大石「世界最高の探偵L…この村に身を置いているんですかねぇ。」
熊谷「雛見沢分校に竜崎エルという転校生が……。」
大石「そんなことは分かっています! あらゆる局面においても警察の前にすら姿を表さないLが、わざわざ自分から学校に通うわけないでしょう!」
熊谷「に、偽物ってことですか?」
大石「当たり前です!」
L「どうも。今日から転校して参りました。L……竜崎エルです。よろしく」
沙都子「……個性的な方ですわね」
梨花「目の下に凄いクマなのです」
レナ「クマさん…かぁいいんだよー☆」
魅音「レナ……」
詩音「お姉の好みとは程遠いですね」
魅音「詩音!」
知恵「よろしくお願いしますね。竜崎くん」
L「よろしくおねがいします」
レナ「竜崎くんはどこから来たの?」
L「難しい質問ですね…世界中を回っていますので」
沙都子「というか国籍は…。」
L「不明です。本籍は……あったかどうか……」
梨花「国籍が分からないのですか……。かわいそかわいそです」
L「ありがとう…ございます…(私が…かわいそ…)」
魅音「なんで雛見沢に?」
L「観光です。秘書にここを薦められまして。日本のこういった場所は新鮮で気持ちがいいです」
詩音「田舎だって馬鹿にしてませんか? 少し出ればそれなりに栄えてるんですよ。」
L「馬鹿になんてとんでもない。そもそもこういう一所に留まる経験が乏しいので、本心から楽しんでいますよ。イギリスには五年ほどいましたが」
魅音「イギリスに五年!? ……世界中を回ったり…エルちゃんってもしかしてお金持ち?」
L(エルちゃん…)
「そうですね……大富豪というわけでもないでしょうが。資産運用は秘書に任せてます」
魅音「頭もいいんだ?」
L「頭が良いかは知りませんが、常に使うようには心がけています。甘い物が手放せません」
魅音(これは……部活にいい人材が…)
レナ「エルくんはお弁当持ってきての?」
L「はい。やはり皆さんと早く打ち解けなくてはいけないので、そういう準備は抜からないように、とワタリに言われました」
梨花「秘書さんはいい人なのです。」
沙都子「とても大きなお弁当箱ですわね。」
L「はい。どうぞみなさんも摘んでください」
レナ「わー……い?」
詩音「あ、甘いものしか入ってないじゃないですか!」
魅音「凄いデザートの量だね…肝心のご飯やおかずは?」
L「? これがお昼ご飯ですが…」
梨花「……。」
魅音「それでは、エルちゃんの部活参入を推薦します!」
レナ「意義なし!」
沙都子「わたくしもでしてよ!」
梨花「僕もなのです。」
L「はぁ……部活というのは?」
魅音「くくく……。」
詩音「ふふふ……。」
L「なるほど、つまりは知略を駆使してあらゆる状況にも対応できるような訓練をする部、ということですか」
魅音「そういうこと。まずはジジぬきね。エルちゃん、ルールは?」
L「知ってます」
魅音「話が早いね。じゃあ配るよ。」
L「その前に少し見せて貰ってもいいですか? …とても使い込まれていますね…」
レナ「結構年代ものだよねー。」
L「あ……すみません」
魅音「?」
L「珍しくて眺めているだけのつもりだったんですが、カードの傷と絵柄を完全に覚えてしまいました。もう忘れられません」
梨花「!!」
魅音「エ…エルちゃん強すぎ…。」
レナ「同じ人間とは思えないよ…。」
沙都子「わ、私の仕掛けた数々のトラップが逆に返されるなんて…!」
梨花「……。」
詩音「こんなところにとんだ怪物ですね…。」
L「誇張無く、とてもいい経験になりました」
魅音「またまたー。私たちなんて何でもなかったクセに!」
L「いえ…誰かとこうして遊んだ経験など孤児院時代から無かったので」
魅音「…ほんとに楽しかった?」
L「はい……皆さんとは一日も早く友達になりたいです。」
レナ「? なに言ってるのかな?」
L「はい?」
詩音「喋ってご飯食べてゲームして……私たち、とっくに友達じゃないですか。」
L「……もう…友達……」
沙都子「今回は敗北を喫しましたけれど、次はこうはいきませんわよ!」
魅音「そうだね。部長であるおじさんの実力がこんなもんだと思われるのは心外だよ。」
レナ「次は負けないもんね、梨花ちゃん。」
梨花「おー、なのです。」
L「………」
レナ「どうしたのかな、かな?」
L「いえ」
大石「あなたがL…?」
L『いえ、そこにいるのは代理です。私はいま雛見沢に建てた家でおやつを食べています』
大石「そ、そうですか…。」
L『事件の概要は大体分かりました。事件資料にも目を通して……まぁ、ほとんど解明できました』
大石「!?」
L『とは言ってもまだ推測でしかないですし、まだ調べてみたいこともあります。……本当は綿流しの夜に実際に人が死んでくれれば一番いいのですが、やはりそれは防がなければなりません。当日の夜は警備を強化し、備える。当面はこれ以上言うことは無いです。それでは』
大石「ちょっ…!」
ワタリ「私はこれで」
大石「………。」
L『Lです』
大石「今日は何か…?」
L『これまでの捜査方針を見てまず思ったんですが……。とりあえず大石さんにはもうちょっと一歩引いた捜査をお願いします』
大石「!?」
L『結論から言ってしまいますが、園崎家はシロです。強いていうなら貴方が犯人です』
大石「は!?」
L『というのは言い過ぎですが……。貴方の接触の仕方はここの住民に他ならず、無知な人間ほど不安にさせてしまいます。雛見沢でなければ問題は無いのですが……申し訳ありません。それと鷹野さんの奇行にもちょっと注意を傾けてください。そこら辺の詳細はまた後日ご説明します。では、私は学校がありますので』
大石「……。」
レナ「エルくんー。教えて貰った証明問題も簡単に解けたよー。」
L「ヘルマーの定理の証明はコツさえ掴めば簡単ですからね」
魅音「エルちゃん、ここ教えてよ。波動関数がどうのってやつ。」
L「魅音さん…そこは先程教えましたが」
魅音「わかるか!」
L「……ここは?」
ワタリ『エンジェルモートという店です』
L「……なにやら物凄い賑わいだが」
ワタリ『本日はデザートフェアですので』
L「! デザート…フェア…だと…!」
ワタリ『チケットを手に入れるのに苦労しました。存分にお楽しみください』
L「素晴らしい働きだ」
ワタリ『がっちゃ』
L「ところで、お前は来なくていいのか?」
ワタリ『友人水入らずに、水は差せません』
L「?」
魅音「あー! エルちゃんいた。ヤッホー!」
レナ「今日はチケットありがとね。」
沙都子「魅音さんのコネでも入れましたのに、本当にLさんはええかっこしいですわ。」
梨花「感謝感謝なのです。」
L「……ワタリ……」
詩音「みなさんいらっしゃいませ! 今日は…うわ!」
L「ああどうも詩音さん。とても素敵な制服ですね。魅力的です。デザートもとても美味しくて…」
詩音「…そ、それはどうも……凄いですね。」
魅音「お、おじさん…もうお腹いっぱいだよ……。」
レナ「レナも…。」
沙都子「底なしですわ…。」
梨花「……けぷ。」
L「そうですか? とりあえず全種類は制覇したんですが、まだ食べ足りません。それにしてもお世辞抜きに本当に美味しいですね。この店は度々利用させて頂きます」
詩音「……人間じゃねー…。」
レナ「こんばんわー。」
魅音「やーやー。」
L「お二人ともどうしたんですか?」
レナ「エルくんが家で一人ぼっちだって聞いたから遊びに来たんだよ。」
魅音「ついでに問題も作ってきましたよー。」
L「問題?」
魅音「じゃーん。」
L「……これは……。正解はおはぎですね?」
レナ「おはぎかどうかが問題なんじゃないよ!」
魅音「このどれか一つにある仕掛けをしてあります。どれでしょうーみたいな。私たちは正解知ってるからエルくんに当ててもらうよ。まあ今じゃなくてもオッケーだけど。」
L「なるほど面白いですね……全てお二人で?」
レナ「ううん。魅ぃちゃんのおばあちゃんも作ったんだよ。」
魅音「ふっふっふ…。毒が入ってるかもねー。」
L「素晴らしいです……。じゃあ一個頂きます。なんだかこれが正解な気がしますね……。もぐもぐ。」
レナ「あ。」
魅音「あ。」
ガタン!
レナ「エルくん? エルくん!」
魅音「せ、正解!? 正解だったの!? でもタバスコが入ってるだけだからその反応はおかしいよね!」
L(やはり…私は間違っては……いなかった……。が……ま……)
レナ「エルくーーーーーーーーーーーん!!」
沙都子「エルさん、わたくしがやってきましたわよ!」
L「よく来ましたね、沙都子さん。いま晩ご飯を食べていたところです」
沙都子「…どこをどう見てもケーキにしか見えませんが…。」
L「ああ、すみません。間違えました。晩ケーキです」
沙都子「晩ケーキ!?」
沙都子「そんなのばかり食べていると栄養が偏りますわよ!」
L「大丈夫です。人間の生態維持に必要な栄養素を練りこんだスイーツをワタリが作ってくれますので。ワタリが作ってくれますので」
沙都子「2回言いましたわね! そういうことじゃありません!」
L「?」
沙都子「たまにはちゃんとした『料理』を食べませんと、身体は大丈夫でも心がやつれてしまいますわ。」
L「…身体は大丈夫でも心が…。名言です、沙都子さん。涙が出そうです」
沙都子「……ですから、今日は私が料理を作りに参りましたの!」
L「…沙都子さんがですか? 失礼ですが今日は用事が…」
沙都子「本当に失礼ですわね!」
沙都子「キッチンを借りますわよ。」
L「ああ、はい…ワタリ」
ワタリ「はい」
沙都子「ど、どこから…。」
ワタリ「こちらです」
沙都子「出来ましたわー。」
L「…野菜炒め、ですか…」
沙都子「こういった食事こそ人間らしさというものですわ。さぁ、召し上がってください。」
L(甘いもの以外は久しく口にしていないな…)
沙都子「どうですか?」
L「……美味しいです。こういう食事は本当に久しぶりですよ。ただ…」
沙都子「?」
L「まだまだ改善の余地ありです。申し訳ありませんが、沙都子さんに私秘伝の野菜炒めを伝授します」
沙都子「え、ええ!?」
ワタリ(L……アレを…)
L「どうぞ召し上がってください」
沙都子「……お、美味しいですわ!」
L「何年ぶりでしょうか…特級調理師の大会で優勝して以来です」
沙都子「料理できるんじゃありませんの……わたくしなんて…。」
L「沙都子さんのおかげです。確かに私は何年も何年も人間らしい食事などしていませんでしたから。それを思い出させてくれたのは沙都子さんですよ。ありがとうございます」
沙都子「…エルさん…。と、当然ですわね! ところで、エルさん秘伝の調理方法を試しても構いませんか?」
L「はい。沙都子さんなら出来ますよ」
沙都子「少し教えて頂いただけでこんなに美味しく……!」
L「素晴らしいです。完璧とは言えませんが、上達が早いです」
沙都子「あ、当たり前ですわ! 淑女たるもの、日々進歩! もう数時間も前の私じゃありませんわよ!」
※大量に余った野菜炒めは、後でワタリが美味しく頂きました!
L「詩音さんと沙都子さんはとても仲が良いですね」
詩音「そう…見えます?」
L「? はい」
詩音「……良かった。……私…昔のことなんですけど、沙都子のこと嫌いだったんです。」
L「……。」
詩音「でも、悟史くん……あの子のお兄さんなんですけど、その人から沙都子を預けられて…。あー、どうなんでしょうね。それが理由ってわけじゃないと思います。悟史くんはもういないのに、沙都子の傍にいる理由なんて無いじゃないですか。………意地があったんだと思います。」
L「意地……」
詩音「……沙都子の事が嫌い。約束なんて知らない。そうする方が私としては自然だった筈なんですけど……どうしても駄目でした。そうする事を選べなかった。……そう、意地になってたんですよ。あの人との約束を守れる自分でいたい。沙都子の傍に居続ける自分でありたい。結局は自己愛。そして悟史くんの為。沙都子への愛は無かった……と、思います。」
L「……。」
詩音「だけど。……沙都子の好き嫌いを少しずつ無くしていったり、沙都子の事を考えたりすることが、私の中でだんだんと特別なことじゃなくなっていっているのが分かるんです。沙都子の為にカボチャを煮たり、沙都子の仕掛けた罠に引っかかったり。そうしている時間が、最近では驚くほどに心地良い。ただ順応しただけなのかもしれません。今でも沙都子の事が嫌いで、それを意識していないだけなのかも。そんな自分に嫌気が差すこともあります。けど……。私は、今の自分も結構気に入ってるんです。それは間違いなく本心ですから。」
L「……そうですか。貴重なお話ありがとうございます。……」
詩音「なんでこんなこと話したんでしょう…? エルちゃんを通して誰かに伝えたかった……のかな。エルちゃん、私が夢で見た人に似てるんですよ。顔とかは全然違うのに。……変ですね。」
ライト(鷹野のスクラップを読んだから、というわけではないが…。これまでの事件資料や雛見沢の歴史を顧みるに、恐らく……雛見沢には複数の固定観念のようなものが存在する……)
L(最低でも2つ)
ライト(一つは疑心暗鬼に囚われ、自我を喪失するような状態。恐らくは一連の鬼隠しや殺人事件はこれに侵された人間が行っている。人間を特定の発狂状態に移行させる何かがこの土地にはある。閉鎖的な村に時折みられる何らかの心理行動の一環と言えなくもないが、それで説明づけるには明らかに行き過ぎている。外因性の精神疾患か…。鷹野は寄生虫だの御託を並べていたが、僕の推測ではさらに感染効率の高いもの。……ウイルス性の病か? つまり『オヤシロさま』とは……。)
L(心理的条件に起因して発症するタイプのようだな。特異な病例だ。…世界の医療機関に掛け合って研究させるか…。そしてルールその2)
ライト(鬼ヶ淵等の伝承…祟り…)
L(鬼隠しと殺人事件の奇異な対応…。園崎の機密性と手の長さ。さらにはそこから派生する、ダム戦争時の派閥、確執…村による北条家への弾劾。それらが作り出している、この村特有の『事件発生を許容する精神的風土』)
ライト(この二つが繋ぎ合わされることで毎年の事件が発生し、事件発生によって事件発生が自然なものと化す)
L(互いのルールが互いを補強しあっている)
ライト(上手く出来ているな…なかなか面白いが……タネをばらせばこんなもの)
L(だが……)
ライト(それだけではないはず。外因性の病という背景があるからこそ、面白いほどに浮かび上がってくるものがある)
L(私の考える『雛見沢特有の病が発症する条件』に北条沙都子は合致する。そして古手梨花と二人揃っての定期的な診療所への訪問。表向きな理由がそれらしく用意されてはいるが……、これは入江診療所による件の病の治療と考えられる)
ライト(病が蔓延し、それを自覚しているのであればその対策機関が発達しているのは道理だからな。そしてそれほどまでの症状を、現在の沙都子レベルまで抑えることが出来る…。そこまで研究が進んでいるのであれば、何の資金援助・支援が無いというのは考えられない。病原菌一つとっても突き詰めた研究をするのに結構な金がかかるからな…。ならば)
L(この村、いや、入江診療所にはそれなりのバックがついている。しかし雛見沢とそれだけの資金源が繋がっているというなどという話は聞かないし、こんなウイルスをこんな深度まで研究するメリットが限られてくる)
ライト(大方、研究資金もそれ程割いているわけでは無いのだろう。案外見限られる直前なのかもしれないな……。だが、腐っても病体研究。そんなものを『片隅の予算』で賄えてしまう規模の組織……)
L(派閥化した日本政府の一機関というオチか? 園崎と繋がっている、とも考えたが……)
ライト(ダム事件のことを考えるとその線はあまり濃厚では無さそうだな……)
L(なによりもそこまで派手に動いて警察が園崎の不自然さを何も掴めていないというのが…。ならば診療所と外部が繋がっていると素直に考えた方がいい。問題はそのパイプラインだが…)
ライト(雛見沢での研究、そして資金援助の掛け合い。それを繋ぐ人間がいる)
L(一定の間隔でこの村へ訪れ、それなりに背景が洗えない人物)
ライト(富竹)
L(そしてその恋人である鷹野三四は都合よく入江診療所に勤めている…。……。……。点と点が繋がりすぎて逆に面白くないな)
ライト(そういう組織の存在を疑ってしまえば、ダム事件時の誘拐…その不自然さが見えてくる。例年の事件を調べていく中で、背後に妙な気配がちらほらと……。)
L(雛見沢2つのルールを踏まえ理解した上で何者かが操縦している。……そんなニオイがするが……)
ライト(もしそうだとするならば)
L(入江診療所のバックボーンこそが)
(雛見沢に存在する、最後のルール)
沙都子「………。」
L「おはようございます、沙都子さん」
沙都子「ええ……おはようございますわ……。」
L「沙都子さん? ………」
レナ「えるくん……ちょっといい?」
L「……沙都子さんの叔父が? (北条鉄平か……)」
レナ「う、うん…。」
魅音「身の回りの世話をさせているみたい…。」
梨花「あの様子では…酷いことをされているのです…。顔などに傷はないようですが…」
L「……。……」
レナ「えるくん?」
L(……親権者の立場から言えば別に北条鉄平は犯罪を犯しているわけではない…。現行犯として取り押さえなければ、身体にあるであろう痣もいくらでも言い逃れできる…。ならばカメラや盗聴器を仕掛けて…馬鹿な、常に北条鉄平がいる状態でどうやって…。い…いや…ただ仕掛けるだけならいくらでも方法が…なんだ、動揺しているのか私は…)
詩音「もう黙ってられるか! 今すぐ私が鉄平を殺す!」
L「!」
魅音「詩音…。」
詩音「てめぇらはそうやって指くわえてろ! 私が…!」
L「待ってください、詩音さん」
詩音「あぁ?」
L「人を殺して得られる幸せなんて間違っています。『自分の所為で詩音さんに人殺しをさせてしまった』という傷を沙都子さんに負わせるつもりですか?」
詩音「! …それでもこのまま鉄平を野放しに出来るかァ!! 奇麗事なんていくらでも言え――!」
L「……かつての北条悟史さんの失踪…残された沙都子さん。なぜ彼女がここまで意固地になって、周りに助けを求めないのか…。ある程度状況証拠が揃っていれば推察できます。沙都子さんが自分で助けを求めなければ意味が無いんです」
詩音「沙都子は今! この瞬間に傷つけられてんだ!」
L「時間はかけませんよ。私に少し任せて下さい」
L「沙都子さん」
沙都子「……みなさんはどうしたんですの? …もう授業が…始まりますわよ…。」
L「叔父さんが帰ってきたそうですね」
沙都子「!」
L「色々と事情は聞き及んでいます。ですが、私は貴方を説得できるとは思っていません」
沙都子「……」
L「自分が最後まで耐え切れれば、悟史さんが帰ってくるかもしれない…そう思っているのでしょう? ……それが正しいとか間違っているとか、私には決められませんし、ここで『それは違う』と言った程度では絶対に揺るがない覚悟を、沙都子さんはしている筈なんです。ですから、手段だけ預けておきます」
沙都子「……?」
L「『スグカケツケール』!」
沙都子「!?」
L「ワタリが発明した、緊急救助要請ツールです。ベルト式なので着用してくださいね。バックル部分を二回叩けばワタリに救助要請がいきます。すぐに駆けつけます。はっ! 『スグカケツケール』ってそういう意味だったんですね…!」
沙都子「……いりませんわ、こんなもの。」
L「はい。言うと思いました。ですから『使え』とは言いません。しかしこれは沙都子さんのけじめのようなものだと思ってください」
沙都子「けじめ…?」
L「いま沙都子さんはみんなに心配をかけています。これは分かりますね? ですが、そんなものを分かった上で、沙都子さんは自分の意地を通そうとしている。しかしそんな姿がみなさんの心配を増長させている。沙都子さんとしてはそんなものは煩わしい配慮に過ぎないのでしょうが…」
沙都子「……。」
L「……しかし、心配するな、と言われて止めるような友人達ではないことは、他ならぬ沙都子さんが一番知っているのではないですか? 彼らの誰か一人が沙都子さんのような状況に陥れば、沙都子さんが心配することを止められないように」
沙都子「…………。」
L「ですから、スグカケツケールはそんなみんなの心配を緩和させるものだと考えてください。こんなニッチモサッチも行かない状況よりも『助けさえ求めてくれればすぐにでも…』ということであれば、みなさんからは少なくとも自分がどうすればいいのか分からない、という不安を多少は取り除くことができます。………この理屈、分かります?」
沙都子「それは、暗にわたくしが助けを求めることを期待し、助けを求めないわたくしの所為に出来る、ということではありませんの?」
L(! ……会話が成立するようになった…判断力が復活してきたな…)
L「そう考えて頂いて結構です。というか、私たちは貴方に期待をしているんですよ」
沙都子「……わたくしに?」
L「助けてください、沙都子さん。私たちの大切な友人が、私たちに助けを求めてくれないんです」
沙都子「!」
L「助けてください、沙都子さん。私たちの大切な友人が、いつまでも自分の足で立とうとしないんです。『にーにーが助けてくれない限りは、自分では戦わない』。そう言って聞かないんです」
沙都子「!!」
L「助けてください、沙都子さん」
沙都子「やめてください…やめて!」
L「助けてください、沙都子さん。…こんなにも言葉が無力なんです」
沙都子「! …?」
L「いくら沙都子さんに勇気を発揮して欲しくて言葉を紡いでも、届かないんです。そちらから手を伸ばして貰わないと、届かないんです。助けてください。沙都子さんを助けることが出来ない私たちを、助けてください」
沙都子「………」
レナ「あ…沙都子ちゃん!」
魅音「……家に帰ったのかな……」
詩音「鉄平のいる家に!? 大丈夫なのかよ!」
L「…分かりません」
詩音「はぁ!?」
L「……自分で自分のことが理解できなくなったのは初めてです。他人のことで動揺している自分も始めてのことです。…………。…………。とにかく、手段は与えました。これで沙都子さんさえ我々に助けを求めてくれれば、いつでも……」
レナ「……確かに沙都子ちゃんは甘えているのかもしれない。でも、まだ子供だよ?」
L「………。………」
レナ「そこまでの強さを期待するのは酷なんじゃないかな。……無理にでも手を掴んで助ける方法があれば、今はそれがいいんだと思うけど…。」
L「………。………」
……助けてください、沙都子さん……
沙都子「……。」
テッペイ「sjfどjfdさjfjふぉ!!(訳:少し部屋が汚いと私は感じました)」
沙都子「ひっ!」
テッペイ「えおf8jvgfjffふぉ!!(訳:私は貴方に掃除しておけと言いました)」
ワタリ「スイッチが2回押されることで北条宅周囲に待機している警官の携帯がなり、虐待の現行犯として取り押さえる手筈になっております」
レナ「でも、もし沙都子ちゃんから助けを求められても、やっぱり恐い思いをさせちゃうんだね。」
ワタリ「………。」
魅音「沙都子は押すのかな……。」
詩音「押さなかったら、私が鉄平をぶち殺すだけ。」
魅音「詩音…。」
テッペイ「さふしあはhfdさhdhふぉ!!
(訳:誰に育てて貰っていると思っているのですか? せめて役に立ってください)」
沙都子「ごめ、ご、ごめんなさい! 今すぐ片付けますから…! お買い物にも行きますから!」
…兄が助けてくれない限りは、自分では戦わない…
沙都子「お洗濯もしますから!」
…ここで『それは違う』と言った程度では絶対に揺るがない覚悟を…
沙都子(違う、そんな覚悟なんて…!)
沙都子「いや、怒鳴らないで、怒鳴らないで! ………。」
楽しかったこと、嬉しかったこと、悲しかったこと、全てひっくるめて、
沙都子を動かすに足るものだと信じている。そこに込められた魂を信じている。
沙都子「!」
テッペイ「!? m、ふjysjfhsjkfへふぉ!!
(訳:どうしたのですか? なぜ突然喋らなくなったのですか?)
沙都子(もしも……。)
……彼らの誰か一人が沙都子さんのような状況に陥れば……
沙都子(…………こんなこと……もし、梨花が………。……!)
……はい。沙都子さんなら出来ますよ……
沙都子(……にーにーにも、出来たこと……。)
「……淑女たるもの……」
テッペイ「kgkgkgkぎshjgkdふぉ!!?(訳:ブツブツと何を言っているのですか?)」
沙都子「もう……。」
テッペイ「!?」
沙都子「もう、何年も前の私じゃありませんわよ!」
カチカチ
ピー ピー
ワタリ「!!」
レナ「なに!?」
魅音「これは……。」
詩音「沙都子……!」
ワタリ「L…! ……。…?」
刑事A「来た! 突入だ!」
刑事B(あれ、いま…?)
鉄「うぎゃあ!(訳:うぎゃあ!)」
沙都子(………? わたくし、殴られて……ない? …!)
「……あ……」
ワタリ「Lはどこに!? こ、これは! 変わり身の術だってばよ!」
魅音「エルちゃん!」
沙都子「……遅いんじゃありませんの?」
L「すみません」
L「……私の権限を使って、無理矢理に鉄平をどうにかすることも出来たんです。証拠なんてものはそれこそいくらでもでっち上げることはできましたし。手段を問わず沙都子さんと北条鉄平を引き離す、という結果だけを求めるなら、それこそ数多の方法があります。例えば先ほど詩音さんが仰っていたように北条鉄平を殺害すること。殺人で人が救えるとは思えませんが、傷はいつか癒えると無茶な期待すれば……この方法もアリと言えばアリです。雛見沢の特性を考えると、実行犯のアリバイを村ぐるみで隠蔽することも不可能ではないでしょう。北条鉄平が何者かに殺された。しかし誰のアリバイにも不備が無いことを私達全員が口を揃えて証言している。これで通ります。死体を隠すこともそれほど難しいことでは無いと思いますし、殺害が綿流しの夜ならば尚のこと良しです。まあ余りにも極端過ぎる例ではありますが……」
梨花(! ……綿流しの事を、知っている…?)」
レナ「でもエルくんは沙都子ちゃんに助けを求めて欲しかった。」
L「………はい。強くあれ、なんて口にするほど傲慢ではありませんが、沙都子さんから『にーにー』という逃げ場所を取り上げないと、何か別の形で彼女はまた繰り返してしまう…それを避けたかったんです。…と、頭の中では考えていましたが……考えている最中でさえ、それが正しいのかどうか分かりませんでした。レナさんから『沙都子さんはまだ子供』と言われたとき…迷いました」
(あるいは……犯人逮捕には確実な証拠をあげる、という私のやり方を崩したくなかっただけなのか……。……自分を冷静に分析できない)
魅音「エルちゃん……。」
L「私はこれまで友人に恵まれなかったもので、その接し方が分かりません。理詰めで考えようとしても、根底で冷静になりきれないんです……。初めての経験です」
ワタリ「ロスト・ヴァージンですね」
魅音「なに言ってんの!?」
詩音「けどエルちゃんは『スグカケツケール』が鳴る前に走りだしてたじゃないですか。まるでヒーローみたいで…かっこよかったですよ?」
L「…詩音さん……好きになりますよ?」
詩音「…いや、ほら、私には悟史くんがいますし…」
L「残念です。ワタリ、沙都子さんは…」
ワタリ「はい、病院にてごゆっくりと眠られておりますよ」
L「そうか……よかった」
梨花(……エル……ありがとう……)
ライト「なんだって!? 沙都子が…!?」
レナ「うん…叔父さんが帰ってきて……。」
ライト「くそ! なんだって今ごろ!」
魅音「ライちゃん、落ち着いて…。」
ライト「…そうだな。僕達が落ち着かなきゃな……。沙都子は、なんて?」
梨花「……自分からボクたちに助けを求めるつもりはなさそうなのです…。」
魅音「耐えれば、悟史が帰ってくると思ってるんだよ…。」
ライト「……じゃあ、ここでいま何かを言っても無駄か…よし、僕に考えがある」
レナ「?」
ライト「この村を根底から変えてやるのさ!」
リューク『なんだこの熱いライト……』
ライト「さて、村人達と北条家の確執を取り除いて、園崎お魎さんを篭絡して力を貸してもらって、次は児童相談所への抗議を始めるわけだけど…」
レナ「…展開が早すぎる気がする。」
ライト「僕は器用だからね」
魅音「……うちの婆っちゃをメロメロにするなんて…。」
ライト「僕はルックスもイケメンだからね」
魅音「……婆っちゃと二人きりで何してたの?」
ライト「沙都子…頑張れよ…」
梨花「あとはどうするのですか?」
ライト「児童相談所の前に村人をごっそり引き連れてデモろう。僕の父に協力して貰って色々なことに目を瞑ってもらって、そして園崎の議員に手を回して貰う。あとは……いや、ここからが難しい」
魅音「? どういうこと?」
ライト「沙都子から助けを求めて貰わないと、結局のところは何の解決にもならないってことさ。だから、ここから沙都子をどう説得するか…だ」
梨花「でも…それが出来るのなら最初から問題が起きていない気がするのです…。」
ライト「いや……そうでもない。こうやって手を尽くしたのは僕たちからのアピールの意味がある。『僕たちは最善を尽くしている。あとは沙都子が手を伸ばすだけだ』ってね。もちろん全ては僕の理屈の上でのことだ。上手くいく保証なんてない。でも、僕は僕の打ち立てた理屈なんかよりも、これまで皆が沙都子と一緒に歩んできた時間、楽しかったこと、嬉しかったこと、悲しかったこと、全てひっくるめて、沙都子を動かすに足るものだと信じている。そこに込められた魂を信じている。だから……あとはよろしく頼むよ。僕に出来るのはここまでだ……」
魅音「……ライちゃん……。」
梨花「後は…私たちの仕事…。」
リューク『…………』
羽入「…………。」
梨花『……ライトは、そう言っていたわ……。ねぇ沙都子、私たちの絆は、こんなことで崩れてしまうようなものなの…?』
テッペイ(jdさjふぉ…)(訳:不必要なことを言わないで下さいよ…)
沙都子「……………。」
梨花「私たちは、出来ることを全てやった! あなたは!? 本当にそのまま待っているつもり!? 自分が何もしないことを、悟史の不在の所為にして…! いつまでそうしているのよ! あなたがこちら来たいと思えば、すぐにでも全て終わりに出来るのよ……!」
沙都子「…………て…。」
梨花『!』
テッペイ「!?(訳:!?)」
沙都子「助けて! 私は……!」
テッペイ「fdそいsfふぉ!!(訳:あなた、ふざけないでください)」
沙都子「あっ! 痛っ…!」
テッペイ「ぐぁ! …ふぉ!?(訳:ぐぁ! なんだ!?)」
沙都子「あ……!」
ライト「沙都子!」
大石「まったく…うちの人間のより先に北条氏を拘束したら警察の格好つきませんよ…んっふっふ。」
総一郎「ライト…よくやった!」
リューク『ライト…マジでどうしちまったんだ? らしくないぞ……まぁ、これもまた面白だけど…』
羽入「ライト…かっこいいのです。」
ライト「帰ろう。みんな待ってる」
刑事A「先に病院に……。」
沙都子「いいえ…みんなの顔を見てからにしたいですわ…。」
ライト「…そうか…じゃあ僕と沙都子は後部座席に座ろうか。二人でイチャイチャしよう」
沙都子「な、何を言ってるんですの! ライトさんは助手席に座ってください! わたくしなら大丈夫ですわよ!」
刑B「さ…さあ行こう」
刑A「今日は交通量が激しいなぁ。」
ライト「そうですね。……沙都子」
沙都子「はい?」
ライト「本当に身体は大丈夫なんだな?」
沙都子「もう…何度も言わせないでくださいませ…。」
ライト「ほら、顔にゴミがついてるぞ」
沙都子「あ…どうも…。! あ…ああ!!」
ライト「! どうしたんだ!?」
沙都子「いやああ! 化け物!!」
刑B「あ! ドアを開けちゃ……! あああ!」
ライト「沙都子!!」
ライト(あの日から何度も足音を感じるような……。気のせいなのかもしれないが…。もし気のせいじゃなかったら危険だな…。リュークの反応から見て僕の気のせいだと判断したが……。……仮に死神だとすれば、リュークの姿が見えているはず。では、人間と死神の両方を意識して行動できるなら…。リュークに気づかせずに動けても不思議じゃない。……だがなぜボクの後をつける? 監視しているのか? 何のために? 死神でも所有者でも、僕をいつでも殺せるはずだ。……。もし、僕がこの村に仇なす存在か否かを見極めているとしたら…。僕に怪しいそぶりがあれば、村を守るために僕を殺す。くそ、僕が誰かに命を握られるなんて…。何か方法はないか…。僕は雛見沢にとって有益な人間であるとアピールする方法…)
総一郎「ライト」
ライト「父さん? どうしたんだ?」
総一郎「お前には話しておこうと思ってな…。実は北条鉄平という男が……」
ライト「……。……なんだって!?」
(…使える…)
リューク『つまり、お前はいもしない死神と、憑かれた人間に怯えてここまで大掛かりな芝居をうったってことか?』
ライト「仕方ないだろ? 僕は死神なんてものと出会ってから日が浅いんだ。普通、人間界にどの程度潜伏しているものなのか、なんて分かるわけがない」
リューク『まあそれもそうか……。それで、色々とワケが分かんないんだが…』
ライト「村人の殆どを巻き込んだのは、ノートを持った人間が誰か分からなかったからだよ。あれだけ集めればあの中にはいるだろうとタカをくくったんだ」
リューク『北条家と村を仲直りさせたのもその為か…』
ライト「それだけじゃないけどね。扇動されて行動を起こそう、っていう人間は、得てして直情的なものなんだ。もしも僕に心動かされて沙都子を助けよう、と思ったらその時点でスティール(鉄平)の名前をノートに書いてもおかしくない。前に説明したが、雛見沢には『綿流し後には人が死んでもおかしくない』という不思議な空気がある。つまり綿流し前に鉄平を殺すということは、そういう雛見沢特有の空気にあまり触れていない人間がノートを持っていることになる」
リューク『かなり絞れるってわけか…まあ、全部お前の勘違いだったんだけどな』
ライト「言うなって…。でも、もしもノートを持っている人間が村に害のある者を殺すんじゃないかと考えたとき、焦ったよ」
リューク『なんで?』
ライト「リュークが知恵留美子を殺したからだろ!」
リューク『あ、ああ…そうだったな…忘れてた。……で、でもアレだな。グチャグチャになった沙都子を抱きかかえて泣き叫んだあの演技は見事だったな…。さすがライト……。ん? あの大騒ぎがノート持った奴へのアピールなら、沙都子を殺したら元も子もなかったんじゃないか…?』
ライト「沙都子をノートに書いて殺したんならね」
リューク『え? ……』
ライト「沙都子には車の中でノートの切れ端に触らせて、リュークの姿を見せただけさ。当然おびえる。病気の所為もあるし、しかもあんなことの後だ…まともじゃいられない。だからシートベルトをつけなくてもいい後部座席に座らせたんだ。それで僕が助手席に座れば、僕が何もしていないことと、沙都子が車から飛び降りた非が僕に無いことを二人の刑事が証明してくれる。飛び降りる前に沙都子が取り押さえられる可能性の方が高いし、そもそも飛び降りるかどうかも賭けだった。でもまあ、成功したね。正直な話、あの時点で沙都子が死のうが生きようがどちらでも良かったんだ。死神と所有者に接触できれば、後はどうにでもなる」
リューク『…そんな面倒なことしなくても、普通にノートで殺せばよかっただろ?』
ライト「馬鹿だな。デスノートは殺す人間の本来の寿命に関係なく効力を発揮するんだぞ? もしノートで殺したら、沙都子の寿命はまだ残ってるのに死んだ……つまり、ノートを持っている僕らが殺したってことが分かってしまうじゃないか。ノートで殺したわけでもない、本当に偶然に事故で死んだ沙都子のために泣く僕…。もう誰がどう見たって信用していい対象だろう」
リューク『なるほど……で、鉄平は殺さなくていいのか?』
ライト「おいおい……鉄平の前科は知らないが、今回やったことと言えば虐待程度だろ? そんなのを今の段階でいちいち殺してたら僕が神になるための計画が狂ってしまう。新世界の神は寛容さも持ち合わせているんだよ」
リューク『………で、だ。例の足音だが……俺がたてた物音なんじゃないのか?』
ライト「……あっちゃー……」
リューク『ライトはおっちょこちょいだなー』
ライト「めんごめんご(爆笑)」
ひぐらしがなくですの