アルトリウスよ、永遠に
2026.08.23
はじめに
おはようございます。
皆様は御存知ですか? 世の中には『デモンズソウル』『ダークソウル』『ブラッドボーン』『隻狼』『エルデンリング』『エルデンリング ナイトレイン』……これらを同一世界観上の物語だとする不届きものがいるそうです。当サイトのことです。
というわけで、これから先はそういうことを書いていきます。ネタバレにだけ気を付けて、お楽しみください。
王は歩み続ける
騎士アルトリウス
灰色だった世界が「はじまりの火」により色付き、差異として万象が切り分けられた後の時代。神々の都アノール・ロンドには、四騎士と謳われる最強な奴らがいました。「竜狩り」オーンスタイン、「鷹の目」ゴー、「王の刃」キアラン、そして「深淵歩き」アルトリウス。今回はちょっとこのアルトリウス……狼騎士とも呼ばれる彼について話を聞いて欲しい。
グウィン王の四騎士に与えられた特別な指輪
狼の指輪は「深淵歩き」アルトリウスのもの
アルトリウスは、強靭な意志により決して怯まず
大剣を振るえば、まさに無双であったという
狼の指輪 - 『DARK SOULS』
四騎士はそれぞれが大王グウィンより特命を帯びていたようで、中でもアルトリウスは神々の大敵である「深淵」の狩猟者たる大任を賜っていました。
深淵とは言わば事象そのもの。闇に属する厄災です。それも人間性の闇をも暴走に導くほど「より暗く深い闇」であり、一度発生すればその土地ごと深みへ飲み込んでしまう。後々、我々が向かう小ロンドがそうであったように、原則的には封印という形でしか対処の方法が無い。或いはこの事象の原因を討伐せしめんと欲するのであれば、幾つかの工夫が必要でした。
劇中確認できる限りでは、「アルトリウスの契約」「銀のペンダント」「結界の大盾」が該当するでしょう。
かつて騎士アルトリウスが 深淵の魔物と契約した証の指輪
アルトリウスと同じように 装備者は深淵を歩けるようになる
アルトリウスの契約 - 『DARK SOULS』
騎士アルトリウスの紋章が刻まれた 銀のペンダント
アノール・ロンドの古い宝具の1つであり 深淵に挑む彼に特別に贈られたもの
使用により深淵の闇 特に魔法の類を避ける効果がある
銀のペンダント - 『DARK SOULS』
深淵に飲まれたグウィン王の騎士 アルトリウスの用いた鋼の大盾
深く傷つき、深淵に侵されはじめた彼は この盾を友たるシフを守る結界の糧とした
これにより盾は痛み、物理的に脆くなっているが 一方で魔法などには高い防御効果を持った
結界の大盾 - 『DARK SOULS』
後年明らかになる「火の封」などもそうですが、闇とは理不尽な災害でありながら、対抗手段が無いわけではない。だから闇への耐性を一切持たないアルトリウスは、これらを頼りに深淵に抗したのだそうです。歩けぬはずの深淵を歩く。故に「深淵歩き」とは伝説に名高い。
そして深淵の闇に沈みゆく黄金の国で、遂に我々は伝説と邂逅することとなります。
騎士アルトリウス - 『DARK SOULS』
しかし、ああ、なんということか。その姿は既に深淵によって穢し尽くされていました。
異常を来していることは見て明らかであり、それでも尚、狩りの主命を全うしようとする暴走の騎士。彼は同じく深淵に穢されたウーラシール市民を狩りながら、我々の眼前へと姿を曝け出します。動くもの全てを狩りの対象としているのか、或いは対峙した我々不死人が抱える人間性の闇にでも反応したのか。
「伝説」との闘いが始まります。
諸説あるのです。アルトリウスは深淵を歩けてなどいなかった。ウーラシール事変がアルトリウス最初の任務であり、だから闇に敗北した。「深淵歩き」とは彼の実績の上に存在する名では無く、その任務を受け継いだ誰かによって、その後一人歩きしただけだったのだと。
そんなことはないだろうと、個人的には思います。小ロンドもまた深淵に飲まれたこと、後のシリーズでの深淵の在り方を見るに、恐らく深淵という厄災は世界が抱える宿痾のようなもので、切欠さえあれば忽ち発生するものだと考えます。それこそ台風のような災害と同じく。アルトリウスはこれらを渡り歩き、圧巻の深淵退治を実行してきた、まさに「歩くもの」の名に相応しい働きをしていたと、当サイトは見ます。どちらとするかは各自自由だと思いますが、一つ確かなことは、ウーラシールがアルトリウスにとって「最後の深淵」であったということ。
深淵に飲まれたグウィン王の騎士 アルトリウスのソウル
深淵を狩ったというアルトリウスの伝説は しかし道半ばで終わっていた
あるいは堕ちた彼を討ち、誇りを救った物が 実際の伝説の主、深淵を狩る者となるのだろうか
アルトリウスのソウル - 『DARK SOULS』
ソウルシリーズの一大テーマには「継承」があります。敵を害して得るソウルには、経験値や通貨としての意味合いを超えて、「遺志を継ぐ」側面がある。オーンスタインとスモウが互いにそうしたように、無名の王が相棒の竜にそうしたように、そして「はじまりの火」が王をくべて継がれ続けたように。そして「継ぐ」という行為は、他者が始めた事柄を前進させる、肯定的な意志の顕れです。深淵歩きは終わらない。
おお、アルトリウスよ、永遠に。
深淵の再演 -1
激闘の末、騎士は倒れました。深淵歩きの実態は、ウーラシールで途絶していた。しかしその名が続き、広がり続けるはずの深淵が世界を飲み込んでいないのは、偉業を継ぐものがいたからです。
以降、歴史はこの事象を再演し続けることになります。「深淵」と「深淵に抗するもの」の闘いを。
深淵の監視者
アルトリウスにはもう一つ名前がありました。「深淵の監視者」です。
狼血を分けた監視者たちのソウルはまた狼血の主のソウルでもある。
狼血のソウル - 『DARK SOULS 3』
ファランの狼血の主 深淵の闇に汚れた騎士の大剣
狼の騎士は、最初の深淵の監視者であり その剣もまた闇の眷属に大きな威力を発揮する
狼騎士の大剣 - 『DARK SOULS 3』
狼血の主こと、深淵の闇に汚れた騎士。つまりアルトリウスですね。ある不死者たちはそれを分け合い、狼の騎士アルトリウスの後継となったようです。
我々が散々失い、或いは拾ってきた血が示す通り、血液にはソウルが宿ります。狼血を拝領した不死隊は自らに血の力を取り込み、深淵に抗する者としての任を継ぐ。そしてやがては薪の王にまで到達しました。火によって闇を祓おうとしたのでしょうか。
血を分け誓った深淵の監視者たちの王の資格は、その狼血にこそあった。
王の薪(深淵の監視者) - 『DARK SOULS 3』
不死隊が薪の王に至ったのは彼ら自身の能力というより、大元である狼血にその資格が秘められていたからだそうです。そして御存じの方も多いでしょう、「アルトリウス」とは、かのアーサー王伝説における、アーサーの幼名です。出典を辿るのであれば、アルトリウスの名は血に宿す王の適格への仄めかしだったのでしょうか。
というわけで、曰くアルトリウスは最初の深淵の監視者だったそうです。それが元々あった呼び名だったのか、後世に監視者という役割が生まれたことから、遡って最初の存在をそう呼び表したのかは不明ですが、とにかくファランの不死隊は、血を介して自らにその力と役割、そして運命を呼び込むことになります。
関連テキストを読むに、不死隊は多くの犠牲も厭わず、世界を深淵の浸食から遠ざけてきたようです。しかし火継ぎの後、棺から蘇った彼らが取った行動は、凄惨な同士討ちでした。
来る深淵との闘いの為に恒常的に行っている訓練……のようには見えません。狼血がアルトリウスの血であり、彼の死後採取されたものであれば、そこには深淵が混入しているはず。必然、狼血の拝領とは、深淵に抗する力と同時に、深淵そのものを取り入れる行為だったわけです。深淵を監視する者は、常に深淵からも監視されている。深淵に挑むものたちは、やがて深淵に飲まれる運命にあり、飲まれて尚、深淵を狩り続けることになる。最初の監視者がそうであったように。
ただ、彼らとの決戦場についてはもう一つ言えることがあります。進行すれば分かりますが、カーサスの地下墓や覇王ウォルニールの様相を見るに、あの場所は深淵と繋がっていました。薪の王たちは目覚めた後に故郷へと帰るそうですが、その直下が深淵であったことも無関係ではなさそうです。深淵の監視者たる彼らは、半ば暴走状態であろうと、やはりその任務を継続し、何人も深淵へ近づけさせまいとした、そう考えることもできるでしょう。深淵へ向かおうとする者を阻む、これもまた「抗する者」の役割なのか。
それとも深淵に抗する者の故郷とは、また深淵なのでしょうか。
栄華の大剣、ホークウッドの盾
少し本筋からは外れますが、アルトリウスは血だけでなく、その道具もまた後世に残したとされています。
由来の知れぬ古い大剣
数多の所有者を経て フォローザの放浪騎士ゴルディンに渡ったが 彼の死を境に途絶えた
使い手は皆、名を馳せた剣士となったが 彼らは左利きの剣士であったという
栄華の大剣 - 『DARK SOULS 2』
外見と性能から、失われた由来とはアルトリウスを指すことが推定されます。更に栄華の大剣は左手に装備することで、そのモーションを狼騎士独特のそれとすることが可能です。『1』で対峙した際、アルトリウスは左手を損傷していたわけですが、実のところ左が利き腕だったアルトリウスは、深淵に飲まれた後に実力を十全に発揮できていなかった、つまり我々が対峙した彼は万全の状態ではなかったのだ……という説が一部ファンの間では好まれるところでした。要は栄華の大剣が実質左手用装備なのは、その説を補強するファンサービスなのだと受け止められているわけです。
面白い説だと思うので否定する気もないんですが、一点付け加えたいことがあります。『3』に登場する NPC、ホークウッドはファラン不死隊の一員でありながらその任を投げ出した背景を持ちます。つまり彼も血を介して狼騎士を継いだ者の一人であるわけですが、彼の装備にはこういった記述があります。
不死隊の脱走者、ホークウッドの盾
本来、不死隊の監視者たちは 独特の剣技のため盾を持つことはない
この盾は、彼の折れた心そのものだったろうか
ホークウッドの盾 - 『DARK SOULS 3』
短刀を楔とした独特な剣技が特徴であり 左右二刀時の左攻撃にそれを見ることができる
ファランの不死隊の名を知らしめたその剣技は 狼の狩りに似て、敵を大きく翻弄するだろう
ファランの大剣 - 『DARK SOULS 3』
最期の決闘以外の場面において、ホークウッドは右手にファランの大剣、左手に盾というスタイルを通しました。不死隊は左右それぞれに剣を持つ変則の二刀流なので、ホークウッドのそれは彼が隊より離反した際に狼の剣技をも棄てたことを意味するのでしょう。しかし思い返せば、祖たるアルトリウスは、盾(結界の大盾)を所有してたことが知られています。対深淵の為の急遽の策だったのか、普段使いしていたのかまでは分かりませんが、元々のアルトリウスは「剣と盾」といった騎士然としたスタイルであったことが一つ想像できるでしょう。つまり隊を離れ、隊の技術を手放したかに思えるホークウッドですが、離れた先で実践する「剣と盾」というスタイルは、皮肉にも大元のアルトリウスに寄ってしまった。むしろ血を舐めた正当な後継者であるはずの不死隊は「盾を持つことはない」独特の剣技に辿り着いてしまっている。なんなのこれ。
単純に捉えて、時を経るに連れて物事というのは変質し、正しく伝わらないという程度の話かなと思っています。特に『DARK SOULS 2』の盾なしローシャンの事例が有名であるように(盾なしと呼ばれた彼のものと思われる遺体からは盾が拾える)、逸話や伝聞には裏があるというのが、悠久の時を語るソウルシリーズの小さなテーマの一つでしょう。栄華の大剣により名を馳せた者たちの誰もが左利きであったのも、アルトリウスは末期に左腕を欠いていたといった逸話がいつしか力を持っただけのことなのかもしれません。物事には常に想像の余地があるというお話でした。
深淵の再演 -2
だが、やがて火は消え、暗闇だけが残る
OP より - 『DARK SOULS』
火の時代は終わり、かつて世界を満たした火を由来とする神秘は失せ、後には闇だけが残る。これは世界が灰の時代に戻るという話ではなく、ただ神秘が闇に由来するものに限られるという意味だったのでしょう。古く世界蛇のカアスはこれを闇の時代と称したようですが、時が進むに従い見解も状況も変わるようで、カアスの遺志を継ぐロンドールは火の簒奪を目論み、薪の王が一人エルドリッチは火の次代に闇ではなく「深海」を予見しました。
古来より闇とは不定形な力であり、同時に生命を生み出す原始のスープでした。だから人間性は使用者に生(HP)を与えるし、人間性の宿主であるヒトは虫や植物、様々な形状に姿を変えます。そもグウィンたちは闇から生まれたのですし(初代 OP 参照)、だから「深み」はおぞましい蟲の寝床となり、黒炎や罪の火と言った形で、炎を真似ることさえする。
闇だけが残った世界とは、無明の世界ではなく、一見してこれまでと変わらず、しかし闇の中で差異が生まれ枝分かれしていく、言わば闇が多様性を獲得していく時代なのでしょう。暗く、だが様々なモノが生まれゆく豊穣は、なるほど「深海」と呼ぶに相応しい時代なのかもしれません。
しかしバリエーションが増えたとはいえ、どこまでいっても闇は闇。蟲の形になろうが炎のフリをしようが闇は闇以上のものではなく、故に深淵は深淵である以上、世界を蝕み、脅かすことに変わりはない。
様々なものが変わっていく中で変わらないものがあり、そして深淵がそうであるなら、「深淵に抗するもの」もまた同じ。時代の随所に深淵は現れ、抗する者もまた発生する。形を変えながら、ずっとそれを繰り返していくのです。ここが今回のメインテーマ。
罪の都
例えば、罪の都ってウーラシールだったじゃないですか。
そのままの意味で言っているわけではなく、あの場所はとても「ウーラシール的」です。ある人物は罪の都の種火を受け、こう述べました。
「…あんた、この種火は… 暗すぎる。むしろ深淵に近いものだぜ…」
アンドレイ - 『DARK SOULS 3』
言葉通り罪の火とは、炎の形状をした深淵と言っていい代物なのでしょう。罪の火が持つ「消えない」性質は、火の時代の後も残り続けるという、闇の不滅性が形を為したものでしょうか。ウーラシールが深淵に飲まれたように、罪の都もまた罪の火という深淵に飲まれました。「腕」の怪物たちの有り様は、巨大な「腕」を持つ深淵の主マヌスの示唆でもあり、ウーラシール市民達の腕が奇妙に肥大化していたことの示唆でもあります。そしてダークレイスたちがダークハンドを持つように、深淵に「腕」は付いて回るのです。
故に、この都には「抗する者」の痕跡もありました。
東の地に伝わる独特の大弓
彼らの神話によれば、角を持つ巨人 鬼を討つために使われたという
鬼討ちの大弓 - 『DARK SOULS 3』
こちらの名も知れぬ東の鬼狩りは、火に飲まれた都の深淵を鎮める為に訪れたのでしょうか。或いは我々が関知しない「深淵の主」が、この都には棲息していたのかもしれません。
深淵の主マヌスは「腕」という特徴の他、「赤目」、そして「捻れた角」という特徴を有しました。「角」は鬼討ちの大弓で示唆されている特徴と同じ。もしかすると深淵の影響下で顕れる角持つ怪物を、東の地では鬼と呼んだのでしょうか。
果たして鬼討ちは為されたのか、或いは、やはり道半ばで倒れたのか。だとしてその任を、誰かが引き継ぐことはあったのでしょうか。
我々はそれを知ることはありませんが、知る必要もないのでしょう。深淵と抗する者の戦いは、世界中のあらゆる場所、時代を問わずに今も起き続けている。世界が滅びていないということは、まあ何とかなったはずですから。
絵画世界の監視者たち
一方で、絵画世界にも抗する者は存在します。
ミルウッド騎士たちの黒樫の大弓
大矢だけを使用できる
それはミルウッドの騎士たちが 仇敵たる、深淵の竜に対する武具であったという
ミルウッドの大弓 - 『DARK SOULS 3』
奇しくも同じ大弓使い。それだけ敵が強大である証左かもしれません。
とはいえ深淵の竜と言われても何のことやらですが、ミルウッドたちはそれを仇敵とする者達だったそうです。ミルウッドたちは狼を連れて歩く姿が目立ちますが、狼騎士アルトリウスの傍らに愛狼シフがあったことの名残でしょうか。深淵に抗する者と「狼」が切って切り離せないものであるなら、ミルウッドと狼の繋がりもまた、抗する者としての示唆なのかもしれません。
戦国ウーラシール
戦国時代、日ノ本の葦名という国は、ウーラシールでした。
さあ、ギアをあげていきますよ。
もちろん両者は多くの点で異なります。白い大蛇、首無しで動く巨大な猿、注連縄で出来た形代、手から米を出す御子など、日本にお住まいの皆様方であれば馴染みが深いかもしれませんが、ウーラシールには存在しませんでした。
しかし一点、強烈に共通するものがあります。「巨大な左腕の怪物」です。
怨嗟の鬼
深淵の主
火の時代、深淵は罪の炎へと姿を変え、都市を一つ、永遠に焼き尽くしました。そして時代を経て、名を変えて、深淵は再び炎の形を取ります。深淵が人間性を暴走させ怪物を生み出すなら、罪の火もまた宿主を怪物へと変えるが道理。「巨大な左腕」と、「拗くれた角」と、「赤い目」を持つ怪物へと。怨嗟の鬼とは、深淵の主の再演でした。
しかし深淵の招来は、同時に「抗する者」を呼び込むことになります。それらは二つで一つ、共に分かち難い。やはりこの時代においても、運命は「狼」を誂え、遂には深淵狩り、いえ、鬼討ちは為されることになります。
しかし深淵を覗く者は深淵によって覗かれている。こちらの分かち難さもまた、強固な運命の一端ではあるのでしょう。代々の監視者が常にその危険性を孕んでいたように、狼は深淵に、怨嗟と罪の中へと常に片足を浸しているのです。
堕ちた狼
血の医療のウーラシール
ですので、ヤーナムってウーラシールじゃないですか。
ビルゲンワース発祥の飲み薬。気を静める効果がある
神秘の研究者にとって、気の狂いはありふれた症状であり
濃厚な人血の類は、そうした気の乱れを鎮めてくれる
それはやがて、血の医療へと繋がる萌芽であった
鎮静剤 - 『Bloodborne』
そんなわけないんですよ。「濃厚な人血の類」が気の乱れとやらを鎮めると書いてある。そんなわけがない。ないんですが、だってそう書いてあるから。
ですがこれも過去作に当て嵌めれば何のことはありません。古く、不死人は人間性を得ることで理性を留めていました。
ソウルとは血に溶けるもの。「血痕を回収する」ことでソウルや人間性を取り戻していたように、つまるところ我々は、人血を介して人間性を得ていた。その意味において、人血は火の時代から続く、由緒正しき「鎮静剤」なのでした。
だとすれば、ソウルだとか不死人だとか、今や誰もそんなことを覚えちゃいない時代に至ろうとも、誰かが気づきます。人の血にさえこのような効能があるなら、特別な血には特別なものが宿っていて、それは人に特別な効能を与えるのではないか。「血の医療」の始まりです。
かくして血の医療は劇的な効果をもたらしましたが、覗いてはならない場所を覗く行為でもありました。どこを、何を覗いてしまったのか。結果から逆算してみましょう。
聖職者の獣 - 『Bloodborne』
「巨大な左腕」「捻れた角」「赤目」。聖職者の獣は深淵の主と幾つかの特徴を共有します。血とはソウルを宿すもの。人間性の闇がそうであったように、ヤーナムの血の医療には、深淵の闇が宿っていました。
一応言っておくと、血の医療にウーラシール関連の血液が用いられていると言った意味ではございません。火が消え、闇ばかりが残るなら、今ある神秘は全て、深淵に通じている。怨嗟の炎がそうであったように、上位者と呼ばれる者達とその眷属もまた、深淵が獲得したバリエーションの一つなのでしょう。今や世界は、エルドリッチが予見した「深海」の中なのです。
医療教会初期、上位者は海と紐付けられていた
故に頭の患者は、自らを水で満たし、海の声を聞く
脳液 - 『Bloodborne』
だから血の医療、その由来が何であろうとも、末路はどうしたって「ウーラシール的」なものとなります。医療教会は医療の名のもと、深淵を輸血してしまった。古都ヤーナムとは、ウーラシールの再演でした。
すると必然「抗する者」の存在も求められるわけですが、これは血の医療によって生まれた狩人それ自体が該当するものと言えます。血によって力を得ながら血によって狂っていく様は、深淵の監視者に在り方としては似ています。実際のところファラン不死隊が狼血を分け合う様は血の医療の原型だと思っていて、彼らの装束がヤーナムの狩人を想起させるのも、ファランの森に「狼憑き」と呼ばれるエネミーが配置されていたのも、その示唆でしょう。
狼憑き。曰く赤目とは、「成りたいものに、成れなかった者」だという。
あの森はヤーナムの源流。狩人がそうであるように、力ある血に適応できなかった者の末路は、人間性の暴走であり、それは理性無き獣。獣性とは人間性の成れの果てと見つけたり。今も昔もルールは変わらないのです。
しかし血の医療の街において、特別な狩人がいました。灰色の狼デュラです。「狼」の名を持つ彼は、狩人でありながら獣を守護する立場にありました。人間性を失い、獣に成り果てようとも、人は人である。深淵の医療によって力を得ながらも、その血に酔わず、溺れず、犠牲者を庇護しようとする。深淵にバリエーションがあるのなら、その抗い方にもまたバリエーションが生まれるべきで、彼はその体現者でした。人には人の狼があるのです。
夢の中でもウーラシール
「左腕の怪物」が棲むヤーナムをウーラシール的であるとした上で、悪夢とは、より一層ウーラシールでした。大聖堂で燃える聖職者の獣(左腕の怪物)はさて置き、ここではまず頭を見たい。
肥大した頭部 in ウーラシール
肥大した頭部 in 実験棟
加えて言えば、実験棟の頭の大きな患者たちもウーラシール市民のように腕が長く、それを振り回して来る。やっぱ「腕」よ。では哀れな患者達を越えた先に何があったか。
漁村が広がっていました。
そしてその最奥には上位者ゴースの死体。医療教会はこれを恭しく拝領し、実験棟はその治験を行う場所だったと見ています。結果、患者達は頭を海で満たし、繋がってしまった。
「死体漁りとは、感心しないな」。漁村直前に言い渡されるこの言葉は、教会の行う聖体拝領に対するものだったと思われますが、一帯の凄惨な状況を見るに、かつてこの場所がビルゲンワースにより「漁られた村」であったことも暗に示していたのでしょう。
だから、この場所はウーラシールにとても似る。なぜならあの黄金の国もまた、死体漁りによって滅んだ場所なのですから。
「貴公も、おそらくは目にしているだろうが 友アルトリウスを蝕んだ深淵の闇は いまやこの国、ウーラシールを飲み込もうとしている。…おそらく、滅びは避けられまい。だが、たとえ、闇の蛇に唆されたとて 彼らは自ら望み、あれを起こし、狂わせたのだ。…滅びは自業というものだよ…」
鷹の目ゴー - 『DARK SOULS』
「深淵など、まさにウーラシールの自業自得。出っ歯の大蛇に謀られ、墓を掘り、古人の躯を辱めるなどまさに恥知らず、愚者ではないか」
素晴らしいチェスター - 『DARK SOULS』
世界蛇の唆しがあったとはいえ、それでもウーラシールは自らの意志で墓を暴きました。そしてその冒涜はウーラシールを滅ぼしました。「死体漁り」が悪夢を呼び込んだのです。
こうも出来事が重なるなら、当然「抗する者」もまた存在するはず。我々狩人の漁村探訪を阻んだ唯一人の人物、そう、時計塔のマリアこそ、この場においての「狼」でした。
興味深いのは、時計塔のマリアとは悪夢の中にしか存在しない人物であったということ。勿論「マリア」は現実に存在するでしょうが、現実の彼女について理解できていることは幾つもありません。医療教会が忌む「血族」であったこと、そして血族でありながら、ゲールマンに師事したこと。そしてもう一点、彼女は漁村の井戸底に愛刀を棄てていること。
時計塔の女狩人、マリアの狩武器
カインハーストの「千景」と同邦となる仕込み刀であるが
血の力ではなく、高い技量をこそ要求する名刀である
マリアもまた、「落葉」のそうした性質を好み
女王の傍系でありながら、血刃を厭ったという
だが彼女は、ある時、愛する「落葉」を捨てた
暗い井戸に、ただ心弱きが故に
落葉 - 『Bloodborne』
マリアは血族である自らの血を厭っていました。そんな彼女が落葉を好んだのは、その武器が血質ではなく技量、即ち自らが有する「人間」の証明だったからでしょう。それを棄てたわけです。
故に棄てた筈の落葉を振るう「時計塔のマリア」とは、実在した「マリア」とは別人なのでしょう。夢の世界においては、現実に存在しなかった、ある種の理想が具象化します。存在するはずもない、既に獣化したはずのローレンスの頭蓋が夢の中に存在したように、或いは義父が手折った常桜を持ち帰る事が叶ったように、棄てた筈の落葉を平然と振るう「時計塔のマリア」とは、即ち夢の中にしか存在しない、「人間であることを手放さなかったマリア」なのだと推定します。
血の医療の果てに訪れる悪夢とは、即ち深淵に属する概念と考えますが、その悪夢のド真ん中に座し、最奥へ何人も立ち入らせまいとする存在を悪夢自身が誂えたというのが皮肉めいているではありませんか。
そうした上でもう一点。葦名の狼や、旧市街のデュラがそうであったように、その出自に依らず、深淵に抗する者とは自然発生的に出現します。しかし時計塔のマリアに関してはどうでしょうか。「血族」とは、そして彼女たちを生み出した「禁じられた血」とは何だったのか。
なぜマリアは二刀なのか。なぜ血が燃えるのか。「禁じられた血」とは、どこから来たのか。
非常に単純に考えています。同じ血が、同じものを作るのなら。
時計塔のマリアとファランの不死隊
狼血です。最初の深淵の監視者、アルトリウスが遺した血こそ「禁じられた血」の正体であり、その血の熱さは王の熱でした。ウーラシールと重なる悪夢、より深みへと続く道に立ち塞がる威容。アルトリウス、不死隊、時計塔のマリア。全て血の連なりが見せる「再演」でした。
メタ的に捉えるなら、源流の戦闘スタイルから乖離した不死隊たちの独特の二刀流は、アルトリウスというより、マリアの二刀に寄せる意図があったんじゃないかと想像しています。最初の監視者そのものではない、血の医療によって作られた後継たちが共通して至る独特の剣技だったのです。
現実のマリアが落葉(人間性)を棄てているのも、深淵を取り込んだものが、最後には深淵に飲まれたことを示す構図なのでしょう。井戸とは深淵のメタファーなのです。しかし何たる奇妙か、夢の中でのみ実像を結んだ「棄てなかったマリア」は、結果として深淵に抗う存在となります。深淵を覗く者が深淵に飲まれる運命にあるように、深淵もまた自らに「抗する者」を生み出す性質を孕んでいるのでしょうか。
御子の忍びや灰狼のデュラのように、運命が無関係な個人を「狼」に誂えたわけではない。血の拝領による正当な後継、それが不死隊とマリアです。狼血がカインハーストを作ったのなら、女王アンナリーゼがいずれ産み落とす血族の子は、果たしてどのような存在になるのでしょうか。
血を分け誓った深淵の監視者たちの王の資格は、その狼血にこそあった。
王の薪(深淵の監視者) - 『DARK SOULS 3』
時計塔のマリア。悪夢の監視者でした。
黄金の地、再び
火の時代の終わり、火を失った世界の全てが一カ所に引き寄せられていきます。そうしてあらゆるものが吹き溜まった、さらに後。
歴史も土地も混ぜこぜとなり、圧縮され、原型すら留めない程に煮詰まっていき、後には巨大な「坩堝」が形成される。そのような形でグレート・リセットされた後の時代が『ELDEN RING』だと思ってますが、新たな地平に開拓されたのは、新たなウーラシールでした。
「手」と「指」
狭間の地、または黄金の地で紡がれる『ELDEN RING』という物語。こちら、至上最大スケールで送られる「ウーラシール・リバイバル上映」となっております。
まずは、ヨっ待ってましたの「腕」の怪物。正確には「指」ですが、指に纏わる建造物に「マヌス」の名が付いているのは結構明示的だったと思っています。またも黄金の地の中枢には「マヌス(指)」が巣食っていたわけですね。
しかし『ELDEN RING』はスケールが違う。火が失せて今や長く、闇が多様性を極めた今、狭間の地はそれ自体が深淵同士による蠱毒の現場となっていました。腕とは確かに深淵が持つ特徴として挙げてきた重要なアイコンですが、それは数ある特徴の一つでしかないのです。
まず闇が持つ特性の一つとして、「宿主の肥大化」を挙げたい。これは特に人以外の生物が(時に人であっても)不相応に闇を宿した際に起きる現象で、例えば『ダークソウル』のネズミなどが代表例でしょう。人を食っている、その示唆の語り手をずっと押しつけられたネズミは、それ故に本来小さな身体を肥大化させ、倒せば人間性を始め、人間の所有物をドロップするなどしてきました。
ヤーナムのネズミも同じで、また豚やカラスも同様です。血の医療に潜む「闇」により、動物は途方も無く肥大化する。では逆転の発想として、動物が異様に肥大化した土地は闇により汚染されていると言えそうです。なぜ葦名の牛や鶏は巨大なのか。あの土地を流れる水には秘密があり、竜胤が葦名の源流に根を張り、淀みをもたらしているのなら、竜胤もまた闇に由来するのでしょう。血と水の違いこそあれど、『ブラッドボーン』と『セキロ』の舞台は同じもので汚染されていました。
さて、狭間の地。狭間の動物もまたアホみたいに巨大ですが、それらデカい動物が棲むエリアには明確な共通点がありました。それは、そのどれもが「状態異常の土地」であるということ。
例えばケイリッド。先の戦争で腐敗に穢されたあの場所には巨大な犬や鴉がいました。例えばモーグウィン王朝。血に塗れたあの地下空間にも同様に巨大な犬と鴉がいます。そして巨人たちの山嶺。冷気で充たされたあの土地にも巨大な犬と鴉。どこもかしこもデカい動物ばかり。
ウーラシールの魔術師が狂気の内に見出した 深淵の魔術。闇の霧を発生させる
人間性に近しいはずの闇の霧は だが、人にとっては恐ろしい毒となる
多くの人が、よく人を蝕むがごとく
闇の霧 - 『DARK SOULS』
状態異常と言えば、闇が持つ性質の一つに毒性があります。それはそのまま有毒の霧であり、深みにおいてその毒性は醸成され虫となり、文字通り他者を「蝕(虫食む)」存在となる。毒ダメージと出血ダメージの違いこそあれど本質は同じ「蝕み」なんです。やがて闇はより獰猛さを増し、神性さえも獲得し、「腐敗」となり、「血炎」となり、また「冷気」としてフロストバイト(冷たく蝕む)するようになっていく。冷気に関しては前者二つよりも比較的新しい性質だったことは記憶に鮮明でしょうか。
イルシールの奴隷たちが作る秘薬
冷たい谷には、月の虫が蔓延っている
青虫の丸薬 - 『DARK SOULS 3』
闇なのです。元を正せば全て闇。悠久の時を経てバリエーションを獲得していくものの、その根源には闇らしい性質を残している。その一つとして「肥大化」があり、闇(状態異常)に蝕まれた土地に棲息する動物たちはおぞましいほど巨大に成長していく。この流れの中に葦名があり、ヤーナムもまた存在するのです。
またこれは記事にしていない筈なので初出のお話になりますが、「抗する者」の一角として赤獅子を取り上げたい。深淵がバリエーションを獲得するなら、当然、抗する者もまたバリエーションを獲得します。その一つが、腐敗に対し炎を以て抗する赤獅子だったのではないか、というお話。
彼らの戦技の一つに「赤獅子斬り」「猛獅子斬り」がありますが、それらのモーションがアルトリウスの剣技そのままだったのは、単なるセルフオマージュに見せかけて、本当にただ「そのまま」の意味だったのではないかと思います。深淵が腐敗に姿と名を変えたなら、抗する者もまた姿と名を変える。どこかに名残りを残したまま。
そういう意味で言えば、変わらぬ姿でいてくれた黒炎の存在感が際立つでしょうか。黒炎は、そのまま在りし日の人間性の炎です。HP を少しずつ削るという「蝕む性質」を獲得こそしているものの、ほぼ原型を留めています。神狩りの効果も納得です。黒い炎の原料となる「闇」への根本的な耐性は人間だけが持ち、故にそれは人ならざる者への特攻、即ち「神狩り」の業となるわけです。
気になるのは「狼の戦鬼」バルグラムが、わざわざ狼の名を冠しながら黒炎を振るった点ですが……なんででしょうね。それは過去の深淵に穢された狼騎士の再演だったのか、それとも闇由来の力を手にしながらも、彼は何らかの形で「抗した」のか。
夜が来る
深淵は多様性を獲得しながらも、闇としての性質を残します。それは蝕みであったり、取り込んだ者の肥大化であったりしますが、闇が持つ素晴らしい力はこれだけに留まりません。
人間性。『ダークソウル』においてそれは、保有数に比例してアイテム発見率を上昇させてくれる力を持ちました。これは深淵によって人間性を暴走させた者が巨大な腕を顕現させることと無関係ではないでしょう。「欲しい」。これこそ人が持つ本質であり、「肥大化した腕」は欲求の強さの顕れであり、そして強い渇望は実際にそれを引き寄せさえする。ささやかなアイテムドロップ率アップの性質を大仰に表現するのであれば、運命を変えているのです。
夜の王が持っていた資質
可能性を色濃く宿し 運命を変える力を持っているという
そして、灯は薄らと指し示す
王の先に待つ、大いなる存在を
夜の気配 - 『ELDEN RING NIGHTREIGN』
夜、来たれり。
それは願いを叶える為にやってきました。人間性が持つ「蝕む」性質が、いつしか「腐敗」という形で神格をも得たように、或いはアイテム発見率を向上させる程度であったはずのその力は、やがて強大な「夜」と成り、運命を変え、終には黄金律を崩壊の際まで追い詰めようとしています。
運命を変える力を宿す夜の王たち。代表選手の話をするなら、この男でしょう。
フルゴール - 『NIGHTREIGN』
分かりやすく、肥大した左腕を持つ「マヌス型」の強敵です。深淵は多くのバリエーションを持ちますが、根底の性質を共通します。だから時に自らの宿主に大いなる腕(マヌス)を与えるのです。怨嗟の炎は鬼を、血の医療は獣を、そして夜は騎士を王に至らしめました。
思い返せば「マヌス型」は皆、聖職者だったように思います。夜が闇より引き継いだ信仰補正(祈りを聞き届ける性質)が、聖職者にこそ恐ろしい力を与えるのでしょうか。だとすれば元祖たるマヌス自身もまた? という想像も出来ますが、これは別の話。
マヌスついでに触れておくと、 DLC「The Forsaken Hollows」で追加されたボス「瓦礫の王」のビジュアルはマヌスに似ていると言った意見を聞いたことがあります。同意するところなのですが、肝心の「肥大した腕」を有していません。そしてこれは非常に大きな意味を持つと思っています。前段の話にはなりますが、恐らく「マヌス型」とは、深淵が個人に宿り、その願いを暴走させる形で生み出される怪物です。与えられる「左腕」は、個人が持つ願い・欲求・祈りの大きさを示すのでしょう。
瓦礫の王- 『NIGHTREIGN』
深淵の主 - 『DARK SOULS』
しかし瓦礫の王は違います。あれは夜によって挽き潰されてきた犠牲者たちの屍が、まさに瓦礫のように積層した結果生まれた「集合体」です。夜(深淵)由来の怪物であることは確かでしょうが、個を持たぬが故、個の腕(願い)も持たない。そういう意味ではフルゴールと良い比較対象と言えます。ですが瓦礫の王が左腕を伸ばしているように見えるのは、王を形作る、原型も留めぬ瓦礫が、それでも願いの寄せ集めであったからでしょうか。
というわけで、夜は願った者、或いは願いの犠牲者たちすらも王に変え、世界を食い潰しながら黄金樹へと迫ります。恐らく夜の力を律とする為に。実現すれば以降、夜は驚異ではなく、「当たり前に存在する法則」となるはず。皆が皆、各々に願い、聞き届けられる結末が間近に迫っています。それは捉えようによっては素晴らしい世界なのかもしれませんが、両立できない願いが衝突した場合、その矛盾に世界は耐えられるのでしょうか。たぶんロクなことにならない気はします。だから夜の侵攻を阻む為に、我々は今日も夜を渡るのです。夜に「抗する者」として。
鉄の目- 『NIGHTREIGN』
しかし心せよ。深淵を監視する時、深淵もまた。
澱みの王
豆知識でも無いんですが、瓦礫の王は英訳すると「Dreg Load」となるそうです。「Dreg」とは液体の沈殿物、澱、転じて「社会のクズ」と言った意味のスラングにもなると聞きました。そういったスラングを日常的に使っている皆様には説明の必要もないでしょうが、つまり夜に踏み潰され、原型も残らず「クズのように」死に散らかった人々が積み重なり生まれた報復者の王……即ち瓦礫の王(Dreg Load)であるわけですね。
話を変えるようですが、『DARK SOULS 3』には「人の澱み」という誓約アイテムが登場します。
人の内にある最も重いもの。人の澱み
それはどんな深みにも沈み 故にいつか、世界の枷になるという
人の澱み - 『DARK SOULS 3』
全くのイコールであるかは見解が分かれるところでしょうが「人間性」のことです。人間性は重く、故にそれを元手にした魔術や炎もまた「重く」、防御者のスタミナ削りなどの役に立つわけですが、だから人の内にあるこれは自重に任せて深みへと沈殿していきます。というより、これが濃く溜まった場所は「深淵」となるのです。
さてこの人の澱みですが、英訳すると「Human Dreg」なのだそうです。それは人から零れ落ちた、沈殿物。それはどんな深みにも沈み 故にいつか、世界の枷になるという。
「Dreg Load」。人の澱みの王でした。
深淵歩きアルトリウス
時代が前後しましたが、以上が深淵とその変移のお話でした。ただしこれらはあくまで深淵と「抗する者」を巡る話に限った事例です。火の次代を脅かす深淵全般については、他の記事を御覧になってください。
今や火は消え、闇ばかりが残る。分かりやすく言えば、深淵とはあらゆる暗がりに偏在し、雨が降るような気軽さで世界を飲み込もうとする災害です。我々はこの先もずっと、どれほど時代が進もうとも、「抗する者」として深淵を監視し、闘い続けなければならない。
おお、始祖たるアルトリウスよ。道半ばで倒れた貴方の遺志は、きっと誰かが受け継いでいくことでしょう。終わらない戦いです。闇は常しえに残り続け、形を変えて牙を剥き、しかし抗する者が絶えることもまた有り得ない。だから、偉大なる狼騎士よ、安心してお眠りください。あなたの遺志はこれからも形を変えながら、永遠に残り続け――。
アルトリウス、参戦
おい!!!!!!!!!
やってくれたな。
騎士アルトリウス。最初の深淵の監視者が、リムベルドに降り立ちました。
注目すべき点が少なくとも二つあります。まず一つ。彼が出現する際に前座として影の地の貴人たちがぞろっと現れ、これらを叩き潰す形でアルトリウスは降臨します。この演出意図に関してですが、貴人たちをウーラシール市民に見立てているのでしょう。貴人達が腕をぶんぶんと振り回すモーションは、ウーラシール市民たちのようであり、実験棟の頭の患者達のようでもあります。影の地の民の、闇に塗り潰されたような有り様は、深淵に侵されたウーラシール市民に似て、狼の狩猟対象として差し支えないでしょう。そして何よりこの時、全てのボスの中でアルトリウスだけが、夜の闇から現れていない。
もう一つは、去り際です。撃退を果たした後、アルトリウスは倒れるのでも消えるのでもなく、夜ともまた異なる闇の中へと消えていきました。
アルトリウス、退勤
ピンときた方もいるはず。あの闇は恐らく、かつて不死人が数百年前のウーラシールへと連れ去られた時に在った「入り口」です。
『DARK SOULS』より
『ELDEN RING』本編で一部のボスがそうであったように、「死」以外の結末が用意されたキャラクターは、消滅や死亡ではない、別の結末を用意されていたように見えます。アルトリウスもまた、リムベルドでは「死ねなかった」。
少し救いがある結末を想像するのなら、リムベルドに降り立ったアルトリウスは膝を着いた後に深淵ポータルに回収され、ウーラシールへと帰還。その後、対峙した不死人によって改めて討伐される。アルトリウスはソウルを遺し、王の刃キアランによって弔われる。結末は変わらなくとも、矛盾は発生しない穏当な繋げ方ではないでしょうか。
しかしあえて悪い想像をするのなら、そうはならなかった。『ナイトレイン』は過去作のボス達が登場しますが、誰もが夜の闇から溢れ出すように顕れました。それは過去の存在を、夜がさながら願いを叶えるように具象化しているのか。『ブラッドボーン』や『隻狼』などから登場しないのは、権利関係云々ではなく、あれらの物語が未来に位置するからではないか……とかは置いておき、なぜアルトリウスだけが異なるのか。彼もまた過去の再現・模造品のようなものであるなら、同じように夜の闇から出現させればいい。そして一度死んでいるはずの過去作キャラクターのように、一夜限りのゲストとして静かに散滅させれば宜しい。しかしアルトリウスだけがそうならなかった。彼だけが夜ではない場所から現れ、夜ではない場所へと帰って行きました。
推測ですが、恐らくリムベルドのアルトリウスは、ウーラシールで不死人に倒された後のアルトリウス本人です。ソウルを遺してきっちり死んだはずとか幾らでも反論材料はあると思います。しかしそこはそんなに重要に感じません。倒されたはずの「白竜」や「死者」たちのソウルが、『DARK SOULS 2』で再登場した前例もありますが、あれらと狼騎士には共通項があります。王の資格です。グウィンやシースたちと異なりアルトリウスは「最初の火」に触れたわけではないと思いますが、それでもその血には王の資格が在ったと言います。故に、常軌を逸した生命力を有していてもおかしくはない。或いは不滅なる深淵の効能か、それとも深淵と王たるが結びついたことで、理屈を超越した絶対不滅の存在にでも至ったのか。
まあこれらは理屈です。考察記事でそんなこと言うなって話ではありますが、とにかく、道半ばで倒れたはずのアルトリウスはその実、完全に滅んではいなかった。むしろ生死を超越する形で「残って」しまったのではないか。ならば滅び無き狼騎士の残骸が、それでも遂行することは唯ひとつ、深淵狩りでありましょう。それこそ彼が大王より賜った大任であるのだから。
狼の嗅覚は今宵、夜に深淵を嗅ぎつけました。闇が世界に偏在するのなら、全ての偏在を踏み潰し根絶する。その為に時間も空間も飛び越えて、彼はどこへなりとも現れるのです。一たび膝を着こうとも、狼の騎士は次なる深淵を求めて、深淵を纏いながら、深淵を渡り続ける。それだけです。ただのそれだけ。きっと彼はもう、「それだけのもの」になってしまった。
王は歩み続ける
追跡者ジャーナル Chapter 9 - 『ELDEN RING NIGHTREIGN』
深淵を宿した者は誰かに阻まれるまで「歩き続ける」運命にあります。時に深淵に抗い、時に深淵そのものとなり、そしてやがて新たな「抗する者」によって打倒され眠りにつく。無慈悲に思える世界で、それは唯一と言っていい慈悲でしょう。火の次代はそのようにして回ってきたし、これからも回っていくのです。しかしアルトリウスだけが異なる。彼からは歩みを止めるという結末自体が決定的に剥奪されてしまったように思えます。
最初の深淵の監視者にとって、ウーラシールは最後の深淵でした。そして彼は、未だにウーラシールにいる。なぜなら「ウーラシール」は、世界のどこにでも、今この瞬間にも生まれてくるから。そこは光無き旅路。それは終わり無き深淵狩り。道半ばで倒れた彼は、ずっと道半ばのまま、どこにでも現れて、きっとどこにも辿り着くことはない。
アルトリウスよ。貴方は永遠に歩き続けるのか。
おわりに
以上です。内容の半数以上が過去取り合げた事の纏めになってしまいましたが、『ナイトレイン』でまさかオリジナルの深淵歩きが登場したとあっちゃあ黙ってはいらんねえと思い、少しずつ書いてました。相変わらず遅筆ですが、『隻狼』劇場版やフロム新作の前にアップできて良かった。
ではまた、『The Duskbloods(ダスクブラッド)』でお会いしましょう。
「左腕」 - 『The Duskbloods』トレーラー
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ひとつ戻ってもらい「Great Ones」タブの中身を開いてもらうと、基本的には「火が消えた後に悪さする深淵」について書いたものが出てくるので、御興味がおありでしたらそちらをどうぞ。
こちら前回の記事。前回は「フロムゲーって左腕のデカい怪物が度々出てくるけど、世界観なんて繋がってないのに変だね~」みたいなツラをする為に書いた記事でもあります。繋がっている、と大っぴらに断言されるとガッカリする人もいて、そういう人が読んで楽しめる記事があってもいいと思ったのです。まあそれは今回の記事も同じことではあって、「内容に賛同はできないけど、読み物としては認めてやってもいいか」くらいに思って貰えたなら、嬉しい。