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狼は二度死ぬ

こんにちは。『隻狼』の記事でございます。

早速ですが『SHADOWS DIE TWICE』というタイトルについて、宮崎社長はかく語っております。

宮崎
サブタイトルである『SHADOWS DIE TWICE』については、ティザートレーラーのキャッチコピーとして、私が考えたものなのですが、なぜかパブリッシャーの方々に気に入ってもらえたみたいで、いつの間にかサブタイトルになってました(笑)。とはいえ、もちろんこのワードに込めた意味はありますよ。『SHADOWS』は忍者の有り様の暗喩ですし、『DIE TWICE』は、本作のゲームシステムおよび世界観の特徴のひとつである“回生”を示す言葉です。また『DIE TWICE』は、今回もたくさん死にますよ、というユーザーさんへの物騒なメッセージも込められていますね。
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意味や意図に関してはこう仰っています。今回はこのタイトルに関する、ひょっとしたら存在したかもしれない「元ネタ」についての話をサッとして終わります。終わりますとも。

狼よ 我が血と共に 生きてくれ

『007』という有名な映画シリーズがありますね。そして多くの作品の内、『007 は二度死ぬ(You Only Live Twice)』というタイトルがあります。忍びをスパイとなぞらえれば(実際にこの映画には当たり前のように忍者も出てくる)、まさしくこの『007 は二度死ぬ(You Only Live Twice)』こそが『SHADOWS DIE TWICE』の元ネタなんじゃないか……ってだけでは、終わりませんよ。さすがにもうちょっとモノを考えて日々を生きたい。

さてこの『007 は二度死ぬ』ですが、ご存じの方には今更な話、日本が舞台だったりします。そしてこの「007 は二度死ぬ(You Only Live Twice)」というタイトルは、シリーズの原作となった小説の著者、イアン・フレミング氏が来日した際に詠んだ英文俳句が元ネタであるようです。

You only live twice: Once when you're born, And once when you look death in the face.

(人生は二度しか無い。生まれた時と死に直面した時と)

『007 は二度死ぬ』の原題は『You Only Live Twice』、即ち「二度だけの人生」となります。それを翻訳者の井上一夫氏が「二度死ぬ」と訳したそうで、そのまま邦題に採用されたと。

生きるということは死ぬことである。ならば人生に二度あるという生(死)の、片側しか知り得ない「死なず」は、逆説的に生を知り得ぬ存在である。『SHADOWS DIE TWICE』とは、実はそんな死なずたちに二度目の「生(死)」を与える事を示唆していた……などと解釈できるでしょうか。『隻狼』は人生。

そうした上で話を進めますが、上述したフレミング氏の英文俳句、これ自体にも原型、元ネタが存在します。かのグレートハイカー、松尾芭蕉が詠んだ名句です。フレミング氏はそれをベースとして上記の英文俳句を生み出したのだそうです。果たしてどのような句だったのか。引用させて頂きましょう。覚悟はいいですか。

命二つの 中に生きたる 桜かな

グレートハイカー

命二つの 中に生きたる 桜かな

いかがでしょう。この句自体の意味は芭蕉が旧友との再会を喜び詠ったものだそうで、そのような句を字面だけ追うような行為は申し訳なくもあるのですが、「命二つの 中に生きたる 桜かな」……まさしく回生の絵が脳裏に浮かびはしないでしょうか。というわけで、『SHADOWS DIE TWICE』の真なる元ネタは松尾芭蕉なのでした。……いや、知りませんよ、勿論、本当のところは。

ただ、少なくともこの芭蕉の一句を基に『007 は二度死ぬ(You Only Live Twice)』というタイトルは生まれました。そして芭蕉の詠を源流とし、生まれ続けるもの、その「時代」の流れの先、我々が知り得る最先端に存在するものが、もしかすれば『隻狼: SHADOWS DIE TWICE』だったのかもしれない。実際のところは宮崎社長にお聞きするしかありませんが、そのような薄っすらとしたイメージや元ネタがあったのだとするなら、歴史の妙味という奴を感じてしまいます。

それとも松尾芭蕉は『隻狼』を予見していたとでもいうのでしょうか。俳句ってすげー。

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