれよ…」
寝言言ってんじゃねーぞ。この台詞はルドレスが王らしからぬ弱き存在だったという解釈もできますが、火の陰りによって継ぎ火システム自体が朽ちつつあったために、復活した最初の火は依然として弱かったのだと考えることもできます。つまり強大な存在だったヨームや監視者たちですら、一時しのぎとしてしか世界を繋げなかったのではないでしょうか。これは想像ですが、通常であれば最初の火を継いだ薪の王とは、根こそぎ燃えつきて遺体も残らないはずです。なぜかというと、「複数の薪の王が同時に存在する」というシチュエーション自体が、火が陰ったことでしか起こり得ない状況であり、「最古の火継ぎの再現」とは、このような状況を逆に利用することで達成されるものだったと考えられるからです。薪を焼く火が弱まることで王の遺体は原形が残り、ロスリックはそれらを無縁墓地に安置した。こう考えれば 4 人以外の薪の王が蘇らず、また蘇るであろう王達の玉座を事前に作り得たことに説明がつきます。火の無い灰が恐らくそうであったように、薪の王もまた「遺体が残っていた」から、つまり「薪としてはまだ燃える余地があった」から、それをロスリックは見出したのです。そしてルドレスもそのことを理解しており、だから彼は世界を繋ぐという目的より、むしろ「自身に王のソウルを宿す」ために火を継いだのでしょう。
しかしながら、陰った火が 4 代以上継がれたのだとして、ロスリックの衰勢はそれほど長期に渡って続いていたのかという疑問もあります。エルドリッチが火を継いだ後、流れてきたイルシールから逆に侵略を受けてしまっていたようですし、あのような状況で随分と頑張って国を存続させたものです。どちらにしろ、時間の問題だったでしょうが。
さて最古の火継ぎは再現され、王が持つ特別なソウルが火へとくべられました。そして火継ぎはなされ、世界はまた繋がれるわけですが、本作の火継ぎエンドは諸説あります。例え特別な継ぎ火を行おうと、最早「最初の火」自体が朽ちかけているために、その延命期間もたかが知れているだろうと。確かにエンディングを確認する限り、継いだ火は弱々しくもう後がないように見えます。そもそも世界は元々灰であり、そこに最初の火が生じたために幾多の差異もまた生じました。つまり森羅万象の原動力は火。見えないだけでどんな生物の中にもそれぞれの火は燃えているのです。飛竜やはぐれデーモンが灰となり朽ちかけているのは、内なる火が「燃え尽きている」という描写です。これは世界も同じで、最初の火に異常が発生したのではなく、世界のどこにも燃えるものが残っていないために、火が消えかけているということなのですね。
という訳で、いくら特別な形で火を継いでも、どの道世界の余命は長くないと考えていいのかもしれませんが、個人的にはそこまで悲観的にならなくてもいいんじゃないかなと思っています。ロスリック各所にフラムトを象ったと思わしき石像があることから、ロスリック建国にはあの世界蛇が関わっています。フラムトは火継ぎガチ勢なので、火が絶えないように幾重もの策を張り巡らせ、その集積としてロスリックは生まれました。何が言いたいかというと、フラムトが火の陰りを予見し、その為の緊急措置を用意していたのなら、割と勝算があってそうしたのではないかと思うのです。火は陰り、しかしその定めを変えるため、此度の「薪の王リサイクル計画」はありました。感情論ではありますが、「ここまでやったんだから火が存続してくれてもいいんじゃないかな」と思うのです。火を継ぐか、消すか、奪うか。その先にある世界の命運も含めて選択できるのが、『ダークソウル』の良いところじゃないですか。それに、繰り返しになりますが、世界とは元々「灰」でした。そこに火が生じることで、一度は灰が灰でなくなったのですから、もう一度同じことが繰り返されてもおかしくはないでしょう。
余談ですが、飛竜が火の陰りとともに灰になりかけているのって、よく考えたらおかしな話ですね。なぜなら最初の火以前に古竜という存在は跋扈していたのですから、そも竜とは火を原動力としない、生死を超えた存在のはず。対して飛竜が火を源としているあたり、やはり飛竜と古竜は似て非なる存在だということなのでしょう。生死を超えたと言えば、同じく人もまたその命を火に依存しないばかりか、むしろ闇の到来とともに強化される始末。そして人のみに与えられた「石化」、古竜のウロコは「石」、そして数ある種族の中でも人のみが竜に成ろうとする……これはどういうことなんでしょうねえ。
シリーズ皆勤賞の奇跡「家路」にこうあります
本来は故郷への帰還を可能にするが 不死の呪いがそれを歪めている あるいは、篝火が不死の故郷なのか
『2』の「篝火の探求者」曰く、火の強さと呪いの強さは比例するそうなので、薪の王の呪いたるや如何ほどでしょう。何がどうなってというのは分かりませんが、故郷への帰還が歪められていることと、ロスリックに薪の王の故郷が流れ着くことには何らかの因果関係がありそうです。家の方から職場に近づいてきてくれるとか最高だな。
(2017.04.05 追記) : DLC 第二弾「THE RINGED CITY」での吹き溜まりの様子をみるに、薪の王達の故郷はロスリックではなく輪の都へと集っていたのかもしれません。なぜなら輪の都とは最初期の不死、ダークソウルを有した小人たち、即ち人の祖が住まう場所であり、故に全ての不死にとっての故郷と言えるからです。恐らく輪の都は地下深く、それこそ深淵に位置する場所に存在しているのでしょう。「現代」のロスリックはその直上近くに建国され、輪の都が持つ誘因性質を利用していたのだと思われます。それが長い時を経て火は陰り、薪の王のみならず全ての不死が住まう場所が輪の都へと集っていき、ロスリック城でさえも飲み込まれて吹き溜まりの一部となったのでしょう。で、じゃあなぜ不死の帰還先が篝火なのか。不死の故郷が輪の都であるなら、帰還先はそちらの方になるはず。思うに、それこそがフィリアノールが眠る理由なのかもしれません。さる NPC は彼女の眠りが「蓋」なのだと表現しました。事実、彼女が眠りから覚めることで、王廟は真の姿を現し、そこで眠っていた小人の王たちは解放されます。神々は「ダークソウル」を隠したかったのです。ならば篝火システムとはそもそも、歪んだ帰還先の代替品とするために神々が設置した「封印」の一環だったのかもしれません。
- ただ沢山のソウルを捧げるだけの火継ぎが「火の陰り」をもたらしたよ
- 王のソウルを捧げてこそ完全な火継ぎになるよ
- 不完全な火継ぎを繰り返してたら火が弱まっちゃったよ
- でも弱い火だからこそ薪の王たちは燃え残ったし、彼ら王のソウルを複数同時に最初の火に捧げられるんだよ
- 薪の王たちが拒否っても、灰に資格を受け継がせるから問題ないよ
- ロスリック王子を殺したのは、王子が持つ「王の器」が必要だったからだよ
- 最初の火は無事に復活するよ。またいつか陰ると思うけど。