『DARKSOULS』には「絵画世界」と呼ばれる場所があります。その名の通り絵画の中に広がる世界で、特異なロードラン、或いはロスリックの中でも、ひと際深遠なその場所を我々は冒険しました。一面の雪景色、人間と鴉が混じったような怪物、頭が鬱血して膨れ上がった亡者、腐ったドラゴン、集る蠅人間。最高の世界でしたね。
さて絵画世界。『1』においては「エレーミアス」、『3』においては「アリアンデル」と名付けられてはいたものの、どうも同じ場所だった様子。
吊橋
井戸
仕掛
終点
絵画世界の今昔を感じられるロケーションは何カ所かあります。まだあるので探してみるのも楽しいでしょう。
しかし「どっちが過去で未来なのか」という部分に関しては諸説あるようです。『1』『3』の時系列そのままであれば絵画世界も同様の時間経過であると思いますが、どうも「絵描きのお嬢様が求めた顔料によって描かれたのがエレーミアス絵画世界」という説もあるらしく、叙述トリック的読み解きで面白いなと思いました。ただ当サイトとしては分かりやすく、「エレーミアス→アリアンデル」という見方をしていきます。
さてそんな訳でエレーミアスの成れの果てであるアリアンデルは、しかし腐り果てていました。どうも絵画世界というのは「血」で描かれているようで、必然、時と共に腐っていきます。そして腐った絵画の中に身を投じてみれば、そこでは世界各所に「腐れ」が蔓延し、人によく似た蠅まで湧いている始末。故に代々、絵画は「修復者」の手によって延命が図られてきた、という事実が『3』で仄めかされました。
- アリアンデルの薔薇
- 絵画世界の鞠のような教父が その血で火を鎮めるために用いたバラ鞭
- 絵画の修復者たるアリアンデルは それが血で描かれることを知っており それを守るためにまた血を用いた
アリアンデルは修復者の名でした。しかし彼はいつからか絵画が腐り果てる事を望み、腐れを焼き払う「火」を消し留める為、修復者としての血を鎮火に使っていたという話。血によって生まれた世界を血で終わらせようとしていた訳です。
その背景に何があったのかというのも気になりますが、もっと気になるのが、絵画世界には修復者の名が付けられるというもの。アリアンデルが修復したことで「アリアンデル絵画世界」が生まれたなら、「エレーミアス絵画世界」にはエレーミアスという修復者がいたはずなんです。しかし『ダークソウル』シリーズの中に「エレーミアス」なる人物は登場しないので、残念ながら想像するしかありません。
ちなみに「エレーミアス(ariamis)」と「アリアンデル(ariandel)」で頭の四文字(aria)が共通している辺り、何らかの意図があるのかもしれないので、言語に明るい人は答えを出してみるのも良いんじゃないでしょうか。
ところで。
かつてエレーミアスの方では「黄の王ジェレマイア」という NPC が闇霊として侵入してきました。
ボラギノールじゃないよ
ジェレマイア。英語圏の名前だそうです。つづりは「Jeremiah」。この名はドイツ語で「Jeremias」となるらしく、発音は「イェレミアス」。
ということで「黄の王ジェレマイア」がエレーミアス絵画世界の修復者「エレーミアス(イェレミアス)」さんの正体でした。
終わり。本日はありがとうございました。
終わりません。
ジェレマイア、またの名をエレーミアス。彼が修復者であるという視点を得たなら、見えてくるものがあります。
鳴らない鐘
この鐘はアリアンデルの篝火「雪の山道」から少し進んだ場所に打ち棄てられた鐘なんですが、特に説明もないのでずっと不思議に思っていました。しかし最近になって検討がついたので一つ聞いて帰ってください。
- 騎士ヴィルヘルム
「…ほう、貴公…。…火の無い灰だな。鐘の音もなかろうに、なぜ、絵画に迷い込んだ?」
アリアンデルの NPC 「騎士ヴィルヘルム」の台詞ですが、この「鐘の音」とは上の棄てられた鐘の事と考えて良いでしょうか。鐘の音が灰のみを呼び寄せるのか、不死全般を招くのかは分かりません。しかしこの鐘、「絵画の外」にある鐘と同じ役割を担っているのかなと。
『1』『3』ともに鐘とは目覚ましの役割を果たし、それは火継ぎへの道を開通させる響きでした。引いては薪の王を選定する為の鐘であると言えます。そして絵画世界が人血で描かれる為にやがて腐り果て、その度に修復者を必要とするなら、それは外の世界における火の陰りと火継ぎ、そして薪の王の在り方の相似である訳です。絵画世界の鐘が外の世界の仕組みを模倣したのか、或いはそもそもの起源が絵画にあるのかは不明ですが、「火の陰り」に薪の王が現れるように、「画の腐り」と共に修復者は現れる。そうして火の如く絵画もまた継がれて来たのだと、棄てられた鐘はそれを暗示する為のものだったのだと思います。
つまり修復者とは絵画における「薪の王」であり、故に絵画を継いだジェレマイアは「黄の王」だったんです。個人的に「薪」は「たきぎ」と読んでいますが、もしかすると「まきの王」と「きの王」で掛かっているのかもしれません。更に言えば、ジェレマイアが呪術を操るのは、最初の火に焼かれ炎を帯びたグウィンに対する前振りとしての演出だったようにも思えますし、何だか言えば言うほどそんな気がしてきました。
- 黄衣の冠(『1』)
- 伝説の追放者、黄の王ジェレマイアがつけていた まったく由来の分からない謎の衣装
- 冠には上質の布が使われ、ふわふわとやわらかいが 鮮やかな黄色が目にいたく、明らかに大きすぎる
またジェレマイアは「伝説の追放者」だったようですが、それは言わば「忌み人」でしょう。絵画世界が忌み人の流れ着く場所なら、ジェレマイアは忌み人たちの王として、その優しい安息地を継いだのだと思います。「火継ぎの傍ら」にひっそりと、世界を繋ぐ物語は描かれていたのでした。
ちなみに「黄の王」という名称についてはここも気になるところ。
- 黄衣の頭冠(『3』)
- 古い黄金の魔術の国、ウーラシール
- その神聖な生物を模したという頭冠
- 黄衣は、失われた魔術の探求者の装束であり 大きすぎる頭冠はその象徴である
- 奇態が導きたるのなら、なにを恥じることがあろうか
- 探求者の遺灰
- 黄金の魔術の国を探求した魔術師の遺灰。
- 彼らは黄衣の探求者と呼ばれるが 単に黄色いだけの者は、何も分かっていない。
『3』ではウーラシールへの探求を顕すアイテムだった事が判明した黄衣の頭冠。「黄衣の冠」とは微妙に名称も違いますし、というか形状も違うので、或いはその役割も異なるのかもしれませんが、もしかするとジェレマイアとはウーラシールの探求者、その一人だったのかもしれません。だとすれば黄色いだけで「何も分かっていない」から追放されたのか、ジェレマイアだけが「分かって」いたのか、ここら辺はよく分かんないです。ただ『3』でロザリアに仕えたヘイゼルが「黄色指」だったのは彼女が「黄色いから」だと思っているので、ジェレマイアが「黄の王」なのも、そのとき絵画を継いだ人間が「やけに黄色かったから」っていうシンプルな理由を想像してます。他の人間が継げば、「絵画の王」とかまともな呼び名を与えられていたんじゃないでしょうか。何かこいつ黄色くね??
ところでアリアンデルが持っている器、なんでしょうね。
王の器??
「王の器」である、なんて考察を見かけたことがありますが、「なるほどな」という感じ。
どうだろう、似てるだろうか
見比べてみると「そのもの」では無いにしろ、機能としては同質のものだったんじゃないかと推測しています。絵画の修復がどのように行われるかは謎ですが、もしかするとこの器を修復者の血で満たす事でそれは成されるのではないかと。突き詰めれば「防腐」の為の修復であるなら、腐れを祓う為には「火」が必要になります。そして英雄はその身に火を宿し、火はソウルに、ソウルは血に宿るもの。
- 残り火
- 英雄たちの内にある残り火
- 火の無き灰たちが終に得られず 故に惹かれるもの
最古の火継ぎの際、不死の英雄がそうしたように、代々の修復者は自らの血のソウルを器に注ぎ、絵画世界に火を行き渡らせたんじゃないでしょうか。
- 修道女フリーデのソウル
- 一人目の灰として絵画を訪れたフリーデは だが教父と共に、火ではなく腐れを選んだ
しかし教父アリアンデルは、自らが最後の修復者である事を望んだようです。これ、絵画の修復が火継ぎの相似であるという視点を持つと、アリアンデルの決断がある種の「火継ぎの終わり」エンドである事が分かります。新旧絵画世界を巡るイベントそのものが『ダークソウル』の総まとめ的仕上がりになっている、そんなお話でした。
エレーミアスにおいてはかつて半竜プリシラと見えた場所。半壊した塔の上層で狂った闇霊に侵入されます。その名は「死斑の呪術師、ダネル」。意味ありげな存在ですが、こいつに関しても特に説明がありませんでした。いつものことなので適当にでっち上げてみようかと思います。
そもそも狂った闇霊とは何か、という話ですが、以前こんな記事を書きました。
関連記事
これらの記事の一部で狂った闇霊(積む者)たちについて触れているのですが、要するに彼らは「火の存続を望むもの」だったんじゃないか、という内容です。彼らは「枷の椎骨」というものを求めています。人には「枷」がはめられていて、それは人間を「人間らしい形」に押し留める為のものでした。しかし枷は存外脆く、一度それを外せば人はどこまでも怪物と化していく。しかしそれが「人」なんです。人には「本来の姿」など無い。故に枷とは人の可変性を恐れた神の計略に過ぎず、火が陰り、神もまた消え去るのなら、人々が続々と枷を外し、怪物になっていく光景こそが人らしい、自然の摂理なのだと言えます。
しかし積む者達はそれを拒否します。五体を持つ、良く見知った形こそが「人間」なのだと。その思想に憑かれたが故に、彼らにとっての「人らしさ」の象徴である枷を求め続ける。それはある意味でプレイヤーである我々の感性に近いものですが、あの世界においてそれはむしろ異常な思想なんでしょう。故に彼らは「狂った闇霊」を名乗り、聖騎士フォドリックやダネルは「火」に関連する武具や呪術を用いていました。
- 呪術の送り火
- 死斑の呪術師、ダネルの用いた呪術火
- あらゆる死から名残を集める
- それは醜い伴侶の死に捧げられ 送り火となり ダネルは狂った霊になったという
たぶんダネルの「醜い伴侶」とは、何かの拍子で枷が外れ、醜く変態した人物だったんじゃないでしょうか。だから彼は狂った闇霊になった。しかし絵画にやってきた理由は何でしょう。確かに絵画世界は、鴉になった忌み人や、白木の姿の女性たちなど、「枷が外れた」と見える人間たちのオンパレードです。しかし既に枷が外れた者達を標的にするものでしょうか。それとも絵画に迷い込んだ灰であるプレイヤーたちを狩りに来たのでしょうか。
思うにダネルは、次の修復者になりにきたんじゃないかと。
我々は絵画の他の姿を知りませんが、住人たちが鴉になったり木になったりというのが腐敗を原因とする現象であるなら、それは修復という手段で防げるはずです(既に変態した人間が元に戻るかは分かりませんが)。ダネルにその資格があったのかはともかく、彼は自らの血を以て世界を継ぎ、絵画そのものの枷をはめ直しにやってきたのかもしれません。
実際にジェレマイアがかつての修復者だったのだとして、そのジェレマイアとダネルが共に混沌の呪術を振るう様は、そんな可能性を示唆する為の描写だったと少し思っています。もちろん過去作のオマージュだったという見方も大いにありますが。
付け加えるならこんな見方も出来るでしょう。
- 浮かぶ混沌
- 死斑の呪術師、ダネルを魅了した儀式呪術
- 燻りの湖の助祭たちが用いるもの
- 束の間に燃え尽きるその混沌は だが苗床に生じた原初の生命であるという
- それはイザリスの罪の、憐れな証であろう
混沌が、歪んでいたとは言え生命を生み出す力であるなら、それこそがダネルを魅了したのでしょうか。積む者たちが「火」に関連する武具を用いると申し上げましたが、その中にあってダネルのそれは「混沌」と名の付くものに偏っている。ダネルはイザリスの魔女がそうであったように、「生み出すもの」になりたかったのかもしれません。故に絵画を自身の血で満たし、もしも絵画に生まれる生命、その苗床になろうとした……なんて想像はどうでしょう。
余談ですが「マック」または「マク」とは「息子」を意味する言葉だそうです(以前教えて頂いた)。何でも書いてある wikipedia にも載ってました。であれば、死斑の呪術師ダネルとは、冷たい谷のマクダネルの父親だった可能性が出てきます。
たぶんこの人がマクダネル
- 聖者の燭台
- 深みの主教たちの礼拝の燭台
- それは剣であると共に魔術の杖である
- 彼らは、冷たい谷のマクダネルの教えにより 聖職者でありながら、魔術師となったという
深みの主教たちはプレイヤーキャラクターですら使えない炎の魔術のようなものを放ってきます。深みを封じる為にマクダネルが伝えたもの、とは思っているのですが、それよりも主教たちの「聖職者でありながら魔術師でもある」という在り方が気になります。理力と信仰を礎とするそれは、呪術師に通じるもの。もしもダネルとマクダネルが親子関係にあるなら、マクダネルが聖職者にとって禁忌である魔術を、それでも取り入れたのは、ひょっとすると父親の影響だったのかもしれませんね。
絵画世界が血で描かれているという設定はシリーズ原初から存在していた、という前提でここまでやってきた訳ですが、もしかすると宮崎ディレクターはヒントらしきものを配置してくれていたんじゃないかという話を最後にします。
絵画が血で描かれている事を示す滅茶苦茶分かりやすいヒント
- 血の盾
- 失われた伝承で語られる血の盾
- 血の赤には弱い魔力が込められているようで あらゆる耐性を高めてくれる
「失われた伝承」とは。ちなみにこの奥にはドラゴンゾンビがいます。血の盾と腐ったドラゴン。これは絵画が血で描かれた事をプレイヤーに悟らせる明確なヒントであり、ドラゴンゾンビは絵画が既に腐敗を始めている報せだったんですよ。ね、分かりやすいでしょ。いや半分冗談で言ってますけど、マジでこれらをヒントのつもりで配置してたらどうしようとも思ってます。
ついでに言えばジェレマイアが持っている「イバラムチ」もヒントくさいんですがどうでしょう。
- イバラムチ(『1』)
- 鋭いトゲの生えたひも状のムチ
- 鎧や硬いウロコなどには効果が薄いが 肌や皮膚の露出した敵には威力を発揮し また大量の出血を強いる
- イバラムチ(『3』)
- 鋭いトゲの生えたムチ
- トゲは皮膚を引き裂き、出血を強いる
- 清拭の小教会で用いられたもの
- 儀式には、拭うべき滴りが必要なのだから
- アリアンデルの薔薇
- 絵画世界の鞠のような教父が その血で火を鎮めるために用いたバラ鞭
実は修復者自身の血を絵画に使っているとはどこにも書いていなかったはずですが、ひょっとすると修復者はこのイバラムチを使って他人から血を得ていたのでしょうか。或いは自分の血を抜き出す為の得物を武器に転用していたのか。どちらにせよ、絵画の修復者と思わしき人物が皆、血を得る為の道具を所持していたのは事実です。仮に後付けだとしても見事と言わざるを得ないんじゃないでしょうか。
- エレーミアス絵画世界の修復者はジェレマイアでした。
絵画に未だ謎は多く、掘り下げようとして止めた箇所もあります。アリアンデルへの入口でもある深みの聖堂の小教会にイバラムチが配置されていた事も意味深です。まだまだ気になる絵画世界ですが、取り合えず今回はここまで。ではまた。