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火と楔と血の話 01

はじめに

『ダークソウル』が発売される際のインタビューでも公式に否定されている通り、『デモンズソウル』と『ダークソウル』に直接的な繋がりはないようです。『ブラッドボーン』もそうでしょう。同じディレクター(宮崎英高氏)が手がけているという理由で精神性やゲーム性こそ受け継がれていますが、共通するキーワードなどはセルフパロディやファンサービスの範疇でしかないようです。その手の繋がりを考えるのが大好きな人間としては、公式に否定されてしまったことが非常に残念でならないのですが、そこは涙をのんで堪えることにします。

という訳で今回は「『デモンズソウル』『ダークソウル』『ブラッドボーン』は全て同一世界観の物語なんだ」という話をしていきます。当然ながら全シリーズのネタバレになるのでお気を付けください。またここまでの考察記事ありきの内容になると思われますが、それでいて初見の方にも、そしてお読みなった上で「言ってる意味がわかんねーぞ」と思われた方にも、出来得る限り優しい内容を心がけるつもりでいますので、よろしくお願い申し上げます。それでは始めていきます。

火に次ぐ深海

『ダークソウル』とは火の時代の始まりと終わりを描いた物語でした。来たるべき闇の到来を遠ざけるべく、消えゆく火を再生させ続けた抗いの神話。しかしながら、そうして火を繋いだ王の一人である「深みの聖者」エルドリッチは、歴史の必然に対して異なる見解を述べています。

エルドリッチのソウル
彼は陰った火の先に、深海の時代を見た 故に、それが遥か長い苦行と知ってなお 神を喰らいはじめたのだ

「深海」の時代。聞き覚えのない言葉です。かつて闇撫でのカアスは語りました。火が消えれば闇の時代が来る。それは正しく人の時代なのだと。深海の時代とは、つまり闇の時代のことなのでしょうか。という訳でちょっとおさらいです。

かつて何も分かたれていなかった「灰の時代」に「最初の火」が生じてから先、世界にはあらゆる差異が出現しました。やがて文明が生まれ、国が興る。「火の時代」のはじまりです。原始、火の時代から偉大なソウルを見出した幾人かの王が存在しました。中でも取り分け異質な王がいて、誰も知らぬその者は、闇を力の拠り所としたのです。その力こそ「ダークソウル」であり、以降、人という種に「人間性」という形で受け継がれていきます。しかし闇のソウルを持つ「人間」は、本来であれば不死という特性を持つのですが、それを恐れた神々によって火の封を施されてしまいます。しかし火とはいずれ消えるもの。最初の火が陰ることで封も弱まり、やがて人は不死としての本性を発揮していくことになります。そして終に火が完全に消えてしまえば、差異が世界から失われることこそ無いものの、火を力の源とする神々は絶え、後には不死だけが闊歩する「闇の時代」が到来する、筈でした。

カアスが望んだのは、人が神の統治を離れ、人らしく在ることを許された世界でした。初代『ダークソウル』では主人公に対し世界蛇はこう言います。「火を消せ」と。全ての生き物にとっての力の拠り所が消え失せようとも、人だけは暗がりから力をとり出せる訳です。まさしく人の時代、闇の時代です。……が、『3』ではその思想が転換していたことが判明します。ロンドールという勢力が登場するのですが、そこに属するユリアという女性は今際の際にカアスの名を呟きます。恐らくロンドール建国にはカアスが関わっているということなのでしょう。しかし不思議なことに、ロンドールの目的は火を消すことではなく、その簒奪でした。そも火継ぎとは神の理であり、神無き今、火は人の手に移譲されるべきなのだ、と。そしてどうやら簒奪という行為はカアスの遺志なのだそうです。

はて、「消す」と「簒奪」では意味が大きく異なるのですが、長い時を経て火が惜しくなったということなのでしょうか。いえ、それは違います。変わってしまったのはカアスの考えではなく、彼が望んだ闇の世界の方なのです。暗がりはもはや人の領域ではなくなってしまいました。深い海は、人が住める場所ではない。

闇の飛沫
通常のソウルの魔術とは異なり 闇の魔術は重く、物理的なダメージを伴う
人のソウルは、人間性として より実態に近づくのだろうか
人の澱み
人の内にある最も重いもの。人の澱み
それはどんな深みにも沈み 故にいつか、世界の枷になるという
深みのソウル
それは深みに沈み溜まったソウルであり 生命に惹かれ、対象を追尾する
強い深みのソウル
魔術師でもあった大主教マクダネルは 聖堂に澱むソウルに歓喜したという
素晴らしい、ここが世界の底であると
闇の貴石
主なき人間性に生じるもの
闇の武器は闇攻撃力を持ち信仰による補正も高くなる。
深みの貴石
深みの聖堂、その澱みに生じるもの。
深みの武器は闇攻撃力を持つが能力補正は消失してしまう。そこは人智の届かぬ暗闇なのだ。
主教シリーズ
深みの封印者であったはずの彼らは やがて皆、おぞみに飲まれた
信仰も灯火も、役には立たなかったのだ
深みの加護
深みは本来、静謐にして神聖であり 故におぞましいものたちの寝床となる
それを祀る者たちもまた同様であり 深い海の物語は、彼らに加護を与えるのだ
蝕み
深みに潜む蟲たちは、小さな顎に牙を持ち 瞬く間に皮膚を裂き、肉に潜り込む

「人の澱み」は「人間性」そのもの、或いは近似の概念と考えていいでしょう。なぜならともに人の内にあり、かつ「重さ」を有するからです。歴代の闇の魔法の説明にあるように、人間性は「重い」。故にスタミナ削りなどに使われてきた訳ですが、よもやその要素がこういう形で拾われるとは思いもよりませんでした。人間性は重く、だからこそどんな深みにも沈んでいきます。

ただしここで「闇の貴石」と「深みの貴石」のテキストに注目してみます。二つの貴石は闇に属するものですが、テキストを読む限り、深みとは闇そのものよりも、更に暗く深い部分を示す概念に思えます。我々にとって馴染みある深淵とは恐らく、深みに続く「淵」、入り口に過ぎないとでもいうのでしょうか。それは単純に物理的な階層を示すのかもしれませんが、マクダネルの言葉(強い深みのソウル)を鑑みるに、人間性が澱んだ場所が「深み」になると解釈するのもアリかもしれません。

そして深みは「おぞましいものたちの寝床」となるそうです。奇跡「蝕み」によって召喚できる「深みに潜む蟲たち」とは、その「おぞましいものたち」の一種なのでしょう。その事実と、他アイテムテキストを照らし合わせてみると、深みに潜む「おぞみ(おぞましいものたち)」が、聖堂に住まうものたちを飲み込んだという図式が出来上がります。そして深みを封じる立場であった主教たちは、いつしかおぞみを祀るようになりました。かつては太陽の光を礼讃した彼らは、今や自らを飲み込んだおぞみこそを信仰の対象と捉え、それを「深い海の物語」として語り継ぐのです。即ち「深海」とは、おぞみ、つまり「かつて人間性であった怪異」が蠢く暗闇を指すのであり、そしてその闇の生物たちこそが「火」に継ぐ次代の礎となるであろうことを、深みの聖者エルドリッチは見通してみせたのですね。

さて、澱んだ人間性を苗床にして「おぞましきものたち」は生まれました。こちらの記事が詳しいかもしれませんが、人間性は生物に、というかなぜだか主に虫に変化する性質を持ちます。「蝕み」が良い例として、他には深みの聖堂の死体蛆、アリアンデル絵画世界に沸いた蠅や、輪の都の白面の虫なども挙げられるでしょう。またロザリアによる生まれ変わりが過ぎれば人は蛆に成り果ててしまうようですが、恐らく「生まれ変わり」とは、こういった人間性が持つ変態能力を利用した現象だったのだと思われます。そして人間の変態性は虫だけに留まりません。シースの手によってスキュラや獅子族にさせられたり、アン・ディールの館ではサイクロプスなどに改造されていましたが、それも人間という種のみが持つ変態性に着目した結果なのでしょう。それもまた人間性、という訳です。

肝心なところなのですが、人間性が虫に変わるという設定は『3』で後付けされたものではありません。『1』にもその片鱗は存在しています。

火防女の魂
火防女とは篝火の化身であり 捧げられた人間性の憑代である
その魂は、無数の人間性に食い荒らされ 不死の宝、エスト瓶の力を高めるという
火防女の魂(混沌の娘)
火防女の魂は人間性の憑代であり それは彼女たちの体においても変わらない
あらゆる皮膚の下に無数の人間性が蠢き その姿は、大抵おぞましいものとなる
彼女においてそれは、無数のたまごとして現れた
あのたまごはすべて、人間性の揺り篭なのだ

混沌の娘とは、皆が人間性を捧げた蜘蛛姫様のこと。彼女が抱えるたまごは、曰く「人間性の揺り篭」だそうで、そして彼女を信奉する「卵背負い」たちは、同様の卵を文字通り背負っています。彼らを殺害することで、卵は割れ、中からはおぞましいウジ虫たちが這い出してきました……という訳で、つまりこの頃から、実態を与えられた人間性は虫に成り得るのだという性質が示されていたのですね。

蛆
頭はキツイ

人間性の、蛆への変態

また、もう一方の「火防女の魂」に記載されているように、人間性とはかねてより魂に惹かれ喰らいつく性質を持っていました。「追うものたち」などが追尾性能を持っているのも、デュナシャンドラたち闇の子が火を渇望してやまないのも、理性を無くした亡者たちが人を襲うのも、そも「闇」というものが持つ「火」への憧憬に根差したものです。人間が生来持っている、炎に向かう蛾のような本能。そんな人間性が形を成したものだからこそ、「おぞみ」は虫の形をしているのではないでしょうか。

『1』 の OP より
「やがて火は消え、暗闇だけが残る」

しかし火無き後に人が司るはずだった闇の力は、今や「おぞみ」となって人に牙を剥くようになりました。「深みの貴石」にあるように、あまりに深い闇には人智など及ばず、ましてや祈りも届かない。闇派生の武器とは異なり、深み派生の武器が信仰を反映しないのはそのためです。つまり人の本質であったはずの人間性は、虫(おぞみ)となったのち、しかし人の意志を反映しなくなってしまった訳です。

ですが変質しようとも、元は人間性。それはやはり、人に宿ろうとする。しかしそれはもう、「人間性」ではないのです。かつて人間性であり、今や人間性とは呼べない虫が人に宿った結果が、深みの聖堂のこいつらでした。

蝕み
蘇る死体
蘇る死体蛆

お前ら……変わっちまったな

これが「深み」なんです。闇よりもなお深い場所で、かつての人と人間性の関係は存続できなくなってしまった。こうした先にこそ、「深海」は存在するのでしょう。

カアスが望んだ闇の時代とは、あくまで火継ぎ初期だからこそ成しえた理想でした。しかし火は永く続き過ぎた。幾度の継ぎ火によって火は弱まり、火の無い灰という不自然な不死まで生まれ、そして火が持つ闇への誘因性も弱まるにつれ、人間性は自重に耐えきれず深みへと沈んでいってしまいます。つまり不死を不死たらしめる「闇」が人の手から遠ざかったことで、待望していた火無き世界には肝心の不死ではなく、蛆に塗れた死体しか存在できない。そんな未来を予見したカアスは、火の簒奪に乗り出したのではないでしょうか。これだけ書くと、仕方なく本来の目的から妥協したように思えてしまうのですが、そもそも闇は火を求めて止まないもの。封を解除すべく火の抹消が必要だったというだけで、或いは火を手放す道よりも、自然な流れに乗ったとも言えるのです。

一方でエルドリッチは、深みの蠢きにこそ未来を見ました。生き物としての性質を獲得したとはいえ、おぞみとは元より「ダークソウル」の欠片です。つまり火が消えた先の世界において、ソウルの神秘はもうそこからしか発生し得ない。「深海」の時代では、火ではなく、深みに潜む虫から力を取りだすしかないのです。

それは望むところではないと見るや、不要としていた火の簒奪に乗り換えたロンドールとは異なり、エルドリッチはおぞみとなった闇のソウルに適応する道を選びました。エルドリッチと戦った、アノール・ロンドの大聖堂。よく見ればそこは、夥しい、蛆のような虫に塗れています。玉座に戻した彼の頭部もまた同じです。彼は人喰いを繰り返して力を得たようですが、その実、人喰いそれ自体は本義ではなく、おそらく取り込み続けた人間性が彼の中で「虫」へと変態し、結果そこから力を得たことで薪の王に上り詰めたのでしょうね。

エルドリッチの薪
エルドリッチの寄生虫

おぞみに適応したが故、深みの聖者なり

そしてエルドリッチ亡き後、彼の先見は的中します。「瞳」を得た火防女と灰の英雄は共謀し、永く続いた火の時代を終わらせることになるのです。「火継ぎの終わり」と呼ばれたエンディングこそ、あの世界のトゥルーエンド。「次」へと続く道行になります。深海の時代の始まりです。

そこから先、世界がどのような歴史を辿ったのかは分かりません。火が消えたといっても、灰の世界へ回帰する訳ではなく、ただ「ソウル」と呼ばれる力が喪失していくことになります。神々は絶え、神話は忘れ去られ、神秘を取りだす術を持たない人間は、我々がよく知る歴史を辿っていったのではないでしょうか。しかし極々稀に、古い時代の名残か、はたまた偶然か、暗い水底へと触れた者たちがいたようです。人の澱みを取り込み、人ならざる叡智と力を手にした、神のいない世界で神に近しい存在となったものたち。後世、人々は彼らのことをこう呼び表すことになります。「上位者」と。

世界の枷

そして時計塔を抜け、狩人は漁村へと到達しました。その最奥にて見えたるは、上位者ゴース……の遺体。そこには大量の寄生虫が蠢いています。

ゴース
ゴースの寄生虫

ゴースと寄生虫

そしてこの虫、「ゴースの寄生虫」には奇妙な特性が備わっており、「苗床」のカレルを刻んだ狩人と合わさることで尋常ならざる宇宙悪夢的神秘が発揮される様から、以前ある仮説を立てました。「虫」が精霊に刺激を与え力を引き出すのなら、それ自体が巨大な精霊の苗床と言える上位者は、この特別な「虫」から力を得ているのではないか。そしてその真実の露見こそ、 DLC 最後のボスである「ゴースの遺子」が寄生虫を遺したことの意味ではないか、と。では必然命題としなければならないのは、この奇妙な「虫」の正体でしょう。ということでヴァルトールさん、お願いします。

「ああ、一点忠告しておこう。連盟のカレルを刻む者は、その誓いにより『虫』を見出す」

「それは、汚物の内に隠れ轟く、人の淀みの根源」

人の澱み
人の淀み

「澱み」と「淀み」

「人の淀み」の根源。そう、「人の澱み」です

答えは示されていました。獣の病、上位者、そして探求の名のもと容易に人道を外れる異常者たち、それら総じて「人の淀み」。その根源こそ、かつて火の時代に「人間性」と呼ばれた黒い精であり、後の世に唯一残るソウルの力。神話以前、遥か遠き灰の時代に、誰も知らぬ小人が見出した「ダークソウル(暗い魂)」は、今を以て尚、深みより世界を蝕んでいたのでした。

人の澱み
それはどんな深みにも沈み 故にいつか、世界の枷になるという。
This is Dark Souls

ダークソウルの始まり

『Bloodborne』は、『DARKSOULS』の「その後」なのです。

一旦のまとめ

続きます

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