うーん、困ったなあ。『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』や『天誅シリーズ(Shadow Assault / DARK SHADOW)』は名前に「SHADOW」と付くからカッコイイんだけど、何というか「ABYSS」感が足りないんだよな。だけど『DARK SOULS with ARTORIAS OF THE ABYSS EDITION』には「SHADOW」感が足りない……。帯に短し襷に長し。あちらが立てばこちらが立たず。これってよくあるジレンマですよね。そんなあなたに本日ご紹介したいのが、『SHADOW TOWER ABYSS(シャドウタワー・アビス)』、「SHADOW」でありながら「ABYSS」でもある、完全無欠のゲームでございます。何も考えずに文章を書き出すもんじゃないって何度言えば分かるんだろうね。
『SHADOW TOWER ABYSS』
- ジャンル : 3D リアルタイム RPG
- プラットフォーム : PlayStation 2(プレイステーション 2)
- プレイ人数 : 1 人
- 発売元 : フロム・ソフトウェア
- 発売日 : 2003 年 10 月 23 日
『アビス』のゲームがやりたくて家の中を探したら見つけた。
— ACID BAKERY (@cid_bakery) September 26, 2022
「ダークソウルみたい」って話なのでこれだな。#abyss pic.twitter.com/8ex4tG9O3f
PROLOGUE
泥沼の紛争が終息して数年後。戦乱に巻きこまれ滅びた少数民族の棲む森で、大規妻な遺跡が発見された。この遺跡の解明には国際的な調査団が組織され少数ながら武装した警護部隊も随行することとなった。
警護部隊の一員である"彼"は当面の平和にも飽き ガイド役の現地人スタッフと会話することくらいが慰みであった。そして、なにげなく、他のガイド達から外れ者にされているある老人に興味を持った。
老人は、この辺りに住んでいた部族の生き残りであるらしい。いわく、遺跡は部族にとって神聖な場所であり本来は他人に足を踏み入ってほしくないが、部族が散り散りになり、ここを守るすべもなくなった今 荒れるに任せるよりは、と今回の調査に参加しているらしい。
彼が老人といくらか親しくなったころ、老人がある頼みごとを彼に持ちかけてきた。遺跡に隠された部族の宝だけはどうしても持ち帰りたいのだ、と。彼は老人を哀れに思い、その夜、老人に連れられて遺跡の外れの祠へと向かった。
老人に促され、彼が祠のなかに足を踏みいれると その直後、巨大な木の根が覆いかぶさり、入り口を閉ざしてしまう。詞の外から、老人の声がかすかに聞こえてきた。
「穴は閉じた」
「供物は満たされた」
あらすじからもわかる通り時代設定は「現代」あるいは「近代」に該当します。登場する武器は古めかしい刀剣からサムライ装備、魔法の指輪や、果ては拳銃、パンツァーファウストなんてものまで選り取り見取り。それらはかつて塔に挑んだ者たちの遺品であり、シャドウタワーが古くより世界へと根差し、様々な時代で多くの人々を飲み込んできた証でしょう。
フロム・ソフトウェアとは今や「ダークファンタジー」の大家と称して差し支えないと考えておりますが、その物語の多くがファンタジー然とした舞台で繰り広げられて参りました。その作風から漏れた数少ない例外の一つが本作『SHADOW TOWER ABYSS(シャドウタワー アビス)』。ジャンルの話をするなら同社の『SPRIGGAN LUNAR VERSE(スプリガン ルナヴァース)』に近いのかもしれない。オリジナル作品では、少し時代こそ遡りますが『Bloodborne(ブラッドボーン)』も似た香りを放つでしょうか。
暗闇に潜む人知を超えた怪物。しかし当の「人知」も日進月歩。牛歩の如き人の進みは、しかしいつしか怪物の喉元まで迫ることが叶うのではないか、テクノロジーとファンタジーの掛け合わせにはそんなロマンがある……のかもしれない。
そんなわけで『SHADOW TOWER ABYSS』ですが、前作が「塔」をひたすら降っていく内容だったのに対し、今作はちゃんと登ります。はたして頂上には何が待つのでしょうか。
上か下かの差はあれど、やることは前回から変わっておりません。塔には幾つもの階層と領域が存在し、エリアごとにガラリと変わる様相の中を、武器を携え進んでいく。相変わらず使えば次々に壊れていく装備品は、これも変わらず HP を対価に修理を行う仕様のままです。そして回復アイテムは有限。つまり「管理」と「温存」が重要となるゲームシステムは本作においても健在でございました。しかも今作では前作のような回復の泉が無い。さあどうする!
……とはいえ、本作についてネットで調べると、セットかというほどに付け加えられているので隠さず言ってしまいますが、ぶっちゃけ前作よりヌルかったかな。まず絶対に言われるのが「銃が強い」ということ。そりゃそうだよ。弓とか剣が強いんだから銃はそりゃもっと強いよ。正論さ。しかしながら経験談として付け足すなら、銃の弾数を保持するために結構使い渋ったのに終盤まで行けてしまったので、普通に難度調整自体が前作より抑えめになっているんだと思っています。
当然前作を遊んだ経験が活きているというのはあるでしょうが、一部とはいえ理不尽さを感じた前作の敵配置などに比べて手心を感じましたし、あとはシンプルにエリア数が前作より少ない。ならば必然、道の入り組み方も前作程複雑でないのでサクサク進める。これをヌルいと捉えるか遊びやすいと捉えるかですが、個人的には後者だと解釈したいかな。
PS から PS2 に移行することで表現力が劇的に向上し、敵の挙動や習性が凝ったものになっていたり、今作では部位破壊の概念が導入されています。つまり演出面の強化と共に敵の弱点部位や弱点行動が明確になっているとも言え、その点が対処への気持ちのよさと突破のしやすさに繋がっているのだと思います。気持ちよくクリアできるというのは、ゲームとして正当な進化でしょう。
もっともビジュアル面の進化だけがゲーム性の全てではないので、前作の方が面白い、好きという人も当然いるでしょう。ですが「古いから」という理由でフロムゲーの過去作に手を出しあぐねている人には是非手に取ってみて欲しい一品でございます。
『SHADOW TOWER ABYSS』ですが、フロムゲーにしては珍しく「設定資料集」が存在します(他作品のコンプリートガイドとかは結構出てるんですけどね)。これを読むと本作の裏設定などを理解できるのでオススメなのですが、前作との関連に関しては……逆によく分からなくなっちゃった。
前作『SHADOW TOWER』は、「単眼の王冠」と呼ばれる覇者のアイテムを得た男が、王となり大陸を征したことから端を発したと言います。しかしやがて国は滅び、滅んだ後に興った聖地は、しかし時を経てまた滅び、その原因となった大穴(シャドウタワー)へと主人公が降りていくお話でした。
打って変わって本作『SHADOW TOWER ABYSS』では「単眼の槍」と呼ばれる、同じく人を覇者とならしめる道具がキーとなりました。で、これは本作設定資料集で明らかになった事実なのですが、言ってしまうとシャドウタワーの正体とは終末を迎えた「世界」から飛び出してきたある種の植物だったそうです。それが「この世界」に根を張り、古い時代の人類と接触します。「植物(シャドウタワー)」は現地の知恵ある生物と融合することで「この世界」に適合しようとしましたが、あえなく失敗。そして時代は流れ、ある程度発展した人類と再接触を果たし、植物は人に「単眼の槍」という覇者の道具を、そして人は引き換えに植物へと供物を奉じる、ある意味での共生関係が始まります。ですが人の解析を進めるうち、植物の内には「なりそこない」が生まれ、それらに内から蝕まれた塔は狂い始めました。そしてこの共生関係も終わりを迎えたと思われたのですが……更に時代は進み「現代」、久しくシャドウタワーは供物を受け入れます。それが主人公でした。
というね。だいぶざっくりとした引用ですが、お気づきでしょうか。この流れだと前作(単眼の王冠)の差し挟まる余地が無いわけです。まあ工夫次第でやれないこともないでしょうし、このサイトはそういうことを嬉々としてやる場所でもあるのですが、設定資料を読む限り、塔が植物だったという設定は『ABYSS』制作にあたっての「後付け」っぽいんですよね。といったこともあり、「前作と今作はこう繋がっている!」と考えるよりは「シャドウタワー」という舞台装置を、更に煮詰め、装いも新たに再誕させた新作が『ABYSS』だと考える方が個人的にはしっくりくるかなといったところ。
ただ一点、変わらず引き継がれていることがあるとするなら「単眼」の扱いかもしれません。『ABYSS』における単眼の槍とは、前述したように人を覇者にならしめる道具……ではありませんでした。
槍に力などなかった
道具はあくまで道具でしかなく、願いを叶えたのは、持ち主自身の「己を貫こうとする意志」そのものであり、槍とはその象徴でしかなかった。『ABYSS』で明かされたこの事実は、もしかすると前作においても共通するテーマだったと考えていいかもしれません。王冠の下に王が生まれるのではなく、王の頭上にあるからこそ、それは王冠なのだと。覇道も悲劇も、すべて人の意志の物語だった。それこそが『SHADOW TOWER』シリーズで描きたかったことなのでしょう。
ってなわけでサ! 過去作から新作を知る、フロムゲー温故知新の時間だよ。
ルルフォン変移
続投キャラであるルルフォンさんの新旧比較。
あと参考までにフロムの性癖である「鎌を持った強ぇ女」シリーズを置いておきます。
鎌を持った強ぇ女
巨大生物です! 巨大生物が現れました!
虫はデカく描くに限る。
ちなみに『DARK SOULS2(ダークソウル2)』の巨大虫さんは無害どころか益虫なんですが、『SHADOW TOWER ABYSS』のこいつは普通にボス。自分で言ってるとおり「フメツ」です。なのでちょっと遠回りして、不滅の秘密を潰すことで倒せるようになるんですが、まあこの不滅殺しのギミックも今やフロムゲーの伝統芸(RPG らしい RPG を作っているとも言える)。
不滅のあなたへ
エリアまるごと毒らせちゃお!
毒エリア? ご安心ください、もちろんありますよ! ちなみに前作でもありました。現社長宮崎氏の毒沼好きは広く知られるところではありますが、みんなちょっと誤解してんだよな。毒沼好きの人間が毒沼好きの会社に入っただけなんだ。
強いて違いをあげるなら、この手の毒エリアから毒を抜くギミックを仕込む情が古代フロムにも存在した(だからその精神を継ぐ『ダークソウル 2』にはそのギミックがあった)のですが、宮崎社長はそんなシャバイ精神構造をしていないということ。
お助けイベント
血と涙しかない暗黒塔の内部にも心温まるイベントは存在しました。困っている NPC へのお助けイベントです。クーン(ゲーム内通貨)をあげると、彼は御礼にと鍵をくれます。閉じた扉の先には素敵なものがあるんだろうな。ワクワクしながら開かれた先の宝箱を開けると……。
死ねばよかったのに
爆発。『DARK SOULS 2』をプレイした方には既視感のあるイベントかもしれません。ジェルドラの「死ねばよかったのに」イベントはこれを踏襲したものだったのかもしれません。
とても許せないので後を追いかけると、橋を挟んだ先に悠々と待ち受けていました。殺そ。
ノーカウントだ
この台詞のあと、橋を渡ろうとすると途中でギミックが発動し下の水場へ落とされます。『DARK SOULS』のパッチイベントを思い出します。裏切りキャラはフロムの花ですが、後々に続く息吹の一つがここにありました。
チャークー / ミエロスの剣
「チャークー」と「ミエロスの剣(『ELDEN RING』)」。セルフオマージュと考えてもいいんですが、「チャークー」にはそもそも元ネタがあるようなので、同じ出典を後年使用したという考え方もできます。
ペンダント
「プレイヤーには価値がないけど登場人物にとっては重要な意味を持つペンダント」だ! と思ったものですが、『ABYSS』のペンダントに関しては特定の NPC に渡すことで貰える装備品に変化があるので、似て非なるものですね。
余談ですが「オニキス」は瑪瑙(めのう)。魔除けなどの意味が込められているそうですが、『DARK SOULS 3』には「オーニクスブレード」なる剣が存在しました。そこには別れの意図があったといいます。
新旧輝剣
ルルフォンと敵対すると彼女はこのような魔法を放ってきますが、『ELDEN RING』の輝剣そのまま。
といったところで『SHADOW TOWER ABYSS』、いかがでしょうか。この作品はフロム全体を見渡しても比較的珍しい、ダークファンタジーでありつつ「SF」でもある作品でした。しかしファンタジー世界に SF(超科学) 要素を少し混ぜるといった作風は同社『キングス・フィールド 2』や『エターナルリング』などでもやってた気がします。逆に「今」のフロムはやらないんですよね。
『Bloodborne』や『ELDEN RING』に宇宙要素はあっても、それはコズミック・ホラー的な意味合いであって、科学的なニュアンスとは異なりました。仕掛け武器や忍び義手などのオーパーツも、 SF とは少し趣が違うでしょう。
宮崎英高氏が社長になって以降と以前でフロム・ソフトウェアは分けられる風潮があるとは思いますが、実のところそこまで芸風は変わっておらず、「フロムらしさ」は継承されていると考えます。しかしこの「SF」と「ファンタジー」の線引きにおいては結構かっちりしているのが現体制の傾向と言えば傾向かもしれません。宮崎社長の好みなのでしょうか。
もっともそれは今のところの話。今後宮崎社長の手を離れた作品も多く生まれていくでしょうし、社長自身も色々お考えがあることでしょう。もしかするとこれから先、SF とファンタジーが融合した作品なんかも生まれていくのかもしれません。「ファンタジー対戦メカアクション」の続編とかさ。