我慢できない『スーサイド・スクワッド』
なぜ我慢できなかったのか。なぜ「悪を以て悪を」で我慢できなかったのか。「ハーレ・クインかわいい」で我慢しておくべきだったのではないだろうか。それだけ魅力の詰まった設定だった。しかし物語の収集をつけるため、悪役をコントールするために、彼らに一握りの善性を抱かせてしまったものだから、明確に持ち味が薄まってしまった感がある。要するに「観たかったものが観られなかった」と嘆いている。以下その点をつらつら。
- ハーレ・クインかわいい。まずそれだけは言わせてくれ。
- エンチャントレス出現時に、這い出た手が博士の手を握り反転する。この描写は良かった。かっこいい。
- 「悪を利用して悪を倒そう!」→「一番やばいのが逃げた!」→「悪を利用して悪を倒そう!」
- 待てやと。アホなのかと。何がいけないってこの展開そのものじゃないんだ。それを序盤に見せてしまった構成の下手さなのさ。「悪役を集めてチームを作ろう!」→「だがミッションを進めていくうちに最大の敵が明らかに……」→「ぎょえー! 元は自分たちの仲間になる予定のやつだったんじゃねーか!」 これが「構成」でしょうよ。どうしてタネを先に見せてからマジック始めてんだよ。「要人を助けようぜ」→「要人の正体は……長官だったァ――いま指示を出していたのにィ〜」 とかやってる場合じゃねえ! そこじゃねえだろ! そこ叙述トリック的に仕上げても、こっちは驚くより先に「ババアまたしくじったの?」という感覚に支配されてしまう。というか地下鉄の勃発シーンから要人救出の構成を下手に弄ったせいで、しなくていい混乱をした気がする。こっちの頭が悪いせいと言われればそれまでだが、もっとバカに配慮していただきたい!
- しかしこの要人救出シークエンス、蓋を(扉を)開けてみれば「中身が長官だった」というアイデア自体は別に悪くない。けれど、だったら最初から見せ方にもう一工夫できたはずだ。例えば発起人たる長官は、実は無責任なお偉方にスーサイド・スクワッド結成を命令されていたものの乗り気ではなかった。しかし巨悪であるエンチャントレスが脱走し、巻き込まれた長官は籠城状態。苦肉の策として悪役部隊の始動を余儀なくされる。という事情が中盤で明かされる構成なら、色々な問題にカタがついたのではないか。
- デッドショットたちが「尻拭いさせられてんじゃねーか」とキレていたが、観ている側の思いを代弁するには遅すぎる。遅すぎるというか、やはり情報の開示が早すぎたのだ。
- 本来なら本筋がブレるから避けるべき「第三者の介入」だが、ジョーカーの存在は良かった。たぶんジョーカーという悪役に対して「物語を明後日の方向に転がしてくれる」という信頼があるためだろう。ボスキャラが既に判明していて、そいつを倒すだけという直線的な展開に良質な不確定要素を付与してくれていた。結果的にそこまで叶えてはくれなかったけど。
- 考えてみれば「悪役」の魅力というのはそういうところにある。悪役が物語を駆動させる、とは前に書いた記憶があるような、無いような。だからそういう物語をぶっ転がす力を持った奴らが複数集まって、果たして収集をどうつけるのか! みたいな期待を、この映画に対してしていたはずだった。それが観たかった。そして観られなかった。
- 脱走を図らせて爆殺の真偽を判定したり、ハーレ・クインが途中でどっか行っちゃったり、そういう悪役ならではなの無軌道っぷりは良かった。それだけやってくれれば良かったのに。
- 最後の大舞台に向かう動機が、うっすい薄い。ヒーローは良い。基本的に人間は善性・正義感というものに無言で説得されてしまうものだ。大して理由もなく、ヒーローは世界を救ってくれるものだと知っている。でも悪役に同じことさせちゃ駄目なのでは。デッド・ショットは娘のためとかでいいけど、他の奴らは「金」とか「気に食わない」とかでいいから、もうちょっと「悪党 VS. 悪党」を予感させて欲しかった。
- 当初は敵の強大さに対して主役陣営のしょぼさに戦慄したが、まさにそれこそ面白くできるチャンスだった。使っちゃまずい近代兵器とかガシガシ使えばいいじゃん。BC 兵器とか核爆弾使ったっていいよ。街とか壊しちゃいけないものとかどんどんデストロイしていこうよ。政府の意向? 知ったことか。こっちは無敵の悪役よ。やっちゃいけないことをやってしまえる強さが悪の強みだっつーの。そったらみんな揃って近接戦闘って。ハーレ・クインまで混じってなにしてんの? 勝てないだろ、普通に考えて。なぜなんだ君たち。
- エル・ディアブロの覚醒は良かった。ああいう異教の神対決みたいなのは大好物だ。周りで「がんばれがんばれ」言ってたのは笑ったけど。アクティブ・タイム・バトルかよ。働きなさいよ。
- 「太古の悪」VS.「現代の悪」という構図自体にはグッとくる。力自体では及ばなくとも、現代悪の手段選ばなさぶりに古代の邪神がドン引きする、とかそういうのが観たかった。
- 顛末にもひと工夫欲しかった。例えば長官が死ぬなり悪側の悪知恵なりで、縛り付けるものがなくなった悪たちは野に解き放たれた。古代の魔女は倒されて世界は守られたが、もっと恐ろしい結果になってしまったのかもしれない……ってところにバッドマン来ればいいじゃん。で、それを目の当たりしたヴィランたちに「Oh...」とか言わせんの。で、全員とっ捕まって後日談。ヴィランたちは捕まったものの、娘との面会とかエスプレッソ・マシンとか、予め希望していたものは配給されていて、ちょっとほっこりみたいな。「悪って強いけど正義はもっと強いんだよ」みたいな当たり前の結論を提示してから、あのラストに繋げれば、「でもこれは悪が主役の映画なんだなぁ、 HAHAHA」みたいなある種の爽快感を演出できた気がする。気がした。したのだ。
- ハーレ・クインがかわいい。最後にそれだけは言わせてくれ。
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