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白竜白書

はじめに

おはようございます。前回は、古竜について当サイトがどう捉えているかを粗方語らせて頂いたように思います。しかし一つ大きな空白がありました。裏切りの古竜、ウロコの無いシースについて。与太話としてのランクは前回に匹敵しますが、「やっぱりあったかくなってくるとこういうのが出て来るんだな」と気軽にお読みください。では今回もやっていきましょう。

たった一体、真白い古竜

驚きの白さ

シースを語るなら、まずはシースが得られなかったものを語るべき。という訳で前回「古竜新書」のざっくりとしたおさらいです。古竜とは絵画を二度潜った人間でした。一度目で鴉となり、二度目で竜に成るのです。絵画の中の絵画、そこは「暗い魂の血」を顔料に描かれた「灰の時代」であり、居場所を求めた忌み人たちは、終には朽ちぬ岩のウロコを纏って超越者へ至ったのでした。めでたしめでたし。

シースがなぜ白竜と呼ばれたか。それは岩のウロコを持つ古竜の中にあって、シースだけがそれを持たなかったからです。古竜界のフル・フロンタル(全裸)。そうしてシースは神々の古竜狩りに加担し、古竜でありながら古竜の敵となりました。ウロコを持たない事が裏切りの理由と直結していないので推測の余地があるのですが、嫉妬か、或いは殺して奪うつもりだったのか。どちらにせよシースのウロコへの妄執はこの後も続いていくことになります。

そんな訳でここまでの仮説に則るならシースもまた絵画の外側から渡ってきた人間という事になるでしょうか。ではなぜシースだけがウロコを獲得できなかったのか。元々古竜たちは居場所を求めて絵画を潜った「忌み人」であった訳です。差別や迫害から、灰色の差異無き優しい世界に逃げてきた。或いは岩のウロコは、彼らがあらゆる「差異」から身を守る為に纏った自己防衛の極致という見方もできるかもしれません。しかしそんな絶対的平等であるはずの世界にあって、当然持って然るべきウロコを持たないという「差異」が生じた。なぜシースだけが? この謎を解きたい。

ここからは段階を踏んでいきますが、まずはとっかかりから。前述の通り、忌み人だけが鴉となり、やがて鴉だけが岩の古竜となるならば、シースとは忌み人でなく、故に鴉でも無かったからウロコを得られなかったのだと、そうなります。忌み人の居場所たる灰の時代に、忌み人でない者が入り込んだ。この一点こそ、白竜が灰の時代に持ち込んでしまった「差異」であり、或いはシースは、その報いを受けたのでしょうか。

白竜と天使

絵画という深みが、人を鴉に、鴉を岩の古竜に変えるならば、「鴉ではなかった」が故に白竜に成り果てたシースとは、元々どのような存在だったのか……。まあ、こんなのわかる訳がないんですけどね。わかる訳がないのですが、だからこそ劇中の「似ているもの」がヒントとして立ち上がってくる、そんな遊びができます。

「原始結晶」を覚えておられるでしょうか。

「白竜シースの、不死の秘密だったな。貴公も、あれと戦い、囚われたのであれば 分かっていると思うが、あれは、我々とは違う、本物の不死だ。傷はすぐに塞がり、致命傷を負わず、決して死ぬことがない。それは、シースが、古い竜たちを裏切って手に入れた秘宝 原始結晶の効果らしい。だから、まず原始結晶を壊さなければ シースを傷つけることはできない」

公爵の書庫、狂う前のローガンからの助言です。彼曰く人間とは「本物の不死」ではないそうです。それもそのはず、人は「死なない」のではなく、何度も死ぬことができるだけで、傷つきもすれば、最後には動けなくなる。

対してシースは本物の不死。つまり「死なない」。そしてそれは、原始結晶と呼ばれる秘宝の効能なのだと。シースがなぜ古竜を裏切ったのかという疑問を上で提示しましたが、白竜が欲したものが不死ならば、或いはこの秘宝こそが狙いだったのでしょうか。

さてそういった訳で、この原始結晶とシースの関係は、後に登場した「あるものたち」に似ています。

原始結晶
シース

その不死に秘密あり(1)

巡礼の蛹
天使

その不死に秘密あり(2)

「原始結晶」を破壊しない限り殺しきれないシース、そして本体である「蛹」を処理しない限り何度でも蘇る天使。不滅の影にはそれを支える「核」が存在するという一点で両者は似ている。そして前回の記事で触れた通り、「有翼」で「半身を根(触手)とする」という外形上の類似点もあります。加えて言うなら、同じ「白き姿」という点で、シースと天使はとてもとても似ている。

更に共通するのは、両者ともに「呪い」による攻撃を行ってくる点でしょう。

暗い穴
その暗い穴に底は無く、人間性の闇が徐々に漏れだし引き換えに呪いが溜まっていく。

「暗い穴」のテキストを読む限り、人体において「人間性」と「呪い」は反比例の関係にあると思われ、シリーズで「呪死」と「石化」が紐づけされているのは、呪いの蓄積と人間性の石化への関連性を物語ります。

呪死

呪いの過剰な蓄積により人間性が石になる……?

シリーズにおける「呪い」が何かと言う話はこちらで触れましたが、その一面を定義するならば、「死」です。不死は死なないのではなく、何度も死ぬ事が出来る。つまり呪い(死)が溜まっていく事で人間性は排出されて亡者になりますが、あれは人間性を失ったから体が痩せていくのではなく、死(呪い)が蓄積する事で外見もまた「死者」に近づいているんですね。呪死状態に至っては「HP が半減」した訳ですが、あれは呪い(死)の蓄積によって「死に近く」なっているんです。ならば「呪死」とはその辺りの仕組みを利用し、人間性の排出と呪い(死)の交換を意図的に行い、同時に何らかの干渉によって「石化」を促していたのだと推測できます。

人間性ないし闇のソウルの石化現象が古竜有する「岩のウロコ」の根幹を成している、というのは「古竜新書」で申し上げましたが、思うにシースが呪いを用いたのは、「ウロコ」の探求の一環だったのでしょう。本当に欲しいものを産み出す為の副産物だったのだと。またシースは古き竜の中にあってウロコを持たず、故に「朽ちゆく者」と言えます。だからこそ死を探求し、死と反比例にある人間性(のウロコ)を求めた結果、あのような呪い効果を持つブレスを獲得するに至ったのかもしれません。

……と考えていたのですが、もしかすればシースとは元より「呪い」の力をその身に宿していたのかもしれません。天使という、シースに似た怪異に、シースと同じ「呪い」を持たせた。このグイグイくる「共通点の強調」は何なのでしょうか。この点に思いを馳せるなら、簡単な仮説を立てることが可能です。

古竜の前身が鴉であるなら、白竜の前身は天使だった

天使が、巡礼の蛹が空に見出す、あくまでも「幻」でしかないのなら、例えば一人の巡礼者が絵画に迷い込んだものが実体を持つ本物の天使となり、再度の絵画を潜る事でシースとなった、などと考えても面白いかもしれません。かつて「天使が岩のウロコを纏う方向で進化を遂げたものが古竜である」なんて仮説を立て、これは今では撤回しているのですが、「天使がウロコの無い竜の前身であった」なら、過去の推測もあながち間違いではなかったでしょうか。という訳でここで一つの仮説を提唱するなら、忌み人が絵画によって鴉になり、古竜となった。一方で、一人の巡礼者が絵画の中で天使になり、白竜となった。こんな感じになります。

……が、個人的には物足りない。白竜と天使の類似は重要なヒントと捉えた上で、その先を目指してみようではないですか。

白竜と月光

過去記事で述べましたが、天使とは「深み」が生んだ怪異です。深みが「人間性の澱み」を指すなら、巡礼者の中で澱んだ人間性が成熟していった結果、それはおぞましく変態します。そうして生まれるのが巡礼の蝶であり、巡礼の蛹であり、それが空に見出す天使だと思われるのですが、つまり「深海の時代」とは、こういった「深みによって生まれた怪異たち」が蠢く、ただの「闇」とは似て非なる世界を指すのだと思います。人智の届かぬ深みに沈んだ人間性(闇)は、今や人にさえ牙を剥くよう変質してしまった。闇の到来に拘ったカアスが、ロンドールを率いて火の抹消ではなく簒奪に乗り換えたのは、この辺りに理由があるんじゃないでしょうか。

絵画とは「ある種の深淵」、即ち深みである。この仮説が正しいのだとして、人が二度この深みを潜る事で古竜という超越者に至るというのが前回の内容でした。そして巡礼の蝶、天使、月光蝶、シース含む古竜たちが共通した形態を持つという話もさせて頂きました。

月光蝶
巡礼の蝶
天使
白竜

進化の先で「翼」と「触手」を得た皆さま?

これは、「人」はその経路を違えようとも、最終的には似た姿へと進化を収斂させる事を示唆しているのでしょうか。だとすればシースと天使をイコールで結ぶのは早計かもしれません。確かに両者はとてもよく似ていますが、それは多くのものを共通させているが故に特に似た進化を遂げたという事実を示していると考えた方が個人的にはしっくりきます。

であるなら、多くの共通点を背負わされた天使という存在は、そのままシースの正体をひも解くためのヒントとして機能するはず。

そんな訳で天使の話を続けますが、あれらの元となる巡礼者の蛹、ないし巡礼者とは、どうやら闇の苗床となっていました。巡礼者それ自体が「深み」として機能した為に、内なる人間性が何か別のものに変態する、まさしく苗床。それを内に封じて、熟成させていく。巡礼者たちの「蓋」とはその為の役割だったようです。

巡礼者

蓋かぶりの巡礼者

これも一度書かせて頂いたことですが、巡礼者は苗床として成熟していくに連れ「属性の変化」を起こします。具体的には、蝶から蛹(天使)に変態する事で「闇属性」が「魔力属性」に変わっているようです。ここには「月」が作用しているのではないかと。

フロム伝統の「月」、「ムーンライト」。ことソウルシリーズにおいては「信仰を魔力に変換する力」と言い換える事が出来るでしょうか。これは奇跡である為に当然「信仰」を要求される「暗月の光の剣」が、しかし剣を「魔力」強化する点からも想像しやすい。信仰という力が月と結びついた時に、元が闇だろうとそうでなかろうとも、ただ魔力(ソウル)へと変換されるようです。月の光が太陽(信仰)の光を反射させて生み出されるように。

そう、この仮説が正しいなら、天使とシースには更なる共通点が見出せる事になります。「月」です。それは白竜シースの代名詞ではなかったでしょうか。白竜と天使の類似点に、「姿」「呪い」「不死の秘密」に加えて「月」も加わる事になりました。

暗月の錫杖
グウィン王の末子として歴とした神でありながら 月の魔術師でもあったグウィンドリンの錫杖は 理力ではなく信仰により魔術を強化する
月光の長衣
その月の力から、娘として育てられた彼の衣装
化生の指輪
彼はその月の力から、娘として育てられ

以上のテキストはグウィンドリンに関わるものですが、思うに本来であれば「月」とは女性のみが持つ力なのだと解釈できるでしょう。妖王オスロエスはシースの似姿となり、そのソウルに「月光」を宿しながらも、終ぞ彼自身はそれと見えること叶いませんでした。「男」だからです。あの世界において「性別」はあまりに重要です。だからロザリアと言えど変更できない。この推測を元にして、以前天使関連の記事でこう述べました。天使が「月」の力を用いて魔力属性を発揮しているのであれば、巡礼者の内、蛹(天使)に変態できるのは女性に限られるのだと(ちなみに吹き溜まりの入口にいる、後々天使に成ったと思わしき蓋被りの巡礼者は『おばあさん』)。だったらもう、つまりはこういう事なんじゃないでしょうか。

白竜シースは女性である。

天使が女性のみ至る姿であるなら、白竜もまた同じである。天使を通してシースの秘密に一つ迫る事ができました。

……と、言い切った直後で何ですが、この仮説は『1』の暗月の女騎士の言葉で破綻します。

「そういえば、白竜シースを知っているか? 伝承に言う、古竜の裏切り者だ。は、大王グウィンの盟友となり 公爵の名を得、探求の自由を与えられ 巨大な書庫で、にない、不死のウロコの研究に没頭した」

「彼」と言ってしまっていますね。ただ一応、抜け道はあります。

まことに都合のよい解釈である。しかし、もしもシースが女性なら、そういう事に出来るなら、まだまだ色々な事が分かってくるんです。今回はここから先の考えを聞いて帰って欲しい。

さて、もしもシースが女性なら、彼女の代名詞たる「月」の力は、その性別ならではの力だったと言えます。

月光の大剣
魔術の租たるシースの魔力の結晶であり その力は月光の波として開放される

ですが、そもそも、ちょっと引っかかりませんか。「月」が信仰によって魔力を産み出す業であり、またシースそのものと言える力なら、シースは元々、理力ではなく信仰によって魔術を運用していたと解釈できてしまいます。魔術の祖でありながら、まるで聖職のように信仰を力の源としていた。もうちょっと突っ込んだ物言いをするのであれば、白竜シースとはある種の聖女だったのかもしれません。

そしてこの、信仰を源泉とする「月の魔術」こそが、後世における「魔術」の原型になったと考えてみるのはどうでしょう。より正確に述べるなら、魔術の源である「理力」は原初見出されておらず、信仰を由来として「月」から魔力を得、シースはそれを操っていた。それがグウィンドリンも有する「月の魔術」であり、シースは己が見出したこの技術を発展させていく中で、やがて遂には信仰に依らず、ただ智慧(理力)のみで成立する「魔術」にまで分離・発展させた……そんな解釈ができてしまう。

魔術の発祥が「月」ならば、祖たるシースにとって魔術と奇跡は、共に「祈り」を根源とする、ある意味で同一の業だったとも言えます。しかしそうなると、「彼ら」は何を争っていたのでしょう。

魔力防護
歴史上、聖職者と魔術師はしばし対立した
だから質実な聖職者たちには 魔術に対する手段が必要だったのだ

タイトルは変わりますが『デモンズソウル』でも魔術師と聖職者の対立構図が存在していました。魔術と奇跡、敵対する二つの力は、しかし最終的にその根本を同じとするものだったという皮肉が描かれた訳ですが、恐らく『ダークソウル』シリーズにおいても似たオチだったんじゃないかと思います。魔術と奇跡は元来区別のつかぬものであり、後に構築された対立関係など、人間が勝手に抱いた幻想に過ぎなかったという点において、両タイトルは同じものを描いていた訳です。

かくして魔術という大いなる体系を作り上げた「聖女」シース。これは凄まじい偉業なのでしょう。しかし一つ、彼女には秘密があります。それは彼女が「絵画の外(未来)」を知っていたということ。併せて魔術の存在も知っていた、そう考えていいのなら、或いは魔術の祖である彼女の業は、未来から持ち込まれた既知の技術だった可能性があります。もっともシースがかつて白竜でない、人間の女性であったのだとして、自身が絵画の中で至る行末までも、果たして理解していたのでしょうか。真相は深みの中。

さあ、なかなか風呂敷の拡げ方が派手になって参りました。シースは「女性」であり、「月」の力を持つ聖女だった。ですが「それだけ」なのでしょうか。シースを白竜へと至らしめた要因には、もっと別の、それ以上の……。

白竜と聖女と、

天使と白竜が似せられていたのは、天使が持っているものを白竜もまた持っていた示唆であり、故に天使がそうであるように、シースとは「月」の力を持つ「女性」であるのだと、それがここまでの主張でした。更に言うなら、やがて魔術の祖になるとはいえ、「月」の力の根源は「信仰」です。シースが祈りを知る者ならば、それは彼女が元々「聖女」に類する何かであった事の証左だと。

どうでしょう。それっぽい仮説が出来上がった気もします。しかし、しつこいようですが、本当にそれだけなんでしょうか。ウロコを獲得した朽ちぬ竜たちの中にあって、たった一体の真白い古竜。もしかするなら、この仮説にはもっと「先」があるのかもしれません。シースは聖女であり、しかし聖女以上の何かだった。

という事で、ここでもう一度シースが手にできなかったウロコ、その基となったであろう人間性のある性質に改めて注目してみます。

ソウルの共鳴
ソウルの大きな共鳴
絶頂

はい。

『2』に登場する闇術。「ソウルの共鳴」「ソウルの大きな共鳴」「絶頂」。ご覧の通りの「精」です。人間性が「精」としての側面を持つことはシリーズで度々描写されていて、これを捧げられていた蜘蛛姫が卵を生んでいた点などが分かりやすいでしょうか。そして「精」とは男性の象徴。

人間性を捧げて篝火を大きくする。「注ぎ火」とは「継ぎ火」の縮図でした。ヨルシカの「グウィン以降は人間が火を継いだ」という発言からも、「人」を火にくべる事は火を大きく育てる為に必須、とはいかないかもしれませんが、重要な要素だったのかもしれません。それにほら、薪(人間)はどこにでもありますし。

『3』の薪の王が全員男性で統一されていた(ファラン不死隊に女性が含まれていたという可能性は除外します)のは、王それ自体が男性性の顕現である事を示す為だと解釈しています。「男でなければ薪の王にはなれない」のではなく、「人間性(≒精、男性性)こそが火を大きくする」事を示す為に、あえて男性の王に統一したのではないかという話。

以上の事から、やはりあの世界において性別は「超」がつくほど重要であり、シースがウロコの無い古竜となったのは、やはりその性別故なのでしょう。もちろんそれだけではなく、そこに「月」の力が加わったからこそです。女性であっても当然火継ぎが行えたように、女性の忌み人、女性の古竜もいたはず(もっとも竜として生死を超越した後には性別なども捨て去っていたのかもしれませんが)。

裏を返せばシースとは「特別な女性」だったからこそ白竜に至ったとも言えるのですが、その稀有な素質こそがシースを苦しめたと考えると皮肉。またシースを信奉したオスロエスが、男性であるが故に女性性(月)を手にできず、しかし当のシースは女性であるが故に男性性(ウロコ)を手に出来なかったのだと考えると、これまた痛烈な皮肉です。世界とは悲劇なのか。

さて薪の王は「男性性(人間性)」の象徴だと前述しましたが、逆に「女性性」の象徴とも言える存在がいます。そしてこちらは恐らく、女性である事が欠かせない役割でした。

火防女の魂

はい。はい。

こちらは「火防女の魂」です。上記の話をさせて頂いた後だと非常に感慨深いですね。火防女の魂とは無数の人間性に食い荒らされるものだそうですが、なるほど、人間性が「精」であるなら、言わば彼女達の魂とは精子に群がられる卵子である訳です。

女性の存在しか確認されていない「火防女」なる存在。人間性を捧げられる篝火の化身であるという彼女達を「卵」と見立てるなら、彼女達と人間性(精)の結びつきは果たして何を産みだすのでしょう。その解答の一つが蜘蛛姫であった訳です。と言っても結局彼女の望みは実を結ばなかったようなのですが、それはひとまず置いておいて、彼女たち火防女にはある共通点がありました。

火防女の瞳
最初の火防女の瞳であるといわれる 後に全ての火防女が失う光そのもの
それは瞳無き火防女に 見るべきでないものを見せるという
火防女のローブ
彼女たちは光を奪われ、魂を受け継ぐ
そして蝕み蠢く暗闇を愛した者ものだけが 火防女たる黒い装束を与えられるのだ

そのまま読んでいいのなら、全ての火防女は盲目である事実が『3』で判明した訳です。

アナスタシア
混沌の娘
暗月の女騎士

火防女(『1』)

ストロアン
グリアントとモル

火防女(『2』)

火防女
イリーナ

火防女(『3』)

『2』には緑衣の巡礼がいましたが、彼女は厳密には火防女ではないので割愛。竜から作られたという彼女は、どちらかと言えば『1』石の古竜と同じ立ち位置だったのかもしれません。

さて『3』イリーナは画像の時点では火防女ではありませんが、彼女は暗闇の中、自身を噛む「虫(闇)」に苛まれていました。火防女の魂は人間性に食い荒らされる。イリーナの苦しみがこれに由来するものなら、「盲目であること」、そしてその上で、闇に身を置き、己を蝕む人間性(闇)を「我が子のように」愛したものだけが火防女へと至れるのかもしれません。「人間性が『精』である」という事を思い起こすなら、生来の「卵(子宮、卵子)」を内に持つ女性だけが人間性の苗床と成れる。これこそ火防女が女性でなければ至れない理由なのでしょう。

余談ですがイリーナの姿はアナスタシアを想起させるものになっているのが興味深い。

アナスタシア
イリーナ

聖女アナスタシアと聖女イリーナ

この二人もさる事ながら、暗月の女騎士もグウィンドリンに仕え、信仰を剣に纏わせて戦う戦士であり、更に蜘蛛姫もまた手を合わせ祈っていました。イザリスの魔女たちは魔術師であると同時に祈祷師でもあったそうなので、蜘蛛姫の祈りもそこに通じるのでしょう。

闇の貴石
闇の武器は闇攻撃力を持ち 信仰による補正も高くなる

『1』では聖職者こそ多くの人間性を溜め込んでいましたが、これは「信仰(祈り)」が内なる闇(人間性)を刺激するからだと考えられます。ならば必然、多くの人間性を受け入れなければならない火防女とは、「盲目」であると同時に「聖女(≒強い信仰を持つ者)」である事が必須条件なのかもしれません。もしかして火防女とは「月」の力も兼ねるのでしょうか。

ということで、ソウルシリーズにおいて性別の他、「盲目である」という特性が如何に重要かお伝え出来たでしょうか。それを踏まえた上で、あともう一人、意外と知られていない盲目 NPC をご紹介したい。

伝道者の六目兜
白竜シースに仕える魔術師たち、伝道者の兜
縦二列に並んだ六つの目は シースの見えないそれを代替するためである
盲目の竜

前が見えねェ

白竜シースも盲目でした。

シースは「月」を持つが故に「女性」であり、また月の魔力は「強い信仰」と切り離せず、そして何より「盲目」だった。はい、もう何が言いたいかご理解いただけかと存じますが、シースと火防女たちを「盲目」という点で結んだのは何故か。単純に考えていいのなら、こうなるんじゃないでしょうか。

白竜シースは火防女だった、その事実を暗に示す為なんじゃないかと。

天使は月光蝶の似姿である以上に白竜の似姿でした。多くの共通点を持っていた。故に天使(巡礼者)が持つ「女性性」「月の力」は、そのままシースが白竜に至った理由の説明になっていたと考えます。そして駄目押しにもう一点加えるとして、巡礼者とは「闇の苗床」でした。そして火防女もまた、ある意味で「闇(人間性)の苗床」である訳です。火が消えかけた時代に闇の苗床が天使に至るなら、最初の火が存在しなかった灰の時代に、防るべき火を持たない火防女(人間性の苗床)は如何なる姿に成り果てるのか。その答えこそが「ウロコの無い古竜」だったんです。灰の時代に持ち込まれた「差異」とは、人間性に対する、唯の人と火防女の差異だったのでした。

畳みかけます。ここで思い出して欲しいのが、公爵の書庫のスキュラたちです。

スキュラ
スキュラ

スキュラ、恐らく、元聖女

この内の二匹から、聖女たちに伝えられるという「太陽の光の恵み」「太陽の光の癒し」がドロップする。つまりスキュラとは聖女を基に製造されている事の暗示です。六目の伝道者はどうやら「人さらい」に励んでいたらしく、それはシースの実験材料を収集する為だと思われます。不死教会に居場所を移したソルロンドの聖女レアが、やがては書庫に連れてこられたのもその為であり、もっと時間が経てば彼女もまたスキュラの群れに加わっていた事でしょう。そう考えればスキュラの外皮はローブに似て、彼女達が聖職者であった事の名残を留めます。

では、「何の為に」わざわざこれだけの「聖女」を集めて人体実験を行っていたのか。人間性(ウロコ)の探求がしたいのならば、聖女に拘る必要はないはず。聖職者こそ多くの人間性を宿すからだと言うなら、男の聖職者を使ったっていいでしょう。「聖女でなければならない理由」とは何だったのか。単純です。シースがかつて火防女であり、故に聖女でもあったならば、自分と似た人間を改造して同様の進化を辿らせる為で通ります。ウロコを欲するならば、「なぜ自分はウロコを得られなかったか」を探るべきだと、シースは考えた訳です。そして同じ出自の人間にウロコを纏わせる事が叶ったなら、それは満願が成就したと言ってもいい。

そうなると牢の奥に火防女の遺体が存在していた意味が深まるんじゃないでしょうか。「火防女(自分)が白竜となった理由」、この命題へ迫る為の、それは大詰めだったんです。朽ちてましたけど。

しかし実際に出来上がったのは青ざめた軟体生物のみ。唯の聖女がスキュラとなるばかりなら、或いは月光蝶とは、月の力を有する特別な聖女をベースとしたが故に、より白竜に近い姿へと変態したのでしょうか。ならばシースはその探求を進め、自分に似た怪物を製造すればするほど、絶対にウロコを手に入れられない事実を自分自身で立証してしまったのかもしれません。それが彼女を狂わせたのであれば、何とも憐れではありませんか。

ちなみに、シースの娘と目される半竜プリシラ。実際は採用されなかったようですが、彼女には火防女としての役割も与えられていたようです。もしかすればそれは、母から受け継いだ役割だったのでしょうか。

白竜シース、火の無い世界の火防女でした。

シースはおまえだ

白竜シースは火防女だった。正直これだけが言いたかった記事ですが、どうせなら行けるところまで行ってしまいましょう。

白竜が、具体的に劇中の誰なのかを特定してみます

やれる、やれるぞ。やってやれない事はないんだ。白竜は人間だった。聖女であり、火防女だった。そして絵画を潜って灰の時代に至る、ある種のタイムトラベルが可能であるなら、もしかしたら「後のシース」は劇中に登場していたかもしれない。そんな事に思いを馳せる、今年の夏はそういう夏にしたい。

エントリーナンバー 1

まずはこの人です。

尾を持つ聖女

半尾半人

絵画世界では忌み人(鴉人)たちがしきりに祈っていました。特にフリーデの座する教会前でもその姿は目立った訳ですが、彼らは何に祈っていたのでしょうか。フリーデでしょうか。教父アリアンデルでしょうか。どちらでもないとして、実際の対象がこの半身を尾とした聖女の偶像であったとするなら、果たしてこれ、誰なんでしょうね。

鴉人とベルカの関連性はどうやら深いようなので、この像はベルカを模したものなのかもしれません。そうでないとすればプリシラでしょうか。彼女は「半竜」なる存在であったようなので、なるほど、この像が示すのは「半分が竜である」事実かもしれません。よって忌み人達は今はどこぞへ失せたプリシラを必死で拝んでいたのだと考えられるでしょう。

しかし穿って見るならこの像、「竜に成ろうとしている聖女」とも捉えられます。前述の仮説が正しいとするなら、白竜へ至る「火防女シース」を象ったものこそ、この朽ちかけた石像なのかもしれません。忌み人たちはこの像を通し、やがて自分達が至る超越者の姿を夢見ていたのでしょうか。

エントリーナンバー 2

「この人」です。

絵の中の聖女
燃えろいい聖女

絵画聖女

「聖女」と書いてますが劇中どこにもそんな指摘はありません。誰なのかも分からない。何の為の絵なのかも分からない。つまり好きに解釈して良いということ。まあ、この人に関しては特に言えることは無くて、完全な空白部分に自説を押し込めただけです。

実は絵描きのお嬢様が口にする「お母さん」がこの人なんじゃないか、なんて説もありますね。気になるのは同じ視点から描いた絵に、炎が描かれたバージョンが存在する点。アリアンデルの火を見るまでお嬢様は炎を描けないといった話だったはずなので、この絵を、或いはこの絵に炎を描いたのは彼女ではないのでしょうか。

エントリーナンバー 3
火防女の瞳

火防女の瞳

シースの前身が、灰の時代に降り立った火防女であったなら、それは最初の火防女と言えるのではないか。つまりテキストに登場する「最初の火防女」こそシースだったという説。

ただ言ってはみたものの、この説は個人的には「ナシ」です。やはり火あっての火防。火の無き灰の時代に降り立った火防女シースは、その時点で火防女ではあり得なかったからこそ竜になったと思いますし、何より「最初の火防女」というロマンは、別個に存在していて欲しい願望がある。

ちなみに「瞳」を所持し、暗い祭祀場で朽ち果てていた遺体は、最初の火防女ではないと考えます。劇中そうであったように、この瞳は他の火防女が継承する事が可能なようですので、暗い祭祀場の彼女もまた、ただ何らかの経路でそれを手に入れていただけなんじゃないでしょうか。

エントリーナンバー 4

個人的に推したい説がこちらです。劇中登場した火防女の中にシースはいたんじゃないかという話。

ちなみに「火防女のローブ」曰く、火防女だけがこの黒いローブを与えられるそうですが、彼女達の象徴を「黒」としたのは、「白き」シースの正体を覆い隠す、そんな理由でもあったんじゃないかと思います。ただこれは自説を支える為の希望的観測が大部分を占めるので、あまり大きな声では言えません。くれぐれも……誰にも知られず、ひそひそとな……。

そんな訳で前述しましたが、我々が確認できる火防女は以下の方々。

ちなみに「ストロアン」「グリアント」「モル」は『2』の元火防女のおばあちゃんたちの名前です。さてこの錚々たるメンバーの中に、果たして白竜シースは存在するのか?

……皆さまには分かりましたか? では、当サイトの見解はこちらになります。

クリエムヒルト

クリエムヒルト

結晶の娘、クリエムヒルトです。

我々が彼女の事について知っている事はさほど多くないはず。明らかになっている事は以下のことくらいでしょうか。

装備
武器 : 古老の結晶杖、結晶古老の刺剣、パリングダガー
防具 : 火防女のローブ、火防女の腕帯、火防女のスカート
魔法 : ソウルの結晶槍、追尾するソウルの結晶塊、降り注ぐ結晶
古老の結晶杖
結晶の古老として知られる双子の導師が 愛弟子クリエムヒルトに授けた結晶の杖
結晶球は使用者の意志を食らうといわれ 戦技の消費FPを大きく増す代わりに 魔術の威力をより強化する

名前と「古老の結晶杖」のテキストから、彼女が結晶の古老の愛弟子だった事実が分かりますが、それくらいです。そして火防女一式を(頭冠を除き)装備しているくらい。また彼女はロスリック城で他二人の NPC と共におり、プレイヤーを襲います。かと思えばオスロエス後の無縁墓地で闇霊として侵入してくる。なんなんだテメーは。

殺意の割に正体が不明過ぎるので「元ネタ」を漁ってみましょう。もちろん明言はされておりませんが、「クリエムヒルト(クリームヒルト)」という名前は『ニーベルンゲンの歌』に見つけられます。その中で、彼女はかの有名な「ジークフリート」の妻でした。そしてもう一つ、彼女には「グンテル(グンター)」という名の兄がいるようです。そしてゲーム内で侵入してくる彼女の傍には「英雄グンダ」がいました。

クリームヒルトとグンターがそうであったように、結晶の娘と英雄グンダは兄妹だったのでしょうか。不明です。しかしゲーム中には幾つか気になる記述があります。

エストの指輪
かけらから作られた緑色の指輪。
それはある火防女に託され だが彼女は、終に英雄に出会えなかったという。
やがて愚か者の悲劇は、大衆好みの伝承となった。
穢れた火防女の魂
彼女は篝火を保ち、また一人の英雄に仕えその暗い穴すら癒し受け容れたという
故にその魂は汚れてしまった。
そして火防女の魂は、また火防女に宿るものだ。

どうも火防女には英雄が付き物だといったニュアンスです。歴代シリーズでは多くの不死が火防女を頼ったような印象を受けますが、考えてみれば火継ぎを実現出来得る「英雄」は限られており、ましてや薪の王ともなれば唯一人。不死に火の導きを与える火防女の真の役割とは、そういった限られた英雄の、言わば「対」となる事なのかもしれません。これは上述した「王(男性性)」と「火防女(女性性)」の対比の話に通じるかと思います。

つまるところ、詳細は分からないながらも結晶の娘クリエムヒルトは、英雄グンダと深い関わりのある火防女だったんじゃないでしょうか。彼女が火防女装備を身に着けるのは、単純に彼女が火防女だったからなんです。

英雄グンダのソウル
遅れてきた英雄を迎えたのは 火の無い祭祀場と、鳴らない鐘だったという
グンダの斧槍
古い鋳鉄の斧槍は強靭度を削る力に優れ また朽ちることがないという
使命の永きは、最初から決まっていたのだろう
虜囚の鎖
かつてグンダを縛った鉄鎖の一部
虜囚とは、自由の代償に全てを受け容れるものだ
英雄の運命であれば尚更であろう

英雄グンダは火継ぎの器であり、しかし間に合わなかったのだと思われます。既に英雄を導く祭祀場は機能を止めていた。或いは間に合わず「灰の審判者」として、後を続く灰の英雄を選定する役割が最初から決まっていたのでしょうか。ともかくグンダの対となる火防女クリエムヒルトが我々を襲ったのは、未だ使命の中にあるグンダを護る為だったのかもしれません。

さて元ネタついででもう一つ。クリームヒルトの夫である「ジークフリート」については過去記事で触れているんですが、 wiki ではこんな記述があります。有名な話なので知っている方も多いかもしれません。

魔力のこもった竜血を浴びて全身が甲羅のように硬くなり、いかなる武器も受け付けない不死身の体となる

立て続けにもう一つ。「ジーク」の名はゲーム中でもなじみ深い。言うまでも無くカタリナ騎士ジークマイヤーを始めとするタマネギの方々です。そして『3』のジークバルトには驚きの能力があります。彼、なんと「岩の体」を使うんです。「岩の体」は「ハベルの大盾」の戦技でした。

ハベルの大盾
決して折れぬ大竜牙と並び ハベル本人の遺物であるといい 彼らしい特別な力を宿している
戦技「岩の体」 : 盾を捧げる静かな祈りにより 装備者自身を岩塊へと変える

「岩のようなハベル」の、彼らしい特別な力であるという戦技。ジークバルトがそれを盾無しで使う、その意味。

更に「岩の体」の最中、雷ダメージが 60% 増加するんです。思い出してください。「岩の古竜」たちのウロコが雷で貫けたことを。その理由を、当サイトでは「ウロコが人間性(闇)で出来ていたから」と述べさせて頂きました。闇の反属性は光(雷)。ハベルの岩の体が、竜のウロコと同じ性質と考えていいのだとして、もしもハベルの元ネタが「ジークフリート」であり、彼もまた竜血によって古竜のような力を得た、そんな推測を進めて良いのなら、こんな仮説が出来上がります。

カタリナ騎士「ジーク」の一族は、ハベルの末裔であった

……ってなことを過去記事で述べた訳です。じゃあそれが今回のシース云々とどう繋がるのか。正直繋がらないんですが、一つ思い付きを聞いて頂きたい。

大魔法防護
「岩のような」ハベルの司祭に伝えられる奇跡
グウィン王の古い戦友であり 白竜シースの敵対者でもあったハベルは 魔法を嫌い、それに対する手段も怠らなかった
大魔力防護
それは「岩のような」ハベルの物語であるという
白竜シースの敵対者であったハベルは魔術を嫌い、それに対する手段も怠らなかった

シリーズを通してハベルがシースの敵対者であった事は貫かれていました。逆にシースからハベルへの感情は一切不明です。しかしハベルの「岩のような」特別な在り方が、古竜のそれと同じものだったとすると、シースが何も感じていなかったとはちょっと考え難い。ハベルがシースへの用心を怠らなかった理由はここにあるんじゃないかと思っています。

そもそもハベルの元ネタが「ジークフリート」だったのだとして、その妻である「クリームヒルト」を最終作に出した意味はなんだろうと考えてみて、それはハベルとシースの因縁が夫妻のような硬い結びつきで説明できる、つまりシース = クリエムヒルトである……という、考察というより連想ゲームに似た仮説なんですが、如何でしょうか。もちろんクリエムヒルトとグンダが元ネタ通り兄妹だったとは限らないように、ハベルとシースの関係も元ネタ通りではないと思います(個人的にはアリですが)。

強いて付け加えるとするなら、結晶の娘クリエムヒルトをシースとする事で、ここに一つの綺麗な「円環」が出来上がるんです。多くの方にお読みいただいたこちらの記事で、『ダークソウル』は変則的なループ構造であるという旨、お話させて頂きました。

『ダークソウル』とは「輪」の物語。シースの啓蒙に憑かれたローガン、その業の多くを継承した結晶の古老。そして古老が愛弟子とした「結晶の娘」クリエムヒルトは、しかし遠い未来(過去)の白竜だった。だとすれば魔術の祖たるシースの業は、巡り巡って将来の自分自身を育てた事になる。上記の記事では奴隷騎士と太陽の光の王が結ぶ輪廻についてお話させて頂きましたが、こんなところにも「輪」が存在していたのかもしれません。やはり『ダークソウル』とは、徹頭徹尾「円環」の物語だったのだと、そんな落としどころで本項を終えさせて頂きます。

(追記)

けれど、けれどね、なんとここまで言っておいてジークバルトの「岩の体」、バグである可能性があります。どうも他の NPC も使用するんですよ。それもバグっぽい挙動と共に。ただ知る限りではロンドールの白い影やゾリグなどの「闇霊」に限定した現象なので、どこまでがバグでバグじゃないかがよく分からない。ここまで言ってしまった手前、ジークに実装した戦技が何らかの要因で他 NPC にとってバグとして波及してしまったと思いたいのですが……。

これからの白竜の話をしよう

まだ終わらねえぞ。

前回の末尾は朽ちぬ古竜が、その後どうなったのかというお話で締めました。結論を言えば竜たちは「土地」に、世界そのものと同化していったのではないかと。それが生死を超越した竜たちの「その後」でした。

では、ウロコを持たぬ白竜は? 本記事の決着として、それだけお話させてください。

その後のシース 1

その後と言ってもどこから数えるべきか。分かりやすいのはやはりシリーズ一作目でしょうか。古竜狩りに加担した裏切りのシースは、王のソウルを分けられ、書庫に籠りウロコを得る研究をしていました。するとどこぞから現れた不死人が、頼みの綱の原始結晶をぶっ壊し、白竜の軟らかい体に刃を突き立てます。こうして白竜シースの命にはあっさりと幕が引かれることとなった訳です。おわり。

余談ですがセンの古城や書庫にいた蛇人は古竜の頂にいた者達とは別種だと思います。恐らくシースが古竜探求の仮定で造った模造品でしょう。また同じく書庫にいたアーマードタスク(鎧の猪)もまた、「ウロコ(硬い外殻)」という観点による被造物です。

その後のシース 2

白竜シースが死んだ後。

これも過去記事で触れましたが、実のところシースは死んでいませんでした。いや死んだのですが、その残り滓のようなものがずっと、ずっと、ある「土地」にこびり付いていたようです。

『2』で「愛しのシャラゴワ」はこう言いました。

「人間って、変なものを好きになるわよね。何かに憑りつかれたみたいに。それとも、憑りついてるのかしら フフフッ。あの、醜い裏切り者もそうだったわ。他人のものが欲しくて欲しくて、しょうがなくて…滑稽なこと フフフッ。あの“這う蟲”は、今も探してるの。自分が欲しいものをね」

そしてもう一つ。

公のフレイディアのソウル
這う蟲とはこの地に業を振りまく古きものである
それははじめただの虫に憑りつき、この地に溢れた歪んだソウルを得て、力を増した

この「這う蟲」とやらがシースの成れの果てです。ウロコを持たぬとは言え、その妄執故か、かつて竜であったものは「蟲」に成り果ててまで生き延びていました。討たれたシースが直後「蟲」になったかは不明ですが、とにかくシースは土地に憑きます。『2』では魔力を込められた鉱石が発掘され、テキストでも「誰がこんなことしたんだろうね〜」なんて不思議がっていましたが、「石(結晶)」と言えばシース。「蟲」となってもその追求は終わらず、そしてやがては魔力を付与された多くの鉱石が生まれ、またジェルドラ名物「雫石」が誕生した訳です。「ジェルドラ」とは「ジュエル」と「ドラゴン」を由来とする造語なんですね。

ちなみにジェルドラ方面のボス「公のフレイディア」は、はじめは唯の蜘蛛のようでしたが、「蟲」憑きによってどうあっても壊せない硬い外殻を得ました。またジェルドラ前の野営地には篝火の熱が「2」以降、巨大な牙獣(猪)が配置されます。アーマードタスクがシースの被造物であった事を鑑みて、やはりこの地に憑く「蟲」はシースに由来するものであったという描写でしょう。

さてそんな「蟲」に堕ちたシースの妄執も、どこぞから現れた不死人によって踏み潰される事になります。今度こそウロコへの探求譚は終わりを迎えたのでした。

その後のシース 0

シリーズに「0」は付き物。という訳で謎だらけの過去編について。かつて神々に混じり人々もまた古竜狩りに参戦していた時代、或いは、その直後。人の持つ闇を恐れた神々は、「暗い魂」を持つ小人たちを封じます。恐らく、フィリアノールの眠りの中に。「デザインワークス」を見ると分かるのですが、フィリアノールが抱いた、割れた卵のようなものは「練成炉」のようです。ここに纏わる話を一つ。

まず輪の都の小人王たちにフィリアノールという蓋がされた時点で練成炉は存在していたと仮定します。つまり火の時代前後からその技術が確立されていたことになります。

3 つのことが分かります。

  1. 練成はソウルの特質を凝固させる技術
  2. 練成炉は結晶トカゲの抜け殻で作ることができる
  3. フィリアノールの眠りはシラが守っていた
  1. について

    ソウルを結晶化させ、或いは鉱石に魔力を込める技術を持ったキャラクターがいました。白竜シースです。つまり練成とはシースの業に近い。

  2. について

    「1」を鑑みた上で結晶トカゲとはそもそも何なのか。こいつらたぶんシースの眷属みたいなもんなんじゃないかと。シースが石を作り出す業を持ち、トカゲは石を持っている。竜の遠縁としてトカゲがいると考えるとなんとなくしっくり来ます。そしてそんなトカゲの殻によって練成炉は作ることができる。ここからも練成とシースに深い結びつきを求める事が可能です。

  3. について

    シラとは「公爵の娘」とあるように、そのままシースの娘でしょう。プリ「シラ」との関連性も伺えます。シラがエストを飲む辺りどこかの不死を捕まえて子供をこさえてみたのでしょうか。加えてシラの頭冠には「バイバルの真珠」が装飾されています。バイバルとは二枚貝のこと。二枚貝と言えば、『1』のあのクソホタテどもです。

    呪いを司るシースは、あのバイバルたちを使って「解呪石」と「光る楔石」を作り出していたと以前考察したことがあります。「シースは鉱石を作る」がここでも繋がりますが、それは置いておき、ともかくそんな繋がりのある真珠をシースは娘に与えていた訳です。

    何が言いたいのかというと、練成炉を掘り下げるとシースの気配がチラつくんです。火の時代初期既に練成の技術を確立していたシースは、それをフィリアノールに持たせ、何らかの形で輪の都の封印に関わっていたんでしょう。また「教会の槍」の他、彼女の眠りを自分の娘にも守らせていた。眠りを永く守るには、死なずが都合良いだろう。そして「バイパルの真珠」は、シラの不死としての品質を長持ちさせる為に誂えた、ある種の「解呪石」だったのだと考えられます。

    しかしせっかく守っていた小人たちの封印は、どこぞから現われた不死人が(以下略)

衝撃の過去が今、明らかに……!? かどうかは保証できませんが、輪の都を巡るあれこれの陰でもシースは色々頑張っていたんだねという話でした。

その後のシース 3

「這う蟲」が死んだ後。シリーズ完結編です。

しつこいようですが過去記事で述べました。

青虫の丸薬
イルシールの奴隷たちが作る秘薬 冷たい谷には、月の虫が蔓延っている

どうやらこの「月の虫」とやらがステータス異常「凍傷」の原因です。凍傷は月の虫版の「蝕み」であり、それが対象に食らいつくことで引き起こされていると。そして「蝕み」の元となった虫が深みで育った人間性であり人を宿主とする性質を持つなら、似た性質を持つ月の虫もまた人を苗床とするある種の寄生虫と呼べます。獣となった外征騎士たちに冷気が纏わりつくのは、彼らが月の虫の宿主となっている事を意味しているんでしょう。

……で、この月の虫、一体いつ発生して、どこから来たんでしょうか。「月」とは、シースの代名詞。……。……。「這う蟲」、ちゃんと死にましたよね? 別の種に進化して蔓延ってたり、しませんよね。

その後のシース after

我々の前には未だ見ぬ「深海の時代」が待っています。想像もつきませんが、天使がそうであるように、「深海」とは人間性から端を発した怪異が蠢く、闇よりもおぞましい世界になりそうです。そしてもし「月の虫」もまたその一種であり、その前身がかつての白竜であったのなら、なんというかちょっと感慨深いものがありませんか。古竜が朽ちぬ故に世界に溶けていった一方で、生命を持つシースは、しかし幾度倒されても死にきれず、果ては蟲となって散り散りになった。それはもはやシースとは呼べず、今やウロコへの妄執すら忘れている可能性もありますが、それぞれを「朽ちぬもの」と、「朽ちまいとしたもの」の末路とすれば、なんだか壮大なおとぎ話のようではないですか。

そして天使信仰とは白竜信仰を原型にするとかつて述べました。ならば天使が白竜の似姿であるのは、それは単純な話、信仰の中にシースが息づいているからだと思えば、これもまた面白い。知らぬままにシースを願ったものたちの祈りが、シースに似たものを産んだ事になる。そしてかつて月(信仰)を元手に魔術を産み出したシースは、こうした形で信仰の中へ回帰していく訳です。素晴らしき円環。

ばいばい、シース

バイバイ ドラゴンワールド

ウロコのないシースは、超越者ではなく、故に死にました。しかし生きているが為に、その遺志はこれから先も何らかの形で残り続けるのかもしれません。それは超越者が持たない、限りあるものの強さと呼べるでしょうか。そして白竜は、或いは「蟲」となり、「信仰」となり、やがて世界の枷となるのだとすれば、それは彼女が欲した「不死」の、一つの形と言えるのでしょう。どこまでも迷惑な奴ですね。しかしまあ、良いんじゃないでしょうか。この先、もしもまた別の形で見える事になるなら、その度に何度でも滅ぼしてやりましょう。末永く付き合っていこうではありませんか。我々と、シースの仲なんですから。

などと感傷に浸ったところで、この「白竜白書」を終えたいと思います。思いの他長くなってしまって申し訳ありません。

白竜シース、鱗を持たぬ竜でした。

まとめ

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