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『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない』第 06 話「広瀬康一(エコーズ)」

小林玉美の「ザ・ロック」は相手のほんのちょっぴりの罪悪感すらも増幅し、生命力への重石とする。純粋に攻撃するタイプとは異なりその予兆を感じさせにくいという観点から言えば、この上なく強力無比と言って良いだろう。 DIO やアンジェロなどの真正極悪人は例外として、良心の呵責なく悪事を行える者など基本的には存在しないからだ。刑兆のような「覚悟をもって悪事を働くタイプ」は逆に後悔の意識を捨てられなさそうなので、特に相性が良いだろう。それを操る玉美はクソったれのタカリ屋だが、しかし不思議にも思う。玉美の能力からは、「人間の善意」への信頼を感じる。善意を肯定していなければ、こんな能力は発現しないはずだ。スタンド使いと成るほどに人の想いを熟知し、一方でそれを食い物にもする。人間、そして暴力が嫌いだと嘯き、そして親との不仲を匂わせる。小林玉美という男からは強い歪みと悲哀を感じる……ような、そうでないような。

だが玉美はツイている。なぜって出会ったのが康一くんだったからだ。もしハメようとしたのが承太郎であれば瞬時に見抜かれてボコボコにされていただろうし、仗助ならば言わずもがな。そしてそこで終わりだったろう。彼ら二人ほど研ぎ澄まされてはおらず、しかし心優しい康一くんとの出会いを経たからこそ、ほんのちょっぴりでも改心できたのだと言えよう。億康だったら、瞬殺だったろうね。億康が。

ところで原作「広瀬康一(エコーズ) 2」の扉絵で、荒木先生がキャラクターの SD 化を試みます。ほんの些細な遊び心というやつだったのでしょう。しかしはっきりとこの瞬間からです。この瞬間から、康一くんの身長が急速に縮み始めます。恐らく荒木先生の中で何かがしっくりきてしまった。通常描写と SD タッチの境目が少しずつ曖昧になっていき、そして「広瀬康一(エコーズ)」以降彼はついに SD キャラのまま「固定」されてしまうのです。引っ張られるように玉美も。我々脆弱な人間は、神の気まぐれに翻弄されるしかないのです。

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