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ふわわーん! 『死にゲー転生 ブラッドペイン』を読んじゃいました!

おはようございます。早速ですが皆様、こちらの作品をご存知でしょうか。

ブラペ

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『死にゲー転生 ブラッドペイン』。言わずもがなかもしれませんが、フロム・ソフトウェアの『Bloodborne』から多大な影響を受けた作品と言ったところで、その点に関しては作者である羽根川牧人先生も公言するところであります。

独占インタビュー「ラノベの素」 羽根川牧人先生『死にゲー転生ブラッドペイン』

話題になっていたのを知りつつも、積む者(処理しきれない量のゲームや漫画を抱えている人)なので、手を出すのが今になってしまいました。しかしこの度 遅ればせながら拝読させて頂きまして、ちと感想なんぞを述べてみようかなと思った次第でございます。

ちなみに当サイト管理人についてですが、『Bloodborne』は既プレイであるものの、内容に関しては完全に理解できているわけではありません。しかし『ブラッドペイン』はそんな人間でも問題なく読める内容になっているとは思いますし、未プレイの方でもそれは同じだろうとは思っているのですが、とりあえずどんな塩梅に仕上がっているのか、気になっているけど手が出せない方は以下の資料を眺めて感覚を掴んでみてくださいな(ある程度のネタバレはしてます)。

あらすじ

大人気”死にゲー”をプレイ中に意識を失った黒江海斗は、自キャラ《血錆のカイト》として目覚める。自分を召喚した焔の巫女フラムは戦闘を強要してきたり「撫でてください!」と懐いてきたりと、可愛くもあるがやたらとウザい。ゲームの展開通りなら、序盤の負けイベントで彼女は死ぬ――だがフラムの健気な覚悟を知ったカイトは、最強プレイヤーとして誰も見たことのないエンディングを目指す! リアルで成し遂げる前人未踏の縛りプレイ攻略譚!!

試し読み

簡単な用語集

キャラクター
カイト
主人公。劇中の人物曰く『ブラッドペイン最速クリア、ノーダメージクリア、対人一万戦無敗、偉業を上げればキリがない、究極至高の存在。ブラッドペイン界の神様と言ってもいい。全プレイヤーにとっての憧れ(原文ママ)』。
ある思惑から『ブラッドペイン』のメーカーとコンタクトを取る為に実況プレイ動画を上げ続けていた(総再生回数は軽く一千万を超えている)。またネットの生放送で『ブラッドペイン』のノーダメージクリアを達成した際にメーカーから全プレイヤー唯一のユニーク装備をプレゼントされており、以降、この装備名に由来する「血錆のカイト」と呼ばれるようになった。
フラム
焔の巫女。『Bloodborne』から人形を引いて火守女を足すといった塩梅から生成されたヒロイン。ゲームイベントの都合上絶対に死ぬキャラであり、この子を死なせないのが主人公カイトの一応の目的となる。ちなみに巫女は本来十二人おり、彼女が最後の生き残り。「焔」の奇跡を使用する。口癖は「ふわわ」
ミヅキ
カイトと同じ転生プレイヤーのひとり。脳筋にして考察勢。カイトの熱烈なファンであり、その華麗すぎる歩き回避を目にした際など、「にゃーん……。カイト様。カッコよすぎ……」と脳が蕩けてしまった。自分の巫女を失っている。ちなみに「典型的な脳筋パリィ型」らしく、ワンパン狙いで筋力を尖らせているようだ。余談だが本家『Bloodborne』の内臓攻撃の威力は技量依存。
その他
クロム・ソフトウェア
『ブラッドペイン』のメーカー。死にゲーを作らせたら右に出る会社は無い老舗らしい。他にも『アークソウル』や『赫狼(SEKIRO)』を作っているらしいが、ロボットのパーツを組み替えたり操縦したりするゲームは作ってないんだろうか。
退廃都市キュルケー
物語の舞台。ヤーナム。「血種病」が蔓延しており、罹患者は「咎人」と呼ばれる怪物に変態する。これを狩る者を「断罪者」と呼ぶ。
巫女
断罪者(プレイヤーキャラクター)を異世界から召喚するキャラクター。十二人いてそれぞれ司る「奇跡」の性質が異なる。フラムはその一人、「焔」の巫女。ゲームでは開始時にこの十二人から一人を選ぶことになるらしい。
奇跡
『Bloodborne』における秘儀……というか、ソウルシリーズの魔術、或いはそのまま「奇跡」が当てはまる。つまり『ブラッドペイン』は本家よりちょいファンタジー寄りと言える。十二人の巫女はそれぞれ二つ名に纏わる奇跡を使い、死後、その能力は断罪者(プレイヤーキャラクター)に継承されるらしい。
陽世、陰世
現実世界と『ブラッドペイン』の世界のこと。陽世で「消えてしまいたい」と思いながらゲームしてると陰世に召喚されるらしいが、真相は不明。
業深き狒々
一巻のボスキャラ。狒々(猿)と聞いただけで『隻狼』の獅子猿が元ネタか? などと思った安直な貴方にこれだけは言っておきたい。そうです。

……。

…………。

…………なんか思ってたのと違うんだよなぁ。

これは先入観の話なのでこちらの落ち度ではあるんですが、てっきり「ソウル(ボーン)ライク」が読めると思っていたんですよね。

「フロムの子」が見たかったわけです。フロムが『ジェボーダンの獣』や『クトゥルフ』などから『ブラッドボーン』という異形を産み出したように、『ブラッドボーン』から生み出される子供はどんな異形なのか、勝手な事を言いますが、それを見てみたかった。ゲームという媒体では、今やさほど珍しくもなくなった「ソウルライク」が、ライトノベルという形ではどう展開されるのだろうと。

しかし「クロム・ソフトウェア」という単語が出てきた時点で明確になりましたが、本作はオマージュやインスパイヤというより、どちらかと言えばパロディに分類されるものでした。

そこまで詳しくもないのですが、いわゆる「なろう系」の中で親しまれている作品などは、オーソドックスなファンタジー、或いは「元ネタが推測できる世界観」に「自分が考えた要素やキャラクター」を加える、言ってしまえばパロディ色の強い、更に言えば「二次創作的」な面白さを追求するものが多いという印象なのですが、本作はそれを『Bloodborne』でやったわけです。こう書くと『ブラッドペイン』は、きちんと最近の流行りに則って作られた正統派作品と言えるはず。

なので好みの話を端に置いておけば、これはこれでアリなんじゃないかと思うんですが……そのー、ちょっとネットで検索するとそこそこ批判が目立つ作品でもあるんですよね。で、その理由も、まあ少し分かる。上の方で引用させて頂いた羽根川先生のインタビュー曰く本作は「『Bloodborne』をインスパイア・リスペクトした作品」とのことですが、ちょっと、あまり上手くエッセンスが拾えていないというか、そもそも狙った客層が悪いというか……。

実際『Bloodborne』、ないしフロムゲーをベースにお話を作るのって難しいと思うんです。空白が多いから。どういう話なのか、主人公はなぜ戦うのか。こんな基本的なことすら考察が必要であり、しかも考察してもよくわからん始末。そんなものをベースにオリジナルを一本仕上げようとすると、必然的に原作に無い要素を混ぜこんでいく必要が出てくる。結果出来上がったものは、「しかしそれでもこれは『Bloodborne』である」とフロムのユーザーたちを唸らせるほどの仕上がりでは、正直、無い。

もちろん全然それで構わないとは思うんですよ。あくまで「インスパイア・リスペクト」。同じものを作る必要はありません。ですがそれにしてはこの本はフロムユーザーをチラチラと横目で伺い過ぎています。

ちょっと迷いましたが、あとがきを冒頭から一行だけ引用します。いいですか、一行だけですよ。

この本を手に取るとは――さては貴方、啓蒙が高いですね?

ね? …… Twitter でだけ許されているノリ、というものが、この世の中には……多分……ある……。いや、これはちょっと違うか。言い方を変えると、初対面の人に内輪ネタを擦られる気持ちというか。

正直フロムのファンって客層としてあんまり品が良くないというか、自分をフロム・ソフトウェアの彼氏だと思い込んでいるちょっと拘りが強いところがあるので、こういう、「俺たちのフロムがよォー!」みたいな肩の組み方をされると、強烈な拒否反応を起こしてしまう人たちが一定人数いるんです。なので身も蓋もないことを言えば「フロムファンに響く話題作」というプロモーションの時点でちょっと分が悪かったんじゃないかなと思います。どうせやるなら「お前ら低級フロム脳どもを全員殺す」くらいの気概が篭った作品であるべきで、そして『ブラッドペイン』は、そうではなかった。書いた人と読む人たちの温度差。とても偉そうなことを言いましたが、ここら辺を考慮していたならもうちょっと評価は変わっていた気はします。

ただ、普通に良かったところもありましたね。例えば終盤で主人公が越えられないボス霧を越える為に武器のアンカーで壁を登ったり(『隻狼』ネタ)、玄人を超えた玄人である主人公に立ち塞がる敵が既に陰世を数度クリアしているレベル爆上げ周回プレイヤーだったり、グッとくるところはちゃんとありましたよ。狙った客層と狙い方が良くなかっただけで、羽根川先生が表現したかったことはやれてるんじゃないでしょうか。

思ったような作品でもなければ、思ったほどの作品でもなかった。しかし決してそこまで批判される作品でもない。『ブラッドペイン』、刺さる人には刺さる本だと思うので、あまり他人の評価を気にせず、ちょっと手を出してみようと思った人は勢いで読んでみて頂きたい。

続刊待ってます!

初版発行 : 2019 年 9 月 30 日

うーん、続刊待ってます!

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