『ドラゴンボール Z 神と神』
- 凄かった。
- 正直、「ビルスってのは実は良い奴でウィスが新の黒幕とかそういうパターンなんだろ」みたいな「いつもの『ドラゴンボール』を久しぶりに見られる期待感」みたいなものを持ってたけど、上を行かれた。作ってる側がそれで満足してなかった。やられた。完敗だ。
- シリーズ化こみでの展開なんだろうけど、単体完結のつもりならそれは凄い。
- この映画を簡単に説明すると「悟空がインフレについていけなくなる映画」です。
- 良く言うじゃないですか。「何で段々と敵が強くなっていくの」と。「ピッコロ大魔王と闘ってる時に魔神ブウが襲ってきてもいいよね」と。はい、実現しました。
- 「段階を踏んで強くなる」っていうのは、個々のイベントは置いておいても「急激なパワーアップ」と対極だ。そこには「強くなっていく歴史」がある。「より強い敵を倒した」というのはこの歴史の積み重ねによって説得力が与えられており、裏を返せば、新たな敵の強さへの盤石となる。今回のビルス様はフリーザに対して超神水を飲んで立ち向かうくらいのレベル差があったし、本当だったら後何回かの「編」をこなしてから辿り着く超強敵だった。だからこそ「勝てる訳がなかった」し、「段階的に敵が強くなっていってくれる救済措置」、身も蓋もない言い方をすれば「主人候補生」を失った悟空がどうなるかという一つの末路が描かれたのが本作なのだ。その上であのオチである。そりゃ悟空も気が遠くなってしまう。
- これまでの『ドラゴンボール』でのパターンを踏襲した上で潰すというのは間違いなくやっていたと思う。「怒ってパワーアップ」とか。もう終わり、というところに遅れてやってくる悟空をホッとした笑顔で見つめるみんなとか。でもその悟空が負けてる事を観客は知っている。
- 補正を失ったと考えて穿ってみると、「オッス、オラ悟空」を最後まで言わせて貰えなかったシーンは何だか象徴的。普通に考えれば、 17 年ぶりの劇場であの代表的なあいさつをまともにさせないというのは中々凄い事だと思う……というのを踏まえたギャグだと思うけど。あれは面白かった。
- 「計り知れない潜在能力」という台詞でフォローはされてるものの、それでも「あの悟空」が「宇宙のどこかにいたそれなりに見込みのある奴の一人」くらいに扱われた。 17 年ぶりの新作でこれを描いたのは非情に意欲的。
- 戦闘力の上昇を描いてきた作品と言えるのに、「力が表面に現れるようじゃ駄目(戦闘力とかじゃないから)」と言わせたのも凄い。
- フリーザも宇宙最強とか言われてたじゃん、と思ったけど、まあ現実世界にしても喧嘩最強の不良の後ろにヤクザとか軍隊とかわらわらいる世の中だし、そういうものなのかもしれない。
- 食べ物が美味しそうで困った。
- 言うまでもなく本作の MVP はベジータ。
- 本作の敵が「神」というのは結構含むところがあると思っていて、元々そういう作風だというのは置いておいても客観的に見て Z 戦士達はろくなもんじゃないですよ。特に御飯、あいつね。銃弾を弾いてビーデルに怪我させるくだりとか笑えなかった。そして子供の遊びに見えていると言っても、子供が銃を突き付けて「殺す」と言う言葉を吐く様を見て怒れないのは大人として絶対におかしい。戦闘力が高く不死の世界を知ってしまったが故に倫理のたがが外れてしまったと言える。現に宇宙一強いビルスがあの光景を見て顔を顰めている訳だからね。そしてドラゴンボールの私物化ですよ。ビンゴの景品て。人間の生き死にを左右できるアイテムなのに。つまり本作ははそういう「冷静にみたらこいつらおかしい」という部分に神が天罰を与える構図になっている。だから個人では最強の御飯(まあ 4 年経ってるしこいつすぐ修行さぼるから分からないけど)も含めボッコボコにされるのは極めて道理なのだ。しかし、ベジータは違う。ベジータは家族を守るために道化を買って出た上に、攻撃されたブルマを見て激昂してみせた。登場人物の中でも最も愛に殉じた彼こそが、「神」に対して一矢報いる権限を獲得したと、あのパワーアップの意味はそういう事だと思う。しかも「ゴッド」になる際に悟空にベースの座を特にごねもせず譲ってるからね。「悔しいけどこいつならやってくれるだろう」という信頼に預けたのだ。プライドを超えて。戦闘民族サイヤ人として最も濃い血を持ってる癖に、戦闘よりも大事なものを見つけてしまったのだろう。
- 悟空もろくなもんじゃないと言えばそうなんだけど、フリーザ編においての「サイヤ人のプライドを分けてくれ」というシーンも含め、「ベジータに感化された悟空」というのは常に良い仕事をしてくれる。
- 分かってはいるんだけど、ビーデルのお腹に赤ちゃんがいると分かってから、「いつ胎児が殺されるんだろう」とかハラハラしてしまったのは、多分『ドラゴンボール』以外のものに触れすぎた所為。おとなになるってかなしいことなの。
- スーパーサイヤ人神になってからの戦いで一切街が壊れないのは素晴らしい。色々と配慮があったみたいだけど、結局ビルス様は破壊神なのに今作で生命は破壊してない
- スーパーサイヤ人ゴッドになってからの「こんなんでパワーアップか」感を悟空もちゃんと持っててくれて、観客と共有できたからこそ、ノーマル・スーパーサイヤ人に戻ってしまっても戦えてる様を観て、「なんだか知らないけど凄く嬉しい」ままにテンションも最高潮。挿入歌も熱い。
- よもや「子供の頃のドキドキ」以上のものを提供してくれるとは思わなかった。胸がパチパチする。
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