最新号の『刃牙道』を読んで言い知れぬ哀しみが襲う。刃牙という少年は徹頭徹尾「チャンピオン」であろうと努めています。相手が死刑囚だろうと剣豪だろうと「互いにベストコンディションでよーいどん」というスタイルを崩しません。相手がパンツを履くのを待たなかったりしますが、あれはもうゴングが鳴ってますからね。戦いが始まってしまえばそりゃ初手で金的蹴り上げもしますよ。で、そこは主人公っぽくていいんですが、肝心の周りが合わせてくれないもんだから、そのヌルいルールでも勝てるように範馬の血が刃牙自身を改造しだすんですよね。
最近の刃牙はあえて武蔵に合わせる形で「何もしない」ことを続けます。爪も切らないしパンツの柄も気にしないし、変な顔で街を練り歩きます。何か間違ってる気がしますが、しかしその内に「何もしていないように見えて常に戦いを想像し続ける」という剣豪の境地に達しました。模倣から真理を得たのです。そして常在戦場の心構えによって更に磨かれたリアルシャドーは、意図せず肉体を肥大化させちゃうっていう。もうそれ人間じゃないよ、勇次郎だよ。
「強さは最上の価値である」という理念に手足が生えた男として勇次郎は存在していて、それ故に範馬の血をコントロールできてるんですが、刃牙は下手に人間性というか、「強いからって何しても良い訳じゃないよね」みたいな「弱さ」が白くべたついているので、人間とも範馬とも言えない異形になりつつあります。今週の奇行なんて勇次郎ですらやらないでしょ。だけど仕方ないんです。責めないでやってください。ただでさえ格上の相手が意識を格上に置いてしまっている現状、体の方に強くなって貰わないと勝てないんですよ!
この辺、怪物の血を与えられた少年が、人間性を宿したまま怪物に成り果てるみたいな哀しさがありますよね。かねて血を恐れたまえ。