ACID BAKERY

ABout | Blotter | Text | Illust

『レディ・プレイヤー 1』

ウェイドくんが最終的な結論に至るまでには喪失と獲得と、様々な積み立てがあったと思うんです。その結果出した答えがアレなのだとすれば素晴らしいし、何より彼の勝手だから好きにしたらいいと思うんですけど、答えを出した人間がああいう形で「人生かくあるべし」という結論のみを他人に押し付けるって凄く卑怯じゃないですか。『東のエデン』風に言えば「上がりを決め込んだ人間」の傲慢でしかない。はいはい、可愛い彼女出来て良かったですねー! 仮にやってるゲームが完全週休二日制になったら、こっちは休みの日に別のゲームやらせてもらいますよッ!

……とか書いてはみたものの、正直そこまで強い感情はないです。テンション上昇するシーンも勿論あったし、それ以前にまず普通に面白かったですわよ。ただ、やっぱり観てる途中からテーマ的なものの既定路線っぷりがうっすら透けて見えてしまって、それが多分口に合わないだろうなということが予見できた所為でイマイチ乗り切れなかったというか、頼むから裏切ってくれと思いつつ予想通りのポイントに着地しちゃってちょっとがっかりしたというか。「遅れてるなアメリカの喧嘩はよ……」っていうか。あと第一の鍵取得のギミック、ゲーマーがあれだけ集まってあの程度のこと気づかないはずないだろ舐めなんなよみたいなことは思いました。でもそこにしたって、「ゲームにありがちな裏技」のパロディという意味ではあれで正解の筈なんです。それが分かっていてさえあまり受け入れられなかったのは、結局好みの話、「あまり刺さらなかった」という話なんでしょうな。

あと「俺はガンダムで行く」のシーンで「そこは『行きまーす』だろ」みたいな意見があって、そこは究極的に「あのシチュエーションで自分ならなんて言うか」の話でしかないと思うので好きな方を選ぼうぜで終わると思うのですが、あれってマジに「好きなロボットになれる権利」で RX-78-2 をあえて選んだって話なんでしょうか。もしそうなら、やっぱり幾らでも強いロボットがいる中であの機体を選んだ気概を考えて、本編のあのセリフに一票を投じたいところ。みんなも短いセリフから深読みしよう!

最後に一番好きなシーンを発表すると、 IOI 社の面々が敵でありながらウェイドのクリアに大盛り上がりしてしまうシーン……を抑えて、イースター・エッグを手に入れたウェイドが流す涙からノーラン社長が敗北を悟るシーンです。小説版を読んでいないので解釈違いだったら恥ずかしいのですが、あれって最後まで真剣に遊びつくした人間だけが手に入れたものに対して、楽しもうともしなかった自分は「それ」を決して手に入れられないことを理解してしまった場面だと思うのです。安く表現するなら、オタクが非オタクに「勝った」シーンだったんじゃないかなと。とても美しいシーンだと感じました。だからこそ、それだけに当の「勝利したオタク」であるウェイドがあのような結論を出してしまったことが残念でならない。めでたく彼女が出来たのだから幸せになったら良い。でも……いや嘘ですね。恋人なんか出来なくてもいい、お金だってこんなに欲しい訳じゃなかった。自分にはゲームしかない。でも、そんな人間だろうと、そんな人間だからこそ辿り着ける幸せもあるんだよ。そんな結末が見たかったのです。

スポンサーリンク