L「私はLです。」
沙都子「……知ってますわよ。」
レナ「大丈夫かな、かな?」
詩音「わざわざ自宅に呼び出しておいて、言いたいことはそれだけですか?」
L「……。……。実は探偵なんです。」
魅音「ええ!?」
詩音「………ええ?」
梨花「かわいそかわいそです。」
L「……。……。ワタリ。」
ワタリ『本当のことです』
沙都子「へぇ、そうなんですの。」
レナ「信じるよ。」
魅音「……で、エルちゃんが探偵さんなのは分かったけどさ。そんなことを何で私たちに話すの?」
詩音「確かに普通の人ではない、というのは誰の目から見ても明らかでしたが……。」
レナ「沙都子ちゃんを助けるとき、警察の人も動かしたよね。」
梨花「……。」
L「私の中で雛見沢についての推理…というよりは推測、仮説が固まったのでお話しておこうと思いました。皆さんにとっても有益な話ですし、私としても情報が欲しい。どうかお付き合いください」
L「以上が私の考えです。? どうかしましたか、梨花さん」
梨花「い、いえ、どうもしないのです……」
レナ「毎年の事件には直接的な関連性は無くて……偶然に?」
L「事件の一つ一つを点としてみれば、です。偶然と言っていい殺人事件が、毎年起きるという必然に誘導した存在がいるはずです。この村に来た私が捕まえるべき『犯人』とは彼らを指します」
詩音「警察が何かと園崎に疑いをかけてるのも……。」
L「それは色々と条件が重なる中で園崎を疑うのが一番自然で効率がいい、という話でしょうね。その辺は園崎現当主さんも何となく理解し、利用しているみたいですが。私の説で様々なことが覆ります。結論から言ってしまえば、警察の主観や2つあるいは3つのルールを抜きに見てみると雛見沢とは、いたって平和な村なのです。そしてそれらの事実を踏まえた上で、園崎家次期党首にお尋ねします」
魅音「!」
L「雛見沢住人はシロですか?」
魅音「……。……はい。いや、多分。」
詩音「…なんですか、その中途半端な応えは…。」
魅音「だ、だって!」
L「ではもう一つ。ダム事件での誘拐は園崎家の仕業ですか?」
魅音「…それはないよ、うん。」
L「分かりました。十分です。」
詩音「な…なんだか現実味の沸かない話ですね……」
レナ「でもそう考えれば説明がつくことが多いのも事実だよ。……悟史くんがおかしくなったのも……」
梨花(す……すごすぎる!!)
沙都子「……。……」
梨花「…!」
沙都子「私の健康診断やお薬にはそういった理由があったんですの…?」
L「! ……。……」
レナ「……どうして私たちに話したの? 沙都子ちゃんが聞く必要はあったの?」
L「雛見沢に蔓延する病、というものがこの土地で一般的に知られて無い以上、どれほど診療所を問い詰めても出てはこないと思ったんです。診療所に盗聴器やカメラを仕掛けるわけにもいきませんし……。……診療所で実際に診断を受けている沙都子さんからお話を伺いたかったんです。口止めされていることも考えましたが……知らなかったとは……知りませんでした……」
梨花(通例ならば鉄平が帰ってくることによって沙都子の投薬が遅れ、病状が悪化していた……だけど今回は、鉄平の事件が早く解決しすぎたんだわ。早すぎたからこそ沙都子の投薬は遅れなかったし、沙都子が投薬が遅れてることで自分の身に何が起こるか分かっていない、ということに竜崎は気づけなかったんだ……)
沙都子「い、いえ! ……確かに驚きましたけれど…別にどうってことないですわ。むしろ自分がされていることの理由を知ることが出来てすっきりしましたわ! なんといいますか……こういうことを聞かされる心構えが前もって出来ていたというか…不思議ですけれど」
梨花「………。」
L「すいません……無神経でして……それに私の考えは推測に過ぎないもので、本当は病なんて存在しないのかも……いや…それは無い…か?」
レナ「エルくん……エルくんの考え方じゃなくなってるよ。」
魅音「でも沙都子が知らなかったんだとすればもう確かめる術は無いんじゃない?」
梨花「いえ。」
詩音「?」
梨花「……入江診療所の背後に存在する組織『東京』……。ボクがお話するのです。」
L「……貴重な情報ありがとうございます。筋は通ります。……が、なぜそこまで知っているのかは『言えない』んですね?
梨花「はい……。説明のしようが無いのです。」
L「では、全ては神人たる梨花さんの予言、ということで納得します。」
沙都子「……。散々、オヤシロさまや祟りの仕組みを理論立てて説明しておいてそういうことを言うんですの?」
L「いえ。私の考えはあくまでもそう考えれば筋が通るというだけのことで、事象の説明になるとは思います。しかしそういった超常的、霊的な存在を否定しようとするものではありません。完全に信じる、と断言はできませんが、結果的に辻褄が合うのならば私は予言を優先します」
詩音「ひ、秘密結社みたいなのって本当にあったんですね…!」
L「秘密結社自体は沢山ありますよ。Wikipediaに載ってました」
レナ「でも、どうして梨花ちゃんを殺そうとするのかな、かな?」
梨花「目的やその他、ほとんどの事は分からないのです。構成メンバーも……。」
魅音「綿流しの夜に富竹は殺され、鷹野は自分の偽装死体を作り存在を抹消…。」
詩音「そして梨花ちゃまを……。」
レナ「『女王』を亡くした雛見沢の人間は、病状がL5まで進んで……。でも、そんなことする意味って何かな、かな?」
L「……。」
沙都子「そんな方々の考えることなんか分かりませんわ。」
梨花「そこまではボクも……。」
L「……鷹野三四は自らがオヤシロさまになる…そう言ったんですね?」
梨花「はい。歴史を作るのだと……。」
L「……大体分かってきました」
梨花「え…!」
レナ(エルくん……嬉しそう……?)
L「女王感染者の殺害による弊害の危険性……これこそが鷹野達の持つ切り札。この梨花さんのご指摘は、私も推測の一つとして持っていました。2つのルールを利用し、5年という歳月を経て、お膳立てが揃った。では『結局、何がしたいのか』? 考えられる一番大きなものを想定してみると……」
梨花「……。」
L「毎年起きる連続殺人事件、それがやはり今年も発生し、東京と入江機関のパイプラインである富竹と、お目付け役である鷹野が死亡。疑われるべき犯人は入江しかいない……しかしその入江は自殺。さらには女王感染者たる古手梨花がその被害にあうという最悪の結果に。何とも分かりやすい死に方をした女王感染者の影響で村人はもう間も無く暴徒と化す。そういう研究結果が出ている。ならば災害等、何らかの形を取って雛見沢住人及び、雛見沢に立ち入りした人間を出来うる限り抹消してしまうしかない。日本国政府の最高責任者の決断の下で……。この図式はガチです。雛見沢の滅亡という伝承の具現化。ここまでやれば人は神になれます」
魅音「ちょっ……話が大きくなりすぎなんじゃ……。」
詩音「こんな村とはいえ、丸ごと消してしまうなんて……。」
沙都子「ですけど実行が可能かどうかは置いておいて、実行しようとしているかどうかはそれこそ向こうの都合ですわよ!」
L「オヤシロさまになる。歴史を作る。そんなことを言ってしまう人間の考えることとしては妥当です。さらに如何ながら、絵空事のように思える雛見沢の滅亡計画……。事の運びようによっては決して不可能ではありません。……富竹氏を殺し、鷹野自身も消してしまうのなら、残った入江も死ななくてはならない。それは『東京』と診療所の双方の意思から独立してしまっている。あくまでも梨花さんの予言と推察の上での仮定ですが、この仮定が成り立てば……『全ての黒幕は鷹野三四であり、彼女が雛見沢も政府も利用している』で通ります」
レナ「……オヤシロさまになる……。……。」
梨花(あ……あ……。)
羽入「……。……。……。」
梨花(……これまで『鷹野が黒幕であること』を鷹野自身に突きつけても、その場は笑ってごまかされて、誰も信じなくて、でも結果的に綿流し前に拉致されて……みんなを巻き添えにしたこともあった…。でも竜崎なら? もしかして……突破できるの? ……みんなと7月にいけるの? ……。……。……。ライトがエルに負けてるとは思えない……ライトに竜崎ほどの力があれば……。)
羽入「……。梨花。」
梨花(……。)
L「先ほども言いましたが、全て仮説につぐ仮説です。梨花さんの予言が正しいという前提なので、立件なんて不可能ですよ。今更過去の事件を掘り返して証拠を探そうにも、綿流しには間に合いません。彼らの思惑通りに事が進んでしまい、もしも雛見沢消滅にGOサインが出てしまえば、私でさえそれを取り消すことは限りなく不可能に近くなります」
レナ「じゃあどうするの?」
L「そもそも私があの学校に編入し皆さんに近づいたのは、園崎家次期当主である魅音さんを始めとして、この村の重要人物が揃っていたからです。事件資料に目を通して、一連の連続怪死事件に直接的な繋がりが無いことは分かっていました。ですからあとは私のこの目で直に村の生活に触れ、推理の穴を埋めたかったんです。みなさんが私を友人として迎え入れてくれる傍ら、私は皆さんに僅かな疑惑を抱いてもいました。………申し訳ありません」
レナ「でもそれは解けたんでしょ?」
詩音「何を言ってるんですか、今になって。」
魅音「そんなんで謝られてもねー。おじさんたちは気にしないよ。」
沙都子「そうですわ。わたくしをあんな風に助けておいて、いまさら謝罪も何もありませんわ。」
梨花「……エルはボクたちの友達なのです。それが揺らぐことは無いのですよ。」
L「……。はい。ありがとうございます。…それで私は雛見沢に何らかの組織が暗躍しているという疑惑を抱きました。そう考えると情けないことに動けなくなってしまったんです。警察内部にもその組織が紛れ込んでいるのなら、いくら私が極秘の捜査を依頼しても駄々漏れです。綿流しまでは本当に時間が無い。今になって後悔しても仕方が無いのですが、私もここまで手間がかかる事件になるとは思いもよりませんでした。ですから、下手に動くよりも綿流しを待てばいい……それが私の考えです」
沙都子「……実際に犠牲者が出るのを待つ、ということですの?」
L「違います。違いますが、それに近いことではあります。富竹、鷹野、入江……彼らが背景に潜む組織の関係者だと読んでいましたから、祭りの夜に行われるであろう5年目の惨劇に彼らが何らかの形で動きを見せるだろうとヤマを張りました。そしてその地盤を固めるために、本日はみなさんをお呼びしたわけです。………大収穫でした。時間が足りないと嘆いていましたが、本日はその欠損を一挙に埋めることが出来たのですから。鷹野達からしてみればこちらが焦っていることはお見通しなはずです。しかし梨花さんの貴重なお話によって私はあちらが読んでいる以上の情報を得ました。これならいけると思います。これで彼らの行動はある程度……」
梨花「……ボクの言葉を本気で信じるつもりなのですか? さっきもエル自身が言っていた通り提示できる根拠なんてないのですよ」
L「そうかもしれません。……。……しかし、納得できるお話でした。あとはこれを基本に捜査を進め、疑惑の穴を埋めていけばいい。鷹野三四という人間の思考……私に一番何かを感じさせた。これで行きます」
魅音「最終的には梨花ちゃんを死なせなければそれでOKなわけだね。なら早速警察に保護を求めよう。警察内部に山狗はいないんでしょ?」
詩音「そうですね。というか園崎本家に匿って貰えばいいんじゃないですか?」
鷹野「………。」
山狗「どうしたワン?」
鷹野「近日中に古手梨花の周りに警官がうろつくようになったり、園崎本家に出入りするようになったら『世界最高の探偵さん』に情報が漏れていると断定して動きなさい。」
山狗「は?」
L「……。いえ、それは止めて置きましょう」
梨花「!」
魅音「! なんで?」
レナ「………。そうだね。いきなりそんな警護をつけたりしたら、肝心の梨花ちゃんが山狗を警戒してるって言ってるようなものだもん。梨花ちゃんが自分の身の危険を察知しているなら、それこそ山狗に監視を求めればいい。ここで下手に向こうを刺激すると、実力行使に出られるかもしれない。綿流しの夜までは手出しできないはずなんだから、保護を求めたりするのは時期尚早じゃないかな、かな」
L「その通りです。………。………。」
山狗「大丈夫だワン。そんな動きは見られないのだワン。」
鷹野「なるほど、分かりました。……。……。」
(……。ボクは山狗を疑ってなんていないのですよ。そう言われている気がするのは考えすぎかしら…? ………。………。)
L「正直な話、自分でも驚くほど強引な推理だったと思います。しかし鷹野が黒幕であるという直感は私の中ですんなりと腰を据えました。彼女は異質です。それくらいのものを抱いていて丁度良い。そんな気がするんです」
レナ「……鷹野さんに黒幕であって欲しかったってこと?」
L「そう…なのかもしれません。ああ、そうなのか…。言葉にしてみて実感した気がします。そしてこういう感覚は私の探偵人生の中でとても重要なものでした」
レナ「エルくんって……もしかして鷹野さんの事が好きなのかな、かな?」
L「……。………。なんですって…?」
レナ「なんていうか……エルくんはライバルみたいなものを求めてるんじゃないのかな、かな。レナ達は能力的な意味ではエルくんに応えてあげられないから……。」
L「……そんなことは……」
レナ「嘘だよ。ううん、エルくんがレナ達のことを友達だと思ってくれてるっていうのは分かってるつもりだよ。だけどエルくんは心の底で、友達なんかよりも、自分を打ち負かしてしまうかもしれない…強敵みたいな人を求めてる気がするよ。」
L「……。……」
レナ「ちょっとだけ寂しい……かな。」
L「……よく分かりません……が、レナさんの洞察力には驚かされます」
レナ「あはは。……エルくんには男の子の友達が必要なのかもね。エルくんと同じくらい頭が良くて、運動も出来て……。時には殴り合いの喧嘩をするほど意見がぶつかり合うような男の子。そういう人がいたら、私達とはちょっと違う…本当の友達になれるよ、きっと。」
L「私はレナさん達のことも好きですよ」
レナ「は、はぅ……。わ、分かってるよ〜!」
L「…………」
大石「では、鷹野三四と富竹ジロウ、入江先生をいまマークするのは危険だと?」
L『いえ。むしろ調べて頂いて結構です。あまり疑いを持たない姿勢は逆に疑問を持たれると思いますし、もしもそれで何か出てくればラッキーと考えましょう。』
L(警察内部を疑ってはいた……それを看破するために色々と策は講じていた…。わざと情報を流し鷹野達の動きを見てはいたが、反応はなかった。そして古手梨花からの情報……。本当に警察内部は『東京』とやらの影は無い、と見ていいようだな…。だが本当に? 鷹野がそう思わせるために嘘をついているとは考えられないか? あの女ならやりそうなことだし、むしろ最も警戒しなくてはならない警察内部に『東京』の力が及んでいないと考えることの方が不自然では? ……重要なのは、今年の綿流しで被害を出さないこと。それで『東京』が作りつづけてきた連続怪死事件という神話は崩壊する。そうすれば全ては白紙に戻るだろう。……だが、それだけでは逮捕することは出来ない。何にせよ、鷹野、富竹の二人から目を離すことが無ければ……いける。『予言』が実在するものなのか、どこまで的中しているのか分からないままあまり強気に動くのも危険だ。しかし妙な説得力があったのも事実で、納得もできる。そんな方法でここまで読まれているとは奴らもまさか思わないだろう。どう動く? ………。………)
鷹野(世界最高の探偵が動いている……この情報だけは掴んだ。そして雛見沢分校に突如訪れた竜崎エル……。ふざけているのかしら? そのまま過ぎて嘘っぽいし、嘘っぽいというのをカモフラージュにした本物かもしれない。……それはどちらでもいいことか。問題はどこまで掴まれているのか、ということ。世界最高の探偵というのは伊達じゃないでしょう。『全てつかまれている』という前提で動かなければ……)
沙都子「……綿流し当日になってしまいましたわ。」
レナ「その後はどうなの?」
L「見事に尻尾をだしませんね。こちらの微妙な動きを察したのか…。しかしワタリの調べで、診療所の背後にあるものが少しずつ見えてきました。後はこの夜さえ乗り切ることが出来ればこちらの勝ちです」
梨花「……いつだって時間に余裕があるとは限らないのですよ。持てる時間で出来る限りのことをするしかないのです。」
L「……確かにそうですね」
魅音「それでどうするの?」
L「……綿流し…。……綿流し…わた……わたあめは売っていますか?」
詩音「お祭りですし。」
沙都子「……普通に遊びに参りましたが、これで宜しいんですの!?」
L「とりあえず鷹野らには監視をつけています。祭りを中止にすれば……なんて考えたりもしましたが、それで彼女達が止まるかどうかなんて分かりませんし、逆に動きが読めなくなります。祭りでの人の賑わいは監視に対する迷彩になりますからそれだけで鷹野達の思い切った行動を抑制できるでしょう。つまり、現状においてこれ以上は出来ることが無いんです」
詩音「お姉が園崎の人たちを動かせればいいんじゃないですか? なーんて…。」
レナ「詩音ちゃん。」
詩音「あ、あれれ?」
魅音「…………。」
L「……魅音さん?」
魅音「…ごめんなさい。」
詩音「ちょっ、う、嘘ですし! 冗談ですし!」
沙都子「人様の生き死にが絡んでいますのにそういう冗談はどうかと……。」
L「空気を読んでください……」
レナ「大丈夫だよ、魅音ちゃん。いまこうやって鷹野さん達の企みが分かったのは梨花ちゃんのおかげだけど、園崎の人たちを動かせる材料が無いのも事実なんだから。」
詩音「……こういうのはお姉の立ち位置なのに……。」
レナ「エルくん。」
L「はい」
レナ「エルくんは探偵さん…。」
L「……はい」
レナ「じゃあ、レナ達のこと知ってるの? 昔の事とか…。」
L「……何のことでしょうか」
レナ「嘘、だよね?」
L「……いえ、本当に何から何まで、というわけではありません。しかしレナさんの言う『昔の事』が私の考えている通りでしたら……答えは『はい』です。レナさんが当時かかったという病気のことも知りたかった…」
レナ「………。」
L「……申し訳ありません。仕事ですので」
レナ「ううん、違うの。レナもお父さんのことで悩んでいたことがあったんだけど、エルくんの言葉で…沙都子ちゃんが自分から助けを求めて…レナも自分で何とかしなくちゃって思えたの。正面から向き合って話し合えば、何とかなるものなんだね。悪い夢の中で変な人に怒られた所為もあるんだけど……。」
L「変なひと?」
レナ「うん。ことあるごとに自分の器用さを自慢する人だった気がする。」
L「何のことだか分かりませんが……おめでとうございます」
レナ「ふふ、エルくん何だか変だよ。いつものことだけど。」
L「……すみません」
L「…ワタリ」
ワタリ『はい』
L「……なんでもない」
ワタリ『……そうですか……』
L(鷹野達には尾行をつけてある……。こちらの動きを察知して逃げ出すか…? 向こうの出方が分からない以上は様子を見るしかない…。)
レナ「エルくん、わたあめ美味しい? …何個食べてるの!?」
L「これで32わた目です。」
レナ「単位『わた』なんだ。」
L「……わたあめ…綿流し…ワタリ……! …ワタリ流し…!」
魅音「…エルちゃんが何かぶつぶつと言ってるよ。」
詩音「推理しているんですよ。エルちゃんは凄い人です。」
鷹野「こんばんわ。」
L「!」
魅音「わ!」
レナ「……!」
詩音「!」
沙都子「た、鷹…!」
梨花「……。……。」
鷹野「! ……。」
L(こいつ……。)
鷹野「くすくす…。」
富竹「やぁみんな。楽しんでるかい?」
沙都子「あ、あの、その…!」
魅音「沙都子!」
L「どうもこんばんは。……お祭りに参加する経験は乏しいですが、やはり素晴らしいものですね。お二人も楽しんでますか?」
鷹野「ええ。とっても……くすくす。」
L「お二人はこれからどちらへ?」
レナ「!」
富竹「いやー……。それは……。」
鷹野「さぁてどこかしら? ……当ててみせて?」
L「いえ見当もつきません。分からないから聞きました」
鷹野「そう…でも教えてあげないわ。野暮なことは言わないのよ?」
L「そうですね…恋人の逢瀬に水を指すようなマネをして申し訳ありませんでした」
富竹「みんなから君の話を聞いてはいたけど、おもしろい人だね。」
L「ありがとうございます。こうして出会えたのも縁ですから、このわたあめをプレゼントしましょう。」
富竹「あ、ありがとう……。」
鷹野「あらあら……ジロウさんはさっきわたあめお腹いっぱい食べたのよね。」
富竹「う、うん……12わたくらい…。」
レナ「単位『わた』なんだ!?」
富竹「みんなは相変わらず仲がいいんだね。羨ましいよ。」
レナ「……はは。」
鷹野「あら、私という女がいるのにジロウさんったら…。」
富竹「い、いや…そうじゃないんだ! ……なんて言えばいいのか…。僕は色んな事情を抱えてこの村に来たけど、こうしてお祭りを楽しんだり村の人たちと会話を交わす度にそういった全てを忘れられるんだ。忘れちゃいけないこともあるんだけどね……はは。」
梨花「……。」
富竹「僕はこの村で過ごすこうした時間をとても大切に思う。綺麗な空気も、心洗われる風景も、その全てが、こんな僕をギリギリのところで真っ当な人間にしてくれている、そんな気がする。……はは。なんか重い話になっちゃったな。とにかく、僕は雛見沢が大好きなんだ。本当にね!」
魅音「……ふふん。当然でしょ? おじさんの誇る雛見沢なんだからさ!」
レナ「…魅音ちゃん……うん。そうだよ。当たり前だよ!」
富竹「はっはっは。」
鷹野「……くすくす。」
L「………。………」
鷹野「じゃあね、Lくん……。」
L「はい、鷹野さん。」
L「お疲れさまです。」
梨花「疲れたのです……。」
レナ「梨花ちゃんの演舞、かぁいかったなぁ〜。お持ち帰り〜☆」
L「窃盗罪ですよ。」
魅音「器物!?」
ワタリ『L』
L「! どうした?」
ワタリ『大石刑事からの連絡です。鷹野氏、富竹氏両名が姿を消しました』
L「……梨花さんの情報にあった場所に向かってくれ。富竹氏の死体が発見される予定の場所だ。そして私の予測する『殺害現場』にもすぐに」
ワタリ『分かりました』
レナ「……どういうこと? 警察の人が見張ってたんじゃ……。」
L「……。……車に乗り込むのを発見し追跡していたそうですが、結局、車の中に鷹野らはいなかったそうです。……見間違えた…というよりは動きを読まれた…?」
詩音「まーったく。警察の奴らは何やってんでしょうかねー!」
魅音「……それじゃあ、どこに?」
L「監視されていたことを察知されるだけなら想定していました。向こうの人員はそういった事に長けたプロだそうですし。……問題はここからです」
沙都子「富竹さんが発見される場所が分かっているのなら最初から警察の人に見張っていていただければよかったんじゃないですの?」
梨花「…富竹の死体を置いておく場所に警察がいたりしたら、それこそ自分達の動きが全て読まれている、と思われてしまうのです。」
L「綿流しの夜に人が死ぬ。このシステムは何がなんでも崩さなくてはなりません。この土壌が生きている限り、同じことがまた繰り返されてしまいます」
レナ「富竹さん……。」
ワタリ『L』
L「!」
ワタリ『……鷹野三四と思わしき死体が発見されました』
L「……。……なんだと?」
梨花「……おかしいのです。こんなのは知らない……。」
レナ「梨花ちゃん……。」
魅音「でも梨花ちゃんの『予言』通りになったね。発見される場所は違ったけど……。」
詩音「予言って言われかたをされると少し疑っちゃう気持ちがありましたけど、これで信憑性が出てきましたね。警察の人もやる気だしてくれるんじゃないですか?」
沙都子「警察のやる気の問題ですの…?」
詩音「そうでしょ? 尾行してた相手にまんまと逃げられて……なにやってんだか。」
魅音「……それで結局、どういうことなの? 殺されるべき富竹は死体で発見されず、代わりに鷹野が焼かれて見つかった。梨花ちゃんの予言にズレがあった…とかそういうこと?」
梨花「…あんまり予言予言って言わないで欲しいのです。」
魅音「予言って解釈をしてるだけで、梨花ちゃんが鷹野達の情報を掴んでいるのは別の理由…でしょ?」
レナ「……。……。」
沙都子「こちらが向こうの動きを掴んでいたことを、向こうも掴んでいたのでは?」
魅音「…それで?」
沙都子「ですから…こちらは鷹野の死体が偽装であることを知っていたわけですし、そのことを向こうが知って……あれれ? こんがらがってきましたわ?」
詩音「つまり、こっちが向こうの動きを知っていることを見越した上で鷹野の死体を作った、と?」
沙都子「そうですわ。だからなんていうか……鷹野さん達からの撤退表明…とか?」
魅音「……だったら普通に計画中止して逃げればいいんじゃない?」
沙都子「あ…うーん。毎年の怪死事件を崩したくなかったから、来年また再チャレンジする余地を作ったんじゃないですの?」
梨花「鷹野の死体が偽装であることはすぐにでも証明できることなのです。もし来年に繋ぐための怪死事件を起こしたいのであればそれこそ適当なのを見繕って殺して、誰か鬼隠しさせればいいことなのです。」
詩音「……というか、来年に続くのであれば富竹さんは残しておかなければならないんじゃないですか? 富竹さんが死んだのなら鷹野さんも死ななければならない。この流れが彼女の計画に必須なら、既に計画は破綻しているんじゃ…?」
レナ「……どうして今年じゃないといけないのかな、かな。」
魅音「え?」
レナ「梨花ちゃんは今年の6月21日…つまり明日『絶対に』殺される。……どうして?」
梨花「それは……。」
レナ「女王感染者をころ……えーと…。」
梨花「いいのです。構わないで下さい。」
レナ「うん……。あんまり『殺す』とか言ったことないから……。女王感染者を殺すことで雛見沢は大変なことになる。これを利用して鷹野さんはこの村消して、オヤシロさまになりたがってる…んだよね?」
L「はい。……あくまでも私の考えでは、ですが。」
レナ「……。……。だったら、どうして今年なの? 女王感染者を殺す過程が大事なら、それは別に去年でも良かったんじゃないのかな、かな? 単純に、監督さんの研究成果を待ったからなのかもしれない。『五年目』っていうのが鷹野さんにとって特別だったからとも考えられるよね。そして梨花ちゃんは、『絶対』に…って言ってる。今年じゃないといけない理由があるんだよ。そうでしょ?」
L「……。……首相を説得するにたる理由を作り、自衛隊で村を一つ消す……。言ってみればこれだけのことですが、よほど準備をしておかないと不可能でしょうね。恐らくはそんな都合と『東京』の上層部を動かす為に必要なスケジュールなんでしょう」
レナ「だったらまた来年、なんて都合よくいくわけがないし、ここにLくんっていう強力な敵がいて、これまで必死で作り上げた4年間の連続怪死事件が解明されようとしているかもしれない。それで次に都合がよくなる時まで連続怪死事件を続けていくなんて出来る?」
魅音「無理だね……。鷹野の死体を偽装して白旗を揚げる……なんて撤退表明にしては意味不明だよ。」
詩音「では……つまり?」
レナ「向こうは計画通りに全てを進める気なんだよ。」
沙都子「……どういうことですの?」
レナ「沙都子ちゃんが言ったとおり、鷹野さんは自分達の情報が漏れてると判断したんだよ。あるいは山狗の中にスパイがいる。そう仮定して、全情報が漏れているって前提で動いてる気がする。考えてもみて。当初の計画では『綿流しの夜に富竹さんと鷹野さんが死ぬ』んだよね。……その状況は、もう成立してるんだよ。これは鷹野さんからエルくんへのメッセージなんじゃないかな。」
沙都子「…メッセージ…ですの?」
詩音「……なるほど……なんとなく読めてきました…。」
L(……まさか……これは……)
レナ「あくまでも計画通りに鷹野さんは自分の偽装死体を用意した。なら、富竹さんは?」
魅音「! ……このまま計画通りにことを進めるなら……富竹さんも殺すはず。つまり…。」
レナ「鷹野さん達からしてみれば、富竹さんを人質に取ってるんだよ。」
L(……そういうことか……鷹野三四……)
沙都子「……でも、こちらが富竹さんを見捨てるかもしれませんわ。」
レナ「……見捨てるの?」
沙都子「それは……。」
魅音「………出来ない…ね。」
レナ「向こうは想像以上にLくんっていう存在を警戒してるんだと思うよ。だって明日実行できなければ、全て駄目になってしまうんだから。」
詩音「…そりゃ賭けにもでますね。」
レナ「うん。なんとしてでも絶対に……って意志が透けて見えるよ。」
レナ「ねぇ梨花ちゃん。…本当に山狗は警察内部とは繋がってないの?」
梨花「はい。…ですが、それもまた山狗を通して教えられたことなのです。事実、警察は鷹野達を取り逃がした……。」
詩音「もはや警察に情報を流すのは得策ではない…ですか。」
魅音「私は警察は完全にシロだと思うけどね。もし警察と繋がりがあるんなら、向こうはもっと上手いやりようがあったと思う。でも、もしかしたら、って考えなきゃいけない。……ここでも疑心暗鬼が出てくるのか。」
レナ「ここにいる私達以外に情報を流すことはできない。そういう行動の全てが富竹さんの命を摘み取ってしまう。そして鷹野さん達はそんな私達の疑心暗鬼も読んでるはず。……ねぇエルくん。さっきから何も言わないけど……。このくらいの事は最初から気づいてたんだよね?」
L「……いえ。」
レナ「嘘だよ。」
L「……はい。」
レナ「現時点で山狗を逮捕することは出来ないんだよ。よくて偽装死体を作ったことで立件できそうだけど、それだけ。証拠が出るかも分からない。もちろん時間をかければ不可能じゃない。ここから過去の事件を洗い直して『東京』や入江機関も明らかにして……。だけどその全てには富竹さんの犠牲が前提なの。」
魅音「今夜中に鷹野達を捕まえる方法……。」
梨花「鷹野さん達からしてみれば、自宅で寝静まった梨花ちゃんを襲う……。っていうのが本当にやりたかったことなんじゃないかな、かな? だから向こうは暗に『そうさせろ』って言ってるんじゃない? さすがにこれは無理がある?」
L「……いえ、そういうことなんだと思います。古手神社は立地的にも暗殺に適していますし、元々そういうつもりだったのでしょう。……。……」
梨花「………そうしなければ富竹は殺される、今はそういう状況なのですね。」
詩音「古手宅にこの五人を集合させ、殺す。そうしなければ富竹さんを殺す。これが鷹野さん達の無言の要求。……向こうも無茶苦茶やりますね。」
レナ「私達だけじゃない、ワタリさんも……だよ。」
魅音「対して私達は、私達を殺しにくる現場を抑えることが出来れば鷹野達を逮捕できる。」
梨花「お互いが合意の上での決戦……。それにしては随分と分が悪いように思えるのです。」
レナ「そうだね……。……。あのね。私は、ここで富竹さんを見捨てるって手もあると思うの。」
L「……!」
魅音「え!?」
レナ「人間の命に重さは無いって言うのは簡単だよ。けど実際に梨花ちゃんや、自分達の命を天秤に乗せてしまったら……どう?」
魅音「……。」
詩音「……。」
沙都子「……。」
梨花「……。」
L「……。」
魅音「だけど。」
レナ「! ……。」
魅音「富竹の命は、確かに仲間と比べて軽いかもしれない。それが正直な本音だと思う。けど……ここで誰かを犠牲にして助かったら、私達はきっと……笑えないよ。雛見沢のことが好き、だなんてあんな顔で言い放った富竹を、助けられなかったって嫌な感じがずっと残ると思う。……困難に立ち向かってこそ部活メンバーでしょ? 手が届くかもしれないものに手を伸ばさないなら、普段、部活で命をかけてるなんて口だけになっちゃう……。って……あれ? 仲間の誰かが言うようなセリフを言ったつもりなんだけど……。この中の誰もそんなこと言いそうにないや。……あれれー?」
詩音「……そうですね。そうかもしれません。」
沙都子「集合するのはわたくし達の家なんでございましょう? だったら安心ですわね。護身用トラップの巣窟ですから。山狗だかなんだか知りませんけれど、今日がその命日ですわ!」
詩音「頼りになりますねー。ブロッコリーとカリフラワー。どっちが緑色?」
沙都子「ふふん、カリフラワーですわ!」
梨花「……一気に不安になったのです。」
レナ「ね、エルくん。これが私達なんだよ。エルくんが全部分かってて何も言わなかったのは、私達を危険な目に会わせたくなかったからなんでしょ?」
L(竜宮礼奈……レナさん……この娘は……)
魅音「見くびってもらっちゃ困るねー。」
詩音「まだ出会って日が浅いとはいえ、私達を甘く見すぎですよ。」
梨花「……もう終わらせたいのです。もう何も失いたくないのです。エル。」
L「……分かりました。私も、普段の私らしさというものを見失っていたようです。やるからには完璧に。証明しましょう。正義は必ず勝つのだと」
沙都子「……ブロッコリー…カリフラワー…ブロフラワー…。! ブロリー!」
梨花「………。」
山狗「竜崎エルを含め、古手梨花ちゃんら五人が古手宅に帰宅とのことだワン。」
鷹野(読 み 通 り ! !)
L(鷹野三四……綿流しで私達の前に姿を現したのは、富竹にあの台詞を言わせたかったからか……。さらに私が事件当日に誰と行動を共にしているか、を見ておきたかったのだろう。そして鷹野の姿を見た皆の反応……あれで何か察したな。私が警察の動きを警戒し、捜査を上手く進められないこと、古手梨花たちに情報提供を求めることまで読んだ。もしも私一人で全てを行っているようであれば鷹野に王手を突きつけることが出来ただろう。しかしそうはならなかった。私が鷹野からのメッセージに対して無視を決め込んでも、竜宮レナがそこに行き着く。富竹を犠牲にして証拠を掴む、というやり方には絶対に賛同しない部活メンバー……。奴らが想定する以上の情報を得て勝機が見えた気がしたが……。甘かったか。読んでいた……完璧に……この土壇場で……なんて奴だ。仮に私とワタリが死ねば、探偵Lの保有する全ての捜査資料等は自動で消去される……。……そこまで予測しているのか……? それは無い…無いとは思うが…。つまりここまでくれば『私は本物のLではないかもしれない』というブラフも役に立たない……。古手宅にいくことも鷹野の誘導なら……一体、何手先まで読んである? ………くそっ……。……。……)
魅音「よーし、そうと決まれば早速、梨花ちゃんの家に……。」
L「あ、魅音さんは来なくていいです。」
魅音「うぉい!」
山狗「奴らの帰宅の状況としては、初老の男が運転する車で、だそうだワン。車の中には誰かが潜んだ形跡も無し。特に仕掛けもなさそうだワン。車の陰に隠れて何人が古手宅に入ったかは分からなかったそうだワンが、少なくとも竜崎エルと繋がりのある人間全てがあそこへ集っていることを確認しているワン。ご丁寧にも一人ずつ家の中から外に手を振ってくれたそうだワン。親切だワンつまり、予定外の人員が入り込んでいる可能性もあるワンが、状況から見て一人か二人だワンし、こっちの戦力から見ればそう大したことにはならないワン。鷹野三佐の予想通り、警察をどこにも見かけない。完全に沈静化しているようだワン。入江の耳にもまだ何も入ってないみたいワン。Lが警察に口止めしてるみたいだワン。」
鷹野「友情って素敵よねぇ……同時に無慈悲でもあるけれど……くすくす。」
山狗「これでこちらの勝ちだワン。」
鷹野「くれぐれも油断はしないでね。子供達ばかりだけれど、一筋縄じゃいかないはずだから。」
山狗「富竹はまだ殺さないワンか?」
鷹野「まだよ。だって彼らはいつだって通報しようと思えば出来るのよ? もし顔見せした後で、ジロウさんはもう殺した、あるいはここにはいない、なんてことになったら何をされるか分からない。ジロウさんを殺すのは、梨花ちゃんを殺す直前、他の仲間が死んだあと……くすくす。そしてただ彼らを殺せばいいといっても、ここで無策に山狗を飛び込ませることも出来ない。古手宅内の状況も分からないのにそんな危険なマネは、だめ。」
山狗「悪女やー悪女がおるー。」
鷹野「にゃあ! だからジロウさんも決着の場に連れて行く。お互いに全ての札を出して……それでも依然こちらが圧倒的……素敵…。」
山狗「悪女やー。」
鷹野「にゃあにゃあ! ……くすくす。必ず古手梨花を殺してみせるわ。そして世界最高の探偵を知略の下に打ち倒す。さらには雛見沢の人間は、私の手でこの世から消えるの。伝承の筋書きを私が具現する。私が歴史を作る。オヤシロさまになる。―――神になる!」
詩音「鷹野本人は来るでしょうか。」
L「来ます。それも一人で。あくまでもここに入ってくるまでは、ですが。来なければそもそも勝負になりません。鷹野が来ないと分かればその瞬間に彼らも終わりです。富竹さんも同様に。事態は切迫しています。しかし鷹野もそれは同じはず。鷹野の思い描く自己の神格化には、鷹野自身の存在が絶対に欠かせない。裏を返すと、鷹野の野望を挫くという結果だけを優先するのであれば、我々は鷹野を殺すことだけに専念すればいいのです。もちろんそんな結果を我々が望んでいないということは鷹野も良く理解しています。しかし、もしかしたらそういうこともありえるかもしれない……。そういったほんの少しだけの可能性が彼女の思い切った行動を抑制します」
梨花「……ここにいきなり踏み込んできたりはしないのですか?」
L「無い、ですね。彼らからしてみても私という存在は得体が知れない、どんな手を使うか分からない、というのもありますし、何よりも鷹野がそれを望まない。死ぬわけにはいかない。かといって自らの手で決着をつけなくては気が済まない。神になるとまで豪語したのなら、それくらいの気概が無くては駄目ですよ」
詩音「鷹野は梨花ちゃまの姿を、こっちは富竹さんの無事を確認して、そこから私達が警察をここに呼ぶまでにいかに相手を無力化するか。勝負の決め手はそこなんですね。」
沙都子「万が一の場合に備えてトラップは確保してありますわ。」
梨花「……全てが決まる。」
ワタリ「はぅ〜。緊張するよ〜。」
レナ「レ、レナのセリフ取っちゃ駄目だよ!」
山狗「午前1時……そろそろ頃合だワン。状況に変化なし。古手宅から出入りする人間もいないワン。……本当にL達はカメラか何かで警察に状況を伝えていないワンか?」
鷹野「警察に『東京』が潜んでいるかもしれない、っていう疑念があっちにあるんだから、そんな危ないことは出来ないわね。それがこちらに伝わった瞬間にジロウさんは死ぬ。お互いに何も小細工をしていないからこそ……出来ないからこそ、この状況は成立しているのよ。……山狗は全員この場所に集合しているわね。綿流しの警察の動き、そして梨花ちゃん達の顔を見て核心したわ。今回、Lは明らかにこちらの動きを読みすぎている。こっちとしても内通者の疑いは消えないわ……だから、みんなお互いを監視してね。じゃあ行ってくるわ。手筈通りに。」
山狗「ワン!」
鷹野「にゃあ!」