2024 年 7 月 の二週 - 「三体読了」
- 『三体』読了。面白かった……。
- 強い物語は読み手を否が応にでも「納得」させてくる。三体は強い物語だった。
- 「嘘だろこんな奴ら相手じゃ戦いにすらならないじゃん。我々は虫けらだ!」からの、「人類と本当の虫けらだって有史以来戦い続けてるのに、まだ決着はついてないんだぜ」→「……闘るか……」という納得と昂揚の、第一部。
- 嘘みたいに一致団結した人類が真っ向から戦略を練り、真向から立ち向かい、しかし尚更痛感する「差」。物理的距離のように科学力の差も天文単位ほどに開いた相手を、それでも対等の駆け引きの段階にまで持って行った「暗黒森林理論」への納得と「これで終わりじゃないの??」、の第二部。
- そして「ああ……そうか……そうだよな……」がひたすら押し寄せる波のような納得と終局の、第三部。
- 第二部が最も人気があるという評はまあ納得で、エンタメとして読めばココが一番面白い。ただ第三部に関しては、第二部の先をやるならこれしかないんだろうなという意義がありました。自らの生存を第一義とした者たちはそれこそ何でもやるし、技術や理論のスケールが極点に達しようともそれは変わらない。生物は存在しているだけで生息域を変えてしまう。「自然」なものなど、手付かずの領域など、ならばもうこの宇宙には理論の上ですら存在しないのではないか。第三部のプロローグを読むに、楊冬が気付き、死を選んだ本当の理由ってのはこの部分なんだろうと思う。
- 羅輯も史強も好きですが、振り返ってみるとトマス・ウェイドが好きですね。やると決めたことはどんな手段を用いても達成するし、破ればいいのに些細な約束だって護る。人の「強さ」の象徴。「とんでもないやつ!」。そして、だからこそ道半ばで終わってしまった。ウェイドの好きにさせていれば人類はその後結構なところまでいけていた可能性は高いと思いますが、要するにそういうことなんですよね。「だからなんだ」っていう。既に宇宙のそこかしこで繰り広げられている神の如き星間戦争の参加者が一枠分増えはするけど、生物が他者を排斥し、自らの住む場所すら狭めながらも生存権を獲得していく、そんなこれまで通りの、そしてとっくに誰かがやっていることをスケールアップして繰り返すだけ。世界の終わりと、或いは次の始まりまでを、語り部として外から眺める特権は、ある意味で宇宙社会学第一公理から外れた程心(のような生物)にだけ到達できる地点だったのだろうなと。
- そういう意味で、宇宙上位者たち相手に画期的なアイデアを突き付けたり人類をカリスマでまとめ上げたりといった理解しやすいエンタメ路線から外れこそしても、『三体』とはまさしくその「エンタメ路線」から外れることでしか描けなかった終局と開闢を示しました。
- ただ振り返ってみての総評としては「傑作」の一言ですが、第一部で仮初に提示された「狙撃首(S)と農場主(F)」の辺りが全体通して一番ワクワクしたかな、というのも正直なところです。物理学など無かった。物理法則に普遍性など無かった、というのは、結局すさまじく壮大な欺瞞作戦でしかなかったわけじゃないですか。あそこでちょっとガッカリしました。最終的には、物理法則も学問も、そしてそれらが世界に及ぼす功罪も、やはり普遍的なものだった、というのが結論であり、どれほど進んだ文明もそこから逃げられずに宇宙を不自然なものに変質させていく。大納得の結論ではあるものの、見た事のないものが見られるのか? という期待感からは外れたなーくらいの小さな感慨は横に添えて置いてもバチは当たらんでしょう。
- 絵を描きました。
髪を描くのがいつまで経っても上手くならねー。
- 記事を書きました。『EVERGRACE』レビュー。単純に書く時間を確保できなかったというだけで遅れてしまいました。本当は『2』の記事もアップしたかったのだよ。
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