シリーズを通して、人には何らかのリミッターが施されていることが仄めかされてきました。曰く、それは「神の枷」だと。最初に発言したのは『1』の闇撫でのカアスです。以下引用。
「貴公が望むのならば、我が力をも授けよう 闇の王の力、生命喰いの力だ
その力で、不死として人であり続け 貴公ら人にはめられた、神の枷をはずすがよい」
人という存在は矮小でありながら、その本質には不死という、神でさえも恐れる特性を有しています。しかしその力は闇の魂に由来するため、「最初の火」が燃えている最中はなりを潜め、また火の陰りとともに人は不死に目覚めていく、というのがこれまでの認識でした……が、これってちょっと考えてみるとおかしな話なのです。今回はこの辺りを改めて整理して、人という存在に対する理解を深めてみたいと思います。
火は闇を抑制する。言われてしまえば「なるほど」と思うのですが、『2』の記述を取り上げるなら、闇とは火の力によって、よりその深さを増すものともされています。これはヴァンクラッド王の台詞でも指摘されていますし、「篝火の探求者」でも示唆されていることです。付け加えるのであれば、歴代シリーズの「闇」を性質とするボス、例えばマヌスやデュナシャンドラは、別段「炎」を弱点としません。対して『3』の「灰の審判者グンダ」や「深みの主教たち」は闇に属するものですが、こちらは炎を弱点とします。簡単に言えば、彼らは深淵によって「膿」や「おぞみ(虫)」に染まったものたちだから炎に弱いのです。細かいことではあるのですが、「闇だから炎に弱い」というよりは、「闇が原因で炎に弱い性質に変わった」という方が認識としては正しいと思います。ちなみにデュナシャンドラや闇潜みは雷が弱点だそうです。同じ闇の子である穢れのエレナは魔法属性に弱いらしいので一概には言えないのですが、どちらかと言えば、闇の反属性は雷、と認識した方が良さそうな気がします。闇と光は「最初の火」によって分かたれたものですからね。敵の属性耐性、その理由に想いを馳せてみるのも結構面白いです。
はい、脱線しました。というかそもそもの話、歴史上最初に火が陰ったのは『1』の時代以前、グウィンが火を継いだ時期であるはず。だとすれば、その時になってようやく神々は不死の存在に気づいたとでも言うのでしょうか。誰も知らぬ小人は火の全盛期、自らが見出したダークソウルの力にどうやって気づいたのか。神々は竜狩りに人も参列させていたようですが、彼らを輪の都に閉ざしたのはグウィンが健在の時期で……さあ、どうも話がややこしくなってきました。話を簡単にするために、情報を見直してみましょう。「火の陰りが人の不死性を呼び覚ます」という前提、ここに「嘘」があるのではないでしょうか。
という訳で、取りだしたるは「暗い穴」。
不死人の証にも似た暗い穴 ぽっかりと体に開いている
その暗い穴に底は無く 人間性の闇が徐々に漏れ出し 引き替えに呪いが溜まっていく
「不死人の証」とは「ダークリング」のことですね。「暗い穴」は、ロンドールの巡礼者ヨエルによって、「本当の力」を引き出して貰った結果、肉体へと現れます。この部分は別項を設けてちゃんと考察するつもりでいるので軽く触れるに留めますが、「人間性の闇が徐々に漏れ出し、引き替えに呪いが溜まっていく」というのは、これまでの亡者化のプロセスの説明になってるんです。『1』と『2』を思い出して貰うと分かりやすいのですが、両作品とも描写の仕方が異なるだけで、プレイヤーキャラクターは死亡とともに「人間性」を喪失し、亡者化が進行していきました。『3』では従来通りの「亡者化」はしないのですが、この「暗い穴」をあけた直後から、死亡とともに「呪い」が蓄積されていき(設定上では人間性の闇が失われていき)、その値に比例して外見が亡者化していく、つまり「これまで」の仕様に至る訳です。そしてそれは「不死ならば誰しも秘める力」だそうで、つまり不死とは、死を重ねるごとに「呪い」という力を得る生物なのです。
で、ふと思いました。一連のイベントは、「暗い穴」が亡者化の原因だった、という以上に、人が死して起き上がる理由もまた「暗い穴」にあるという事実を明かすものなのかな、と。では逆に「ダークリング」って何だったんでしょうか。その疑問に、 DLC の「輪の騎士」シリーズが答えをくれました。
古い人の武器は、深淵によって鍛えられ 僅かにだが生を帯びる
そしてそれ故に、持ち主たちと同様に 神々に火の封を施されたという
「火の封」、これです。難しく考える必要などなく、かつて小人がダークソウルを見出したその瞬間から、「人」は不死だったのです。誰もが死とともに「暗い穴」があき、そして平然と立ち上がる。きっと古い人間はそのような存在だったのでしょう。火の勢いが闇を深めるというのが本当であるなら、古い時代には今よりも強力な不死が跋扈していた可能性すらあります。だから神々は封印に乗り出したのです。不死の不死たる所以は「暗い穴」であるが故、その発生機能を抑制すべく神々が火を用いて「蓋」をしたもの、塞がれた「暗い穴」こそがダークリングの正体だったのですね。闇の証明であるダークリングの淵が火で覆われていたのはそういった理由からなのです。以降、火の勢いと不死の強さは反比例の関係となり、それが後の時代の人間の雛型となりました。
『3』終盤、太陽はダークリングのような姿へと変貌します。不死に刻まれた証が陰りの知らせであったように、天のそれは迫る闇の時代を瀬戸際で防ぐ、最後のファイアーウォールだったのかもしれません。本来であれば火の封を解くには火そのものを消すしかなく、それは闇の者たちに火を渡さないための最後の抵抗だったのでしょうか。しかしロンドールエンドにて火の簒奪が完了し、人の手で封は解かれます。あの瞬間、神の時代は終わったのです。
ダークリングの起源に迫ってみましたが、残念ながらこれは「神の枷」とは別件です。そも火の消失を待てば、火の力によって生まれた封印(ダークリング)は解かれます。しかしカアスは「生命喰いの力を使って枷を外せ」と述べているのです。ややこしくはありますが、それでも「神の枷」が人間の不死性とは別の部分にはめられていることが理解できたのは収穫です。では、他に何があるというのか。
カアスはこうも言います。「闇の王となれ」と。よく考えれば、闇の王ってなんでしょう。薪の王は火を継いだ者を指すのでわかりやすい。しかし闇の時代が到来したとして、人類が総不死化した後、何をもって「王」とするのか。「生命喰い」が闇の王の力だと言うのなら、「神の枷」とはそこに関わってくるのでしょう。そしてそれは『3』の「貪欲な金(銀)の指輪」でもさらりと触れられていたりします。
蛇は、己よりも大きな得物を丸のみにするきわめて貪欲な生物としても知られている。嵌められた枷をよしとしないのならときに貪欲も必要だろう
アイテム取得率もそうですが、ソウル獲得量が増える指輪にそう記述されているということは、やはり多くのソウルを求めた先に、枷の解除はあるのでしょうか。……と悩んでいた矢先、このシリーズにしては意外なほどの直球が投げられました。「枷の椎骨」です。
「積む者」の誓約にある者が 他世界の者たちを殺し、見出す特別な骨
それは椎骨にひとつだけ見られるもので 積む者たちはそれを、神の枷と考えている
「考えている」というのが何ともネックですが、及び腰でいても仕方がないので、「神の枷」とはこの骨のことだったと断定することにします。ちなみに椎骨とはこの部分のことですが、そこはあまり重要ではないと思います。重要なのは「骨」であるということ。言ってしまえば「骨」とは「人間の形」を規定するものです。別項でも触れましたが、人間と言う奴らには度を越えた変態能力が備わっています。鳥や虫や木、どのような形にも姿を変えてしまう。きっと不死の肉体故にこんな芸当が可能なのでしょう。そんなタガの外れた「不定形」さをこそ神々が恐れたというのであれば、それを普遍的な「人の形」へと押し込めるために設けられた「枷」、それこそが「椎骨」の役割なのではないでしょうか。「積む者」フォドリックは、「神の枷とは存外脆いもの」と述べました。つまり人間は簡単にその形を失うのだと。確かに作中を見渡す限り、思い当たる節は多々あります。
そして骨と言えばあの方、最初の死者ニト様です。お前だろ! 枷はめたの! グウィン達が、火の時代が続く間だけでも人がその不死性を失うようにと封をしたのなら、ニトは人が持つ不死故の「際限の無さ」に縛りを設けたのではないでしょうか。ソウルを得れば得た分だけ無尽蔵に強くなり、やがては神をも脅かすような怪物となる。カアスが望んだ「闇の王」とは、きっとこのような存在なのです。まさに『1』で我々がそう成り果てたように。
さて『3』の新誓約「積む者」ですが、彼らは狂った霊体として他世界へと侵入し、目的を果たすことで椎骨を手に入れることができます。彼らは一体何だったのか。以下、関連テキストを引用。フォドリックの台詞は、量が多くなるのでリンクを張らせていただきます。
- 積む者
- 狂人が見出した異形の椎骨 離した内側に奇妙な印が刻まれている それは神の枷、その証であるはずだ
- 積む者は、ただ積むべき枷を求めており 協力であれ侵入であれ、狂った霊となる
- 相手が何者であれ関係ない 殺し続けた先にだけ、枷はみつかるだろう
- 枷の椎骨
- 「積む者」の誓約にある者が 他世界の者たちを殺し、見出す特別な骨
- それは椎骨にひとつだけ見られるもので 積む者たちはそれを、神の枷と考えている
- 血狂い
- 古い「積む者」の刀剣 彼は祭壇に犠牲を積み 最後に自らそのひとつになったという
- そして一振りの刀を、後の家族に残したのだと
- ぬくもりの火
- 彼らは神の枷の外れるのを恐れ 家族を求めている ならばこれは団欒の火であろう
どうやら積む者たちは枷が外れることを恐れているようです。彼らは、狂っていると自覚しながら、人が「人の形」であることに固執していた。例えそれが神から与えられた仮初の姿なのだとしても、それこそが人間の姿、「人の証」なのだと信じているのですね。つまり彼らは、彼らなりのやり方で「人間性を捧げていた」訳です。積み上げた椎骨を犠牲と呼ぶのは、それが外れることを恐れぬものたちと自分たちを区別する行為だからなのか、そして後に続くものが積まれた枷を見上げ、家族のぬくもりを感じるようにと願ったからなのか。火が陰り、人が人らしさを手放していく中、そしてそれこそが人の本性なのだと突き付けられる状況下で、その真実を拒絶する者たちで肩を寄せ合おうとするのが、彼ら「積む者」なのでしょう。狂気と呼ぶのは簡単です。しかしかつて遺体や生きた人、巨人墓地で無限沸きする赤子から「人間性」を奪い、己の力へと変えていた我々が、果たしてそれを口にしていいものなのでしょうか。
最後に一つだけ書いておきたいことがあります。実は枷を外して闇の王へ到達したと言える存在が、作中に一人だけ存在するのです。生命を喰らい続けた結果、枷など蕩けて消えて、ただ腐った肉の塊になったかと思えば薪の王となり、遂には神さえ丸のみにしようとしていた男。それが深みの聖者エルドリッチです。今でこそ仕様が変わってしまいましたが、カアスに与えられた生命喰いの力、ダークハンドの力とは、「人間性の吸収」だったはず。エルドリッチが行った人喰いと、その果てに膨大な力を得た姿は、ダークレイスたる在り方、その遥か先と言えます。きっとカアスが存命であるなら、エルドリッチを理想的な「闇の王」として捉えたのではないでしょうか。生まれる時代を間違えた男、エルドリッチ。しかし当の彼が見通していたのは「闇の時代」ではなく、「深海の時代」でした。
エルドリッチが見たもの。それに関してはまた別項を設けさせていただきます。なので今回は、
これだけ覚えて帰って頂けたらなと思います。
最後と言ってしまいましたが、ちょっとした小話を。ルドレスが死後ドロップする「頭蓋の指輪」にこうあります。
クールラントが錬成した秘宝のひとつ「魂喰らい」のソウルに由来するもの
「魂喰らい」とは無限のソウルを吸収し 己の力とする化け物であったという
その呪われた死骸が燃え尽きようと ソウルの臭いの消えることはなかったと
闇の王じゃねーか、と言いたいところなのですが、こう書かれているから悪魔か怪物かのように思えるだけで、具体的に何らかの悪事を働いたというようなことは書いてません。というかこれ、見方を変えると、これまでシリーズで主人公がやってきたことそのままなんですよね。無限にソウルを吸収し、己の力とする。化け物とは随分な言いぐさですな。思うにこの「魂喰らい」さん、当時の「主人公」に値する存在だったんじゃないでしょうか。それこそ本当ならば薪の王にだってなれるような。しかし何か不慮の事故か、強大な敵にでも敗れて、ついには道半ばで倒れてしまったのでしょう。「燃え尽きた」とある辺り、焼き殺されでもしたのでしょうかね。
ところでこの指輪の持ち主であるルドレスさん、彼も立派な薪の王のようですが、王になるためには莫大なソウルを必要とします。小人を見た目で判断するような真似はしたくないのですが、彼がそこまでの強者であるようには思えないんですよね。ヨームのように生まれながら強かったわけでも、エルドリッチのように人喰いを繰り返したわけでも、深淵の監視者のように狼血に宿った薪の資格を継承した訳でもない。……王になるためのソウル、どこで調達したんですか?