ドラマ『岸辺露伴は動かない』スピンオフ - 『泉京香は黙らない』


2026.05.08

あらすじ

[岸辺露伴は動かない] 露伴の担当編集、泉京香が巻き込まれる怪異とは…最新作!飯豊まりえ主演 「泉京香は黙らない」

「そんな言い方、ひどいじゃないですか!」漫画編集・泉京香は、岸辺露伴との打ち合わせで声を荒らげた。原因は、最近、京香が連載を立ち上げた新人漫画家・西恩ミカ。

100 万部の大ヒットだと得意気に語る京香に、露伴は「会話は強烈だが、絵やストーリーは平凡でアンバランス。この漫画家、なにかがおかしい」と痛烈に批判したのだ。京香は腹を立ててその場を後にする。

しかし、つい怒ってしまったのは露伴の指摘のせいばかりではなかった。京香自身も、ミカには違和感を覚えていたからだ。打ち合わせはいつも電話で、しかも兄の奏士としか話したことがない。実はミカには会ったことがない。どうやって描いているかも分からない。

急に不安に駆られた京香は西恩邸へと赴き、強引に西恩ミカと対面する。しかし、ミカの様子に京香の不安は更に増す。いくら話しかけても何も答えない。代わりに答えてくるのは、ミカの横にピッタリと控える兄の奏士ばかりだった。

あらすじ - NHKより

感想

おはようございます。暖かくなって参りました。寒暖差で体調を崩さぬよう、皆様お気を付けくださいませ。

さて恒例となったドラマ『岸部露伴』シリーズの新作。ノベライズ作品から引っ張ってきたわけでもない完全新作だそうですが、こういうのアリならもう常しえに続けてくれそう。ところで「原作・脚本協力:荒木飛呂彦」とありますが、「協力」が何を示すのか分からんので、正直この手の情報から読み取れることってあんま無いんですよね。その上で「っぽさ」を探すなら、とりあえずノッケから奇人と職能が結びついてるタイプのキャラクターは如何にも杜王町の住人らしいと思いましたし、あと鼻ピアスつけてるキャラに「牛みたいだな」という印象を持った直後にタンを食い始めるなど、こういう率直で素朴な「記号」を荒木先生はよく用いる印象があります(「億」康がドルマークのアクセ付けてたり)。こういう部分に原作者の監修が入っておらず、あくまで「っぽく」仕上げたのだとすれば、良く出来た模倣でしょう。そういや「牛みたい」で思い出したんですが、今回の西恩ミカはタン(舌)を食べる理由があり、「食べたもの」を反芻するかのように利用する様から牛のような印象を持たせようとしてんのかなと意図を汲み取ることができたんですが、『ストーンオーシャン』のリキエルの牛柄は何だったのアレ。たぶん元ネタのバンドあたりに紐づいてるとは思っているのですが……。

っつーわけで内容についての感想ですが、結構面白かったですね。最早毎回言ってる気がしますが、このドラマシリーズは露伴が出ていないパート、というか奇人変人が画面に映っていないパートは退屈だとはっきり思っており、そういう意味では今回退屈はしませんでした。奇人変人しか画面に映って無かったから。泉京香の、もう目を背けたくなるほどの非常識さに「ウッ」となりつつも、まあ相手はどうせ異常者なんだろうから、「異常者 VS. 非常識」というある種の怪物対決を楽しめてお得かもと気持ちを切り替える。こういうバランスの取り方あるんだ。

一方で、非常識というなら露伴も相当であり、反面、持前の頭脳とギフトによって怪異に立ち向かうからエンタメとして昇華できているのであり、泉編集が非常識な行動で深入りして勝手にピンチになって勝手に助かるのは、言ってしまえばただの偶然じゃないですか。だとすればこのスピンオフってのはドラマというよりは、一回こっきりの一発芸みたいなものだと少し冷めた気持ちが生じたのも事実でした。せめて泉京香があんなんでも編集者として優秀であるならまた話も変わったのですが、西恩ミカの凡庸さへの指摘は露伴の批評の丸パクリだし、その看破がボイスレコーダーを口に突っ込むくだりと上手く接続されてもおらず、結末を予測していた訳もないであろうボイスレコーダー攻撃は、じゃあ何を期待して行ったんだろうと思う(餌を与えて見逃して貰おうとした?)しで、点と点が線になっていない今作は、正直西恩ミカへの「チグハグ」という批評がそのまま自己批判として跳ね返ってくるような出来でした。そこにキャラクターの信念や強い行動原理が見えないなら、それはもうドラマとは呼べない。

更に言えば、露伴からの批評を泉編集を通して伝播させることで、両作家の格付けを行うという意図があったのだとしても、それにより泉編集の無能さを浮き彫りにしてしまうのは主役の扱いとしてあんまりだと思う。せめて泉編集は西恩ミカの才能に心酔しながらも、露伴に指摘されるまでもなく彼女が抱える歪さも見抜いており、そして牙を剥く異形の天才に対し「編集者」として対峙すること叶ったなら、それは「漫画家」岸部露伴に肩を並べる「編集者」泉京香のスピンオフとして見応えのある内容になったと思うのですが、残念ながら……。

というか西恩ミカを単なる異常者として終わらせたのが勿体ないんですよね。凡庸と言われながらも、それでも彼女、自分でネームから描いてるっぽいじゃないですか。傀儡の兄がアシスタントを兼ねているとして(アシがいないとしたら尚更)、ネタの引っ張り方を差し引けば真っ当に漫画家をやっている。あんな能力を持ちながら、そしてああまで非人道的な手段を用いて、なぜ「漫画」なのか。「会話劇しかない」という自認から読み取れる背景は色々あるわけですよ。この話の本当に面白くなりそうな部分はそこで、それを解き明かすのに打って付けだったのが「編集者」という役割だったはずなのですが、なぜこんな「面白さ」の表面を指でなぞるような内容になってしまったのか。謎は深まるばかり。

ついでに言うと、変人カレシが乱入してくるくだりは混沌が深まるような予感があり、ちょっと楽しかったのですが、ここで登場させるならこのタイミングで泉編集がボイスレコーダーを奪って利用するなどした方が咄嗟に機転を利かせた印象が残ったと思うし、っていうか腹いせに他人の商売道具をくすねるっていうのはちょっとビビるほど人格が破綻しているしで、何というか全体的にもうちょっと推敲した方が良かった気がすんね。

というわけで色々言いました。結論として面白かったですが、イベントを箇条書きで並べただけの見応えの無い内容だとも思いました。それでも画面を埋めつくす変人どもは楽しかったですし、スピンオフでもなんでもいいんで、この感じでこのシリーズを長期に渡り続けてくれるなら、それだけで嬉しい。今後も期待しております。それではまた、『望月家のお月見』でお会いしましょう。

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