私感ですが、本作を評する声の多くに「フロムゲーにしては分かりやすい」と言ったものがあります。なんですかそれは……まるでフロム・ソフトウェアの制作するゲームがどれも難解みたいではありませんか。確かにな。
過去作と比べて説明が多く丁寧という傾向があるようですが、何よりも主人公の姿勢が大きい。不死や狩人と大きく異なる点として、狼には人格があります。完璧に「プレイヤーそのもの」ではない。それ故に彼自身が「物語」の解釈へと能動的に取り組んでくれるように思えるのです。
なので必要ないかもしれませんが、一応「『隻狼』とはこんな話だった」というのを手短にやります。ただそんな単純な作業ですら「解釈違い」や「言葉のチョイスミス」は起こると思うので、もし勘違いなどしているように思えたら申し訳ございません。本作は二部構成でした。
まず舞台となる葦名についてをさらりと流し、狼という忍びが生まれ、主を得るまでが冒頭で説明されるのですが、しかし彼は主も育ての義父も失った事実を抱き合わせで教えられます。そして失意の狼が三年放置された後、一通の手紙から奮起し主の元へ駆けつけるというのが本作の開始地点。そして主である九朗と共に葦名を逃げ出そうとした矢先、弦一郎に敗れ、狼は左腕を切断、再び主を失うのでした。三年前、そしてその三年後。長いプロローグを経て、遂に「隻腕の狼」は誕生します。もしかすればこの「二度の敗北」こそが「SHADOWS DIE TWICE」の真意なのかもしれません。
さて、失い、取り戻したと思えば更に失うというクズ底のようなスタートを切った『隻狼』。狼は忍び義手を装着し、敵地葦名城へと駆けます。こうして書くとスピード感ありますが、正確には道中で赤い目をした外国人のおっさんにドロップキックをかまされたりでかい蛇に睨まれたりスタイリッシュなおばあちゃんにボコボコにされたりマイネームイズギョウブマサタカオニワだったりしているので初見の道中は非常に長く感じたのではないでしょうか。
狼は義手の他に手に入れた力がありました。「回生」。主である九朗が持つ竜胤の力、それがもたらす「死んでも蘇る能力」です。狼は折れぬ心で死なぬ体を操り、遂には葦名城天守にて弦一郎を撃破。主の奪還は果たされるのですが……。
斬ったはずの弦一郎が立ち上がります。薬師エマ曰く彼は「変若水、その澱を飲んだ」そうです。高めの栄養ドリンクのようなものでしょうか。ともかく狼と弦一郎、これで一勝一敗。奪われたとは言え、それを奪い返したことで新たな復讐が生まれた瞬間でした。如何なる異端を用いても葦名を守ってみせる。再戦の予感を残し弦一郎は姿を消すのでした。ここまでが本作の前半部です。
再会した九朗は言います。「不死断ちを行いたい」と。回生の力、変若水、残業代の未払い、人の世にあってはならない不死の淀みは、元を辿れば全て竜胤に行き着くのだそうです。故にその元を断たねばならない。本来であれば直ちに葦名を逃れ主の安全を確保しなければならないのが忍びの掟。しかし……。かくして狼は主の命に従い、不死断ちの鍵となる仙郷を目指す事になります。
という事でここから仙境に至る為のお使いクエストが始まります。不死を斬る刀、変若の澱に咲く花、源の水を飲んだ者の中へ稀に宿るという石、かつて手折られどこぞへと消えた常桜の枝。とは言っても、探索大好きのプレイヤーであれば、もしかすればここに至るまでで大体のアイテムは揃えてしまっているかもしれません。山を登って谷へ落ち、水生に慄き帰ってくれば、竜胤に魅入られた義父が出迎え、何やかんやで全ての素材が揃いました。
全て源と繋がる素材に御子の血を加えた事で立ち上る香気。これを纏うものに仙境への扉が開かれます。水生の岩戸の奥で汎用藁人形型決戦兵器に捉えられ、忍びは葦名を巡る全ての源、その宮へと辿り着きました。軟体貴族の目を盗み、ぬしの顎を掻い潜り、かくて源の宮、その最奥。「仙郷」にて隻腕の狼は、隻腕の桜竜と邂逅することになります。それは古の葦名に降臨した神なる竜。およそ人の身で太刀打ち出来ぬ上位存在ですが、しかし相手は忍びで不死斬り。放つ一閃は避けられ、雷を返され、かくて「拝涙」は果たされます。この落涙こそ不死断ちのマストアイテムなり。主の命を完遂した狼は御子の元へと帰るのですが……。
今や葦名は内府により攻め落とされようとしていました。この瀬戸際にあって弦一郎は、竜胤を始めとした異端の力を求めたのです。御子は再び弦一郎の元へ。この別離を三度めとしない為に、狼は因縁のすすき草原へ。物語はいよいよ終焉を迎え、故に始まりの場所へ還ります。狼と弦一郎、死守すべきものを持つ二人の、最後の剣戟。征したのは、忍び。敗北した弦一郎は、しかしまだカードを伏せていました。葦名とは元より葦名衆と呼ばれた異端の民のもの。それはいつしか奪われ、しかし若き一心が取り戻した。それを国盗りと呼ぶのならば、今こそ、今一度の国盗りを。竜胤の血と、もう一振りの不死斬りを用い、そして自らの命を生贄として、剣聖・葦名一心、その全盛の姿が場に特殊召喚されるのでした。
かつて葦名を手に入れ、葦名そのものであった剣聖は、それ故に自国の死期を悟っていました。天狗として暗躍し鼠狩りを行ってはいたものの、本格的に外圧を跳ね除けようという意志は無かったように思えます。しかし今は違う。憐れな孫の、最後の願い。既に死した葦名を黄泉から返す為に、一心は孫を苗床に孵ったのです。なればこそ今や剣聖は狼にとって最大の敵に他なりません。こうした死人返りこそ、主が憎んだ淀みそのもの。不死を断つことこそが主の命であり、それを完遂する事こそ、自身が定めた掟であるが故に。例えその果てに待つものが、永い別離であろうとも。
必要なもの : 「桜竜の涙」
神なる竜、桜竜より頂戴した涙を御子に与えます。残るは不死断ち、その仕上げのみ。狼の刃が御子に狙いを定めます。絶対たる親の「主を捨てよ」との命に逆らい、主の悲願たる不死断ちを為す。しかしその先に待つものは、他ならぬ主の命を断つことでした。
……そうして、今度こそ全てを失った隻腕の男は、荒れ寺にて木像を掘り続けます。それはやはり、怒り顔の仏なのでしょうか。ただ黙々と掘り続ける彼に、エマはあるものを差し出しました。忍び義手。捨てたはずの忍びの証明。この荒れ寺は、かつて忍びであった者がそれを捨て、仏を掘り続ける場所。故にいつかまた、新しい忍びが流れ着くこともあるのでしょう。新しい「隻腕の忍び」が。
必要なもの : 「桜竜の涙」「常桜の花」
為すべきことを為す。その信念により、自らの義父すらも討った狼。己が忍びがそう生きたように、自分もそうありたい。御子は不死断ちの果て、例えそこに自らの命が無くとも人の世の淀みを正すと決めたのでした。
その決意を、狼は知っていました。不死の悲劇と共に主の命を断たなければならない事も。為すべきことを為す。主の想いを受け、だからこそ狼は竜の涙の他、「常桜の花」を御子へ与えます。竜胤は断つ。だが主に人としての生を全うして欲しい。これはその為に必要なこと。加えてもう一つ、不死の契約が主を縛るというならば、ここに一人、斬らねばならぬ不死がいる。狼は自らの首筋に刃をあてがい、そして。
墓へと参るものがいました。エマと九朗です。エマは言います。「行かれるのですね」と。九朗は頷きます。今や竜胤の御子でない自分の為すべきこと。ただ懸命に生き、死ぬ。己が忍びがそうしたように。エマの視線の先で、後ろ姿が小さくなっていくのでした。
必要なもの : 「桜竜の涙」「氷涙」
御子か忍びか、どちらかが死する不死断ちにはもう一つの道がありました。あってはならないものが、あってはならない場所にある事で淀みがもたらされるなら、それをあるべき場所に返せば良い。二つの蛇柿によって変化した変若の御子は、二つの涙によって変わった竜胤の御子を胎に収めます。
遠路になる。ならば御子の横には、忍びが付き従うのが道理でしょう。今や竜の忍びとなった、隻腕の狼が。そして三人は「西」へ。神なる竜の故郷への、長い旅が始まるのでした。
必要なもの : 特になし
忍びの掟、「親は絶対」。義父の命にて主を得たならば、その命にて主を捨てなければならない。忍びは、忍びであるが故に従い、止めようとするエマも一心も斬って捨てました。義父は大変喜びました。そして彼は燃える天守で宣言します。日ノ本中へ届かせるが如く、高らかに、己が真の名を。しかし終にそれは果たされず、梟は自らを殺す息子を見ました。最後に漏れたのは、ただの一言だけ。「修羅……!」
梟の断末魔の呻きを否定するのは、今や主ではなくなった竜胤の御子のみ。しかしその叫びも空しく、炎の中、修羅はもう一振りの不死斬りを握り締めます。そして忍び義手からは、赤い炎が漏れ出していました。怨嗟が、炎を呼んだのでしょうか。
こうして葦名は殺戮の地となります。残るものなど殆どいなかったそうです。曰く、この地には後々まで鬼が棲んだのだと。
取り合えずという形で更新させて頂きます。本当はこの後にエンディングについての考察なぞを軽くやろうと思ったのですが、また別項に回します。細かく砕かないと更新に時間がかかってしまう。しからば……ごめん!