マリア様のお庭に集う憐れな患者たちが、今日も長い手足を振り回して迫ってくる。もう何も分からなくなった頭部を満たすのは、深い海の水。湿った音を聞き逃さないように、脳液を啜る時は音を立てないように、ゆっくりと狂うのがここでのたしなみ。悪夢の中の実験棟。教会の秘した拝領の園。
はい。では参りましょう。
闇と深淵と深み。これらについては何度も同じことを書いているので、以下に要点のみまとめました。
闇
- 「人間性」と深い関わりがあるらしい。 或いは同じもの。
- 「闇の貴石」により変質強化した武器は信仰補正を持つ。この事実と聖職者が多くの人間性を溜め込んでいたことは無関係ではなさそう。
- 人間性はアイテム発見率に直結する。 同じく発見率に関わる 「運」 は、曰く 「人間の本質的な力」。 人の本質、即ち「人間性」である。
- 闇の魔術に見られる特徴として、「生命を追い」、そして「重い」。人の内にある最も重いものだという「人の澱み」とは、つまり人間性そのものか、近しいものと読める。
深淵
- 深淵もまた闇である。
- ただしウーラシール民がそうであったように 深淵の闇は人間性の闇すらも暴走させる。「よりおっかない闇」と言える。
深み
- 深みもまた闇である。
- しかし深み派生した武器からは能力補正が消失する。曰く 「人智の届かぬ暗闇」 であるそれは、同じ闇でありながら人の闇すら暴走させる深淵の在り方に通じる。
- 「深みのソウル」とは深みに沈み溜まったソウルだという。大主教マクダネルは聖堂に澱む暗いソウルを「世界の底」と称した。推測するに、深みとは特定の場所や深度を指すというより暗いソウルが澱んだ場所を「深み」と呼ぶのではないか。つまり暗いソウルが澱んでいる、その事象そのものが深みを深み足らしめていると言える。
- 「人の澱み」がその重さ故にどんな深みにも沈むのなら深みのソウルとは「濃く溜まった人の澱み(≒人間性)」と言い換えられるかもしれない。仮に深みと深淵が同質の存在だと解釈するなら、人間性が濃く溜まった場所は「深淵」化する。
- 転じて人間を多く喰らい、人間性を多量に溜め込んだ者がいるとすればその者の肉体はそれ自体が「深み(深淵)」と化していると考えていいかもしれない。
- おぞましい人喰いで知られるエルドリッチ。またの名を「深みの聖者」と言った。
以上を更に要約するなら、「闇」を集めて色濃くすれば「より暗い闇」となり、それは一層危険な性質を持ち始める、そんな感じ。しかし闇だろうが暗闇(深淵)だろうが、ソウルはソウル。その根本的な性質が変わることは、どうやらありません。闇(人間性)が通常のソウルと共に、死亡時に落とした血痕から回収できたように、奴隷騎士ゲールの血に暗い魂が宿ったように、ソウルとは血に溶ける性質を持ちます。
ならば輸血ができるはず。
血を介し、ソウルとは本来の主でないものへと宿ります。例えソウルを操る業が失われようとも、それが血に溶け、いつまでも残り続けるのなら。医療の力でそれはきっと蘇る。深淵とは「血液感染(ブラッドボーン)」するのです。
と、以降こういった発想のもとに記事は進んでいきます。お楽しみください。
昔々、死を重ねた亡者は人間性を取り込むことで理性を保ちました。人の血が人間性を宿すなら、人が人血を舐めて気の乱れを鎮めるのはその名残でしょう。
- 鎮静剤
- 神秘の研究者にとって、気の狂いはありふれた症状であり 濃厚な人血の類は、そうした気の乱れを鎮めてくれる
- それはやがて、血の医療へと繋がる萌芽であった
血の医療とは端的に、「ソウル(遺志)を輸血する行為」でした。必然、血に宿るものが深い暗闇であるなら、それを輸血された人間はその本質を侵されることになる。同じく深淵により人間性を暴走させたウーラシール市民のように。深淵を浴びたアルトリウスや暗い魂を取り込んだゲール爺が共に獣のような暴走状態にあったのは(もっともアルトリウスは人間ではありませんでしたが)、闇より暗い闇がそれを宿した者に与える独特の凶暴性なのでしょう。「獣性」です。
加えて聖職者の獣の大きな特徴である「ネジくれた角」と「肥大した左腕」。これらはそのまま深淵の主マヌスの特徴と合致します。ヤーナムという場所はウーラシールの再来なんです。
深淵の宿主たち
経路が血であるか否かを問わず、暗いソウルとは存在する場所を「深み(深淵)」へと変えてしまう。従って起きる現象もまた似通うわけですね。
火の時代が終わろうとも、暗闇だけは残り続ける。火を由来とするソウルは消え失せ、闇はその重さ故に沈み、深く暗い場所でドロドロと澱むのでしょう。エルドリッチの予見した「深海」とはまさしくこのことだったのだと思います。ならば我々はその脅威にじっとただ耐え続けなければならないのでしょうか。いやそうではありません。深淵がこちらを覗くなら、人の側より深淵へと睨みを利かせる者たちもまた健在であるはず。
深淵の監視者。深みが形を変えて現れ続けるなら、抗する者もまた形や立場を変えて現れ続ける道理。
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かつて日ノ本に現れた深淵と監視者については過去に書きました。ではヤーナムにもまた、深淵に抗する者は存在したのでしょうか。以上が今回のお題となります。
監視者の起源とは狼騎士に行き着きます。古い時代、強大なる深淵の主に敗れた彼の深淵狩りは、とある不死が継承する形で達成されました。
後年、狼血によって監視者を継ぐ者たちが現れましたが、深淵に抗する者とは血によってのみ活動するものではなく、恐らく深淵の到来と共に自然発生的に「生じる」と考えるべきなのかもしれません。そしてそれは、奇妙なことに「狼」と関連する形で。最初の監視者が狼の騎士であったことからしてそうですし、思えば深淵の竜とやらを仇敵としたミルウッドたちの傍らにも狼はいました。
すべては最初の監視者たるアルトリウスが「狼」の名を冠し、シフという狼と共にあったことに由来するのか、或いは深淵に抗する者とは、最初から「そういうもの」なのでしょうか。
憶測ですが、深淵によって穢された者が獣性を得るなら、そこに抗するための理性の象徴のようなものを狼という獣は担っていたのかもしれません。世界から闇が切り離せないものであるが故に、世界はそれに抗するための気高さを、強靭な意志を、狼という形へと結ぶのでしょうか。
- 狼の指輪
- グウィン王の四騎士に与えられた特別な指輪
- 狼の指輪は「深淵歩き」アルトリウスのもの
- アルトリウスは、強靭な意志により決して怯まず 大剣を振るえば、まさに無双であったという
さて、深淵に抗する者の後継とは、運命の悪戯か、「狼」に関わる形で現れると前述しました。分かりやすいところで、それは「狼」の名を持って現れることがあるようです。
古都ヤーナム、旧市街。血の医療が深淵に纏わるものなら、旧市街とはそれによって沈み、焼き払われた経緯を持ちます。「灰狼」名を持つ装束に身を包んだ古狩人デュラとは、そんな旧市街の守り人でした。
古狩人デュラ
彼は今や獣と化した生存者を守る者の一人。一見して主人公にとっての敵のようですが、しかし獣を人と見るなら、彼は最後まで人の味方だったのでしょう。
狩人もまた血の医療によって生まれたのなら、その体には深淵を宿します。それでいて彼は狼のような意志でそれをねじ伏せ、確固たる思想のもとに人の側に立っている。
深淵が時代を経て形を変えるなら、それと戦う者も在り方や戦法を変える。狩りばかりが深淵と戦う方法ではないのだと。
- 灰狼の帽子
- 古狩人デュラの狩装束
- ささくれた狼の帽子は、特に象徴的に知られていた
- 工房の異端「火薬庫」との交わりで知られるデュラは ごく優しく、そして愚かな男だった
- 故に旧市街の惨状に絶望し、狩人であることを止めたのだ
まずは一人、灰狼の古狩人デュラ。狼の名を継ぐ監視者でした。
そしてもう一人。もう一つの深淵について。本題になります。
監視者は血に関係なく生じるとは言いましたが、血の医療が深淵を宿す業なら、古狩人デュラも、やはり血によって生まれたとは言えるかもしれません。そう、血です。監視者が深淵に対し自然発生する存在とは言いつつも、やはりその存在は何よりも血によって色濃く受け継がれるものでしょう。「遺志(ソウル)は血に宿る」からです。ならばファランの不死隊とはアルトリウスの正統な後継と言えました。
- 狼騎士の大剣
- ファランの狼血の主 深淵の闇に汚れた騎士の大剣
- 狼の騎士は、最初の深淵の監視者であり その剣もまた闇の眷属に大きな威力を発揮する
- 王の薪
- 血を分け誓った深淵の監視者たちの王の資格は、その狼血にこそあった。
狼血――アルトリウスの血を分け合い、その遺志を継承した彼らこそ、正統な監視者として相応しい。しかし、いえだからこそ、初代がそうであったように不死隊もまた斃れました。運命とは繰り返し再演されるものだから。
- 狼騎士の〇〇
- 深淵の闇に汚れた騎士の〇〇
- かつて騎士は終に倒れ、使命と狼血を残した
- それはファランの不死隊のはじまりであり 監視者たちはその甲冑に、自らの最期を見る
ならば不死隊の後継は? もはや狼の血は絶え、正統なる監視者は現れないのでしょうか。希望はないのでしょうか。
と、不穏な方向へと話を続けるまえに、不死隊周辺の出来事にもう少し注視してみましょう。
狼憑き
画像の敵は「狼憑き」と言います。生贄の道などにいる敵ですが、恐らく不死隊のなりそこないです。狼血とは王の資格を宿した血であると共に、かつて深淵に汚された血でもあります。狼血がアルトリウスの死血であるなら、そこには火と深淵が同時に潜んでいる。血を介し深淵を取り込んだ者の末路は、すなわち人間性の暴走、獣性の発露です。「狼憑き」とは、自らの狼(獣性)を律することができなかった「失敗作」なんですね。
お気づきでしょうか。狼血の継承とは、ある種の血の医療であることに。不死隊と狼憑きの関係は、そのままやがてヤーナムで引き起こされる狩人と獣化者の誕生、その先駆けであるわけです。
監視者と狩人
だからかねてより指摘されていた通り、不死隊の外形は狩人の装束を彷彿とさせます(古狩人の装束などはもっと似ている)。「起源」であることを示すためだと思っています。後世の人間が火の時代のことを知るはずもなく、しかし運命というものは形を変えて再演される。従って本質を共有するものは自ずと外形を似通わせるんです。
血の医療は深淵を輸血する業。だから深淵に纏わる出来事を引き寄せるというお話です。その仮説に則るなら、旧市街よりも更におぞましい場所がありました。
狩人の悪夢には実験棟と呼ばれる区画があります。推測するにこの場所は、先に続く漁村、その最奥で横たわるゴースの血を拝領し、それを患者に輸血していた。
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恐ろしいほど長いので上の記事は読まなくていいです。しかし過去にも書いてしまっているので省略しますが、当サイトでは上位者なる存在を深淵(深海)の生物だと考えています。だから実験棟の状況は、かつてウーラシールが古い人の墓を掘り起こしたことで深淵に沈んだ状況と、似るという点のみ主張させてください。ウーラシールも実験棟も、共に「死体漁り」の結果なんです。
特にこの実験棟は凄惨です。奇声を上げ、腕が長く、頭部の膨れ上がった敵が襲い掛かってくる状況などと合わせ、しかも「肥大した頭部」が手に入る。なんともあからさまに「ウーラシール的」です。
頭カラッポの方が 夢詰め込める
- 肥大した頭部(ウーラシール)
- 深淵の主マヌスの闇に飲まれ 人間性を暴走させたウーラシール民の頭部
- 大きく肥大し、ギザギザとささくれており その間に無数の赤い眼球状の瘤がある
- 表面は硬質だが、中は乾かぬ体液で湿り 正気であればこれをかぶろうとは思うまい
- 肥大した頭部(実験棟)
- 聖堂の患者、その肥大した頭部の1つ
- その内に、丁度人が被れるほどの空洞があるが 正気であればこれを被ろうとは思うまい
- だが耳をすませば。湿った音が聞こえる気がする しとり、しとり。水の底からゆっくりと、滴るように
もしも深淵とその監視者が切り離せない関係性なのだとして、それ故、旧市街にデュラが立ったのだとすれば。より深淵(ウーラシール)らしい実験棟には当然、より監視者らしい者が存在していたと信じるのが人情というもの。
ところで以下の装飾は何に見えるでしょうか。
どうだろう、見えるだろうか
結論ありきの憶測で申し訳ないのですが、個人的には狼に見えます。
かつてビルゲンワースから裏切り者が出ました。カインハースト、後に血族と称される彼らの存在は、医療教会にとって禁忌とされ、長らく対立してきたといいます。その理由はカインがかつてビルゲンワースから盗み出したという「禁断の血」にありました。上記したカインハーストの紋章が狼であるなら、それは禁断の血の正体に由来するもの、そう考えてみます。ただ一言「禁断」とされたこの血は、果たして何だったのか。
いや、もったいつけました。禁断の血の正体とは狼血、アルトリウスの血だったと思っています。であれば狼血の後継、 実験棟の監視者に当てはまる人物は一人しかいない。
時計塔のマリア
時計塔のマリア。彼女こそが、正しく狼の血を受け継いだ監視者でした。
時計塔のマリアとファランの不死隊
なぜカインの女王の血は熱く、マリアの血は燃えるのか。それは狼血に宿る王の資格であり、不死隊が振るった英雄の残り火だったのではないのか。
一方で医療に用いられた血が、どれも深淵に由来するのなら、あれらは闇そのままの性質を抱えていることになります。つまり「火を求める」という根源的な欲求です。なぜオドン教会においてアリアンナのみが赤子を宿したのか。なぜ偽ヨセフカは体内に瞳の蠢きを得たのか。月の魔物がマリアの子であったという憶測が正しいとして、なぜ彼女はそれを宿すに至ったのか。前述した女性たちは、全員がカインハースト(狼)の血を引いていると推測されます。深淵は、血に宿る火、つまり王のソウルを求め、欲求のまま交わろうとした。赤子とはその結果なんです。
血に宿るもの
もう一点、当時思った事として、ファラン不死隊はなぜ二刀なのかという疑問がありました。狼の動きと言えばそれっぽいですが、当のアルトリウスからはかけ離れています。皮肉にも不死隊を脱退したホークウッドの方がむしろ原型に近い。
不死隊との二回戦め、彼らは分け合った血を一点に集中させ、ただ一人が薪の王となった後に一刀へと切り替えます。狼血は分かたれたことでその効力も分散し、狼の剣技とはつまり「アルトリウスに肉薄するための工夫」だったのか、或いは彼らなりの改良だったのか、どちらにせよ本来のものではなかったのでしょう。そう読み解いた上でもう一つ、これはメタ読みになってしまうのですが、ファラン不死隊の二刀とは、マリアの二刀に寄せる意図があったと考えています。
運命は繰り返し再演される。だから不死隊の二刀もまた、その遺志と共に受け継がれ、やがてマリアの落葉として萌芽した、そう匂わせるために。そういう意味では、マリアとはアルトリウスというよりも不死隊の後継と呼ぶ方が適格かもしれません。
マリアとは未だ謎が多い女性です。人形の由来と思わしき事、血の女王の傍流であること、時計塔にいつの間にか住み着いていたことなど、断片的な情報と仄めかししか開示されていません。しかし禁断の血が狼血であったと仮定すれば、少なくとも彼女がなぜ時計塔で我々の前に立ち塞がったのかという点についてのみ推測が可能になります。
マリアは傍系とはいえ、血の女王に連なる者でした。しかしそれでいながら、その血の力を嫌っていた。だから自らそれを封じ、狩人としての技量のみを追求していたようです。
- 落葉
- 血の力ではなく、高い技量をこそ要求する名刀である
- マリアもまた、「落葉」のそうした性質を好み 女王の傍系でありながら、血刃を厭ったという
- だが彼女は、ある時、愛する「落葉」を捨てた 暗い井戸に、ただ心弱きが故に
しかし最後にはそれを井戸底に捨てたのだと。
監視者、つまり深淵に抗する者の末路は深淵に沈むと相場が決まっています。哀しいことですが、アルトリウスも不死隊もそうでした。深淵を宿しながら深淵に抗する者の、哀しい定めなのでしょうか。深淵を覗く者は常に深淵からも見つめ返されている。
「マリア」という女性が漁村や実験棟とどう関わるかは、結局のところ不明です。しかしテキストを読むに、彼女にとって落葉が自らの人間性を証明するものだったとして、それを捨てたというのは、彼女自身が忌避していた「血族としての自分」を終には受け入れてしまったことを意味します。深淵に抗する物が、最後には深淵に落ちるように。恐らくここを分岐点として、「マリア」は何らかの変事を受け入れている。
- マリアの〇〇
- ゲールマンに師事した最初の狩人たち
- その1人、女狩人マリアの〇〇
- カインハーストの意匠が見てとれる
- 不死の女王、その傍系にあたる彼女は だがゲールマンを慕った。
- 好奇の狂熱も知らぬままに
深淵は火を求め、交わりを欲する。赤子がその結果であるなら、ゲールマンがマリアに抱いたという「好奇」とは、恐らくその点に関すると見ています。慕う者が欲した、上位者との血の交わりが、自身が厭った「血」によってのみ達成されると知った彼女は、それを受け入れるしかなかった。そういう読み解きが一つあっても面白いでしょう。そして彼女は落葉を捨てたのです。
その後、もし「マリア」が月の魔物を生み、入れ替わりに狩人の夢の人形が動き出したとするなら、「マリア」とは既に故人であることが推測できます。従って「時計塔のマリア」とは「マリア」本人ではない。そして「時計塔のマリア」の手には、落葉が握られていました。
- ローレンスの頭蓋
- 医療教会、初代教区長たるローレンスの頭蓋
- だが現実には、彼は初めての聖職者の獣であり 人の頭蓋は悪夢の中にしか存在しない
- それは、終に守れなかった過去の誓いであり 故にローレンスはこれを求めるだろう
- 追憶が、戻るはずもないのだけれど
悪夢とは既に失われたもの、或いは存在すらしないものが顕れる場所でした。ローレンスの頭蓋がそうであったように、獣化した者の「人としての死」、尊厳のようなものが、存在しないはずの頭蓋として形作られたのでしょう。
故に理想の自分、こうあるべきだった姿、 心弱き故に選べなかった道は、きっと「マリア」亡き後、「落葉を手放さなかった自分」として夢の中で像を結んだわけです。たとえ戦いの中で血刃を振るおうとも、その芯には片時も離さなかった二振りの愛刀がある。故にこそ、その刃は最後には火を纏ったのでしょうか。
そして「時計塔のマリア」は、血の医療に穢された患者たちの支えとなり、漁村へ至る道の前に立ち塞がりました。もう誰もそこに辿り着けないように。もう誰にも深淵を漁らせない為に。「時計塔のマリア」がそれを叶えているということは、裏を返せばどちらも生前の「マリア」には選べなかった、しかし選びたかった道だったのだと思います。
そしてその在り方とは、獣の病に沈んだ地で狩人の行く手を阻み、異形と化した人々を守ろうとした姿として、古狩人デュラと重なるものです。
時計塔のマリア。悪夢の中で、深淵への道を塞ぐ狩人。狼の血を継ぐ監視者でした。
最後に一つだけいいスか。なぜ「時計塔(Astral Clocktower)」だったのか。もしかすると監視者 (ウォッチャー) が住まう場所として時計 (ウォッチ) 塔が選ばれたのではないか……などと意味不明の供述をしており……。