『劇場版 魔法少女まどかマギカ [新編]叛逆の物語』
あらすじ - 夢のような理想郷だと思ったら本当に夢だった。馬鹿野郎! 夢なんかで満足できるかッ!
- もやもやする映画だった。それは「この映画に対して文句がある」という意味でのもやもやではなく、エクセレントなものを目にしてそのエクセレントさを処理しきれていないという意味で、転じればこのもやもやは「敗北感」である。
- 白状すると、テレビ放送時、『まど☆マギ』をそれほど大したコンテンツだと思っていなかった。件の「3 話」をピークに後はそこまで引き込まれはしなかったのですよ。「良作だったなあ」というくらいの感じ。だから『叛逆』に関しても「そこそこ」を期待して観に行って、このザマですわ。あー、良いパンチもらっちまった。もやもやする。
- 冒頭は曲も相まって凄く雰囲気が良よかった。脚本も演出も曲も、『叛逆』は全てが高いレベルでバランス良く安定している。これが「世界観」というものなのだな。
- 胸にベベ抱いたマミさんが登場した時に首から上をカメラに映さないようにしていたのは歪んだファンサービスだと思います。笑ってしまった。
- OP は楽しそうでグッド。本作は OP も含めて、見返したいシークエンスで溢れかえっている。そういう部分ももやもやさせるんだ。
- ED もディモールト(非常に)ベネ。『叛逆』は曲を聴きたいという理由だけでもう一度観にいける。 OP で一人踊らなかったほむほむが、終わり際に一人で踊る。あそこの余韻は半端じゃない。『叛逆』の「壮絶なおとぎ話」のような感覚は、この余韻が大きいよなあ。うーむ、ちょっとこの感覚の作り方は凄すぎて手が出せない。
- 変身シーンとマジカルケーキのくだりはちょっと何ともいえない気持ちになった。ただここは趣味性の問題か。「5 人のありえない邂逅」に強い思い入れを抱く人たちが満足できるのであれば OK なのだろう。
- べべ可愛い。カマンベールカマンベール。こいつが選抜された理由はファンサービス以外の何でもないんだろうけど、可愛いからいいのですカマンベール。あぅあぅ。
- ところでべべは犯人としてミスリードされる役割も担っていた訳だけど、問題は犯人を当てた後の展開だと分かっていたから、一周回って本当にこいつが犯人だと、中盤までは少し疑っていた。もう何がなにやら。
- 時止めの攻略法が「接触」しかないから、マミさんがリボンを「絶」で消して巻き付けていた、というのは読めていたぜ!
- ここの戦闘シーンは圧巻。文句なしどころか悔しさすら感じた。よくぞ「静止した時間での戦闘」なんていうハードルのガン上がりしたものに手を出したものよ。
- TV 版で猛威を振るった分、ほむほむの時止めが容易く攻略されてしまうのは予定調和。やだ、さやかかっこいい。
- 「犯人」は……わたしだったァ−−探偵役だったのにィ〜〜。
- さやかの魔女スタンド発現は否応なく燃える。
- ティロ・フィナーレ(南斗列車砲)
- 苦労したんだ……このまままどかを引き裂かせて貰うぜ。
- この持っていき方がすげーんだ。何が凄いって、「ほむほむが魔女化」した後に決戦シークエンスが入って、まどかが迎えにきてハッピーエンド、という流れを予想「させた」事だと思う。ただバッドエンドってだけじゃ終わらないだろうから、逆転があるだろうと。ほむほむが救済されて終わり、というのは良い落としどころだろうなと思いながら観ていたから、ものの見事にカウンターを喰らってしまった。そして膝から崩れ落ちた。パンフレットのインタビューを読む限り、当初はここで終わらせるつもりだったらしいから当然なんだけど、ちゃんと物語としては纏まってるからね。だからその流れ自体をブラフとして作用させた当たり、これは「どんでん返し」として限りなく満点に近い正答だったと思う。『叛逆』とは予定調和への「叛逆」である。貴様はほむほむとの知恵比べに負けたのだ。
- ただ、ずるいと思わないでもなくて、最初からほむほむはそのつもりで自分を餌にしたのか、内面世界でまどかから「みんなと会えなくなるなんて嫌だ」という言葉を引き出した時に覚悟を決めたのか、或いは絶望して魔女になった事で狂ってしまったのか。或いは元々そういう事を企んではいたけど、 QB の横やりで諦めて、でも何とかなったから計画再開しまーすとなったのかがどうも分からなかった。何だか魔女化の際の絶望と悪魔化の際のテンションがちぐはぐに感じて少し戸惑った。後から頭の中で整理してみると、最後のが一番筋が通ってるかな。
- デヴィルほむらによるゴッドまどかへの叛逆。つくづくこの物語の主人公はほむほむなんだな。
- うむ。よく分からん。魔女結界と常世の境界が曖昧になっているっぽい描写だったけど、あの世界になってしまった事での不都合は存在するのだろうか。円環の理からまどかの人格を切除して手元に置いておく、というのがほむらの望みだとして、「まどかが望んだ新しい理」に何らかの歪みが存在していなければ、いずれほむらとまどかが対立するという予感を臭わせた意味が無くなる訳だけど、それがちょっと理解できなかった。
- まどかが自分の役割を思い出しかけて元に戻ろうとする当たり、「魔法少女として限界に達した個体をまどかが迎えに行く」というシステムが消え去ってしまっていて、やはり魔女が発現する世界に先祖帰りしているのだろうか。しかしほむらの「私は断片(まどか)を切り離しただけ」という発言に反するよな。ここら辺何がなんだかちょっと分からない。秩序を望んだまどかに叛逆した以上、その秩序を乱す何かが起こってはいる筈なんだけど、さて。
- 「幸せなまどかを手元に置いておく」を至上の目的とするなら、「まどかが幸せに感じる世界」でなければならないので、特に実害があるという訳でもないのかな。良く見るとところどころおかしいし、そのままにしておいても問題の無かった世界を再改変した理由が「まどかを取り戻す」という欲望に起因している以上、そんな改変は望んでいなかったまどかとの対立になりうる、と今は納得しておこう。
- しかしだ。真に悪い奴は悪い事をして悪い顔は、多分しない。愛故にまどかを普通の少女に堕天させた、世界を変えてしまった、そんな自分を「悪魔」と称し、わざわざ悪人面を作ってみせるほむほむは、その、何というか、かわいい。
- 全体を通して特に素晴らしいと感じたのは、マミさんに雁字搦めにされるほむほむや、ソウルジェムと肉体の有効距離設定や世界改変など、 TV 版を想起させる描写の積み立てによって本作が設計されていた事。「TV 版」の素材で「劇場版」を作り、かつそれが脚本にマッチングしていた。既存の要素で既存の先を提示してみせた。円環のように思えて、本質は螺旋。過去を踏まえて未来へ。受け継いだものは、さらに先に進めなければならない。そして本作はそれをやってのけた。
- 唯一「惜しい」と思ったのは、 TV 版よりは緩和されたようだけども、それでも言い回しが難解だった事か。どうも文章では理解できそうな事を耳で聞かされると頭に入らない、というのを喰らったような気がする。文脈で察する努力はしたけど。こういう事を書くと「お前が馬鹿なだけだろ」と言われるだろうし、実際その通りなんだけど、みんな理解できてたのか疑問だ。 TV シリーズを DVD で一気に観てみた事だし映画やってるみたいだし取りあえず観にきましたっていう人には良く分からなかったんじゃないだろうか。「良く分からなかったけど、ほむほむ悪い顔してたしバッドエンドなの?」くらいの感想しか抱けなかったのでは。 QB の言い回しが難解なのは仕方がないとしても、ほむほむくらいはもっと分かりやすい言葉で喋って欲しかった。分かりやすさが大切だ、と思う身としては。自分の行動原理を「愛」に要約するつもりがあったのなら、尚更。
- なんか素晴らしいとか言った割にちょいちょい dis っているような文章になったけど、首を傾げた部分なんざ所詮一部分で、やはり『叛逆』は素晴らしい作品だったのだ。これはもうお布施させて貰いまっせ。あーもやもやする。
- ちなみに続編はいらないと思います。あくまで受け手がそれを想像できるように、もしくは再改変後の世界でのスピンオフ、という意味での「余白」ならともかく、オフィシャルでの「その後」は不要かと。『叛逆』によって『まどか☆マギカ』が完結する、その事実が何よりも美しいのです。TV シリーズの一見して大団円に見える結末を、気にくわないという理由でぶち壊してみせた。シリーズ当初からの挑戦は実を結んだんですよ。ほむほむの努力は実を結んだんですよ。そっとしておいてあげたいじゃないですか。ほむほむは勝ったんだッ!!
- これを、仮にまどかが自分の宿命をほむらに納得させて世界を元に戻すとかの方向へ続いたら、それは「後退」であり「その後」ではない。まどかがほむらと一緒に世界を管理していく、という共存エンドでもダメだろう。「ダメ」は言い過ぎたけど、生半可なやり方じゃあ本作は超えられない。過ちも孤独も全て理解した上で、それら全てを「こんなもん、どうって事ねぇ」とまどかから引っぺがしたほむらの気高さこそが『叛逆』の美しさを支えているのだ。この「叛逆」を超えられるものがあるとすれば、それは更なる「叛逆」だけしかあり得ないでしょう。そんな事が可能なのかどうかは、ちょっと見当も付かない。
- 強いて言うなら「まどかを救うため」に「書き換えられてしまった」者達は、彼らなりに上位者へ申し上げたい一言がある筈で(そしてその身勝手さは「魔法少女を救うため」に世界を書き換えたまどかですら持ち合わせている)、そこに「再叛逆」の余地は存在する。しかし愛故に徹底して世界を私物化した悪魔に、どんな物言いが通じるというのだろうか。
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